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ノロウイルス感染対策!検査の必要性、症状と治療で知っておくべきこと

感染性胃腸炎の典型的な症状は、吐き気、嘔吐、下痢といった、いわゆる「吐き下し」と、38℃前後の発熱です。

中にはサルモネラやカンピロバクター、ブドウ球菌など細菌性のものもありますが、多くはウイルス性です。

中でも、特に知名度の高いウイルス性胃腸炎がノロウイルス感染症です。

ノロウイルスは、胃腸炎を起こす多くの病原体の一つに過ぎません

それなのに、なぜこれほどまでよく知られているのでしょうか?

 

また、この時期外来には胃腸炎の症状で来られる方が多くいます。

ノロウイルスの検査をしてほしい

ノロウイルスの特効薬がほしい

点滴をしてほしい

これらのほとんどの依頼を私はお断りします。

なぜでしょうか?

 

今回はこうした疑問にお答えすべく、ノロウイルスについて解説します。

ノロウイルスについては間違った知識をお持ちの方が多いため、今回の記事でぜひ知識を整理してみてください。

 

ノロウイルスは特殊な感染症?

まず、数多くある急性胃腸炎の中で、ノロウイルスによる胃腸炎がとりわけよく知られている理由は3つあります。

感染力が強く、人から人にうつって集団感染しやすい

他の病原体が原因になりにくい冬に多い

「ノロ」という名前自体がよく知られている

感染力が強い

ノロウイルスは感染力が強いことで知られています。

幼稚園や学校、高齢者の施設などで集団感染が起こったというニュースはこれまでにも多くありました。

乳幼児から高齢者まで、年齢を問わず急性胃腸炎を引き起こします。

アルコールなどの消毒剤に強く、また少量のウイルスでも発症します。

服やドアノブ、パソコン、カーテンといった日常的に触るもので感染することも多くあります。

カキなどの二枚貝に多く含まれ、これを生で食べて感染したり、調理した包丁やまな板が感染経路になることもあります。

周りに感染者がいて、その下痢便や嘔吐物を触ることでも感染するため、家族内や施設内で感染しやすくなります。

 

冬に多い特殊性

一般的に細菌やウイルスが繁殖しやすいのは温かい場所です。

温かくすると物が腐りやすい、というイメージは誰しもが持っているでしょう。

ところがノロウイルス感染は、例外的に寒い時期に多いという特徴があります。

通年を通して発症しますが、特に11月頃から発生件数は増加し、12〜1月がピークになります。

他の胃腸炎が起こりにくい時期に起こるため、誰もがよく知ることになります。

また、冬は肺炎心疾患脳血管疾患など他の疾患も起こりやすい時期です。

高齢者や乳幼児など、もともと予備力の低い人が冬に発症することで、他の疾患を合併するなど重篤化し、死亡例が出やすい特徴もあります。

 

「ノロ」という名前自体がよく知られている

ノロウイルスによる胃腸炎の典型的な症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、水のような下痢、38℃前後の発熱です。

しかしこういう症状を伴う急性胃腸炎は、ノロウイルスに限らず年中起こっています

皆さん自身の体験を振り返ってみてください。

これまでこういう症状を経験したのは冬ばかりではないでしょう。

そして多くの胃腸炎はウイルス性ですが、普通は「何ウイルスか?」を気にしません

ほとんどの場合原因ウイルスはわかりませんし、そもそも何も治療せず自然に治るからです。

 

これはノロウイルスも同じで、他のウイルスと何も変わりません

しかし上述した性質から、「ノロ」という名前がメディアを通して広く知られ、いかにも「特別な感染症」というイメージを与えられています。

これによって、

ノロウイルスか、そうでないかを調べてほしい

ノロウイルスをやっつける薬がほしい

といった発想が生まれます。

それ以外のウイルス性胃腸炎なら、こういう話にはならないのに、です。

 

ところが、この「ノロウイルスかどうかを調べる検査」はあまり意味がなく、「ノロウイルスをやっつける薬」は存在しません

どういう意味でしょうか?

次はこの検査と治療について解説していきましょう。

 

ノロウイルス迅速検査は多くの場合不要

たとえばあなたが冬の流行期に、嘔吐と下痢、発熱の症状があったとします。

周りにも同じ症状の人がいる。

ノロウイルスかもしれない。

ノロウイルスの検査をしてもらいたい、と思うでしょう。

 

そこで病院に行って「ノロウイルスの検査をしてください」と医師に依頼します。

ノロウイルスは、迅速診断用の検査キットを使えば15分程度で結果が出ます。

 

さてこれが陽性と出ればどうするか?

「ノロウイルス感染が疑われます。脱水にならないようしっかり水分をとってください」

と私たち医師は説明します。

ノロウイルスの特効薬はありません

ウイルス感染ですから、抗生物質(抗生剤・抗菌薬)は無効です。

せいぜい、整腸剤(乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌製剤)を処方するくらいです。

そもそも1〜3日で症状は治まるので、それを待つだけの病気です。

 

では検査の結果が陰性だったらどうするでしょう?

「ノロウイルス検査が陰性なので、ノロウイルスではないかもしれません。」

「しかし症状から胃腸炎が疑わしいので、脱水にならないようしっかり水分をとってください」

と私たちは説明します。

結局、結果は同じです。

検査をする意味があったでしょうか?

