10月4日にフジテレビで放送された「コード・ブルー15年ぶりの記録達成の裏側」に出演しました。
Twitterで大変多くの方から感想コメントをいただき、ありがとうございました。
「劇場版コード・ブルー」は現在興収90億円を超え、実写邦画としては15年ぶり、歴代6位の大ヒットとなっています。
現在ロングラン上映中で、100億円突破が期待されています。
今回の番組の前半は、映画中のシーンを惜しみなく見せつつ、その見所を私が一つ一つ解説していくという流れでした。
学ぶべきことは非常に多いので、この記事では話した内容を振り返りつつ、さらに深く解説を加えてみたいと思います。
番組自体が「ネタバレありき」だったので、この記事でもネタバレしつつ書いていきます。
医師が叫ばないコードブルー
見所の一つ目としては、劇場版に限らずこれまでのストーリーを通して、
「緊急手術や処置シーンで医療スタッフが大騒ぎしない」
というコードブルーの特徴を挙げました。
これは「「コード・ブルー」は他の医療ドラマと何が違うのか?」でも書いたことですね。
コードブルーでは、どれだけ緊急事態であってもスタッフたちは比較的冷静に、淡々と医療行為を行います。
他のドラマでよく見る「緊急事態」といえば、
「おい!何ぼけぼけしてんだよ!早くしろよ!」
などと医師が大声を出して走り回る、というお祭り騒ぎが定番です。
コードブルーではこうしたシーンがないため、これに関して「実際の医療現場に近い」とコメントしました。
患者さんの周りで多くのスタッフが適度なトーンで声を掛け合いながらテキパキ動くシーンは、本物にかなり近いリアリティがあります。
一見簡単そうに見えますが、ここを現場の人間から見て「噓っぽくない」ようにするには、たとえ短いシーンでも撮影にかなり時間がかかっているはずです。
番組で紹介されたように、実はこうしたシーンは役者さんたちが演じる前に実際の医療スタッフが全く同じシーンを演じてみて、これを役者がトレースする、という方法をとっています。
細かな部分にも妥協しない、という製作者の意図がよく伝わってきます。
では、逆に実際とは違う、リアルでないポイントはあるか?
というと、これも何度も書いてきたことですが、スタッフらが全員かなり軽装であることです。
手術シーンでは、役者さんたちの表情が見えるよう一貫してマスクや帽子をつけないのですが、実際にはかなり重装備で手術をします。
目的は患者さんへの感染防止だけでなく、自らの身をも感染から守るためですね。
手術室ではお互い目しか見えないので、知り合いであってもすれ違う時に誰だか一瞬分からないことは、我々でも時々あります。
ちなみに現場出動の際も、防護服や防護靴で身を包むことが一般的です。
抗がん剤の使い方に注目
コードブルーでは、点滴の種類や、モニター画面、ドレーン(お腹や胸に入った管)が繋がる袋の中の液体の色や量に至るまでリアリティにこだわっていることは有名な話です。
今回の番組で私が取り上げたのは、劇場版で登場した抗がん剤です。
劇場版では、終末期の胃がんの女性にまつわるストーリーが序盤の見せ場になっています。
彼女はニット帽をかぶって現れるのですが、帽子をとると髪の毛がありません。
抗がん剤の副作用が原因でした。
「髪の毛が抜ける」というのは、ドラマでよく出てくる抗がん剤治療中の患者さんの姿です。
このせいもあってか、病院でも患者さんに抗がん剤治療を始める際、まず「脱毛があるかどうか」を質問されることが非常に多いです。
しかし実際には、脱毛の副作用がほとんど起きない抗がん剤も多くあります。
抗がん剤治療を受けているからといって髪の毛が抜けているとは限らないということです。
また、抗がん剤の副作用には他にも非常にたくさんの種類のものがあり、中でも「脱毛」は命にかかわらない部類に入ります。
(その分、患者さんの精神的苦痛を医師が理解しにくく、コミュニケーションエラーの原因になることもあるため注意が必要)
今回使用した抗がん剤がイリノテカンとドセタキセルだと女性が言うシーンがあります。
国立がんセンターのホームページにある「脱毛を高頻度に起こしやすい抗がん剤」のリストを見てください。
(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「脱毛」)
この2つの薬がここにラインナップされているのが分かりますね。
