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コードブルー2 第2話|ダブルリングに気付いた藤川が橘に褒められた理由

第2話もコードブルーらしい、極めて現実的な展開。

登場する患者はことごとく救えない

緋山(戸田恵梨香)は壊死性筋膜炎、藤川(浅利陽介)は現場での大血管損傷

白石(新垣結衣)が担当した脳腫瘍の患者も、手術後に記憶を失ってしまう。

藍沢(山下智久)が診ている冴島(比嘉愛未)の恋人、田沢もいよいよ呼吸の障害が現れ緊急入院

第1話から続く厳しい現実にどう立ち向かうべきか、自らに問いかけ続けるフェローたちと、それを淡々と指導する橘(椎名桔平)。

毎回派手な展開の1st SEASONに比べると、トーンダウンした落ち着いた展開に、よりリアルさを感じる2nd SEASONである。

 

今回はおそらく、

ダブルリングサインから見事に頭蓋底骨折に気づいた藤川が橘にベタ褒めされたのはなぜなのか?

緋山の患者がビブリオ・バルニフィカス、通称「人食いバクテリア」感染で、腕を切断しても救えなかったのはなぜなのか?

といったことを疑問に思った方が多いだろう。

いずれも研修医の頃に勉強しておくべき疾患がきっちり選ばれているのが見事である。

わかりやすく解説していこう。

 

頭蓋底骨折とダブルリングとは?

藤川の担当する高齢患者は、びまん性脳損傷のため本来の真面目な人格を失っていた。

突然感情的になって暴れ、殴られた藤川はトレードマークである眼鏡を壊されてしまう。

その後も看護師にセクハラを繰り返すなど、妻がショックを受けるほどに乱れ、セクハラ後に鼻血を流すという漫画のような症状を見せる。

ところが、冗談まじりに叱りながらガーゼで拭き取った血液を見て、藤川の表情が突如険しくなる。

「ダブルリング見たの初めてなんです」

のちに藤川が橘に嬉々として報告することになる「典型的な髄液漏の所見」が現れていたからだ。

すぐに脳外科西条(杉本哲太)が手術を行い、男性には頭蓋底骨折硬膜外血腫があることがわかる。

どうやら暴れた時に頭部を強く打撲していたようだった。

 

黒田(柳葉敏郎)からなかなか評価されず、フェローの中では一人遅れをとっていた藤川。

しかし橘の評価はむしろフェローの中で最も高く、今回の骨盤底骨折に気付いた際も、

「いい医者だな。自分のできることを着実にこなしているし、患者との関わり方もうまい」

と藤川をベタ褒め。

他のフェロー達には、

「君らも藤川を見習え」

とまで橘は言い、これまで褒められたことのなかった藤川は当惑してしまう。

その後ドクターヘリで出動した工事現場での事故で、胸部の大血管損傷の患者を救えなかった藤川は、

「藍沢だったら救えたかもしれない」

と落ち込むが、それに対しても橘は、

「お前にはやつより優れた点がいっぱいある。気にするな。お前は自分をよく知ってる」

と強く励ますのだった。

 

コードブルーはやはり、実際にいそうな医師の描き方が本当にうまい。

色々な後輩医師を実際に育てた人のもつリアルな感覚が脚本に反映されていることが、見ていてよくわかる。

 

私たち外科医は「ウサギと亀」という言葉をよく使う。

ウサギは最初の駆け出しのスピードは早いのだが、途中で油断して寝ているうちに駆け出しが遅かったはずの亀に抜かれてしまう。

現実世界でも、人によって初速が違っても最終的には似たような能力にたどり着くことはよくある。

ウサギを高く評価しすぎず適切に制御する必要があるし、亀には焦らせず成長を待ってあげる忍耐が指導者には必要だ。

 

コードブルーでは、ウサギ的な若手が好きで高く評価するのが黒田である。

仕事を教えると次々要領よく覚えるし、メキメキ上達する育て甲斐のある後輩。

まさに藍沢のような存在である。

一方の藤川は亀。

少々不器用で駆け出しは遅いが、背伸びすることなく自分の能力の足りなさを謙虚に評価できるおかげで、着実に成長していく。

こういう亀的な若手が好きで評価したいと思っているのが橘だ。

そしてこのストーリーを描いた人はきっと、黒田と橘の両面的な要素が先輩医師には必要だと思っているに違いない

もちろんこれは医師に限ったことではないだろう。

 

さて、このコツコツ型の藤川が見つけた「ダブルリング」とは何だったのだろうか?

