今回は、コードブルーの手術シーンに関していただいた以下の3つの質問にお答えしたいと思います。
現場で必要な器具を次々と渡して行くとき、ビニールの袋に入っているのをバリッと音をさせて開けていますが、あのような器具は一回使い切りですか?
それともきれいにしてから袋にパッキングしてある程度繰り返し使うのでしょうか?
by オレンジ湯たんぽさん
手術シーンで多量に出血が起こった際に手ですくい上げて取り除く場面を何回か見ました。
サクションのような道具を用いて吸わないのはなぜですか?
by ぷーたさん
手術前に消毒液をビンからドバッとかけているシーンが何度かありました。
実際いつもあのようにやっているのですか?緊急時だけでしょうか?
by 猫カタログさん
いずれも、非常にリアルな手術(緊急手術)の光景で、実際私たちはこのように手術をしています。
いかにコードブルーには専門家の監修がしっかり入っているか、ということがよくわかります。
今回はこれら3点について順にお答えしていきましょう。
道具の渡し方は本当?
オレンジ湯たんぽさんのおっしゃる、「ビニールの袋をバリッと音をさせて開けて渡す」というシーンですが、象徴的な場面を第6話で見ることができます。
倉庫内で若い男性の意識レベルが低下し、藍沢(山下智久)がその場で穿頭(頭蓋骨に穴をあける処置)を行いましたね。
この場面で介助についたのが、元オペナースの経験もある冴島看護師(比嘉愛未)です。
ビニールの袋に入った道具をバリッと音を立てて開けながら、次々とすごいスピードで藍沢に道具を渡していましたね。
あれが最も正しい清潔な道具の渡し方です。
あの場面でのポイントは、
・冴島は、袋の外はさわっても良いが、中身はさわれない
・藍沢は、袋の中身はさわっても良いが、袋の外はさわれない
ということです。
道具は患者さんの患部に触れる部分なので、介助する看護師は素手ではさわれません(感染のリスクがあります)。
一方、医師は清潔な手袋をして患者さんの処置にあたっているため、清潔な道具には触れても、清潔でない外側の袋に触れてはいけません。
たとえは悪いですが、両手がふさがっている人にバナナを食べさせることをイメージしてください。
バナナの皮は素手でむきますが、相手が口に入れる部分は手で触れずに、皮の部分を持って中身を相手に差し出すでしょう。
小包装されているせんべいを食べる時、袋を開けて中身に触れずに袋側を持ったまま食べる、ということをよくするでしょう。
あれと同じイメージです。
道具は、1回だけの使い切りのものと、滅菌して何度も使うものの2種類があります。
使い切りのものは、プラスチックやポリプロピレンなどでできた道具が多く、滅菌して何度も使うものは金属製のものが多いです。
いずれもあのような袋に入っています。
何度も使うものは、毎回洗浄した後であの袋にパッキングして滅菌しているということです。
昔は金属製の、繰り返し使う道具が多かったですが、最近はプラスチックなど使い切りの道具が増えています。
これは医療に限ったことではありませんよね。
昔は水筒や魔法瓶でお茶を持ち出すのが普通でしたが、最近は500mlのペットボトルで、飲んだら捨てることが多くなりました。
使い切りの方が便利で、一回きりだと清潔だからですね。
それと同じです。
しかし医療現場では、強度の問題などで、どうしても金属製でないといけないものもあります。
たとえば第7話の救急車内での白石(新垣結衣)の開胸操作を思い出してください。
踏切事故で心停止寸前の男性を救命するため、白石がズバッとメスで胸の側面を切ったあと、灰谷(成田凌)が、
「開胸器ください」
と指示。
すると、金属製の大きな器具が登場しましたね。
開胸器は、開胸する際に肋骨と肋骨の間を広げるために使いますが、かなり強い力が必要なため金属製です。
あの場面では、大動脈の遮断や心臓マッサージが目的で開胸しましたが、手を入れて処置をしようと思うと、かなり強引に肋骨の間を広げる必要があります。
この際、多くは肋骨が「ボキッ」と音を立てて折れます。
肋骨は折れても自然に治るので心配はいらないのと、そんなことは気にしていられないくらい胸の中で大問題が起こっていますから、仕方ありません。
血液を手ですくうのは本当?
