コードブルー3rd SEASON最終回は、これまでで最も強引で、最もご都合主義で、しかし最も感動的なストーリーであった。
第9話で散らばったパズルのピースを大慌てでかき集めるように、見事に回収されていく伏線。
一度はバラバラになりながら、患者を救うために仲間として再び救命の舞台に集まる登場人物たち。
その中心にいたのは、やはり主役、藍沢耕作であった。
しかしその舞台を盛り上げるためには、やや代償が大きかったようだ。
なぜか災害現場にまで駆り出され、大いに貢献したにもかかわらず、患者さんに、
「俺が自分のキャリアや功名心を優先した」
「俺は許されなくていい、藍沢を許してやってくれ」
とまで言わされてしまう、謙虚すぎる脳外科医、新海。
危険な現場から身を引くため、整形外科医への転向を一度は決めた藤川に対して冴島は、
「本当に一般整形に移って外来をこなす日々を望んでる?」
「あなたが選んだ道を一緒に歩きたい」
と、整形外科医が聞いたら明日から「外来をこなす」気がなくなってしまいそうな「救急至上主義的」セリフの数々(整形外科医の仕事のメインはもちろん手術)。
最終回だけに色々と余計なおまけつきだったが、もちろん、そんなコードブルーが私は大好きである。
さて、今回は何といっても、最終回にクラッシュシンドロームと電撃傷という二つの疾患を選んだ製作者には、頭が下がる思いである。
極めてまれであるが、救急領域の教科書では必ず扱われる、きわめて重要な救急疾患だ。
ただやはり、
「藤川先生にはいったい何が起こっていたの!?」
「灰谷先生が見つけたお腹の傷は一体!?」
となってしまった方は多いのではないだろうか?
心配はご無用、そのためにこのサイトがある。
順にわかりやすく解説していこう。
藤川を襲ったクラッシュシンドロームとは?
地下鉄での崩落事故に巻き込まれ、がれきの下敷きになってしまった藤川。
周囲にレスキュー隊や医師はおらず、近くには一緒に閉じ込められた少年ただ一人。
ペンライトを託され、隣の駅まで歩くよう藤川に指示された少年は、無事医師たちが集まるエリアにたどり着く。
ペンライトに入ったFUJIKAWAの刻印を見て、藤川が地下で閉じ込められていることを知った横峯と冴島は、藍沢とともに救出に向かう。
藤川は、足を巨大ながれきに挟まれ、ショック状態。
なんとか左足の上のがれきを除去すると、今度は突然心停止(VT:心室頻拍)。
その状況を見た藍沢は、藤川にクラッシュシンドロームが起こったことを知る。
藤川は依然として右下半身は圧迫され、動かせない状態。
右足の血管を遮断したまま搬送を急ぎたいが、がれきの除去まで待っていると、右足が腐ってしまう。
足を切断しなければ藤川を救えないのか。
かつての指導医、黒田の姿が頭をよぎる。
命を失うか、生きて足を失うか、という選択に立たされた藍沢はしかし、ついに「瀉血」というウルトラCを思い付く。
さて、このクラッシュシンドローム(クラッシュ症候群)とは、震災などで、がれきに長時間下敷きになっていた人が救出された時に起こる怖い病気だ。
足や腰の筋肉が長時間圧迫されていると、筋肉が傷害され、そのうち壊死を起こす。
筋肉が腐ると、筋肉の成分であるミオグロビンと呼ばれるタンパク質や、カリウムなどの毒素が大量に産生されてくる。
がれきに足を挟まれている間は、その毒素は壊死した筋肉内にとどまったまま。
問題は、救助される時、つまり圧迫されていた部分が解放された時である。
この大量の毒素が一気に血流に乗り、足から全身へと巡ってしまうからだ。
ミオグロビンは腎臓にたどり着いて腎不全を引き起こし、カリウムは心臓を通過する時に心停止を引き起こして致命的になる。
救助したのに救命できない、恐ろしい病気である。
実際、左足のがれきを除去した瞬間、藤川は心停止。
藍沢は、
「VTだ!除細動!」
