成田空港近辺の山中で、飛行機墜落事故が発生する。
それぞれの思いを抱え、災害に立ち向かうフェロー達。
現場では様々な重症度の患者が現れ、フェローたちが素早く処置をしていく。
その中でも、今回意外にも初めてしっかり描かれたのが「熱傷」だ。
全身熱傷は、元気に会話ができた人が、その数時間後には死亡する、という恐ろしい外傷。
私自身もかつて初めて熱傷患者を見た時のことはなかなか忘れられない。
きさくな男性の患者さんと色々な話をし、自宅に帰って翌朝出勤したらもうその人はベッドにいなかった。
なぜ熱傷がこれほど危険なのか?
一方、重要なキャラが災害に巻き込まれる、というのはコードブルーでは定番。
今回もストーリー上重要な人物が墜落した飛行機に乗っていた。
白石(新垣結衣)の父である。
クライマックスに向けて、ますます加速する迫力あるストーリー。
今回もいつも通り詳しく解説していこう。
黒田の帰還、気の毒すぎる博文
翔北にかつての指導医、黒田(柳葉敏郎)がやってくる。
黒田と同期の脳外科医西条(杉本哲太)が、2人の指導医であった救急部部長、田所(児玉清)の脳動脈瘤のオペを行う日である。
藍沢(山下智久)、白石ら、かつての部下たちのたくましく成長した姿を見て目を細める黒田。
オペ前で緊張した面持ちの田所の病室にも訪問し、談笑する。
黒田の去り際に田所は、
「黒田先生、万一の時はよろしくお願いします」
と強い意思のこもったセリフを黒田に投げかけ、動揺したように表情を固くする黒田。
右腕を失って戦力になれない自分が翔北に居座ることをプライドが許さず、これまで田所からの残留の指示を何度も断ってきたからだ。
一方、田所の友人である白石の父、博文もまた、青森から遠路はるばる田所の病室にやってくる。
これまで何度となく娘と会う約束をしても、多忙な白石となかなか話す機会がなかった博文。
今度こそ娘との食事を楽しみにしていたのだが、白石は急患の対応でまたしても約束を守れない。
食堂で何時間も娘を待っていた博文は、後ろ髪を引かれるように青森に戻る決意をする。
その後、翔北に新たなドクターヘリ要請が入る。
成田近辺で飛行機の墜落事故が発生し、乗客50人を含む多数の死傷者が出ているという。
便名を確認し、表情をこわばらせる白石。
墜落したのは、羽田発、青森行きの国内便。
博文が乗っている飛行機だった。
なぜかいつも父に会えない白石
コードブルー2nd SEASONは、藍沢と白石の家族にスポットを当てたシーンが特に多い。
2人が自らの家族との境遇を患者家族に重ね合わせ、人間的にも医師としても成長していく姿が描かれるため、ドラマに深みが増している。
視聴者としても感情移入しやすく、人間ドラマとしても完成度が高い。
ただ、白石の父、博文については若干「気の毒すぎる」シーンが多い。
当初父が病気であることを知らなかった娘の白石は、臨床の手を緩め、講演などに力を入れるようシフトチェンジした父に、
「お父さんは医者じゃない」
と何度も悪態をついていた。
さらに、末期の肺がんのため会える時間が長くないことを知ってもなお、多忙なために会う約束をなかなか守れない白石。
父に会うために予約した飛行機をキャンセルしてまで仕事を優先し、父を残念がらせたこともある。
今回も、娘を待ちくたびれて諦めた博文が、病院食堂で惣菜をトレイに載せ始めたのち、
「やっぱり待つ、大丈夫だ、きっと来る」
と言って、惣菜を返し、お茶を2つだけトレイに載せて待っている姿を見ると、本来感動シーンでもないのにあまりに可哀想で泣けてくる。
私も人の親なので、
「頼むから会ってやってくれ」
と切に思い、飛行機事故に巻き込まれたともなると、
「ほら言わんこっちゃない!」
と思ってしまう。
そもそも、
医者って大事な時に家族に会えないほど忙しいのか?