ノロウイルスであってもそうでなくても、急性胃腸炎は「嵐が過ぎ去るのを待つだけ」です

「ウイルス名を知ること」の意味はあまりありません

しかも、そもそもノロウイルス迅速検査の感度は50~70%程度ですから、ノロウイルス感染でも「陰性」の結果が出ることが3〜5割あります。

こうなると、ほとんど検査をする意味はなくなってしまいます

またこの検査は、3歳未満、65歳以上の人を除いて保険が通りません。

健康な成人が自費診療で必要性の乏しい検査を受けるメリットは少ないでしょう。

 

もちろん乳幼児や高齢者などで重症のケースは例外です。

ノロウイルス感染症であると確定診断することで、他の厄介な胃腸炎(細菌性胃腸炎など)である可能性を否定できます。

また、こういう重症のケースでは、次に説明する点滴の治療が必要になります。

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ノロウイルス胃腸炎の治療と対処法

ノロウイルスに限らず、胃腸炎には点滴の治療がよく効く、と考えている人は多いのではないでしょうか?

残念ながら点滴は、ほぼ水です。

水を注射で血管内に無理やり注入しているだけです。

胃腸炎に効く薬が入っているわけでは全くありません。

 

では点滴が必要なのはどういう時でしょうか?

「無理やり大量の水分を補充しないといけないくらい水分量が足りない」

または、

「口から水分がとれないので注射でしか水分を補えない」

のいずれかです。

つまり重度の脱水や、全身状態が悪く、自分で水分をたくさん飲むことができない飲んだら全て吐いてしまう、といった重症の人です。

口から水分が飲めるのであれば、点滴で補うのと効果はほとんど変わりません

そもそも体調が悪いときに無理に点滴をして、病院に長居する方がデメリットは大きいでしょう

 

飲むのはスポーツドリンクやお茶などで構いません。

特に良いのは以下のような経口補水液です。

こういう飲み物で、嘔吐や下痢によって失われた水分をしっかり補充できれば点滴は不要です

OS-1のような経口補水液は、その効果が医学的に証明された非常に有効な製剤です。

我が家族も常備していますが、特に小さな子や高齢者がいる家族は、常に置いておくのが良いでしょう。

 

また吐き気が強く、何も食べられない時は無理に食事をする必要はありません

水分さえきっちり摂っておけば問題ないでしょう。

また下痢止めは、ウイルスを腸内にとどめておくことになるため、よほどの場合を除いて不要です。

 

あとは1〜3日、ウイルスが大暴れしている時期を乗り越えれば、自然に治ります。

そして重要なのは、これは「ノロウイルスに限らない」ということです。

あらゆるウイルス性胃腸炎で、同じことが言えます

 

ノロウイルス感染対策と予防法

ノロウイルスのワクチンはないため、予防接種は不可能です。

したがって、きっちりと感染対策、感染予防を行う必要があります。

上述した通り、ノロウイルスは感染力が強く、日用品などを介して集団感染、家族内感染のリスクがあります。

手洗い、うがいをきっちりすること

流行時期の二枚貝の生食は控えること(十分に加熱処理する)

調理器具はきっちり洗うこと

家族内や施設内に感染者がいる場合は、マスクの着用で感染防御をすること

が大切です。

 

調理を行う前、食事の前、トイレに行った後、下痢や嘔吐した人の対応をした後には必ず手洗いを行いましょう(オムツの処理後も)。

アルコールなど消毒薬による手指消毒も大切ですが、石けんと流水を用いた手洗いが最も大切です(ノロウイルスはアルコールに耐性があります)。

また、二枚貝などの食品は、中心部まで85℃~90℃で90秒以上加熱しましょう

なお、ノロウイルスの潜伏期間24~48時間とされています。

他人から感染した場合は、1〜2日後に発症する(症状が出る)可能性が高いと思っておきましょう。

 

ノロウイルスの感染期間

ノロウイルスの感染力は、発症してから1週間程度続くとされています。

特に症状の強い最初の1〜3日は感染力が強いため、注意が必要です。

ただ、会社への出勤、学校への登校停止の期間については、特に定められたルールはありません。

症状がどのくらい持続しているかによって異なりますが、一般的には症状が完全に治まって2日以上経過してからの出勤、登校が望ましいでしょう

 

ロタウイルス感染との違いは?

乳幼児で同じ胃腸炎の症状を来した時は、ロタウイルス感染の可能性もあります。

ノロウイルスよりやや流行時期は遅いですが、非常に似た時期に似た症状を来します。

乳幼児の下痢の原因の30〜60%はロタイウルスが原因とされています。

潜伏期間は1〜3日間、発症後は5〜7日症状が持続します。

治療や対処法はこれまで書いてきたノロウイルスと同じですが、乳幼児は脱水のリスクが成人より高く、入院が必要なことも多くあります

水分がとれない、肌が乾燥している、ぐったりしているといった症状があれば、すぐに小児科を受診しましょう。

 

ノロウイルスを中心に、急性胃腸炎について解説しました。

むやみに怖がることなく、冷静な対処を心がけましょう。

(参考文献)
ノロウイルスに関するQ&A/厚生労働省
レジデントのための感染症診療マニュアル 青木眞著/医学書院
感染症専門医テキスト 第1部 解説編/南江堂