初期研修医として消化器・一般外科をローテートする人は、以下のいずれかのパターンに当てはまるでしょう。
・消化器・一般外科志望
・呼吸器外科・心臓血管外科・乳腺外科志望(外科専門医のための症例集積が目的)
・産婦人科、泌尿器科、形成外科などその他の外科系志望(一般外科手技に慣れておきたい)
・内科志望(研修施設のルールで外科ローテートが義務)
研修医の期間は有限で貴重なため、本選びは後悔のないよう慎重にしたいものです。
しかし外科ローテートには上記のように様々な動機があるため、全員が同じ勉強法でいいわけではありません。
消化器外科志望でない人は最低限の勉強で済ませたいでしょうし、逆に消化器外科志望なら研修医のうちから詳細に勉強しておきたい方もいるでしょう。
外科志望と伝えると、場合によってはオペレコを書くよう言われ、書き方に困ることもあります。
その対処法も後半で説明します。
上記のパターンは、
①初級:一般外科手技に慣れるだけで良い(しぶしぶローテート組を含む)
②中級:消化器外科志望ではないが外科専門医取得予定
③上級:消化器・一般外科志望
の順に必要な知識・技術レベルが高くなっていくので、それを踏まえて順におすすめの本を紹介します。
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①初級編
もし自分が研修医の時に出会っていたらどれほど助かったか、と言えるほど素晴らしい本です。
皮膚の消毒や道具の種類、腰椎麻酔など、なかなかまとめて学習しにくい細かな知識が一冊にまとまっています。
手術器具については、鑷子一つとっても、有鈎(鈎ピン)、無鈎、ドベーキー、アドソン、ラミネクの違いが書かれてあるなど、まさに痒いところに手が届く内容。
後半は、個別の術式や解剖を網羅していますが、これもビギナーにとっては適度な難易度です。
消化器外科志望でなければ、後述するイラストレイテッドに書かれた詳細な膜の解剖を見て尻込みする人がいるかもしれません。
一方この本は、ビギナーにも分かりやすいあっさりしたイラストで、術式の全体像を簡単に学んでおきたい、という人にとってはまさに最適でしょう。
まさに入門中の入門です。
非常に薄い本でイラストはたっぷりです。
持針器の持ち方から運針の仕方、縫合の基礎など、入門レベルの技術を身につけるのには最適です。
内科志望でも救急外来でのナートは必要です。
外勤(アルバイト)先を選ぶ際、「ナートがある救急外来は無理」では困る可能性があります。
誰しもこれ程度の知識と技術は身につけておいた方が良いでしょう。
②中級編
超有名な手術書なので、知らない人はいないと思います。
術式だけでなく、各臓器別に必要な手術解剖を詳細なイラストで示してあります。
消化器・一般外科志望でなくても、入った手術の流れや解剖はきっちりわかっておきたい、指導医の会話に付いていきたい、という中級者は買っておくべき本です。
また心臓外科志望の方は、腹部大血管手術の際に腹腔内の解剖は必須となるため、外科ローテート時に買っておいて損はありません。
なお、大判のものと小型版がありますが、これは好みによります。
私は大判を持っていますが、小型版でも十分見やすく持ち運びもしやすいので、場所をとるのが嫌な人は小型版(縮刷版)が良いでしょう。
なお、消化器外科志望ならここまででは不十分です。
以下の上級編も参照してください。
③上級編
総論
ACTS-GC試験、ToGA試験、JCOG9907試験、SOFT試験・・・
レジメンと、その根拠となった臨床試験の名前が気になったり、
大腸癌や胃癌の内視鏡治療適応拡大や追加切除適応を確認したくなったり、
食道GIST、直腸NETがEUSで第何層になるかが分からなくなったり、
細かい情報に困って調べる時に便利な本は実はこれまでなく、それぞれ別個に調べる必要がありました。
「こういう困った時の参考書」的な役割を果たしてくれるのがこのテキストです。
ガイドラインや取り扱い規約、論文などの知識が1冊にまとまっている本は極めて貴重です。
専門医試験用のテキストという触れ込みになっていますが、試験とは関係のない時期から買っておくべき本です。
試験対策本として特化した内容ではありません。
(もちろん専門医試験を受ける人が早めに買っておくべきなのは言うまでもありませんが)
ただし、同じシリーズの以下の本と間違えないようご注意ください。
こちらは問題集という趣が強く、知識の整理には使いにくい本です。
次は各臓器別の各論です。
オペレコを書くよう指示された時は、これらの本が非常に参考になります。
消化管
腹腔鏡手術の標準手技を分かりやすく示したシリーズです。
イラストと実際の術中写真がともに適度に含まれており、場の展開の仕方、解剖のvariationとその対応など非常に実践的です。
各臓器別に大御所の先生方が監修されており、大判のためビジュアル的にも理解しやすいです。
手術に入る前にサラッと参照すれば、術式の理解も変わってくるはず。
一気に全ての臓器を勉強するのは難しいので、在籍している施設で多い術式から順に揃えていくのが良いでしょう。
肝胆膵
肝胆膵領域については、こちらのシリーズが情報量としては圧倒的です。
各種の臓器解剖、発生、術式から、術前・術中・術後管理、器具の使い方まで全てが非常に分かりやすく解説してあります。
ビギナーの頃は、肝胆膵領域は特にオペレコの記載に困ることが多いと思います。
このシリーズは、オペレコにそのまま利用できるような分かりやすいイラストが多いのも特徴で、これを参考に描いているうちに徐々に絵が上手くなります。
肝胆膵に関しては最もおすすめできるシリーズです。
こちらは分厚く通読は難しいため、困ったらその都度参照するのが良いと思います。
ヘルニア
鼠径ヘルニアはイラストレイテッドでも詳細に解説されていますが、McVayやKugel、PHS など細かな術式の違い、TAPPとTEPの違いなど、手術に入る際はさらに知識を深めておく必要があります。
この本はヘルニアに特化した本の中では最も分かりやすいことで定評があります。
イラストや術中写真も豊富で、鼠径ヘルニアに関しては最初はこれ一冊で十分といって良いでしょう。