と指示するとともに、藤川の体に起こったのがクラッシュシンドロームであることに気づき、右足の付け根の血管(大腿動静脈)を遮断する。
同じく壊死した右足の筋肉から出た毒素が全身に回るのを、その出口で防ぐためである。
VTとは心室頻拍のこと。
正確にいうと「無脈性心室頻拍」と言う。
ちなみに「心停止」とは、心臓が完全に止まってしまうことではない。
心室細動(Vf)、無脈性心室頻拍(VT)、無脈性電気活動(PEA)、心静止の4つを合わせた総称である。
いずれも心臓のポンプ機能が失われるので、心停止と総称する。
VfやVTも、心臓が震えているだけで、血液は全く送り出せない不整脈である。
心臓が完全に止まってしまうのは、この中の「心静止」だ。
大切なのは、
「除細動(AEDも同じ)で心拍を正常に戻せる心停止は、VfとVTだけ」
ということである。
心臓に流れ込んだ大量のカリウムによって心停止に陥った藤川の、モニターの画面に表示された心電図波形はVT。
幸い除細動により、それを一旦停止させ、正常の心拍に戻すことができたわけだ。
しかし、問題は右足の壊死した筋肉内に貯留していると思われるカリウムの存在。
右足の血流を解放すると、再びカリウムが心臓に流れ込んで心停止を引き起こす。
次は助けられるかどうか分からない。
だが足の血流遮断を2時間以上継続すれば、足は腐ってしまい、切断を余儀なくされる。
まさに行くも地獄、帰るも地獄、万事休すである。
しかしここで藍沢の頭に名案がひらめく。
動脈のみ一時的に遮断を解放し、静脈を遮断したまま、足から帰ってきた毒素を含む静脈血のみを体外に捨てる、「瀉血(しゃけつ)」という戦法である。
動脈血を一度足に巡らせることにより、足にある程度酸素を巡らせることができ、時間稼ぎができる。
しかし壊死した筋肉にたまった毒素は、戻ってきた静脈血を足の根元から体外に捨てることで全身には巡らない。
まさに秘策である。
だが、足に向かった動脈血は一方通行で、全て全身に戻る前に足の根元で体外に捨てられるため、一度に多量の血液を失うことになる。
まさに1回きりのハイリスクな、一か八かの治療である。
ここで藍沢が言ったセリフは、
「一時的でも足に血流が戻ればもう1時間くらいは粘れる」
「血が(足に)循環したところでもう一度遮断して出血を止める」
「理論上はいけるはずだ」
もうこのセリフの意味はわかるだろう。
まさに「その手があったか!」という感じである。
確かに理論上は可能。
実際本当にそれでうまくいくかはわからないが、この場面ではやるしかないだろう。
そして無事に藤川は救命される。
かつて似た状況で指導医の腕を救えなかった藍沢の、ファインプレーが光った瞬間である。
<追記>
多くの方からご質問いただいた、藍沢が藤川の肩にした処置と藤川が言ったセリフについて追記。
藤川のセリフは、
「徒手整復(としゅせいふく)か〜、痛そうだなあ」
で、行ったのは、おそらく左肩関節脱臼の整復である。
徒手整復とは、手で脱臼や骨折を元の位置に戻すことである。
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灰谷が見抜いた電撃傷と横紋筋融解症とは?
一方、心的トラウマで現場出動ができなくなった灰谷は、院内での治療に専念。
ところが、なかなか全身状態が安定しない担当患者を前に頭を悩ませてしまう。
体内のどこかに出血がある可能性が高いのだが、血管造影でも目立った異常が見つからない。
頭を抱える灰谷の前で、突然患者が急変し心停止(同じくVT)。
患者に起こった、アシドーシス、高ミオグロビン血症、高カリウム血症、急性腎不全を結びつける答えは何なのか。
ふと思い立って患者の服を剥ぎ、お腹にやけどの痕を見つけて、
「やっぱり」
とつぶやく灰谷。
電撃傷による横紋筋融解症、という答えを導き出した灰谷のおかげで、無事患者は救われる。
さてこの、電撃傷と横紋筋融解症とは一体どういう病気なのか?
