医師が論文を書くための参考書は多すぎて、どれを選べばいいのか悩むことが多いでしょう。
また勤務医は日常業務が忙しく、詳しい本を買っても結局読む暇がなく、本棚に眠らせているというケースもあるかもしれません。
医師にとって論文執筆は大切な仕事ですが、その方法を専門的に学ぶ時間もなければ気力もないのが普通。
勤務医が忙しい業務の合間にいかに効率よく論文に関する知識を得て、手早く論文執筆を行うか、という観点で書籍を選ぶ必要があるでしょう。
私自身もこれまで英語論文の執筆・出版を重ねる中で多くの本を参照してきました。
今回は、これから英語論文を初めて書く、あるいは良い本が見つからないという際に参考にできそうな書籍を、あくまで一勤務医の立場からご紹介したいと思います。
なお、このページは英語で原著論文を書く際にためになる本に特化して選んでいます。
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医学統計
全3巻のシリーズ物です。
イラストが多く文字も大きいので、敬遠する方がいるかもしれません。
しかしこのシリーズ、医学統計の基礎を理解するのに最も少ない労力で最大の効果を得るという、高いコストパフォーマンスを実現している素晴らしいシリーズです。
Amazonのレビューでも、発売当初からどの巻も高い評価を維持しています。
統計の基礎知識を効率よく身に付けたいという方にとっては、最適の本と言えるのではないかと思います。
「基礎のキソ」とはいえ、しっかりした統計知識が網羅されていると言っても過言ではありません。
論文を書くのに最初にとるべき本としては、最適のシリーズであると考えます。
なお、私はある程度経験を積んだのちこのシリーズを通読したのですが、それでも自分が統計を正確にわかっていなかったことを痛感しました。
よって対象は初心者のみというわけではないだろうと思います。
どの巻も必要な事項なので、シリーズ3冊とも購入して一気に通読してしまうのがおすすめです。
論文の書き方
京都大学の疫学分野で教鞭を執ったのち、現在は兵庫医科大学の教授をされ、多方面で活躍されている森本剛先生の著書です。
私も直接指導を受けたことが何度もありますが、説明は非常に分かりやすいです。
cover letterの書き方を含め全て具体的に書かれているので、論文を作成する際に何度も見返すことができ、非常に便利な一冊です。
また本自体は比較的薄く、内容は簡潔です。
この本の最大の特徴は、実際に著者が教室の学生あるいは医師の英語論文を添削する、というコーナーに多くのページを割いているところです。
タイトルの通り、査読者がどんな風に論文を読み、どういうところに「突っ込み」を入れるのかが非常によく分かります。
ある程度論文執筆経験がある方でも必ず持っておきたい一冊です。
東京大学でDPCなどのビッグデータを用いた論文を多数出版されていることで有名な康永秀生先生の著書です。
こちらも本は薄いですが、内容は具体的で非常にわかりやすいです。
文体も読みやすく、通読は容易です。
こちらは、cover letterの書き方はおろか、論文投稿後にreviewがなかなか返ってこなくて困ったときの催促のタイミングや方法が、実際のメールの文例まで含めて書かれてあるなど、痒い所に手が届く本です。
実際私もこれを用いて査読の催促をしたことがあり、こちらも論文作成時に何度も見返す本です。
また、一生懸命書いた論文があっさりrejectされるというのは何度経験しても辛いものですが、そのときの対応(心の持ちよう)も書かれてあって非常にためになります。
英語表現についても、文法的見地から具体的な解説があり、至れり尽くせりの一冊。
上述の本と併せて、強くおすすめできる本です。
臨床研究
京都大学の医療疫学分野の福原俊一教授の著書です。
医師が書く全ての臨床論文は「臨床研究」です。
こちらは論文の書き方ではなく、臨床研究や臨床統計にまつわる知識をわかりやすく説明した本です。
例えば、
信頼性と妥当性
リスク比とオッズ比
記述研究、コホート研究、ケースコントロール研究、横断研究・・・
バイアスの種類、p値、95%信頼区間・・・
といった用語は、よく使うものの十分には理解していない、というケースが多いでしょう。
この本を読めば、こういった知識が全て整理でき、頭のもやもやがスッキリします。
本は薄く、文体も非常に読みやすいです。
決してマニアックな本でなく、どちらかといえば入門者がとっつきやすいタイプの本です。
私はすでに何本か論文を書いた後にこの本を手にし、これまでの自らの考え方に多くの誤りがあったことに気づいて思わず赤面してしまいました。
どんな原著論文を書く方も必ず必要な1冊であると思います。
統計ソフトの使い方
こちらは番外編です。
私は、JMPを好んで用いているため、それ以外の統計ソフトに関する書籍はご紹介できません。
よってJMPを同じく使用している、あるいは使用する予定の方には、この本をおすすめします。
この本では、具体的な医療データベースを用いて、よく行われる解析の具体例を挙げた上で、その際の検定の選び方とJMPをどのように操作するのかが実際の画面を用いて全て書かれてあります。
基礎的な解析は1冊目(ピンク色)でできますが、2冊目で取り上げられているプロペンシティスコア(傾向スコア)マッチングや分散分析も必ず必要になりますので、2冊ともあると便利です。
今回は、論文の非専門家である一勤務医が英語の原著論文を書くなら、という目線でオススメの本を選んでみました。
少しでもお役に立てましたら幸いです。