鼻血(鼻出血)がなかなか止まらず困った、という経験をお持ちの方は多いでしょう。
鼻血は子供から大人まで誰もが経験したことのある症状のはずですが、間違った知識を持っている人は多くいます。
上を向く
ティッシュを詰めておく
首の後ろを叩く
といった方法では効果がないことを知っていますか?
また、血液の飲み込みも禁止です。
今回は、鼻血が止まらなくなった時の対処法、正しい止め方と、病院に行くべきケースについてわかりやすく解説します。
目次
鼻血の原因とは?
鼻血は、正確には「鼻出血(びしゅっけつ)」と呼びます。
鼻血の90%は、鼻腔の前方(鼻の穴から入ってすぐのところ)から出ます。
この部位を「キーゼルバッハ部位」と呼びます。
この部分は毛細血管が豊富なため、出血しやすい構造になっています。
一方、残りの10%は鼻腔の後方(奥の方)から出ます。
顔面の打撲や、鼻のかみすぎ、いじりすぎで血管が傷つくことが鼻血の最大の原因です。
中には高血圧や動脈硬化などで血管がもろくなって出血しやすくなっているケースもあります。
ちなみに、「チョコレートの食べ過ぎで鼻血が出る」という都市伝説のような話がありますが、もちろん医学的根拠は全くありません。
チョコレートを含め、食べ物は鼻血の直接の原因にはなりません。
鼻血が出た時の正しい対処法
大量に出ているように見えても、鼻血ではそれほど血液は失われません。
子供が寝ている間に鼻血が出て、シーツが真っ赤になっていたりすると、思わず動揺してしまう方も多いでしょう。
特殊なケースを除き、鼻血で命の危険にさらされるリスクは非常に低いので、まずは落ち着いて対処しましょう。
前述の通り、鼻血のほとんどは入り口付近からの出血です。
多くは細い静脈からの出血ですので、圧迫するだけで止まります。
座った状態で前かがみになり、鼻翼を親指と人差し指で押さえます。
横になると血液がたれ込む原因になりますので、必ず座った状態で止血します。
ぎゅっと押さえたまま、5〜10分は離さないようにします。
この際、血液は飲み込まずに、必ず吐き出しましょう。
これで止まらなければ、圧迫を繰り返しましょう。
ほとんどのケースではこれで止血が可能です。
救急外来には、圧迫せずに上を向いたままやってくる患者さんもいます。
止血は「まず圧迫」が基本です。
圧迫しない限り、効果的な止血はできません。
また、上を向くと血液がのどに垂れ込み、飲み込んでしまいます。
血液を飲み込むと、吐き気、嘔吐、頭痛などの原因になるため、飲み込んではいけません。
またティッシュの詰め込みは便利ではありますが、止血には効果的ではありません。
詰め込んでいるだけでは出血点を圧迫していることにならないからです。
ティッシュを詰めていても、しばらく出続けたのち自然止まることが普通ですが、圧迫する方がよほど早く止まります。
うなじを叩く、といった行為もよく見られますが、止血には何の効果もありませんので、やる意味はありません。
病院に行くべき症状
病院への受診を考慮すべきなのは、以下のようなケースです。
圧迫止血できない
長時間(20〜30分以上)圧迫しても止まらない、という場合は病院に行きましょう。
病院では、血管を収縮させる薬に浸したガーゼを鼻腔に詰め込む「鼻腔タンポン法」を用いて止血します。
ただ実際には、病院に来る方の多くは圧迫止血を試みていません。
まずは必ず自宅で圧迫し、止血できない場合のみ病院を利用しましょう。
抗凝固薬、抗血小板薬を飲んでいる
ワーファリンやバイスピリンなど、いわゆる「血をサラサラにする薬」を飲んでいる方は要注意です。
血が止まりにくくなっているためです。
もちろんこういう方でも多くは圧迫だけで止まりますが、自力で止められないことも多いため、止血が難しい、勢い良く出ている、という時は迷わず病院を受診しましょう。
もちろん、血液疾患(白血病や血小板減少性紫斑病など)や肝臓の疾患で、血が固まりにくい人もいます。