電撃傷とは、体内に高電流が流れることによって生じる損傷の総称、いわゆる「感電」である。
この患者さんのように、電流が流れた体の表面には大やけどを負うのだが、怖いのはやけどではない。
電流が体を流れることで起こる、重症不整脈と、横紋筋融解症(筋肉が壊死して溶け出す)である。
心臓は電気刺激によって定期的に拍動している。
これが電流の通過によって狂ってしまうと考えれば良い。
重症例ならその場で、重症不整脈によって即死する。
そうでなくても、のちのち不整脈を起こす危険性があるため、受傷後24時間はモニターをつけて心電図を観察する必要がある。
灰谷の目の前でVTが起こったのは、それが理由である。
さらにもう一つの問題は、筋肉の壊死(横紋筋融解症)によって、そこから全身に流れ出す毒素である。
驚くべきことに、同時進行で起こっている藤川のクラッシュシンドロームとここで話が繋がってくる。
まさに製作者の憎い仕込みである。
先に述べたように、筋肉が壊死した時に出るミオグロビンは、腎臓に流れ着いた時に、腎不全を引き起こす。
腎臓は尿を作る臓器である。
腎不全が起こると、尿が出なくなってしまう。
尿が溜まっているはずのバッグがほとんど空っぽであることに気づいた灰谷はここで、急性腎不全の存在に気づく。
急性腎不全で尿が排出されないと、体の酸とアルカリのバランスが狂い、血液が酸性に傾いてくる。
これをアシドーシスという。
酸の英語は「acid(アシッド)」、「-osis(オーシス)」とは「〜症」という病名を表す言葉だ。
(ちなみに「炭酸水素ナトリウム」は理科の授業で習ったようにアルカリ性の製剤で、投与することで、アシドーシスを緩和することができる)
アシドーシス
急性腎不全
高カリウム
高ミオグロビン
致死的な不整脈
お腹の火傷の痕
全てのピースが一つに集まったとき、こつこつ真面目に勉強してきた灰谷の頭に「電撃傷」と「横紋筋融解症」の病名が浮かんだのである。
チームワークの大切さ
藍沢は最後、人生を長いトンネルにたとえ、一緒に厳しい現場を乗り越えてきた救急医たちを、
「ひとりでは辛い暗闇をともに歩ける仲間」
「光を一緒に探すことのできる仲間」
と呼び、チームワークの大切さを語った。
「それさえあれば歩き続けることができる」
「ダメなら向きを変えてまた歩き出せばいい」
しかし実際の医師たちは、チームワークというものが意外と苦手なように思う。
意見の合わない他科の医師とのせめぎ合い
上司と部下の間での気の遣い合い
ライバル同士の気の張り合い
様々な思惑やエゴの中で、チームワークの大切さを見失いそうになることもある。
確かに、患者さんを救うためには、医師たちはそれぞれの強い個性を生かすことは大切だ。
しかし、その上で手を取り合ってベストなゴールを目指さなくてはならないのは言うまでもない。
現場の医師たちにそんな警鐘を鳴らしたように思えたのは、私だけではないだろう。
現実は、ドラマのようにいつもハッピーエンドばかりではない。
だが、患者さんのためにチームとしてベストを尽くす、それを忘れてはいけない、と強く感じさせられた最終回であった。
さて、最終話まで全話徹底解説してきた本サイトの記事はいかがでしたでしょうか?
高いリアリティとエンターテイメント性の両立、という大きな難題に取り組み、見事に成功させた制作スタッフやバックアップした救急医の先生方には頭が下がる思いです。
私はこのような医療ドラマを、医療のこと、病気のことに多くの方が興味を持ってもらえるチャンスと捉えています。
実際、驚くほどたくさんの方が私のサイトを訪問し、多くの質問をしてくださります。
私たち医師は、病院に来ない方を救うことはできません。
しかし、インターネットを通して情報を発信することは、きっとその一助になると信じています。
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