ネタバレ解説その1はこちら!
※完全ネタバレ記事です。映画未視聴の方は「【ネタバレなし】「劇場版コード・ブルー」試写会 感想&解説」を読み、映画を見てから読まれることをおススメします。
海ほたる衝突事故
東京湾の海ほたるでフェリーの衝突事故が発生し、多数の負傷者が発生。
ドクターヘリの出動要請が入る。
藍沢(山下智久)、白石(新垣結衣)、雪村(馬場ふみか)らが現場に出動。
フェリー内にある車の中で、腹部を鉄柱が貫通した男性を発見する。
鉄柱の切断が難しく、救出までに1時間はかかってしまう状況下で、男性は腹腔内出血によって心停止寸前。
藍沢らはまず開胸し、大動脈遮断で止血を得るが、遮断したままでは腸管壊死が進行してしまう。
このまま救出を待てば、患者の命はない。
万事休すと思われたが、ここで藍沢の頭に名案がひらめく。
腹壁の側面を切開し、鉄柱を平行移動させて取り除く、という戦略だ。
パイプは下行結腸の内側を貫通しているため、下行結腸を切断して横断すれば理論上は可能だ。
ところが、開腹して腹腔内を覗き込んだ藍沢は驚いた表情を見せる。
男性は「馬蹄腎(ばていじん)」と呼ばれる腎臓の先天奇形を持っていたのである。
両側の腎臓が下側で繋がっており、鉄柱は腎臓をも貫いていた。
そこで左腎茎部と腎臓をクランプ、止むを得ず左半分の腎臓は諦める作戦をとったのであった。
明暗を分けた藍沢の奇跡のアイデア
今回の処置はまさに藍沢の凄まじい名案だった。
この患者さんを救うならこれしか方法はなく、医学的にも矛盾はない。
この後、ヘリで数分で翔北に着けることを考えれば、助かる可能性もあるだろう。
最大の窮地で見せた藍沢のファインプレーは、まさに3rd SEASON最終話でクラッシュシンドロームに見舞われた藤川に行った「瀉血」を彷彿とさせる。
この一連の処置で、藍沢はどんなことを考えたのか?
疑問に思った方も多いと思うので解説しておこう。
まず、男性は鉄柱が腹腔内の血管や臓器を損傷していると思われ、大量出血によって心停止寸前の状態になっている。
ここで止血手段として使われたのが、コードブルーではおなじみ「大動脈遮断」である。
身体の中心を通る大動脈を、胸のレベルで遮断してしまうことで、その下流への血流を止めることができるわけだ。
これによって脳への血流を維持し、蘇生後の脳の障害を最小限にすることも可能である。
ただし、大動脈遮断は止血のための「一時しのぎ」であり、腹部から下に血流が届かない状態が続けば、当然腸管や両足が血流不足で壊死してくる。
あくまで、一旦止血して出血源を見つけ、修復して止血した上で遮断をすぐに解除することが前提だ。
しかし今回問題となったのは、鉄柱の切断に想定以上に時間がかかるということ。
救出を待っていれば、止血はできても腸管壊死が進み、結局患者を救命できない(腸管が全て壊死すると人は生きられない)。
ここで藍沢が思いついたアイデアが、鉄柱の水平移動だった。
問題は、鉄柱を水平方向に抜くには、それが横断する経路にある臓器を切断しなくてはならないことだ。
鉄柱は下行結腸の内側にあるため、まずは横断する下行結腸を上下で切断する必要がある。
むろん細かい血管は多数走行しているため、鉄柱の通り道は全て、その上下でクランプが必須だ。
藍沢が大量のペアンを用いてクランプを繰り返していたのはそれが理由である。
大腸は切断しても一時的にクランプして便が腹腔内に漏れないようにしておけば問題ない。
腸管損傷は、その不潔な中身が腹腔内に漏れることによる感染症さえ防げれば短期的には全く怖くない。
3rd SEASON第3話のダメージコントロールの際、一回目の手術では腸管損傷を修復しなかったことを思い出せば分かりやすいだろう。
全身状態が落ち着いた時点で繋ぎ合わせれば良いだけである。
