高齢者の入院時、手術を受ける時に必ず知っておくべき3つのこと

家族に高齢者がいる方(一緒に暮らしていない場合も含め)はたくさんいらっしゃると思います。

おそらく、これを読んでいる方のお父様、お母様、あるいはお祖父様、お祖母様です。

今、その方のことを思い浮かべてください。

もしその方が突然入院したり、手術を受けることになったりしたら・・・

と考えたことはありますか?

 

病院では、高齢の方が入院したことがきっかけで家族の方々が様々な問題をかかえる、といった事例が非常に多くあります。

理解不足(一部は医師の説明不足)によってトラブルに発展することもあり、私たち医療者にとっては重要な問題です

こうしたトラブルの大半は、知識があればある程度防ぐことができます

 

今回は、高齢者特有のトラブル例と、必ず知っておくべきことをまとめます。

 

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治療後に体の状態は一段階落ちる

70歳、80歳を超えるような高齢の方は、一見元気に見えても、体は年齢相応に弱っています

もともと自力で生活でき、買い物も家事も全て一人でやっていた、という方が、入院をきっかけに生活力を失うことは非常によくあります

たった1回手術を受けただけで寝たきりになってしまう、ということも普通にあります。

もともとの体力や、持病があるかどうかによって個人差も大きいのですが、高齢者の健康は総じてそのくらい危ういバランスで維持されています

 

しかし普段元気なだけに、このことを十分に理解していない家族の方が非常に多い、という問題があります。

特に全身麻酔手術では、高齢者の体の状態は大きく変化します。

手術をきっかけに認知症が進んだり、これまで一人でできたことができなくなったりした時、

「こんなことになるなら手術しなければよかった!」

と言われ、上述したような高齢者の特徴を説明すると、

「じゃあなんでこうなると分かっていて手術したんだ!」

と激怒する方もたくさんいます。

手術前には説明を受けているはずですが、手術自体の方法や安全性などに目がいってしまい、術後のリスクを聞き流していることが多いからです。

手術前の説明の際には現れなかった別の親族が術後に突然やってきて激怒する、というパターンもよくあります。

 

なぜこのようなトラブルになってしまうのでしょうか?

ご家族にとっては、高齢者のこうした変化は自分たちの生活に大きな影響を及ぼすからです。

突然介護が必要になったり、別居していたのに突然一緒に生活することになる

もともと何の苦労もなく自力で暮らしていたのに、施設に入ることになり、予想外の金銭的負担が発生する

全く病気でなかったはずの、患者さんの奥様あるいはご主人までもが、身体的・精神的負担で倒れ、両方のケアが同時に必要になる

こうした突然の変化がきっかけで家族内にいざこざが起こり、医療者も交えて議論が泥沼化する。

こういう経験は、これまで数え切れないほどありました

 

ご高齢の家族がいるみなさんは、その方が入院した時は「一段階生活レベルが落ちること」を想定しておいてください

手術を受けるような病気でない場合も同じです。

あらゆる入院がそうです

普段から、この「心の準備」ができているかどうかが大切です。

 

ちなみに私は、高齢の方が入院される時、特に手術を受けていただくような時は、少し厳しいようですが、

「たとえ治療がうまくいっても、体の状態は一段階落ちると思ってください。入院を契機に他の病気を発症することもあります。認知症が進んだり、寝たきりになることもあります。元気に見えますが、長年使ってきた体です。若い方ほど丈夫ではありません」

と必ず説明します。

 

もちろんこのように説明しても、結局は元どおりの姿で退院される方も多くいます。

この個人差は非常に大きく、誰がどう変化するかを予測することはできません。

あらゆる方が、こうした可能性に備えていてほしいと思います

 

急変時の対応を問われる

高齢の方が入院され、かつ状態が悪い時は必ず、

「急変した時に心臓マッサージや人工呼吸といった延命処置を行うかどうか」

を議論します。

高齢の方の場合は、心臓が止まったり呼吸が止まったりした時に、迷いなく延命治療を行うべきだ、とは言い切れません

もちろんその行為によって、元の状態に完全に復帰する可能性があるのであれば迷う余地はありません。

しかし、本人の体を痛めつけ、大きな負担をかけても、数時間、あるいは数日といった短期間だけしか命を伸ばせないとしたらどうでしょうか?

