自分が通院している病院やクリニックを何らかの理由で替えたい、別の病院に行ってみたい、と思ったことがある方は多いのではないでしょうか?
「治療がうまくいっていないようだ」
「医師との相性が悪い」
といった不安や不満が原因のこともあれば、
「信頼はしているが、ほかの医師の意見も聞いてみたい」
という場合もあるかもしれません。
また単に、仕事の都合で転居して別の病院にかかるケースもあるでしょう。
今回は、まず最初に「病院を替えることには一定のリスクが伴う」ということを説明します。
次に、このリスクを最小限にするために留意すべき点や、準備すべきことをまとめます。
加えて、誤解しがちなセカンドオピニオンについても簡単に説明しておきます。
転院に伴うリスクとは?
通院(入院)している病院を替えるということは、
「これまでの治療経過を自分の目で一度も見たことがない医師が初めてその患者を診る」
ということを意味します。
もちろん私たちは、患者さんが別の病院に行く時は紹介状(診療情報提供書)で情報を申し送ります。
しかし、長い時間かけて蓄積した全ての情報を、細部に至るまで余すことなく他の医師に申し送るのは難しいことです。
したがって、
これまで診てきた医師と、初めて診る医師との間には、どうしても情報量の格差ができてしまう
というリスクがあります。
判断根拠となる情報量の差は、スムーズな診療の妨げとなりうる因子です。
病院を替えるリスクはもう一つあります。
「治療がうまくいっていない」と感じて転院を希望するケースの中に、「実は治療はうまくいっている」というケースが必ずある、ということです。
怪我やインフルエンザのように、普通は数日単位で良くなる病気であれば、経過の良し悪しは判断しやすいものです。
しかし、数ヶ月単位でゆっくり良くなるような慢性的な経過の疾患は、
「治療がうまくいっていないのか、非常にゆっくり良くなっている経過を見ているのか」
を、医療の専門家でない人が判断するのは困難です。
そして、その判断が最も適切にできる可能性が高いのは、様々な治療の反応を最初から長期間自分の目で見てきた医師です。
「全然良くならない」といって転院を続け、ドクターショッピングのように様々な病院を行ったり来たりすると、情報がひとところに蓄積せず、かえって治療に時間がかかることもあります。
もちろんこういう方も、いつかは満足できる医師に出会うでしょう。
そこで治療がうまくいったと感じたら、
「ようやくまともな医者に出会えた。やっぱりこれまでの医者はダメだったんだ」
と思い、これからも何か症状があるたび複数の病院に通うことになります。
患者さんにとっては、不利益の大きな悪循環です。
余談ですが、「後医は名医」という言葉があります。
後から診た医師の方がたいてい確実性の高い診断ができる、という意味です。
後から診る医師は「それまでの治療経過がどうだったか」という大きなヒントをもらった状態で診断するからです。
何も治療していなくても、自分のところに来るまでに一定の時間が経過し「その間に症状が変化した、あるいは変化しなかった」という貴重な情報が得られます。
この点で、後医はそもそも多くの情報を得られる状況にあるのです。
そして、医師を替えなかったとしても、同じタイミングで、あるいはそれより早いタイミングで同じ結果が提供されたかもしれません。
医師を替えると、こうした可能性には気づけません。
ちなみに「後医は名医」という言葉は、
「全く情報がない状況で診断に苦慮した前医を責めてはいけない」
という戒めの言葉として使うこともあります。
「こんなことも分からなかったのか」
と言って、目の前で前医を批判する医師は、いつか「前医」になって信頼を失ってしまいます。
少し話が逸れましたが、病院を替えることには一定のリスクを伴う、ということは知っておいた方がいいでしょう。
もちろん、「それでも病院を替えたい」と考える方はいると思います。
人間同士には相性がありますし、どうしても信頼できない医師が相手では、治療意欲を保つことは難しいでしょう。
また、転居が原因であれば、病院を替えたくなくても替えざるを得ませんね。
そこで次に、病院を替える際に押さえておくべきポイントを述べます。
どうしても担当医に希望を伝えずに通院中の病院を替えたい、という場合の対応策も後述します。
診療情報提供書を必ず書いてもらう
診療情報提供書は、一般に「紹介状」と呼ばれています。
紹介状の目的は意外にあまり知られておらず、単に医師同士の挨拶、あるいは初診料を取られないための手形、と思っている人が多いかもしれません。
紹介状は、適切な治療を行うのに必要不可欠な情報源です。
治療がうまくいっていないように見える場合は、むしろ必要性が大きいでしょう。
なぜなら、Aという治療の効果が期待通りでなかったことで、「Bという治療なら効果が期待できるかもしれない」と推測できることがあるためです。
また、Aという薬では一見効果がなかったように見えても、実は検査の値が細かく変動しており、
「Aをもう少し継続すれば効果が目に見えて現れるかもしれない」
と予想できたり、
「Bという薬を併用すれば効果が現れるかもしれない」
