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トークイベント「やさしい医療がひらく未来」を開催、情報発信における問題点

9月29日、渋谷ヒカリエで「知って、届けて、思い合う〜やさしい医療がひらく未来」というイベントを開催しました。

SNSやウェブメディアで情報発信を行う医師(医学研究者)らと編集者のたらればさん、朝日新聞withnewsの方々を中心に開催したトークイベントです。

大手メディア関係者の方々も多く参加され、医療の情報発信を考える上で、実りの多い企画になりました。

 

イベントの詳細や雰囲気は、Twitterで「#やさしい医療情報」のハッシュタグを振り返ると伝わりやすいと思います。

あるいは、登壇者の一人である病理医の市原真先生(ヤンデル先生)がまとめられたnoteを読まれるのもよいでしょう。

 

この記事では、イベントを振り返りつつ、私が情報発信について考えることを綴ります。

 

「不安」がビジネスになる現代

2019年8月、ある健康食品販売会社が、「がん細胞が自滅する」などと効能を宣伝し、がん患者に健康食品を高額で販売していたとして摘発されました。

彼らは医学的根拠のない商品を1万人に売り、28億円以上を売り上げていました。

この件は大きな話題を呼び、私もYahoo!ニュース個人で記事にしています。

 

しかし、このように表沙汰になる事例は氷山の一角にすぎません。

日々、多くの人がこのようなニセ医療によって命を縮めています

新規治療薬の開発や臨床試験に充てるべき多額のお金がニセ医療に吸い上げられている。

由々しき事態です。

 

彼らにとって、「不安」はビジネスの対象です。

自分や家族が病気になると、誰もが不安になり、情報を求めるものです

そこをターゲットにして商品の良さを懸命に語り、広告を打ち、絶えず情報を発信する。

そこに悪意などないかもしれません。

ただ懸命に、ビジネスに打ち込んでいるのでしょう。

 

それに対し、私たちはどう振る舞っているのでしょうか?

 

情報発信で勝てない私たち

登壇者の一人、がん研究者である大須賀覚先生は、”まっとうな医療を行なっているはずの私たち医師が、情報発信ではニセ医療に全く歯が立たない現状”を強調しました。

大須賀先生は、Amazonでがん治療に関する書籍の売り上げトップ12冊を全て読み、その中で科学的根拠をもとに書かれた本はたった3冊だったと指摘しました。

 

これは、書店に所狭しと並ぶ健康本を見ても明らかなことです。

同様に、「困ったらググる」が当たり前の現代においては、インターネットやSNSにあふれたニセ医療情報で健康被害を受ける人も膨大にいます

 

現在の大きな問題は、医療における情報発信の価値があまり認識されていない、ということにもあります。

医療機関や公的機関において、医療に関する情報発信を担当する人員は圧倒的に不足しています。

 

イベントでは、国立がん研究センターがん対策情報センター センター長の若尾文彦先生と話す機会を得ました。

同センターが運営する「がん情報サービス」は、膨大な情報量と、高い信頼性、更新性を持つ一般向けウェブサイトです。

月間500万PV超を誇り、文字通り多くの人命を救っているこの巨大なサイトをマネジメントする若尾先生が、

「国立研究機関として我が国の情報発信を担うには、マンパワーがあまりにも足りない」

と話されたことが大変印象に残っています。

実際、米国の国立がん研究所(NCI)のPDQ(がん情報サービス)と比べると、予算も体制も二桁違うといいます。

 

大須賀先生も講演の中で、

「米国の公的機関や医療機関、研究機関には多くの情報担当のプロが勤めていて、紙媒体、SNS、動画などを用いて戦略的に情報発信している」

と話されました。

日本の医療情報発信は、「周回遅れ」と言わざるを得ません。

 

私たち医師がどれほど知恵や技術を磨き、医療の質を高めても、病院に来ない人を救うことはできません

もはや病院の中だけで人を救える時代ではなくなっている、とも言えます。

こうした時代に、まっとうな医療関係者たちが情報発信に取り組むことは必須であると考えます。

 

戦略的な情報発信を

私が今回のイベントで話したのは、情報発信におけるデータ戦略についてです。

ウェブサイトやSNSを使って情報発信することの利点は、PV数やインプレッション数、リンクのクリック率、訪問したユーザーの動線など、受信側のレスポンスが全てデータとして蓄積していくことにあります。

 

私が連載するYahoo!ニュース時事メディカル、運営する自身のウェブサイト、Twitterを中心とするSNSで、どのような情報発信をすべきか。

その答えは、データを解析すれば見えてきます。

 

今回、会場で参加者の方から「プロのWeb担当者に金を払っても聞けないくらいの講演だった」とお褒めの言葉をいただきました。

しかし私は、情報発信をする上ではそういう「プロ」を相手に戦わねばならない、ということを自覚しています

むろん、これは本来医師がやるべき仕事ではないでしょう。

そういう「プロ」をきちんと医療現場に引き込まないといけない、という意味です。

 

今の段階では、まずは医師として自ら情報発信し、その活動の価値を認めてもらえるよう努力するしかないでしょう。

あるいは、ひとまず「信頼できる情報のありかを伝える」というのもまた価値のある仕事です。

「ある医療情報が信頼できるかどうか」を伝えるにも、専門的知識が必要だからです

 

がんの情報を知りたいと考える人に、

「ググる前にまず『がん情報サービス』にアクセスしてください」

と伝えるだけでも、大きな意味はあります。

このサイトにも、信頼できる医療情報リンク集を作っています。

 

こうした観点から、これからも引き続きこの活動を続けていきたいと考える所存です。