何科の医師も、患者さんが亡くなった時の適切な対応をきっちり頭に入れておく必要があります。
医療者にとっては数多くの患者さんの一人でも、ご家族にとっては、たった一人の大切な人の死です。
今回は、死亡時の対応から、死亡確認の方法、死亡診断書作成まで、陥りやすい間違いを挙げつつ具体的に解説します。
まだ経験の浅い研修医の先生は特に、参考にしてみてください。
目次
まず連絡すべき人がいるか再確認
死亡確認をする前に連絡すべき人がいないかどうか今一度確認しましょう。
まず、死亡時に呼ぶべき家族のメンバーがきっちり揃っているかを看護師に確認します。
親族の中に、必ず呼んでもらうよう希望していた人がいたにもかかわらず、その方が到着する前に死亡確認を行ってトラブルに発展したケースがあります。
次に、死亡確認を自分が行ってよいかを確認します。
自分が主治医であれば迷う余地はありません。
しかしサブで担当している若手や研修医の場合は、上級医とどういう約束になっているか今一度確認します。
夜中であろうと死亡時は自分が立ち会う、と決めている医師もいますので、確実な情報がないなら電話をかけ、
「自分が死亡確認をしてもいいですか?」
と一言確認するのがよいでしょう。
当直中に担当でない患者さんの死亡確認をする際も同じく、当直医の死亡確認を主治医が許容しているかどうか、カルテ等で今一度確認しましょう。
場合によっては、死後の病理解剖が検討されているケースもあります。
その場合は、死亡確認時にご家族に説明が必要です。
自分が主治医でない場合で、解剖の可能性がある時は、主治医に確認しましょう。
身なりを整える
病室に向かう前に、身なりが不快感を与えるものでないかどうか、改めて確認します。
当直中で髪の毛が乱れていたら、きっちり整えます。
無精髭が不潔感を与えそうなら、マスクを使用します。
白衣をきっちり着て、前のボタンはとめましょう。
とにかく、ご家族にとっての大切な瞬間に失礼のないよう、徹底的に気をつけてください。
死亡確認のための持ち物
死亡確認に必要な持ち物が準備できているか確認します。
必要なのは、ペンライト、聴診器、時計です。
手持ちのものがなければ、病室に入る前に必ず看護師から受け取りましょう。
患者さんの前で必要なものがなくて慌てる、などということは許されません。
時刻の確認には腕時計を使うのが望ましいです。
なければ看護師にナースウォッチを借りるなどして必ず準備します。
死亡確認の際に、白衣のポケットからスマホやPHSを出して時間を確認する、というようなことは不快感を与える可能性もあるので、できれば避けましょう。
モニターには時刻のデジタル表示がありますが、正確でないことも多いため、これを採用するのも避けた方が良いでしょう。
死亡確認後は死亡診断書の作成が必要です。
印鑑とボールペン(手書きなら)を持参しましょう。
死亡確認の方法
死亡確認ができるのは、医師と歯科医師だけです(正確には、死亡診断書は医師・歯科医が記載できるが死体検案書は医師のみ)。
死亡確認は以下の手順で行います。
聴診器を当てて、心拍停止と呼吸停止を確認
ペンライトを瞳孔に当て、瞳孔散大と対光反射消失を確認
時刻を確認し、死亡確認を家族に伝える
心拍・呼吸停止を確認
胸に聴診器を当て、心拍と呼吸が停止していることを確認します。
人工呼吸管理中の患者さんの場合は、医師が到着時も人工呼吸器が動いています。
まずは家族にお声がけをして人工呼吸器を止めてから聴診器を当て、呼吸停止を確認します。
人工呼吸器が作動したままだと、当然ながら呼吸停止を確認できません。
また、心拍は心電図モニターではなく、きっちり聴診で確認します。
対光反射消失を確認
患者さんのまぶたを押し上げて、ペンライトを当てて対光反射を確認します。
確認後は、まぶたを戻して、目を閉じた状態にします。
死亡を確認
以上が確認できたら、時計を見て時刻を確認します。
そしてご家族に対して、
「◯時△分、死亡の確認とさせていただきます」
と告げます(時刻の宣言はなくても構いません)。
この伝え方は医師によって様々で、特に決まりはありませんが、ドラマのように、
「ご臨終です」
という医師はあまりいません。
「医学的に死亡確認という手順を完了した」という旨を粛々と伝える形が良いでしょう。
その後、立ち会った看護師らとともにご家族に深く頭を下げます。
