病院の外来には、犬や猫などの動物に咬まれた、と言ってやってくる方がたくさんいます。
見た目上は傷が小さく、自然に治りそうに見えるケースでも、動物に咬まれた傷の場合は要注意です。
感染のリスクが非常に高いとされているからです。
動物に咬まれた傷を数日間放置し、真っ赤に腫れ上がってから病院にやってきて手術が必要となったケースもあります。
単に転んで擦りむいた傷とは違った対処が必要になることに注意が必要です。
今回は、犬や猫などの動物に咬まれた傷の対処法についてまとめます。
動物に噛まれたらなぜ危険?
犬や猫など、動物に噛まれることを「動物咬傷(こうしょう)」と呼びます。
普通の擦り傷や切り傷と大きく異なるのは、感染のリスクが非常に高いことです。
見た目の傷は小さくても、動物の口の中は細菌が多く、また牙が深く皮膚に食い込むことで、深い部分に感染が広がりやすいとされています。
犬や猫以外のあらゆる動物全てに共通するリスクで、人に咬まれるケースも含みます。
例えば、認知症の方に咬まれた傷や、顔を殴った時に拳が歯にあたって怪我をする「Fight bite(ファイトバイト)」と呼ばれる傷が該当します。
細菌感染によって、皮膚の表面の「蜂窩織炎」や、筋肉まで感染が及ぶ「壊死性筋膜炎」などを起こすこともあります。
壊死性筋膜炎では、重度の場合は切り開いて洗浄、壊死組織を除去(デブリドマン)したり、腕や足を切断しなくてはならないこともあります。
場合によっては、血液中に細菌が入って全身を巡り、「敗血症」と呼ばれる状態となって命に関わることもあります。
ちなみに、野生の動物でもペットでも、すべき対策は同じです。
治療法は?何科に行くべき?
前述の通り、動物咬傷では感染症のリスクが高いため、早急な治療と対策が必要となります。
自力での対処は困難ですので、病院を受診するようにしましょう。
一般的なクリニックでも構いませんし、病院の救急外来や外科系の一般外来でも良いでしょう。
以下のような流れで対処します。
流水で洗浄
まずは咬まれた部位を流水でしっかり洗浄します(病院に来る前に自宅でも行いましょう)。
この際、特別な消毒液などは必要ありません。
十分な量の水で洗い流すことが最も大切です。
なお、出血している場合は、ガーゼなどを使ってしっかり圧迫するようにしましょう。
抗菌薬の処方
細菌感染のリスクが高いと判断されれば、抗菌薬(抗生物質・抗生剤)を処方します。
動物の口の中には様々な種類の細菌が存在します。
これらに効果を持つ種類の抗菌薬を使用します。
すでに重度の感染症を起こしているケースを除き、点滴ではなく内服薬(飲み薬)を処方するのが一般的です。
(抗菌薬入りの塗り薬もありますが、やはり内服薬で全身に投与する必要があります)
破傷風の対策
動物咬傷では、破傷風のリスクも高いとされます。
破傷風菌が傷から侵入し、そこで毒素を産生して様々な神経症状を起こします。
潜伏期間は2日〜8週とケースによってかなり幅があります。
口が開けにくい、顔が動かしにくい、物が飲み込みにくい、などの症状から、歩行障害、呼吸障害、全身性のけいれんにまで発展する危険な疾患です。
破傷風はワクチン接種によって防ぐことができます。
破傷風のワクチン(破傷風トキソイド)は定期接種に含まれるため、多くの方が予防接種を済ませています。
しかし11〜12歳の接種(5回目)を終えたのち、追加接種を行なったことがない方が多いはずです。
破傷風ワクチンの効果は、最終接種後約10年間、すなわち22歳くらいまでは持続します。
それ以後は破傷風に対する免疫は維持されておらず、改めてワクチン接種が必要となります。
もちろん、動物咬傷以外の怪我が原因で、過去5〜10年以内にワクチン接種歴がある方もいます。
このケースでは、医師に相談の上、追加接種は不要と判断することもあります。
その他のリスク
他にも、パスツレラ症、ネコひっかき病、カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症といった、動物咬傷特有の感染症があります。
(ネコひっかき病は、その名の通りひっかかれても発症します)
特にカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症は、重症化すると死亡するリスクのある危険な疾患です。
やはり、咬傷後の早急な対応が必要です。
海外で動物咬傷を受けた場合は、狂犬病のリスクがあります。
国内での発生例は1957年を最後にありませんが、2006年にフィリピンで現地の飼い犬に咬まれて感染し、帰国後に発症した例が2件あるなど、輸入症例はあり得ます。
犬や猫に限らず、キツネやアライグマ、オオカミ、コウモリなどからも感染し得ます。
現地での早急な医療機関受診が必要です。
傷の縫合は行う?
傷を縫い合わせて閉鎖してしまうと、内部で感染して膿が溜まる(膿瘍形成)リスクがあります。
よって最初は縫合せず、開放した状態で経過を見て感染がないことを確認してから閉鎖する、という方法をとることが一般的です。
ただし、顔の大きな傷など、美容上、開放しておくのが難しいケースでは、ドレーン(管)を挿入して溜まった浸出液が排出される状態にしてから縫い閉じることもあります。
傷の大きさや感染リスクにもよって対応は変わりますので、医師の判断に任せましょう。
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医師に説明すべきこと
以上より、病院に行って医師に説明すべきことは以下の通りです。
・どの部位を何に咬まれたか?
・咬まれてからどのくらい時間が経過したか(何時頃に噛まれたか)
・最近破傷風の予防接種をしたことがあるか
・咬まれた後どんな処置を行ったか
また、病院で治療を受けた後は、
・傷が赤く腫れてきた
・傷から膿が出てきた
・強い痛みがおさまらない
・発熱した
といったケースで再受診が必要になります。
慎重に経過を見ましょう。
なお、どのくらいの期間で治るかは、傷の大きさや感染の有無によって様々です。
感染が起こらず、ごく小さな傷であれば、数日での治癒が期待できますが、重度の感染を起こせば長期の治療を要します。
今回は、犬や猫など動物に咬まれた時の対処法と注意点についてまとめました。
なるべく早く病院に行き、医師の診察を受けるようにしましょう。
(参考文献)
マイナーエマージェンシー/レジデントノート2017増刊
感染症専門医テキスト 第1部 解説編/南江堂
カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症に関するQ&A/厚生労働省
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