頭蓋底骨折とは、頭蓋骨の底にある骨が折れることだ。

脳は脳脊髄液という透明の液体に浸されているが、頭蓋底骨折が起きると脳脊髄液が鼻や耳の穴から漏れだしてくる

これを髄液漏(ずいえきろう)という。

骨折によって出血もするので、血液と髄液が混ざった液体が鼻や耳から流れ出てくるわけだ。

一見すると普通の血液と見分けがつかないが、ガーゼに垂らしてシミを作ると、中心は真っ赤な血液、その周りに髄液が混じった薄い赤、という二重のリングを形成するのが特徴。

これを「ダブルリングサイン」と呼び、髄液漏の所見とされている。

藤川は、実物を見たのは初めてでも教科書の写真を見て学習していたのだろう。

救急医でなくても必ず知っておくべき、有名なサインである

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恐ろしい人食いバクテリア感染症

一方の緋山は、救急外来にやってきた顔が傷だらけの女性を診察する。

緋山は当初DVかと疑うが、実際には度重なるボツリヌストキシン注射によるシワ取り治療で感染を起こしたアンチエイジング好きの女性だった。

タイまで行って治療した際に受けた不潔な処置が原因で、皮膚の感染症を起こしたのである。

女性はありのままの自分を受け入れるのが恐ろしいと話し、1週間前にはなかったシミが腕にもできたと緋山に愚痴をこぼす。

ところがその後この女性は突如急変。

腕の病変はシミではなく、壊死性筋膜炎の初期症状だったのである。

原因菌は「ビブリオ・バルニフィカス」

緊急手術で右腕の切断術を行うも全身状態は安定せず、女性はあっという間に亡くなってしまう。

夫に話を聞くと、どうやら女性はタイから日本に立つ前にレストランで魚を食べたらしい。

森本(勝村政信)は、

「肝硬変、魚を食べた、暑いところ、条件は揃ってる。ビブリオの壊死性筋膜炎なら助かるのは1割にも満たない」

と、この病気の恐ろしさについて緋山に説明する。

 

壊死性筋膜炎は、黄色ブドウ球菌溶レン菌などの細菌が原因で起こる、死亡リスクのある恐ろしい疾患である。

皮膚表面の傷などから細菌が入り、筋肉など深いところにまで感染が及ぶ。

非常に速いスピードで病気は広がり、腕や足の切断、場合によっては敗血症から命を失うことも多い

また、原因菌が「ビブリオ・バルニフィカス」だった場合の死亡率はかなり高く、多くは3日未満とあっという間に死に至ってしまう

こういう劇症型と呼ばれるタイプに至るものを「人食いバクテリア」と呼ぶ。

免疫力が正常な健常者であれば重症化はまれだが、糖尿病肝硬変などによって免疫力が低下した人はリスクが高い

コードブルー1st SEASON 第1話で出てきた1型糖尿病の少女が腕の切断を余儀なくされたのも、おそらく壊死性筋膜炎である。

(「コードブルー1st 第1話解説|医者に厳しすぎるリアルな救急」参照)。

ビブリオ・バルニフィカスは、皮膚の傷からだけでなく、魚介類の摂取でも起こってしまうため、肝硬変の人の魚介類の生食は禁止である。

 

ちなみにここでいう「ビブリオ」は、みなさんがおそらく一度は耳にしたことのある「腸炎ビブリオ」とは別物である。

腸炎ビブリオは、同じく魚介類で起こる食中毒の原因菌で、夏の暑い時期に下痢や嘔吐などの急性胃腸炎を起こす。

同じビブリオ科に属する菌ではあるが、症状は全く異なることに注意が必要である。

 

ちなみにボツリヌストキシンとは、ボツリヌス菌が作る毒素のこと。

同じく食中毒の原因となるが、こちらも恐ろしい猛毒である。

神経に作用する毒素で、神経の伝達をブロックすることで筋弛緩作用がある。

全身の筋肉が動かなくなり、呼吸筋が麻痺して死亡することもある恐ろしい中毒だ。

この筋弛緩作用を薬としてうまく使うのが「ボトックス治療」である。

有名なのは、美容目的に使うシワ取り

今回のストーリーが練られているのは、食中毒の原因にもなるボツリヌス毒素でシワ取り治療していた女性が、それとは全く別の食中毒にかかって死亡してしまうところだ。

いずれも医学的には非常に重要な事項で、ストーリー上も矛盾は全くなく、若手の医師が勉強になるのではないかというくらいである。

 

1st SEASON以上に、見た目が派手なだけでなくじっくり練られた症例が多い2nd SEASON。

引き続き解説をお楽しみいただければと思う。