救急車を呼ぶ前に知っておくべき4つのこと・呼んだ後に準備すべき持ち物

私が医師になったばかりで初めて救急外来に出た日、先輩の医師から、

「今から救急車が来るから、まずは君が声をかけてみなさい。僕がそばで見ているから。」

と言われました。

そのとき救急外来にはほかに患者さんがおらず、余裕があったからだと思います。

私は、医療ドラマで救急搬送されてくる救急患者をイメージしながら、初めての診療に緊張したのを覚えています。

 

救急車が到着し、扉が開くと若い男性が降りてきて、

「すみません、よろしくお願いします。」

と私に頭を下げました。

その方は同乗した患者さんの家族で、その人の後にベッドで患者さんが降ろされてくるのだと、私はいよいよ緊張しました。

ところがその後に降りてきたのは救急隊の方で、当たり前のように、

「◯◯さん、△歳です。家の扉で手を挟み、右手の人差し指に内出血を起こしています。特に既往のない生来健康な方です。」

と説明を始めました。

そのとき初めて私は、歩いて救急車から降りてきたその男性が患者さん本人であることに気づきました。

 

それ以後は、そのくらい軽症の人の方が救急車を使うことが多いことがわかり、驚かなくなりました。

 

全国消防協会の「救急車はタクシーではありません」というポスターが示すように、救急車で搬送される人の約半数が軽症の人です。

風邪で救急車を使う人もたくさんいます。

この方々は、診察が終わった後は歩いて帰って行きます。

 

自分で病院に行ける軽症の方は、タクシーや公共交通機関を使って病院に行くべきだ、とよく言われます。

これは、本当に救急車が必要な人のところに救急車の到着が遅れる原因となるから、だけではありません。

救急車の適正利用を強調しないといけなくなることで、本当に救急車が必要な人も救急車を呼ぶのをためらってしまうから、ということもあります。

「こんなことで救急車を呼んだら怒られるかと思って・・・」

と言って、遠慮して救急車を呼べずなんとか自力で病院にたどり着いて緊急入院、という重症の方を私はたくさん見てきました。

 

今わが国で救急車をよく利用するのは、「救急車を必要とする人」ではなく「救急車を呼ぶのにためらいを感じない人」だと感じます。

 

小さな怪我や軽い症状で救急車を使う方は、もしかしたらこう考えているかもしれません。

「救急車を呼んだら病院で待たずに済むだろう」

「病院への交通手段がないから救急車を呼ぼう」

「重症か軽症か自分でわからないから、困ったら救急車を呼ぶしかない」

今回はこう思う方に、救急診療のシステムを簡単に説明しておきます。

 

なお、足が不自由、寝たきりなどの障害によって、

「救急車を呼ぶほどではないのは分かっているけれど、自力で連れて行く手段もない」

という、普段介護をされている方の悩みもあるかと思います。

それについても説明します。

 

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救急車なら待たずに診てもらえるのか

答えはノーです。

救急車内で重症度を確認した救急隊の方は、受け入れ先の病院の医療者にその情報を電話で伝えます。

病院側が軽症と判断すればまず受付に来てもらい、看護師が再度軽症であることを確認します。

これが確認できれば、歩いて病院にやってきた方と同じように順番待ちをしてもらいます。

診てもらえる順番はあくまでも病気の重症度によるのであって、その人が歩いて来たか救急車で来たかは関係ありません。

こう説明すると、

「軽い怪我で救急車を呼んだとき、待たずに診察してもらえたことがある」

と言う人がいるかもしれませんね。

おそらくそれは、その時は他に患者さんがいなかっただけか、救急患者が少ない病院に運ばれたかです。

つまり、救急車を使わず自力で受診していたとしても待ち時間はなかったはずです。

 

救急車は病院への便利な交通手段か

これも答えはノーです。

軽症なら特にそうですが、どこに連れて行かれるかわからないからです。

当たり前のことですが、タクシーか公共交通機関を使って自力で受診するメリットは、自分の家から近い便利なところや、一度かかったことのある好きな病院を選んで行けることです。

