「外来の待ち時間が長すぎる」医者と患者の意見が衝突する理由

先日Yahoo!ニュースに出た「なぜ日本の病院は、患者をこんなに待たせて平気なのか」という記事がSNS上で話題です。

多くの医療者が様々な切り口でこの問題を議論しており、私も大変勉強になっています。

今回は、あくまで一つの見方として、私の意見を書いてみたいと思います。

 

私自身も医師になってから手術、長期入院を経験し、「患者」を体験しました。

退院後もすぐには体調が優れませんでしたが、退院後初回の外来は2時間半待ち

かなり辛かったのですが、医療というサービスの特殊性を理解しているので、「怒り」のような感情は生まれませんでした。

 

上述の記事にはこうあります。

「そもそも病院には『サービス業』という視点が欠如している」

医療を「サービス業」と捉える人にとっては、こういう不満を抱いてしまうことはよく理解できます

医者と患者で「医療というサービスをどう捉えるか」が異なることが原因と考えます。

 

サービスの妥当性を顧客が評価できない特殊性

医療には、一般的なサービス業と大きく異なる点があります。

「サービスの受益者が、そのサービスの質を正確に評価できないこと」です。

医療現場で提供されるサービスの質を正確に評価するには、「顧客」である患者が医療者と同程度の専門的知識を有する必要があるためです

 

例えば、

自分が受けた診察や検査が適切だったか?

内服を指示された薬剤や施行された手術が本当に必要だったか?

その治療の質はどうであったか?

といったサービスの質や妥当性の評価が、非専門家である患者さんには難しいわけです。

 

逆に、患者さんが評価できる(と思っている)のはサービスのごく一部です。

「外来の待ち時間」もその一つですし、その他にも、「病院食の味」「医者や受付事務員の愛想」「病室のベッドの寝心地」などもそうでしょう。

これらは、医療現場では例外的に、サービスの受け手が提供者と同じ目線で評価できる要素です。

しかし、医療の中心的なサービスである医療行為そのものを「顧客」が評価することは難しいのです。

 

極端に言えば、「外来の待ち時間」というごく一部のサービスを改善することで本質的なサービスである医療行為の質が下がっても、患者さんは気づきません

 

例えば、あるレストランに「料理が提供されるのが遅い」というクレームがあったとします。

料理人はこのクレームに応えるため、調理を手抜きしてスピードを重視します。

しかしここで「サービスが改善された」と満足するのは「味が分からない客」だけです。

味の分からない客がたくさんいる町であれば、レストランを続けられるでしょう。

しかしこの状況でも料理人を続けられるのは、プロ意識の低い(あるいは倫理観を欠いた)料理人だけです。

 

医療者はどれだけ努力しても、それによってどのくらいサービスの質が高まっているかを患者さんが判断することはできない

医療者にとっては、こういう苦しい現状があるのも事実です。

むろん、医療によらず専門的な知識が必要とされる職種であれば同じことが言えると思いますが、医療現場ではサービスの質が「顧客」の健康に大きな影響を与えるという意味で、よりシビアな問題です。

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サービスの特殊性を医療者も理解すべき

上記の理由で、外来の待ち時間についても、患者側としては、

「多くの患者に質の高い医療を提供するためには止むを得ない状況」

なのか、

「時間を短縮しても同じ質の医療を提供できる=医療スタッフの怠慢やシステムの問題」

なのかを正確に判断することはできません。

これが医療というサービスを評価する難しさであり、医療が一般的なサービス業と根本的に異なる点です。

 

しかし、医療というサービスの特殊性を理解すべきなのは、患者さんだけではありません。

医療者も同じです。

一般的なサービス業では、サービスの質を顧客が評価できることが多いため、生産的な批判がサービスの改善につながる可能性があります

サービスの受け手がサービスを正確に評価することで、良い方向にフィードバックがかかるということです。

ところが、前述の通り医療は「サービスの受益者がサービスの質を正確に評価することが難しい」という問題があります。

 

では、医療現場においてサービスの質を評価するのは誰でしょうか?

答えは、「提供者である医療者」だということになります。

つまり医療現場では、「サービスの提供者自身がそのサービスを評価している」ということです。

真の意味で、「顧客」からの批判にさらされていない。

医療者は、この特殊性に自覚的である必要があります。

医療者がサービスの質を高める努力を怠れば、誰もそのサービスの劣化を食い止めることはできないのです。

 

以上のことから、医療というサービスの改善に対しては、医師、患者双方の理解と歩み寄りが必要だというのが強調すべきポイントです。

 

もちろん今回の問題では、シンプルに待ち時間を短縮する手段を検討すべきではあります。

医師以外の職種が事務作業を代行し、外来業務のスピードアップを図る

大きな病院からかかりつけ医に紹介する必要性を患者側が理解する

軽症患者の大病院への受診を制限する仕組みを作る

といった様々な施策を検討するということです。

今回この記事では、医療というサービスの特殊性に主眼を置いて解説してみました。

医療を「サービス業」と捉えると、医師と患者の距離はなかなか埋まらないはずです。

8 Comments

賢二

けいゆう先生、こんにちわ。
病院の待ち時間って長いですよね~。いつも半日がかりで大変です。
 記事を見て、スマホで待ち時間がわかる、問診票をデジタル化するなどいいと思ったのですが、そんな設備作れる病院って少数だろうなと思います。
 今通っている病院は、先に看護師が問診をしたり、先に検査に行ったり、スムーズに進むようにはしているんですが、受診する人数が多いんでしょうね。 医者も患者も疲れた顔をしています・・・。