これをご本人が望んでいるかどうかを、冷静に考えなくてはならないはずです。

もちろん高齢者に限らず、近い将来死を免れない状態の方はみなさん同じではありますが、高齢の方の場合、上述の通り体の回復力が大きく落ちています

若い人ならすんなり治ってしまう病気が、予想に大きく反して急激に重症化することもあるわけです。

 

ところが、普段元気に仲良く暮らしていた家族の心臓が止まりそうになり、

「延命治療はどうされますか?」

と突然聞かれると、パニック状態になってしまう方はたくさんいます

特に、突然家で倒れて救急車で運ばれた高齢者の家族にこうした質問を投げかけても、冷静に考えられる人は多くありません。

予想もしていなかったことですから、当然のことです

大慌てで他の家族に電話したり、その場で家族会議が開かれたりします。

もちろんその間も、患者さんの状態は刻一刻と悪化します

 

そこで、ご高齢の家族がいるみなさんは、

「その方が命の危機に瀕した時、どういう対応をとってほしいか」

ということを、まだ体と頭が元気なうちに議論しておいてほしいと思っています。

これは「不謹慎」でも何でもありません。

「死」とは、誰もが必ず迎える生物学的な現象です。

死を冷静に捉えられるうちから、家族みんなで話し合っておくことは大切なことです。

 

ちなみに、突然病院に搬送され、今にも心臓が止まりそうな状況になった高齢者の状況について同伴した家族の方に説明した時、

「父は普段から、死にそうになった時は延命治療は受けたくないと言っていました。心臓マッサージも人工呼吸器もいりません。痛みだけとってあげてください」

と落ち着いて即答できる方が一定数います。

もちろん落ち着いているように見えても、心中穏やかではないと思います。

しかし、普段からこうした事態を頭の片隅で家族全員が想定していると大慌てすることはない、ということがよく分かります。

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病状説明は家族同伴で

高齢の患者さんの病状の説明は、ご家族の方に同伴していただくようお願いするのが一般的です。

特に手術前の説明は、娘さん、息子さん(あるいはお孫さん)がいらっしゃる方は、必ず来ていただくようお伝えします。

ご高齢の方には大変失礼な話だとは思います。

しかし、もしご高齢の夫婦2人だけにお伝えし、他のご家族に十分な説明をしなかった場合、術後に何らかの問題が起こった時に必ずご家族の方から、

「そんな話、聞いていなかった」

と言われ、トラブルに発展します。

ご本人がしっかりしていても、前述の通り術後は体力も判断力も落ちます

手術の時に限らず大切な病状説明の際は、よほどの理由がない限りご家族が時間を空けて必ず病院に来てほしいと思います。

 

ただ、たいていご家族の方は忙しく、病院から一々呼び出されて嫌な顔をする人も多くいます。

仕事が終わった後、19時や20時頃に説明してほしい

仕事が休みの土日に説明してほしい

とおっしゃる方も多くいます。

お気持ちはよく分かりますが、私たちも仕事ですので、基本的に時間外の対応は避けたいと考えています。

可能な限り、仕事を休んででも病院が稼働している平日の日中に来ていただきたいと思います。

 

むろん、こうした方々の多くは、「高齢」ということのリスクを十分に理解されていないのだと推測します。

全身麻酔手術を受けるとなっても、「私は病院に行けませんが全てお任せします」という方もたくさんいます。

私にとっては、

「家族に命の危険があるかもしれないのに不安じゃないのか?」

と驚きますが、そういう方は病状説明をする時も、

「なぜ仕事を休んでまで病院に行かなくてはならないんですか?」

というような感覚です。

 

医師がご家族をわざわざ病院に呼ぶ時は、お母様、お父様が健康上の重大な局面にある時です

ある意味、「家族が危機に瀕している」という状況で、それ以上に優先すべきことがあってほしくはないと思います。

もちろんこれは職場環境の問題もあると思いますので、私たち医療者も強制はできません。

「どんなに努力しても病院には絶対に来られない」という方には、電話で対応したりしています。

いずれにしても、ご高齢の方の入院や手術は、それだけで大きなリスクである、ということをご理解いただきたいと思います。

 

