コードブルー3rd SEASONの解説はありがたいことに大変好評で、総アクセス数は約80万に及んだ。
そんな中、多くの方から1st、2ndの解説もぜひ、とのお声をいただくことになった。
映画化に備えて、過去作品から見直す方もいるだろうと予想し、これから解説を始めていこうと思う。
3rd SEASONの解説はこちらへ
1st SEASON第1話から見直してまず思ったことは、やはりニヤリとしてしまうほどコードブルーの現場描写はリアルだということだ。
だが今回の記事で強調したいリアルさとは、3rd SEASONの解説で私が度々書いてきた、処置や手術シーンに関することではない。
若手フェローに対するあまりにも厳しい現場スタッフたちの姿である。
その点を踏まえつつ、第1話を解説していこう。
新人に厳しすぎる古参の医療者
翔北救命救急センターに4人のフェローたちが新たに赴任する。
藍沢(山下智久)、白石(新垣結衣)、緋山(戸田恵梨香)、藤川(浅利陽介)である。
研修医上がりとは思えぬほど出来すぎる藍沢を除き、残りの3人は初日から厳しい当たりを受け始める。
救急ナースやオペ室ナースからは、
「邪魔」
「どいて」
とオブジェのように扱われ、指導医の黒田(柳葉敏郎)からは容赦なく怒鳴りつけられるフェローたち。
ヘリ内で、
「使えますか?」
と道具のごとく尋ねる敏腕フライトナース冴島(比嘉愛未)に、
「これまでフェローが使い物になったことがぁ?」
と無関心に答える黒田は、新人の人数すら把握していない。
「今年は何人残りますかね?」
と、「新人辞職は恒例行事」と言わんばかりに冷たくあしらう救急部の看護師長。
これほどまでに厳し過ぎる現場の様子を作り込むあたり、きっと製作スタッフは実際の救急を見学し、目の前で厳しい仕打ちを受ける若手たちに相当驚いたに違いない。
はっきり言って、自分の研修医時代をそっくりそのまま思い出して胃が痛くなるほどリアルすぎる描写である。
藤川が傷の縫合をしようとして、黒田に「後でいいだろ!」と怒鳴りつけられるシーンがあるが、
重症患者を前に何もできない自分がもどかしく、体表面の傷を見つけて「これならできる」と勇んで準備をすると叱られるなど、苦笑するほどの「研修医あるある」である。
救急部のようにスピード勝負の現場では、使えない若手は基本的に邪魔者扱い、というのがむしろ一般的である。
ここで必死で努力して食らいついて、何とか信頼を勝ち取らなければ、指導医はおろか、ナースもまともに相手してくれない。
これが3rd SEASONではあまり描かれなかった現実に近い現場の姿である。
ただそれにしては出来すぎる藍沢。
やはり藍沢がかっこよくなければ成立しないのがコードブルーだ。
出来すぎる藍沢の処置
初療室に搬送された患者のSpO2が突然低下。
藤川は自ら気管挿管に名乗りをあげるが、目の前で吐血され往生する(SpO2については「コードブルー3 医師が解説|意識レベル、バイタルって何?どうなると危険?」参照)。
そこに藍沢が無言で登場、一撃で輪状甲状靭帯切開を決めてしまう。
輪状甲状靭帯切開とは、口腔内の大量出血や、のどの奥の閉塞などで、口から挿管できない患者に、首の皮膚を切って直接気管にチューブを入れる処置のことだ。
甲状軟骨とは「のど仏」、輪状軟骨とはそのすぐ下にある小さな軟骨のことで、いずれも表面から触れることができる。
これを手で触れつつ、この二つの軟骨の間を切開すれば、比較的容易に気管に到達できる、という手技である。
藍沢が、人差し指と親指を使って慎重に探っていたのは、この二つの軟骨の位置を確かめるためだ。
超緊急事態だけの、めったに行わない手技なのだが、なぜか藍沢はとっさにできてしまう。
また工場で右腕を挟まれ、さらに右大量血胸でショックの患者には、右上肢の切断という、これまためったにない手技をやってのけてしまう。