 全然関係ない話ですが、
隣のソファーで看護師の問診を受けているおばあちゃんがいたんですけど、看護師から「MRIで脳の所見があったのなら神経内科でつながるけど、この科ではない。」「看護師的な所見ですけど、自律神経のバランスが崩れているのかなぁ。心療内科で見てもらってください。」と言われていました。
看護師が病状を判断して、受診する科を決めることってあるんでしょうか?見ていて心配になりました。

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けいゆう

そういった便利なシステムの導入が必要だと思うのですが、やはりコスト面が厳しいのと、病院に行く人の大半が高齢者であることを考えると、実現が難しいのでしょうね。
受診する人数も、大病院は多すぎるので、うまく小規模の病院や開業医と分業しなくてはなりません。
ご質問の件ですが、看護師が勝手に治療方針を伝えることはないと思いますが、どの科を受診すべきか、といったことは看護師から伝えるのは自然かなと思います。
全て医師の診察を受けてからだと手が回らなくなりますし。事務員が伝えることもあるのではないでしょうかね。

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かなちゃん

私が20年勤めていた総合病院では 病院機能評価だけではなく ISO:9000シリーズも受審 取得してました。長く看護師長などしてたので その受審・更新準備や継続は とっても大変でした(笑)
患者満足度とか 医療の質の向上 大切ですもんね。でも現場スタッフはとっても多忙ですから 管理職が常に目配せして 自己評価や注意喚起 教育指導してました(^^)

話は全く別ですけど グッドドクターの手術シーンで ひっさしぶりに『スパーテル』のセリフが聞こえました(笑)
これまで コードブルーでもドクターXでも、スパーテルという器具は一度も登場してなかったので(たぶん(笑) なんか懐かしかったです(^^)

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けいゆう

患者満足度の向上、というのは難しい問題ですよね。
医療の質の向上とは必ずしも両立しないところが難しいです。
スパーテル、私も医療ドラマでは初めて聞いたような気がします。
手術でも実際にはほとんど使ったことないですねぇ。何に使ったのかもドラマではわかりませんでしたが笑

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メイ

けいゆう先生

確かに、病院で待ち時間が長いと、体調が悪ければなおさら疲れてしまいます。
でも、本当に大切なのは、適切な治療を受けることだと思います。
医療者の方々の対応が悪いなど、細かいことまで気になってしまうのは、長時間待たされてイライラしてしまい、悪いところばかり目につくからかもしれません。
医療=サービス業と結びつけるのは、なかなか厳しいように思えました。

もちろん、対応が冷たいと感じたことはあります。
そんな言い方しなくても・・・と思ったことも。
でも、医療者の方々はとても忙しく、そこまで気配りできなかったのかもしれませんし、医療者も人間ですから相性が悪かったと見切りをつけ、その病院に行かなくなりました。

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けいゆう

きちんと誠実に対応することや、待ち時間を短縮するよう努力することは医療スタッフとして当然必要だと思います。
そして、それと医療の質を維持することを両立することは、今の医療現場では非常に難しい、ということを患者さん側も理解してほしい、ということはありますね。
両者の歩み寄りが大切だと感じます。

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Anemonefish

こんばんわ。

医療はサービス業であるとは言えない、それを医師・患者双方が理解できるのかベターである、と私も思います。

また私の話に照らし合わせて申し訳ないのですが。

よく、飛行機の客室乗務員とホテルマンが似たような業種としてあげられます。

しかし、ホテルマンだった私の考えは、客室乗務員とホテルマンは似て非なるものなんです。

客室乗務員はあくまでも飛行機、空路なんです。
インフラなんです。
接客の前に「安全輸送」が守らないといけない絶対業務であると思います。
「お客様が快適に過ごせるサービス」はあくまでも付加価値でなのではないでしょうか。

同じ理論を医療にあてはめると。
あくまでも「治療」や「痛み・不安の緩和」の提供が前提であり、治療の待ち時間の短縮や快適な入院生活は付加価値なのではないでしょうか。

付加価値だから、その人その人で求めるものにバラツキがでてしまう。
全てのものに応えるのは不可能なので、ある程度で妥協するのがベターなのではないでしょうか。

それを、スタッフ・ユーザーが理解していることが理想だと思います。

余談ですが、ホテルスタッフも「前提」を勘違いしている人が結構います。

あくまでも私の考えですが。

ホテルスタッフの前提は「お客様が求めるサービスを提供すること」
もう少し突っ込むと「お客様がお金を払う価値があると思うサービスを常にすること」だと思います。

ホテルマンやブライダルプランナーを目指す人がよくいう「自分が提供する接客サービスでお客様に喜んでもらいたい」というのは、ちょっと違うと思うのです。

スタッフがやりたいサービスではなく、お客様が求めるサービスをすること。

それがホテルマンの存在価値であり、お金を頂くことができる仕事だと思います。

色々なお客様、色々な立場のお客様がいる場所で、全てのお客様に「お金を払う価値がある」と思って頂けるサービスをすることを求められている。
だからこそ難しく、楽しい仕事であると思っています。
そして、当然ですが企業活動として利益を出さないといけない。

キャリアを重ねるうちに気がつく人はいるのですが、これを納得できずに辞めていく方が沢山いるんですよ。

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けいゆう

なるほど、客室乗務員に当てはめて考えると分かりやすく、そしてホテルマンの仕事と比べるとその違いは随分明確に分かりますね。
大変勉強になります。
そして、医療現場でモンスターペイシェントと呼ばれる人たちは、もしかすると医療スタッフにホテルマン的なサービスを要求しているのかもしれませんね。
自らが客であり、客が求めるサービスを提供するのが医療者である、という感覚でしょうか。
基本的にインフラの一つである医療現場にはそぐわない考え方、と言わざるを得ないと思います。
むろん、サービスの精神は、医療者にも当然必要だとは思いますが・・・

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