もちろん重症の方の場合は、救急車内で患者さんの診察券などを確認し、かかりつけの病院があれば優先的に搬送を依頼します。

軽症の場合は必ずしもそうではなく、軽症患者の対応が可能な病院から当たっていきます。

 

また、診察が終われば当然帰りは送ってもらえません。

遠方でも帰りの交通費は自費です。

本人も、同乗した付き添いの家族もそうです。

救急搬送されて診察を終えたあと、

「こんな遠いところから自宅までどうやって帰ればいいんだよ!」

と怒る方がいますが、不便な目にあったのはアクセスの良い病院を選ぶ権利を自ら放棄してしまったからです。

 

私は、軽症なら近くて便利な病院に自分で行く方がメリットは大きいと思います。

かかりつけ病院なら、これまでの自分の病状を記すカルテがあるので安心です。

また次回の外来の予約をして帰ることも多く、遠いところや不便なところに搬送されると、次回もその病院まで足を運ばないといけなくなります。

近くの病院に紹介状を書いてもらっても良いですが、その分結局診察後の手続きに待ち時間が発生します。

しかも再度自分で近くの病院を受診して、自分を診たことがない相手に状況をもう一度説明しなければならないなど、二度手間でかえって面倒です。

最初と同じ病院で診てもらえば、初回のカルテもあって説明は不要で、安心感もあるでしょう。

 

以上の理由から、軽症のときは救急車はかえって不便です。

タクシーなどを使って病院に行く方をおすすめします。

 

重症か軽症か自分ではわからない

「『軽症なら』と言われても、自分では重症か軽症か分からないじゃないか!」

と言う人がいるかもしれません。

確かに、小さな怪我など明らかに軽症とわかる症状もありますが、

「自分では軽症だと思っているけど実際にはそうでなかったらどうしよう」

と不安になるのは当然のことです。

 

判断に迷った場合は、市町村の救急相談窓口相談する手があります。

番号「#7119」で、詳細は各市町村のホームページでも確認できます。

「救急車を呼ぶべきか」だけでなく、「近くの救急病院がどこにあるか」「応急手当てはどうすれば良いか」などの相談もできます。

24時間、365日体制で、看護師を中心とした相談員が医師の支援体制のもと相談にのってくれます

 

また、小さな子供をお持ちの方は、子供の症状で救急車を呼ぶべきか判断に困るケースもあると思います。

その場合は、小児救急専用の電話相談窓口があります。

こちらの番号は「#8000」です。

小児救急の電話相談は、地域によって可能な時間帯が異なります(24時間対応ではありません)

厚生労働省のホームページを確認しておきましょう。

 

また、救急車を呼んでいいかわからない、という時に使えるアプリ「全国版救急受診アプリ「Q助」もあります。

消防庁が公開している無料のツールで、症状を画面上で選択していくと、必要な対応が表示されます。

表示されるのは、

「今すぐ救急車を呼びましょう」

「できるだけ早めに医療機関を受診しましょう」

「緊急ではありませんが医療機関を受診しましょう」

「引き続き、注意して様子をみてください」

のいずれかで、非常に便利です。

スマホがなくてアプリが使えない人はWeb版も使用できます。

困った時にはぜひ利用してみてください。

 

もちろんこういうことをする余裕がないほど症状が強い場合、明らかに緊急だと思われる場合は迷わず救急車を呼ぶべきです。

この場合は全く遠慮する必要はありません。

 

ちなみに救急相談窓口で相談できるのは、その時点で困っている症状についてだけです。

たとえば病院でもらった薬のこと、かかっている病気の治療のことなどの相談はできませんので、ご注意ください。

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軽症だが病院には行けないときは?

