ブラックペアンの影響で、良くも悪くも広くその名が知られることになった「治験コーディネーター」。
ドラマでの仕事ぶりが現実とあまりに乖離しており、各医療団体から抗議が起きるなど大きな話題になりました。
では実際、治験コーディネーター(臨床研究コーディネーター、CRC)とはどんな仕事なのでしょうか?
ちょうど良い機会ですので、今回は別々の大学病院でそれぞれ治験コーディネーターをされている3人の方に、インタビューをしてみました。
実際の治験コーディネーターは、ドラマを見てどう感じたのか?
実際にはどんな仕事なのか?
ぜひ、現場の意見を知っていただきたいと思います。
今回インタビューしたのは、Hさん(薬剤師)、Cさん(看護師)、Rさん(看護師)の3人の治験コーディネーターです。
ドラマを見た感想は?
Q. まずは単刀直入に、ドラマを見てどんな風に感じたか、教えていただけますか?
Hさん
「ドラマを見て「またいちからやり直しだ」と思いました。
治験コーディネーターはあまり知られていないので、患者さんやご家族に説明補助をするときに、「製薬会社の人」と思われることが多かったんです。
自己紹介の時には必ず「製薬会社の人ではなくて、病院の職員です」と言ってきて、ようやく理解が得られてきたところでした。
一番いやだったのは、治験に参加している患者さんが大金をもらっているんだと世間一般の方から誤解されて見られてしまうのではと思った表現です。
治験コーディネーターはありえない演出でも構いませんが、参加してくださっている患者さんが一番心配でした。」
Cさん
「第1話が終わったとき、クレームレベルだと思いました。
一番良くないと思ったのは「治験コーディネーター」について字幕で説明を加え、その説明が間違っていたことです。
わざわざ字幕を出していなかったら、そこまで思わなかったかもしれません。
そして第2話は、治験に参加している患者さんに失礼だなと思いました。」
Rさん
「ドラマなのである程度盛るのは仕方がないと思いますが、ドラマの治験コーディネーターは実際と全く違う仕事をしています。
未だに本来の治験コーディネーターの仕事をしている場面は一つもありません。
治験に関してまったく知らない人が大半だと思うので、治験や治験コーディネーターがドラマのようなものであると思われるのが一番怖いです。」
Q. 病院で勤務される治験コーディネーターの皆さんは全員、病院の職員なのですか?
Hさん
「病院職員だけではなく、治験がおこなわれる医療機関(病院やクリニック)を専門に支援する会社に所属している方もいます。
病院の中では、会社所属でも病院職員でも仕事内容に違いはありません。全く同じように勤務しています。」
Q. 大金をもらうのはあり得ないのとのことですが、実際はどのような規則になっているのでしょうか?
Hさん
「治験に参加する患者さんは、必要な検査や外来診察の回数が多くなり、経済的負担が大きくなる傾向があります。
そこで「負担軽減費」として、患者さんと付き添いの方が来院する交通費や軽い昼食代に相当する額を補助するのが一般的です。
病院にもよりますが、ほとんどのところで一回の来院あたり7000円〜8000円です。
患者さんご本人が、治験のメリット、デメリットを十分理解した上で参加していただくことが大切です。
高額のお金によって治験への参加を誘導することは、あってはならないんです。」
治験コーディネーターの実際の仕事ぶり
Q. では実際、治験コーディネーターとはどんな仕事をされる職業なのでしょうか?
Hさん
「治験は、薬や医療機器を保険で使えるようにするために必要な試験のことです。
今病院でもらっている薬はすべて、病院で治験をして保険で使えるようになったものです。
治験を行う時に、患者さんと医師と製薬会社の間に立って治験がうまく進むようにお手伝いをする役目が治験コーディネーターです。
治験に参加されている患者さんの相談に乗ったりすることが一番多いです。」
Rさん
「治験に関わる業務の医学的判断を伴わないほぼ全てに携わっています。
基本的な医療知識や、患者さんとのコミュニケーションスキルも必要とするので、薬剤師や看護師の実務経験を有する人が多いです。」
Cさん
「看護師と薬剤師と臨床検査技師 (場合によっては、臨床工学技士や臨床心理士など) のすべての要素をもつ、院内のネゴシエーターだと思います。
例えば、
看護師的に、患者さんから情報収集し、相談にのり、医師を諭す
薬剤師的に、薬を理解し、わかりやすく説明し、患者さんの負担を減らす工夫をする
臨床検査技師的に、血液検査や病理などの知識をもってプロトコルを読み、正確な結果を導く
という多面的な能力が必要です。」