救急医ってこんなに大変なのか?
と思う人も多いだろう。
実際には、こうした描写は「あまりリアルではない」と言って良い。
これまでのストーリーは、今回の飛行機事故への布石、白石の人間的な成長を描くためのやや無理のある設定である。
医師という職業の自由度
特に救急医は主治医制で患者を見る他の科の医師と違い、オンオフがはっきりしている。
シフト制であるため、休日と決まっている日はほぼ必ず休むことができる。
担当患者の急変での緊急呼び出しがないからだ。
多忙を理由にいつまでたっても会ってくれない娘に、
「医者との約束なんてそんなもんだ」
となぜか納得しきっている博文だが、本当なら、
「お前、ええ加減にせんかい」(標準語訳:できれば休日に会う約束してくれないかい?)
と返してほしいところである。
また、そもそもオンオフがはっきりしているのは、基本的には救急部に限らない。
そもそも医師は、会社員など他の職業と違い、原則「代わりが効きやすい」職業である。
大規模病院でも、比較的小規模なところでもそれは同じだ。
治療方針など意思決定は組織全体で行い、主治医は末端の実働部隊に過ぎないからである。
もちろん代わりの効かない人材を目指して各自努力すべきなのは間違いない。
だが組織としては、誰が欠けても組織のパフォーマンスが落ちない体制を作ることが、結果として患者さんの利益、安全性の向上につながる。
「信頼している主治医に対応してもらう方が安心」と考える患者さんは当然多いので、長期的に病院を離れる、というケースは転勤でもない限り少ない方が良い。
だが1日だけ休暇を取るくらいなら、他の職種よりも簡単だと思われる(簡単でなくてはならない)。
また、周囲の人間、あるいは指導医の橘(椎名桔平)が、白石と、白石の父の状況を鑑みて、無理矢理にでも休暇を取らせなければならないとも言える。
医師は日々非常に多忙ではあるが、この点で自由度が高いことは、私がこの仕事を気に入っている理由でもある。
こんな些細なポイントにツッコミを入れるなど相当大人げないが、2nd SEASONでは繰り返し描かれるポイントなので、あえて強調しておく。
熱傷がなぜ怖いのか?
訴訟騒ぎから解放され、現場復帰した緋山(戸田恵梨香)。
しかし患者との関わりにまだ恐怖心があり、なかなか持ち前の強気な自分を発揮できない。
そんな緋山が墜落現場で担当したのが全身熱傷の男性だった。
煙を吸い込んで気管熱傷を起こし、すぐに気管挿管しなければ気道が閉塞して死亡する、という危険な状況。
さらに、全身に「80%の3度熱傷」があり、気道が確保できたとしても、そもそも救命自体が難しい。
仮に救命できても、一度挿管すると永久に抜けなくなる可能性もある。
気管挿管後に脳死となった男児の人工呼吸を自己判断で止め、訴訟に巻き込まれたばかりの緋山は、男性の妻を前に躊躇してしまう。
「このままにしてあと少し本人と話をするか、気管挿管をして治療にかけてみるか?」
選択するよう男性の妻に説明するが、突然の説明に当然答えが出せない。
横にいた冴島(比嘉愛未)もまた沈痛な面持ちで、
「どうされますか?」
と選択を促す。
冴島もまた、恋人だった田沢が同じ選択を迫られ、挿管して命を永らえる道を選ばなかった経験があるからだ。
そこへ橘がやってきて即座に気管挿管。
「この状況で家族に判断できるわけないだろう。ここで判断するのが俺たちの仕事だ、いつまでも引きずるな」
と緋山を諭したのだった。
救急の現場で気道が危うければまず気管挿管。
その後の救命の確率が高くないなら、その説明を家族にし、
「挿管しても救命の可能性は低いですが、このままだと窒息して亡くなります。気管挿管しますね?」
と言うのが正解だろう。
橘の「ここで判断するのが俺たちの仕事」というセリフは、一刻を争うこの場面では間違いなく正解だ。
悩んでいる間に選択肢が1つなくなるからである