どんな手術でも出血は必ず起こります。
私たち外科医は、それを糸で縛ったり、電気メスで焼いたりして止めながら手術をします。
この際、ぷーたさんのおっしゃるように、助手がサクション(吸引管)を用いて吸引し、血液で術野が見えなくならないよう気を遣います。
しかしこれは、血液が出てすぐに吸引できる場合です。
コードブルーで出てくるような外傷の患者さんは、体内に大量の出血が起こり、その血液に医師が触れるのは、早くても30分〜1時間たってからでしょう。
この間に血液は徐々にゲル状に、ゼリーのように固まってきます。
こうなった血液を、血腫(けっしゅ)と呼びます。
血腫になってしまうと、吸引管で吸引することはできなくなるために手で除去するわけです。
上述の第7話では、白石が胸の中に手を入れて大動脈断裂があることに気づき、救命をあきらめたのですが、この時、
「後縦隔(こうじゅうかく)にひどい血腫(がある)」
と言いましたね。
「出血」や「血液」とは言いませんでした。
大量に出血してからある程度時間が経っていたので、ゼリーのように固まっていたからです。
これについて詳しくはこちら
また第2話で、藍沢が救急車内で心タンポナーデ(心臓の周囲の心のうと呼ばれる袋の中に血液がたまること)の患者さんの処置をするシーンがありました。
血液を吸引しようと胸に針を刺しますが、うまく吸引できません。
そこで藍沢は冷静に、
「開胸します」
と言い、即座に方針転換します。
救急隊の人が「今ですか!」と驚いていましたね。
結局ドロドロした血液を手でかき出すことになったのですが、これも同じく吸引ができない「血腫」になっていたからです。
心タンポナーデについてはこちらの記事もご参照ください。
そういうわけで、第3話でのダメージコントロール手術の時のように、手術ではみんなで手で血液をかきだす、というような場面も実際にあるのですね。
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消毒液をドバッとかけるのは本当?
第1話の、山車に頭を挟まれた少年の処置シーンを振り返ってみましょう。
白石は、目の前で意識レベルが低下してきた少年に気管挿管まではしたものの、頭部の処置が必要と判断し、手に負えなくなります。
そこでスマホの画面の「18:15」の表示を見て、
「お願い、まだいて」
とつぶやいて藍沢に電話をします。
応対した藍沢が、余計なことを言わずにすぐに現場に駆けつける、というかっこいいシーンがありましたね。
駆けつけた藍沢は、消毒液を少年の頭に、大胆にシャワーのようにビンから直接ドボドボとかけます。
少年の顔は茶色のイソジンだらけになっています。
普通の手術の場合、消毒液を大きな綿球(綿でできたボール)に染み込ませ、これをピンセットなどで持って消毒をします。
頭部の手術であれば、普通は髪の毛を剃ってから消毒です。
一方、救急の現場で手術をする際、ビンのまま直接かけるということを実際行う医師もいます。
綿球で皮膚に塗りこんだ方がより消毒効果は高いと思いますが、清潔さよりスピードが求められる場面もあるということですね。
今回は、非常に細かい手術のリアリティをまとめてみました。
いただく質問を見るたびに、みなさんが非常に細かいポイントまで見られていることに驚きます。
そういう風に医療に興味を持ってくださる方がいなければ、このサイトの意味はありませんので、ぜひこれからもどしどしご質問をいただけたらと思います。
興味がある方におすすめするのは、コードブルーを「字幕あり」で見ることです。
すでにされている方は多いかもしれませんが、救急スタッフたちが早口で言った業界用語は、私ですら聞き取れないことがあります。
字幕を入れていると、何を言ったかがわかりやすく、また疑問点がより明確にわかるのではないかと思います。
ぜひ、やってみてください。
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