胃がん治療においてイリノテカンやドセタキセルは標準治療として使う抗がん剤で、かつ、後半戦で使うことが多い傾向があります。
(最初は別の薬を使い、効果がなくなった時点でこれらの薬を考慮する)
長い抗がん剤治療を経て、この時点では患者さんの体力がかなり失われているケースもあり、なかなか打つ手がなくなってくることもある段階です。
こうした病状が現実感をもって描かれているということです。
女性は全身状態が悪く、腫瘍からの出血も多かったため抗がん剤治療は継続できませんでした。
余談ですが、もし継続できたとしたら、次にニボルマブ(オプジーボ)を使うことを検討するでしょう。
先日ノーベル賞で話題になった免疫チェックポイント阻害剤です。
このあたりは少し専門的になりますが、医療者であれば知っておいて良いポイントです。
看護roo!で看護師向けに「免疫療法について看護師が知っておくべき3つのこと」という記事を書いたので、そちらもご覧ください。
がんについて調べるなら、前述した国立がんセンターのホームページが最も分かりやすく正確です。
がんの情報で困った時は、知人に相談したりGoogle検索する前にこのページを見てください。
(もちろん適切に医療機関にかかるのもお忘れなく)
このシーンについての劇場版コードブルー徹底解説はこちら↓
劇場版コードブルー|映画徹底ネタバレ解説&あらすじ その1広告
AEDに関して必ず知っておくべきこと
エンジンルームで感電し、心停止に陥った藍沢に対して白石が心肺蘇生を行うシーン。
ここでAEDを使う場面は、多くの人に見てほしいと思うくらい学びが多いので、番組ではこれについてコメントしました。
こちらの解説記事でも書いたように、心停止には、電気ショックで正常の心拍に戻せる場合と戻せない場合があります。
「ショックが必要かどうか」は心電図波形を見なくては分かりませんが、これを自動解析してくれるのがAEDです。
劇場版のこのシーンでは、白石が藍沢にAEDを装着し、雪村が「解析開始します」と言った後、AEDの自動音声で、
「体から離れてください。解析中です」
「ショックが必要です。体から離れてください」
「ショックを実行します」
というセリフが流れます。
ここで白石が、
「離れて!」
と言ってボタンを押すと、藍沢の体に電気ショックが与えられ、
「ショックが完了しました」
とAEDが自動で話す、という流れになっています。
AEDは、街中で人が倒れた時に、医療の知識がない方でも簡単に使える器械です。
もし「ショックが必要かどうかを使用者が頭を使って考えないといけない」という器械なら、誰も怖くて使えません。
AEDはまさにこのシーンのようにショックの適応を自動的に判断し、声で教えてくれます。
使用者はボタンを押すだけでいい、ということが重要なポイントです。
このシーンは、AEDの装着からショック実行までを全てノーカットで見せており、緊迫したシーンにしては時間をたっぷり使った落ち着いた描写になっています。
このシビアな部分でリアルな心肺蘇生を表現するため、かなり気を遣っているわけです。
ぜひ多くの方に参考にしてほしいと思うシーンです。
また、ここは「メインキャラが心肺停止」という極めて衝撃的な局面で、他のドラマなら最もお祭り騒ぎになりやすいのですが、ここがかなり静かに描かれていることに注目すべきでしょう。
特に白石にとっては「長年の同僚が瀕死の状態」なのですが、あくまでこのような落ち着いた態度がリアルであって、「いやぁぁぁ戻ってきてぇぇぇ」とは決してなりません。
話がそれましたが、ともかくAEDとは誰でも使えることが利点である器械です。
体のどこにパッドを貼ればいいか、ということもイラストも見れば簡単に分かるようになっています。
まず使い方に悩む余地はありませんので、万が一の時は迷わず使いましょう。
なお、ここで行われた処置は、一次救命処置(BLS:Basic Life Support)と呼ばれています。
(日本ACLS協会ホームページより引用)
街中で人が倒れた時、こうした手順で処置を行うことが理想的です。
救急車が到着するまでにこうした心肺蘇生が行われれば、生存確率が飛躍的に上昇するとされているからです。
ぜひ、AEDが実際にどんな風に使われているのかをコードブルーを見て改めて確認してみてください。
このシーンについての劇場版コードブルー徹底解説はこちら↓
劇場版コードブルー|映画徹底ネタバレ解説&あらすじ その2