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死亡確認が終わったら
死亡確認後は、ご家族が患者さんご本人と過ごす時間になります。
医師が余計な言葉をかける必要はありませんが、経過をよく知った方なら、
「ご本人もご家族も良く頑張られたと思います、お疲れさまでした」
とお声がけをすることはあります。
患者さんのその後のケアについては看護師に任せましょう。
その後、死亡時刻と自分が死亡確認を行った旨をカルテ記載します。
次に死亡診断書を作成します。
死亡診断書は、病院によっては手書きのものを2枚、カーボン紙を用いて用意するケースもあれば、電子カルテの診断書作成ソフトを用いるケースもあります。
死亡診断書の書き方
死亡診断書を書く機会はそれほど多くない反面、書く内容は患者さんによって様々なので、毎回迷うポイントが出てきます。
厚労省のホームページで、非常に分かりやすい手引き(PDF)がダウンロードできます。
記入例も豊富ですので、スマホやタブレットに入れておくと安心です。
死亡診断書の作成は、臨床研修の到達目標にもなっていますので、研修医の先生もしっかりマスターしておきましょう。
詳細は上述のPDFを見れば分かりますが、ここでは間違いやすいポイントをいくつかピックアップしておきます。
タイトル
死亡診断書を書く場合は、「死体検案書」の文字を二重線で消します。
これは「修正」ではありませんので、押印は不要です。
(注:「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には死亡診断書を、それ以外の場合には死体検案書を交付します。異状を認める場合には、所轄警察署に届け出ますが、その際は捜査機関による検視等の結果も踏まえた上で、死亡診断書もしくは死体検案書を交付します)
氏名・年齢・生年月日・死亡時刻
時刻は、夜の12時は「午前0時」、昼の12時は「午後0時」と記載します。
「死亡したとき」は、死亡確認時刻ではなく死亡推定時刻を書くことに注意が必要です。
確認時刻より前の、推定される死亡時刻を書きましょう。
ただし、救急搬送中の死亡に限り医療機関で行った死亡確認時刻を記入できる、というルールになっています。
死亡場所
「死亡したところ(住所)」と「施設の名称」については、病院にスタンプが用意されているケースが多く、たいてい自筆しなくても良いので看護師に確認しましょう。
死亡原因
ご存知のように、終末期の結果としての「心不全」や「呼吸不全」は死因として書いてはいけません。
ただし、明らかな病態としての「心不全」「呼吸不全」は記載しても全く問題ありません。
心疾患や呼吸器疾患による死亡の場合は、当然死因にこの文言を書かねばならない時があります。
高齢者の死亡では、特記すべき死亡の原因がない場合は「老衰」と記載できます。
老衰を(イ)に書き、(ア)にその結果を書くことも可能です(例:(ア)誤嚥性肺炎、(イ)老衰)。
癌の場合など、病名に細かく部位を書くことも可能です(例:S状結腸癌)。
また、急性、慢性といった区別、細菌名やウイルス名を書くことも可能です(例:MRSA肺炎、慢性C型肝炎)
もし死因が不明の場合は「詳細不明」や「不詳」と書いても構いません。
手術について
書けるのは、前述した傷病名と関連のある手術だけです。
患者さんが受けた手術なら何でも書けると誤解している人がいますので、注意してください。
診断年月日と署名
最後の項目です。
死亡診断書の場合は、「検案」を二重線で消します。
署名が自筆であれば押印は不要という決まりになっていますが、「印鑑が押されていない」と不安になるご家族もいらっしゃるので、私は毎回印鑑を押しています(その方が見栄えも良いです)。
無記入の箇所
記入がない枠に斜線を引く人がいますが、厚労省のマニュアルにも記載はなく、その必要はありません。
そのまま空欄にしておいて問題ありません。
死亡確認から死亡診断書作成まで、患者さんが亡くなったときの対応についてまとめました。
記憶が曖昧なときは、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
(参考文献)
平成30年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル/厚生労働省
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