だが、この患者にはもう一つの大きな問題があった。
「馬蹄腎(ばていじん)」を持っていたことである。
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馬蹄腎に対して臨機応変の対応
本来、鉄柱の横断を邪魔するのは下行結腸だけのはずだった。
ところが、藍沢は処置中に男性が馬蹄腎を持っていることに気づく。
馬蹄腎とは、両側の腎臓が下側で繋がっている先天性の奇形で、2000人に1人は持っているとされる。
腹痛や腰痛で見つかることもあるが、たいてい日常生活に支障はないため本人も気づいていないことが多く、しばしば外来で偶然発見される。
通常、腎臓は左右に一つずつあるため、普通ならこれを避けて鉄柱を摘出すれば良い。
ところがこの患者は腎臓が下側でつながっていたせいで、鉄柱が腎臓を貫いていたのである。
ここで藍沢は、腎臓の左側は諦めることを決め、腎臓に向かう血管が走行する腎茎部を遮断、腎臓を一部切断し、その上で鉄柱を横断させて引き抜いたのである。
これは、お腹の中を見たことがない人にはとても理解し得ないと思うプロセスだ。
いかに藍沢が凄まじいセンスを持った外科医であるかが、この一連の流れを理解するとよく分かるであろう。
藍沢が負傷、心停止
フェリーでの救出作業が続く中、エンジンルームで露出した電線が浸かった水たまりに触れた藍沢が感電し、階段から転落。
胸部を強く打撲する。
感電によって心停止になった藍沢に、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始し、心肺蘇生を行う白石。
AEDを使用し、ショックを行うと心拍は再開。
挿管したままヘリで搬送するが、気道からの激しい出血が止まらない。
肺および気管損傷が疑われ、一刻を争う状況だった。
翔北に戻り、ICUに入室するが呼吸状態は立ち上がらず、厳しい状況が続く。
橘(椎名桔平)と相談し、白石はECMO(エクモ)を導入。
その後、徐々に藍沢の状態は改善を見せ、ついに意識は回復する。
コードブルーでは、スタッフが二次災害に巻き込まれるのは定番となっている。
1stの黒田(右腕切断)、スペシャルの緋山(心破裂)、3rdの藤川(クラッシュシンドローム)である。
そしてついに劇場版で、藍沢が負傷してしまう。
感電(電撃傷)は、3rd SEASON最終話でも登場した重要な外傷だ。
全身に電流が流れるため、それが心臓を通過した際に生じる致死的な不整脈が問題となることは、解説記事で述べた通り。
3rd SEASONではしばらく時間が経ってからの心停止(心室頻拍)であったが、今回の藍沢は感電した瞬間の心停止である。
幸い白石がすぐそばにいたため、即座の心肺蘇生が行われて心拍が再開しているが、一般的な事故ではこういう形で即死することになる。
これまで何度も述べているように、心停止は以下の4つの病態の総称である。
心室細動(VF)
無脈性心室頻拍(VT)
無脈性電気活動(PEA)
心静止
このうち、電気ショックで心拍再開が可能になるのがVFとVTのみ。
AEDは、つなぐだけで自動で心電図波形を解析し、ショックが必要かどうか(VFまたはVTかどうか)を判断してくれる。
心肺蘇生を行う人が医療の素人であっても、何も考えずに簡単に使えるのがAEDの特徴だ。
この辺りは映画で忠実に描かれているため、ぜひじっくり見てAEDに馴染んでいただきたいと思う。
さて、心拍が再開した藍沢の身体には、もう一つの大きな問題があった。
重篤な肺挫傷と気管損傷である。
肺の機能が落ち、酸素をうまくとりこめなくなっており、呼吸状態が極めて悪化した状態だ。
肺の外傷が治るのを待つ前に、呼吸状態が悪化して命の危険がある。
ここで白石が使ったのがECMO(エクモ)だった。