と予想できることもあります。
紹介状には、こうした治療の反応は必ず記載されます。
もし、この「治療Aに関する情報」がなければ、転院先でも「まずAから始めましょう」となるかもしれません。
最初に診た医師も、まずAが最適な治療だろうと思って選んでいる可能性が高いからです。
以上のことから、患者さんから他の病院に行くことを希望された際、医師は治療経過を詳細に報告する責任があります。
病状、治療経過、既往歴(これまでかかった病気)、内服薬などを文章にするだけでなく、治療期間中の血液検査やレントゲン、CTなどの画像データをすべてCDロムとして添えて資料を準備します。
手術後の患者さんであれば、詳細な手術記録も合わせて準備します(別の病院で手術が必要になった際、以前の手術記録が役に立ちます)。
逆に、他の病院にかかっていた患者さんが突然自分の外来を受診したケースで、最も困惑するのは「前院でどんな治療を受けたのかが全くわからない場合」です。
「自分の病状くらい自分で説明できる」と思う人がいるかもしれません。
しかし、どういう意図でどんな治療をどのくらいの期間行い、どんな反応があったか、という専門性の高い情報を、患者さんが自力で伝えるのはきわめて難しいものです。
自力で勉強された人ほど、自分の解釈が加わる分、むしろ説明がわかりにくいこともあります。
「治療経過」はその後の治療方針を左右するセンシティブな情報ですから、これを「非専門家の口頭の説明」に依存するのはリスキーです。
やはり、治療経過の申し送りは治療に直接携わった医師に任せた方が安全なのです。
「紹介状の作成を断られたらどうしよう」と心配する必要はありません。
医師に「他の病院で治療をしたい」「他の医師の意見を聞きたい」と正直に伝えれば、あえて依頼しなくても紹介状を書いてくれます。
それが医師の仕事ですから、当然です。
紹介状については、以下の記事で詳しく解説しています。
紹介状の目的、書く内容、医師は紹介先の病院をどう選んでいるか?広告
セカンドオピニオンの注意点
ここまで書いてきたのは、普通の「紹介」です。
一方、「セカンドオピニオン」という、他の病院の医師の意見を聞くシステムがあります。
「セカンドオピニオン外来」という専用の外来を用意している病院も多くあります。
担当の医師に「A病院のセカンドオピニオン外来を受診したい」と申し出れば、詳細な紹介状を書いてもらえるでしょう。
ただし、セカンドオピニオンの目的はあくまで「他の病院の医師の意見を聞くこと」です。
転院でありませんし、普通の外来受診でもありませんので、その場で新たに検査を行うことはありません。
あくまで、元の病院での検査結果などを見てもらって意見を聞くだけです。
また、保険診療ではありませんので、1〜3万円くらいの費用がかかることにも注意が必要です。
さて、最後に「担当の医師に希望を告げずにこっそり別の病院に行きたい」というケースについて触れておきます。
むろんこうした場合でも、外来看護師や外来事務に相談し、紹介状を書いてもらうことをお勧めしたい、というのが大前提です。
しかし、医師との相性が悪い、病院全体に不信感がある、といった場合など、どうしても思いを明かしたくないケースはあるでしょう。
その場合にはどうすればよいかを、次に述べます。
紹介状なしで病院を変える場合
どうしても紹介状作成を依頼したくない場合は、自力で治療経過をできる限り細かく伝えられるよう準備して受診することが大切です。
より良い結果を得るために病院を替えるわけですから、病院を変えたことがかえって悪い結果になることだけは避けたいものです。
新しい病院に行く前に準備しておくべき情報としては、以下のことが挙げられます。
・何と診断されたか?
・どのような検査を行ってどのような結果だと伝えられたか?
・どのような治療を行ったか?
・何という名前の薬をどのくらいの分量使ったか?
・その治療をいつからいつまで行ったか?(日付まで詳細に)
・その治療中に症状がどのように変化したか?(体温の変化など細かい点まで)
これらを可能な限りメモしてから行くのが望ましいでしょう。
血液検査や画像検査の結果などの資料があれば、必ずそれらも持参してください。
準備せずに受診しても、上記のことは必ず聞かれますが、事前に思い出しておかなければ突然答えるのが難しい質問もあります。
医師がポイントを絞って伝えられる紹介状に比べれば情報の質は落ちますが、こうした準備によって適切な医療が受けられる可能性は上がります。
何も言わずに病院を飛び出し、「駆け込み寺」のように手ぶらで別の病院に駆け込むのは、身の安全を守る上では決して得策ではないということです。
まとめ
まず、病院を替えることには一定のリスクがあることを理解のうえ、本当に病院を替えることが適切か、今一度考える必要があります。
もし病院を変えるなら、必ず診療情報提供書(紹介状)を作成してもらってください。
それが不可能であれば、できる限り自力で治療内容を説明できるよう事前にまとめてから受診しましょう。
医師との相性が合わないケースについては、以下の連載記事でも取り上げています。