このケースなら、このように医師が専門的知識を活かしてある程度選択を誘導するのが正しいだろう。
一方で緋山が行ったように、選択肢を提示し、そのメリット・デメリットを説明して患者さんに選んでもらうというのも正解だ。
むしろこちらが医療現場においては原則である。
治療方針の選択というのは、状況に応じて臨機応変に対応する必要がある。
この点は非常に難しく、常に明確な答えがあるわけではない。
さて、熱傷が恐ろしい理由は、今回の男性がまさに体現してくれている。
一つは気道熱傷。
高温の蒸気を吸い込むことで起こる、気道(喉頭や気管)の「やけど」である。
そしてもう一つが熱傷ショック。
いずれも短時間に死亡する恐れのある病態だ。
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気道熱傷の怖さ
皮膚をひどくやけどした時にどうなるかを思い出してみてほしい。
必ず真っ赤に腫れ上がった後、水ぶくれができるだろう。
そして皮膚が薄くなり、破れると透明の液体があふれ出てくるはず。
熱傷というのはこのように、表面の強い炎症によって血管内にある水分が血管の外に漏れ出す現象が起こる。
「水ぶくれ」は、血管から漏れ出した水分が皮膚の下にだぶついた状態だ。
これが気道におこればどうなるか?
表面が腫れ上がり、気道が閉塞し、窒息してしまう。
気道の閉塞は秒単位で死亡するリスクのある非常に危険な病態。
さっきまで元気に話していた人が窒息する、ということも気道熱傷では容易に起こりうる。
炎症によって血管の外に水分が漏れ出す、という点では、実はアナフィラキシーと状況はよく似ている。
よって、火災で救急搬送されたケースでは、少しでも気道熱傷が疑わしければ入院が原則である。
「疑わしいサイン」とは、
口の中にススが付いている
鼻毛や眉毛が焦げている
痰(たん)にススが混じっている
といったサインである。
受傷直後は全くの正常でも、ある時点から急速に気道が閉塞して死亡するリスクがあるため、念には念を入れて経過を観察する必要がある。
ところがこの男性は、気管挿管をしたにもかかわらず、その直後に心停止し、結局死亡してしまう。
これが熱傷が恐ろしい2つ目の要因。
全身熱傷による「熱傷ショック」である。
熱傷ショックの怖さ
熱傷は、その重症度に応じて1度〜3度に段階を分類する。
1度は浅い熱傷で、赤くなって痛みを伴い、数日で治るようなもの。
私たちがよく経験するような、いわゆる「軽いやけど」である。
一方、3度熱傷とは、皮膚の深いところまでの熱傷である。
皮膚が黒く変化する、あるいは白や褐色になり、痛みすらない。
自然に治るまでに1ヶ月以上を要し、皮膚が壊死してなくなるため、植皮が必要になることが多い。
問題は、熱傷面積がどのくらいか、である。
一般に熱傷面積が20%を超えると(小児なら10%)熱傷ショックを発症するリスクがある。
上述したように、血管内から水分が多量に失われるため、血管を流れる血液の量が著しく減り、血圧が下がってショック状態になってしまうからだ。
ショックについてはこちらも参照。
ひどい場合は、点滴(輸液)で大量の水分を補っても、ものすごい速度で水分が失われ、全く追いつかずに死亡する。
今回の男性は、
「3度熱傷が80%」
である。
まず、救えない。
緋山は、この状況を見た瞬間に救命はほぼ不可能と判断し、実際その数分後に死亡している。
だがこれほど死亡リスクが高くても、痛みはそれほどないため普通に話している、というのも特徴的なシーンだ。
熱傷は最も重要な救急疾患の一つだが、これまでそれほど深く描かれることはなかった。
今回のシーンを見れば、非常にわかりやすい熱傷の経過を知ることができるだろう。
さて、いよいよ次回は最終回。
田所の巨大な脳動脈瘤に挑む脳外科医西条。
果たしてどういう結末を迎えるのか。
楽しみである。