こうした持病をお持ちの方で、止血が難しいケースでは早めに病院に行くようにしましょう。
大量に出ている
これまで経験したことのないくらい大量に、勢い良く血液が出ている、というケースでは、動脈性の出血である可能性があります。
もともと高血圧や動脈硬化があり、もろくなった動脈が破綻したケースです。
風呂でのぼせたり、アルコールで血管が拡張したり、などがきっかけになることもあります。
また、まれではありますが、鼻腔や副鼻腔、咽頭の腫瘍が出血の原因であることもあります。
こういったケースでは自力での止血は難しいため、必ず病院に行きましょう。
また、何らかの病気でもともと貧血がある(血液検査でヘモグロビンが低い)とわかっている人も要注意です。
大量の出血で、もともとある貧血がさらに進むリスクがあります。
後方から出ている
前述の通り、10%は後方からの出血です。
前側に垂れて来ずに、喉の奥にたれ込む、といったケースでは、後方から出血している可能性が高く、鼻翼の圧迫では止血できません。
病院で、「後鼻腔タンポン法」や「バルーンタンポン法」と呼ばれる特殊な方法での止血が必要になります。
必ず早めに病院に行きましょう。
何科を受診すべきか?
専門は耳鼻咽喉科です。
ただ、夜間や休日など、耳鼻咽喉科の受診が難しいケースもあるでしょう。
その場合は、救急外来を受診しましょう。
救急外来には耳鼻科専門の医師はいないのが普通ですが、どの科の医師でも鼻出血の対処はできます。
また、耳鼻科医でないと対応できないようなケースなら、その時点で耳鼻科医を呼ぶこともあります。
後日耳鼻科の受診が必要なら、紹介状を書いてもらうことも可能です。
救急外来受診時の注意点はこちら
病院に行ったら話すべきこと
鼻血が止まらずに病院に行った時は、以下の内容を冷静に医師に伝えましょう。
いつから出ているか?
どのくらい出ているか?
持続的に出ているか?それとも出たり止まったりしているのか?
前に落ちてきているか、後ろから喉にたれ込んでいるか?
鼻の病気をしたことがないか?
抗凝固薬、抗血小板薬は飲んでいないか?
他の持病はないか?
これらの情報から医師はリスクを判断し、治療を検討します。
圧迫を試みたなら、どのくらいの時間圧迫したのかも伝えるようにしましょう。
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注意すべき危険な鼻血とは?
認知症の高齢者や子供など、自分の症状をうまく伝えることができない方の鼻血は注意が必要です。
気づかないうちに鼻を打撲していた、鼻の中に物を入れていた、というケースを私も外来で経験しています。
顔面の打撲が原因なら、鼻血以外の外傷を伴っている可能性もあります。
また、鼻血だと思っていたら、実は吐血や喀血だったということもあります。
吐血の多くは胃からの出血で、大量に出血すると命に関わります。
喀血は、痰に血が混じっている状態のことです。
呼吸器疾患を疑うため、精密検査が必要です。
単なる鼻血だと思って甘く見ると危険なことがあるため、本当に鼻から出血しているかどうかの確認はしっかりしておきましょう。
鼻血の予防方法
日頃から、鼻をいじったり、風邪やアレルギーによる鼻づまりの際に強くかみすぎたりしないよう注意しましょう。
また、鼻腔の粘膜が乾燥すると血管が傷つきやすくなるため、鼻血がよく出るときはマスクなどを使って粘膜の乾燥を予防しましょう。
毎日のように大量に出る、というケースでは、上述したような病気が隠れていることもあります。
病院に行って医師に相談しましょう。
今回は身近な症状である鼻血についてまとめました。
慌てず、適切に対処できるようにしておきましょう。
(参考文献)
マイナー外科救急レジデントマニュアル/医学書院
日本耳鼻咽喉科学会HP「鼻出血」
MSDマニュアルプロフェッショナル版「鼻出血」