今回は、高齢の方の入院や手術にまつわる、知っておくべきことをまとめました。

知識があるだけで、トラブルの大部分は避けられます。

ぜひ、頭に入れておいていただけると幸いです。

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医師。専門は消化器外科。二児の父。
ブログ開設4ヶ月後に月間67万PV達成
時事通信社医療情報サイト「時事メディカル」
「教えて!けいゆう先生」のコーナーで定期連載中。
エムスリーでも連載中&「LIFESTYLE」企画・監修。
「劇場版コード・ブルー」公開前イベントに出演。
プロフィール詳細はこちら

高齢者の入院時、手術を受ける時に必ず知っておくべき3つのこと」への12件のフィードバック

  1. たぬきち

    けいゆう先生、はじめまして。
    いつもとても興味深く読んでいます。
    先生の文章は医療者でなくてもわかりやすく、おもしろくて、とてもためになっています。

    延命治療のことで質問させてください。

    今回の記事のように
    まだ挿管などの処置がされてなく、患者本人が意思表示ができない場合、家族が「楽にさせてあげたい」と言えば、延命治療を断ることができるということですか?

    もし、家族が病院に到着する前に、先生方が救命のために挿管などで延命の処置をされていた場合、家族が望んでも「長く苦しむのは嫌だと言っていた。楽にさせてあげたい、人工呼吸器を外してほしい」という願いは叶わないのでしょうか。

    以前コードブルーの緋山先生の訴訟問題の記事がとても印象に残っていて…。

    高齢の家族に関わらず、突然の病気や事故は誰にでも起こりうるので、子どもを持つ親としても、色々考えてしまいます。

    まとまりのない文章で申し訳ありません…。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      ありがとうございます。
      非常に、重要な問題ですね。
      基本的にはたぬきちさんの認識が正解です。
      つまり、本人が意思表示できない場合、ご家族が「挿管はしないでください、心臓マッサージはしないでください」と言えば、私たちはしません。
      一方、救命のために挿管をされてしまうと、途中で「人工呼吸器を外してください」と言われても、積極的な死を患者さんに与える行為ができない以上、それはできないと言わざるを得なくなります。これはコードブルーの描写の通りです。
      ご高齢の方の場合、こういうケースが非常に多いですね。

      返信
  2. ふくたん

    けいゆう先生、いつもありがとうございます。とても身近な話題でした。私は、2年前高齢の父をガンで見送りました。ステージ2の胃ガンで手術をしたものの、抗がん剤治療は体力的に無理だからお勧めしないと言われ、手術のみにしました。3ヶ月後に転移が見られ、結果診断時の11か月後に亡くなりました。本人に、家族の判断で告知もしなかった事など、今でもあれでよかったのかと胸が痛みます。
    いよいよモルヒネを使いますとの説明を受けてから、一時間後亡くなりました。正直あれほど1ヶ月近く管に繋がれて入院になるとは思ってせんでした。体力が落ちる事の説明も、なかったように思います。先生の記事で、深く認識しました。毎年検診を受け、昨年は要再検になり、そこの先生は潰瘍だから大丈夫だと。でも、やはり組織を取って、もっと調べてもらえば一年後に亡くなる事はなかったのかとも、どうしても思ってしまいます。判断ミスとは言いきれませんが、毎年欠かさず検診を受けても、このような結果になりやはり亡くなってしまうと、正直高齢とは言え、身内はやりきれない思いです。
    ずっとずっと、このもやもやした思いは消えないのかと思います。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      ご高齢の方の場合は治療選択が難しいことがしばしばありますね。
      様々な持病を抱えた方も多いですし、個人差もかなり大きいです。
      総じて若い方より体力は衰えており、術後の経過はかなり要注意であることが多いですが、確かに医師の説明が不十分であるせいで患者さん側から不信感を抱かれるケースもあります。
      多くの方に分かっておいてほしい内容です。

      返信
  3. トラッキー

    けいゆう先生、ブログ更新お疲れ様です。

    コードブルーの緋山先生が訴えられた件で一つ疑問だったのですが、なぜ脳死判定されている患者でも呼吸器を外すなどの行為は許されないのでしょうか?

    「脳死」=人の死なわけですよね?言い方は悪いですが、死んだ人を機械などの力によって無理やり心肺機能等を維持しているわけですよね。これを中断できないというのは、どうもピンときません。

    末期のがんなどの緩和ケアでは、痛みをなるべく和らげて死を迎えられる医療行為ですよね。こういう形で死を迎えることは容認されてるのに、なぜ脳死の方の呼吸器は外せないんでしょうか?