寝たきりの方などで、普段から介護保険に加入されている方は、「介護保険タクシー」の存在をご存知だと思います。

通院や役所・金融機関の手続きなどの際に、介護保険で専用のタクシーを安価で利用できるサービスです。

価格など、詳しくはケアマネージャーにお尋ねください。

 

また介護保険外でも、自費で介護タクシーを利用することができます。

車椅子のまま乗車できたり、ベッド(ストレッチャー)に対応しているものもあります。

自宅から病院への移動の際、タクシーへの乗り降り介助などのサポートが受けられ、付き添いの方の同乗も可能です

価格も一般のタクシー並で、利用しやすい交通手段です。

詳しくは、介護タクシー配車MAPなどのホームページをご参照ください。

「救急車を呼ぶほどでもないが動けない」という際は、これを利用する方法もあるため、覚えておくと良いでしょう。

 

ただ、普段から寝たきりなど重度の障害がある方は、周りのご家族の方から見て軽症だと判断することは得てして難しいものです

救急車はむしろこういう方々のためのものですので、ためらいなく呼ぶのは悪いことではないと私は思います。

 

救急車を呼んだあとの準備・持ち物

実際に救急車を呼んだ場合は、搬送までにきっちり準備をしましょう。

一般的な受診前の準備は「病院に行く前にしておくべき4つの準備、必要な物と心がまえ」にも書いていますが、

お薬手帳を必ず持参する(可能なら今飲んでいる薬を全てそのまま持参)

診察しやすく動きやすい服装にする

の2点を必ず守りましょう。

そして、救急車で受診する時に特に注意すべきこととして、

帰りの靴を忘れないこと

家族も受診する、できなければ家族に連絡しておくこと

が挙げられます。

 

救急車で受診しても、入院が必要なく帰宅する方は多くいます。

しかし、病院には自分の足で来ているわけではないので、帰る段になって靴がないことに気づくことがよくあります

自分で動けず救急隊の方に搬送される場合も、必ず靴を用意しておきましょう

(救急隊の方が「靴はどれを持って行きますか?」と聞いてくれることが一般的です)

また靴だけでなく、帰りのことを考えた服装(寒い時期の上着など)も忘れないようにしましょう。

 

また逆に入院が必要になった時、ご本人が動けない場合は家族が入院の説明を受け、入院手続きなどを行います

入院する段になって突然電話連絡すると困惑される家族の方も多いため、救急車を利用して受診する際はその旨を家族に伝えておきましょう

また同居している家族がいるなら、可能な限り同行しましょう。

 

救急車を正しく使うのは大切なことですが、適正利用を過度に強調するのもよくありません。

ここに書いた救急診療のシステムを知っておいて、救急車を上手に活用しましょう。

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医師。専門は消化器外科。二児の父。
ブログ開設4ヶ月後に月間67万PV達成
時事通信社医療情報サイト「時事メディカル」で定期連載中。
エムスリーでも連載中&「LIFESTYLE」企画・監修。
プロフィール詳細はこちら

救急車を呼ぶ前に知っておくべき4つのこと・呼んだ後に準備すべき持ち物」への8件のフィードバック

  1. きんもくせい

    けいゆう先生

    軽症の人が救急車を利用するとメディアを通じて知ってはいましたが、本当なんですね。

    幸い、私も家族も救急車のお世話になったことはありません。
    ただ、私は一度だけ、救急車を呼んだことはあります。
    私がまだ結婚まもない頃、駅まで歩いていると、公園で数人の子どもたちが一人の男の子を囲んで「大丈夫?」と声をかけていました。
    普通じゃない感じがして「どうしたの?」と声をかけたら、男の子が木から落ちて腕を痛がっているとのことでした。
    見ると、腕が変な方向に曲がっているようだったので、「お母さんは家にいない?」と聞くと、「いない」と言います。
    私はまだ子どもがいなかったのと、引っ越したばかりで知り合いもいなかったので、男の子の家を知っているという女の子に念のため家に行ってもらい、緊張しながら救急車を呼びました。
    男の子のおじいさんが間もなく来たので、救急車の到着を待ってから私は駅に向かいました。