凄まじいフェローである。
その一方で、初めてのドクターヘリ出動で腕の切断という残酷な処置を行うことになった藍沢に対し、恐る恐る「何を感じたか?」と質問する白石に、
「(現場が)オペ室より暑かった」
と、何を思ったか室温についてのコメントを返す藍沢。
さらに「面白かった・・・」と不敵な笑みを浮かべ、白石は引きつった表情を見せる。
そういえば、優秀ではあるが医師としては少し危うい男である藍沢が、次第に変わっていく姿の描くのが1st SEASONだった、と久しぶりに思い出す。
やはり色んな意味で解説し甲斐のあるドラマである。
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糖尿病の少女が腕を切断しなければならない理由
一方の藤川は、若年性糖尿病で腎不全となり、週に3回の血液透析を行なう少女を担当する。
この少女はリストカットによって腕の深部感染を起こし、結果として右腕の切断を余儀なくされる。
(リストカットとは自殺を目的に手首を切ること)
この少女の病状については、
「何で腕を切断しないといけないの?」
と思った方が多いかもしれない。
この少女の病状を説明する指導医の森本(勝村政信)も、序盤から専門用語を連発するため、非常にわかりにくかったのではないかと思う。
第1話はあまり具体的な救急疾患が登場しないため、今回はこの内科疾患を解説しておこうと思う。
糖尿病が怖いのは、長期間体が高血糖にさらされることで、危険な合併症が多く起こること。
そして、それらが起こってしまうまで何も症状がないことだ。
代表的で危険な合併症を、私たちは学生時代に語呂合わせで「しめじ」と覚える。
神経障害の「し」、網膜症の「め(目)」、腎障害の「じ」である。
重症化すれば、網膜症は失明、腎障害は腎不全から血液透析に至る。
さらに高血糖状態は免疫力の低下を引き起こし、感染にきわめて弱くなる、という怖さもある。
健康ならすぐ治るはずの感染が重症化してしまうのである。
この状態のことを専門用語で「compromised host(コンプロマイズドホスト)」と呼ぶ。
森本が、冒頭でフェローたちを案内中に少女の病状について話す際、
「コンプロマイズドホストだな」
と言ったのはそういうわけである。
しかも神経障害によって手足の感覚が鈍くなっているため、感染が重症化するまで痛みがなくて気づかない。
つまり、
免疫力が落ちて感染が悪化しやすい
かなり悪化するまで気づかないので治療が遅れる
というこの二つの原因で、重症感染による四肢切断が多いのが糖尿病の怖さだ。
多くは足の指先などに気づかないうちにできた小さな傷などがきっかけとなることが多い。
ちなみにこの少女は、自殺目的のリストカットが感染の原因である。
彼女の腕を見ればわかるように、手首のあたりから肘の上まで腫れ上がって紫色に変色している。
健康な人が、手首の小さな傷だけでここまで重篤な感染を起こすことはありえないが、重度の糖尿病患者ならありうることだ。
糖尿病は、いわゆるメタボリックシンドロームの一つとして中年〜高齢者に起こるⅡ型と呼ばれるものが多いが、若い方に起こるⅠ型と呼ばれるまれなタイプもある。
今回の少女はもちろん後者である。
余談だが、プロ野球選手の岩田稔投手も、1型糖尿病でインスリン注射をしながら試合に出場しているが、試合で1勝するごとに10万円を糖尿病の子供たちに寄付するという活動を行っている。
二人の患者さんが同じ右腕を切断される、という残酷な符合を描くためか、初回から非常に重々しい現場シーンの数々。
第2話からは、コードブルーらしい軽快な現場処置を期待しつつ、第一話の解説はここまでとしておこう。
引き続き、第2話以降もお楽しみに!
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