Q. 普段どんな風に仕事をしているか、具体的に教えていただけますか?
Hさん
「朝8時くらいに病院の中にある治験のお部屋(治験センターとか病院によって色々)に出勤します。
上下白衣に着替えて、自分のデスクに座り、パソコンに電源を入れて仕事が始まります。
医師や製薬会社から仕事のメールがたくさん来るので、それをチェックしてから患者さんの検査や診察に同行するために外来や病棟へ行きますね。」
Cさん
「治験のスケジュール表など資料の作成、各部門への連絡業務などが多いです。
また、ミーティングや担当患者さんの外来診察に同席したり、患者さんの相談にのったりします。
治験薬によってどんな有害事象が出たか、減量、休薬などの確認作業も行います。」
Rさん
「外来開始前から来院される患者さんが多いので、前日に患者さんの対応準備をしておき、出勤後はすぐに患者さんと面談することがほとんどですね。
治験参加中の患者さんは検査が多く診察や調剤にも時間がかかるので、早い時間に来院していただかないと外来の空いている時間内に必要な対応が終わりません。」
Q. かなり忙しそうですが、お昼の休憩はできますか?
Hさん
「診察や検査の時間があるので、お昼は12時から!というわけにはなかなかいきませんが、休憩する時間はあります。」
Rさん
「日によっては、 朝出勤してから夕方まで水分すらとれないこともありますよ。
患者さんや医師の予定を優先しますし、急に業務が発生することも多いので、休憩時間の確保は難しいです。」
Q. 患者さんとはどんな風に会話をするのでしょうか?
Hさん
「患者さんとはつかず離れず、ちょうどよい距離で会話するのがいいなあと思っています。
あまり体調のことを聞かれたくなさそうと思ったら、天気の話などの関係ない話をしたりすることも。
病態のことなど専門的なことを聞かれたら、『先生に一緒に聞いてみましょうか』と言ってみます。」
Rさん
「治験参加前に同意説明を行い、通院中や入院中に随時必要な情報を患者さんから聞き取ります。
体調の変化があれば、電話で対応することもあります。」
良かったこと、辛かったことは?
Q. 治験コーディネーターをやっていて良かったことはなんですか?
Hさん
「別々の難病になった両親のそれぞれに、自分が関わって治験をしていた薬が承認されて使われたことです。
治験がされていなければ治療の選択肢が少なく、つらい治療になっていたと思います」
Cさん
「看護師だったら経験できない!と思うことが経験できます。
例えば、毎回担当患者さんの外来診察に同席するので、年単位で患者さんとの関係が築けます。
医師が患者さんにしている説明もすごく勉強になります。
印象に残っているのは、ある臨床試験で全く効果がなく試験中に亡くなられた患者さんのご家族から、
「最後の希望だった。最後の最後まで希望がもて、新幹線で病院に行くことが日々の目標で、心の支えでした。本当にありがとうございました。」
とお電話をいただいたことです。
その当時、治療法がない病気であり、その亡くなった患者さんはまだ大学生でした。
息子さんを亡くしたばかりなのに、わざわざ連絡いただいたことが忘れられません。」
Rさん
「治験コーディネーターは大半が、看護師や薬剤師、臨床検査技師など様々なバックグラウンドを持っています。
基礎知識が違い、業務のやり方に関して、様々な考え方に触れることができます。
またそんな中で、医師や患者さんから個人的な信頼を得られると大きなモチベーションになります。」
Q. 治験コーディネーターをやっていて辛かったことは何ですか?
Hさん
「忙しい医師に業務の依頼や相談をした時に、叱られたり理解が得られなかったりしたことです。
今となっては自分の力が足りなかったんだな、の一言につきます」
Cさん
「患者さんから、どうしても治験に入りたい、どうしても治験を続けたいと言われ、それが叶わなかったことです。」
Rさん
「担当のコーディネーターでないと分からない業務が多いので、一人で多くの仕事を抱え込まざるを得ない状況になることです。
また、コメディカル(看護師など医師以外の職種)の中でも治験に対する認識が低く、業務調整が難しいこともあります。
治験に対する十分な理解が広がってほしいです」
協力してくださった3人の方々、お忙しい中ありがとうございました!
毎年、治験コーディネーターに関わる大きな学術集会「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」が開かれており、本年は第18回になります。
看護師や薬剤師、臨書検査技師など、このサイトを見られているコメディカルで興味がある方は、ぜひホームページをご覧ください。