    今でも、私の行動が正しかったのか自信はありません。

    救急車とは少し違いますが、私のママ友には、救急外来を頻繁に受診する人がけっこういます。
    私はかかりつけ医に『子どもの救急#8000』を教えてもらいました。
    子どもが言葉で症状を伝えられないうちは不安でいっぱいになりながら、まずは検索して落ち着いてから対処を考えるようになりました。

    長々とすみません。
    けいゆう先生のブログが広がって、軽症の救急車利用が減るといいですね。
    もちろん、ママ友にもすすめています。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      きんもくせいさん
      そういったケースでは、救急車の利用は正当だと思いますよ。
      「これで救急車を呼んでもいいのかな?」と少しでも思ったことがある人は、風邪をひいた、手を怪我した、といった軽症ではまず救急車を呼ばない人なので、そういう人が「呼んだ方がいいかも・・・」と思った時は呼ぶべきケースだと思います。
      逆に、本当に伝えたい相手はなかなかこういう記事は読みませんので、届けたいところに声を届けるのは難しいんです。

      確かに小児救急の電話の記載を忘れていましたね!
      重要な情報なので追記しておきたいと思います。

      返信
  2. ラブちゃんママ

    ラブちゃんママです。ラブちゃんはワンコです(^_^)
    市区町村で共通の救急相談の電話番号があるんですね。うちは、コントロールセンターってのがあり、どこでみてくれるか調整してくれたりします。どこもそうだと思ったら、ネットでは、救急相談を掲示板に書き込んで助けもとめてる人まで見かけます。勇気あるというか、ずれてる人は、どうすればいいかわからず、えーい、呼んじゃえ。と 救急車呼ぶのかな。
    あど自分の経験では、アナフィラキシーでフラフラになり歩けなくて、呼んだけど、出すもの出したらスッキリして、病院つく頃には、元気でした。呼んでいいのか、悩んでしまいます。(^o^;)

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      ラブちゃんママさん
      コントロールセンターというのがあるんですね。
      本当に必要な症状なら迷わず呼んでほしいので、この辺りの呼びかけは結構難しいところではありますね。
      おっしゃる通り、救急車を呼んだけど病院に着く頃には治まっていた、というケースはよくありますよ。
      ただこればかりは予想ができませんし、仕方がないと思います。
      明らかに軽症と思われるような怪我などで救急車を使う人とは意味が違いますからね。

      返信
      1. ラブちゃんママ

        呼んで良かったんですね。(^o^;)
        救急隊員の方や、先生、看護婦さんには、結構冷たくされたんです。。
        何食べたんですか!自分で作ったんですか!って。
        だから悔しくってもうっ、 レトルト食品です!! 
        て、元気に答えました。
        私を元気づける技だったんだと思います。(^_^)
        自分で喋って説明できる人は、救急患者だともってくれないのかな。 でも、外来の先生は、大変だったねってすごく優しかった。 いま大学病院で検査中です。もう、あれは絶対食べません。 あー、先生にお話したら、スッキリしました。ありがとうございます(^_^)

        返信
        1. けいゆう 投稿作成者

          ラブちゃんママさん
          自分で症状がどう変化するかなど想像もできませんからね・・・
          それで冷たくするのは問題だと思います。
          自分で症状を説明できる人で重症、という人はいくらでもいますので、それが緊急性の基準ではありませんよ。
          お役に立てて良かったです。

          返信
  3. 2525konny

    いつも楽しく拝見させていただいております。
    ご存じであればすみませんが、ひとつ便利なアプリを紹介させてください。
    消防庁が作っている、全国版救急受診アプリ『Q助』です。
    アプリで症状を選択していくと、救急車呼ぶべきかどうかの判断をしてくれます。
    救命救急のドクターがオススメしていました。
    こういったものがもっと広がることで、救急車の適正な使用につながることを願います。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      2525konnyさん
      ありがとうございます!
      恥ずかしながら、その存在を私は知りませんでした。
      かなり便利なツールですね。
      素晴らしいと思います。記事に追記しておきたいと思います。
      教えていただき、ありがとうございます。

      返信

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