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      それは、日本では「脳死」=「人の死」ではないからです。
      脳死では死亡確認はできませんし、心臓も動いていて体も温かい、まぎれもなく生きている人に対して人工呼吸器を外して積極的に死を与えることは、見ようによっては殺人になってしまいます。
      「機械の力で無理やり」というと人工透析もペースメーカーもそうで、医療機器なしで生命を維持できない方はたくさんいらっしゃいます。
      末期がんの方に積極的な治療をしないのは、死をあるがままに受け入れるという選択で、積極的に死を与えることとは意味合いは違いますね。

      返信
  4. きんもくせい

    けいゆう先生

    今回の記事は、深く考えさせられました。
    幸い、私の両親も夫の両親も健康ですが、年齢を考えるといつ何があってもおかしくないんですよね。

    免許証の裏に臓器提供意思表示欄が設けられるという報道の話題になった時、父が「万が一のことがあったら、延命措置はしなくていいから。ノートにも書いておいた」と言っていたのを思い出しました。
    その時は軽く聞き流していたのですが、元気なうちに家族で共有できればと思いました。

    今日は父の日ですし、いいきっかけになるかもしれませんね。仕事なので会いに行けないんですが、今度帰省する時に話してみようと思いました。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      ありがとうございます。
      そういったお話ができていること、全くの元気なうちから最期について家族全員で話ができていることが大切ですよね。
      お父様のそうした姿勢は、ご本人にとっても家族にとってもきっと救いになるはずです。

      返信
  5. ZZ-R

    けいゆう先生、お疲れ様です。
    この記事を拝見して、数年前に亡くなった父親の闘病のことを思い出しました。(もうすぐ命日。。)
    「もしもの時」の話は”縁起でもない”とタブー視されがちですが、家族皆で必ずしておくべきですよね。

    私の父は、年をとってから「脊柱管狭窄症」を患っており少し手足に麻痺が出始めていましたが、
    70歳ごろに出先で転んで立つことが困難になりそこから介護状態が始まりました。
    今度は数ヶ月後に血尿が出てびっくりして精密検査受けると「膀胱癌」でした。
    2つの病気と格闘することになり、
     在宅介護→入院4ヶ月・手術2回(脊椎・膀胱)→退院・在宅介護→癌再発入院・逝去
    という感じで約3年にわたった闘病でした。
    手術後の意識障害(せん妄)もあったりして結構大変でした。

    治療の甲斐なく、結果として癌再発で再入院してから数週間後に容態が急変して病院で息をひきとりました。
    再入院の時に家族全員を召集し、主治医と看護師を交えて病状説明と面談の場を設けて戴きました。
    そこで、家族の総意として「万一のときは心肺蘇生などは不要」となり、臨終の際はそのように対応してくださいました。
    (確かDNRとか言うんでしたっけ?同意書書きました。)
    父を介護している時に癌と再発の告知はしており本人の意向も把握していたので、みな覚悟はきめていたので迷いはなかったと思います。

    また長文失礼しました。。ではでは。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      ありがとうございます。
      そうですね、ご本人もご家族のみなさんも大変だったかと思いますが、そういったケースは病院では非常によくあり、ほぼ毎日のようにそういった患者さんと関わります。
      おっしゃる通り、「DNR」は、ご本人の最期の迎え方を尊重しようという考え方で、無理やり蘇生することが医療者や周囲のエゴにならないよう考えるべき概念ですね。
      こういった状況が日常茶飯事に起こっているということ、そして今後誰の身にも起こる可能性あるということをわかっていただきたいと思って書きました。

      返信
  6. トラッキー

    けいゆう先生、返信ありがとうございました。

    「脳死」=人の死ではないんですね。大変勉強になりました。以前誰かから脳死が人の死と認定されることになったと聞かされたもので、すっかりそう思い込んでました。

    確かに医療機器なしでは生きられない方は沢山いらっしゃいますね。コードブルーだと1話目の川島海荷ちゃんがそうですよね。

    今回の記事はすごく考えさせられました。いつ何処で事件や事故に巻き込まれるか分からない世の中なので、自分だったらどうしてほしいのか、自分だったらどう判断するべきなのか考えておきたいと思います。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      脳死の考え方は、十分知られていないと思いますね。
      特に日本では、脳死を人の死と捉えることは、国民性として難しいと思います。
      自分や自分の家族が最期をどのように迎えたいか、ご家族で話し合っておくことは非常に大切ですね。

      返信

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