2nd SEASONは、橘と西条、冴島と田沢、そして藍沢と祖母の絹枝さんの間にまだ知らされていない複雑な人間関係があることが徐々にわかる仕組みになっている。
改めて見直しても、医療ドラマとしても人間ドラマとしても非常にうまくできていると実感する。
複雑な人間ドラマを描きつつ、リアルで派手な医療シーンは相変わらず健在の第4話。
今回は、真面目な白石が腹部大動脈瘤の切迫破裂を見逃し、その汚名返上とばかり重症外傷の少年をクラムシェル開胸で救命して橘に褒められる。
本当に白石の誤診だったのか?
クラムシェルとは一体何なのか?
疑問に思った方も多いと思われるポイントを解説していこう。
大動脈瘤切迫破裂の見逃しは誤診?
腹痛を訴えて外来にやってきた高齢男性を診察した緋山(戸田恵梨香)。
腹部を診察した瞬間に表情を変え、即座に心臓外科に連絡する。
腹部大動脈瘤の切迫破裂が疑われたからだ。
男性は前日も外来に来ていたが、腹痛の原因はノロウイルス感染による胃腸炎と診断され、整腸剤の処方のみで帰されていた。
カルテには白石(新垣結衣)の文字。
白石は前日にこの男性を診察していながら、大動脈瘤に気づけなかったのだった。
緋山の素早い対応によって男性は緊急手術を受けて無事に救われるが、
「念のためCTを取っておくべきでした」
と自らの誤診に落ち込む白石。
部長の田所(児玉清)は、
「腹部X線写真とエコーはやっている。これを誤診というには過酷すぎるな」
とフォローしつつも、最近白石がほとんど寝ずに体を酷使していることを忠告。
橘(椎名桔平)からも、無理をすると判断力が鈍る、と釘を刺される。
その後白石は、男性とその家族に頭を下げて事情を説明。
その横では病室に来ていた孫と思われる少年が大はしゃぎで、隣のベッドで飛び跳ねるなどして母親に叱られるほどだった。
このわんぱく少年にこの後悲劇が起こるとは誰も予想しなかったのだが・・・。
腹部大動脈瘤は、見つかれば即座に手術、という病気ではない。
通常小さなものは無治療で経過観察である。
実際、動脈瘤があるが特に症状なく、手術せずに定期的に通院しているという人も多い。
一般的には、5cmを超えるものは破裂のリスクがあるため、治療の適応となっている。
手術で人工血管に取り替えたり、カテーテルによるステントグラフト治療を行うことで治療する。
ただし今回の男性のような「切迫破裂」は緊急手術の適応だ。
切迫破裂とは「破裂しかかっている」状態のこと。
大動脈瘤から一部血液が漏れ、これが痛みの原因となる。
造影剤を使ったCTを撮ると、大動脈瘤周囲に造影剤の漏れが確認できる。
点滴で血管内に投与した造影剤が、血管外に漏れる所見である。
この所見のことを「extravasation」、業界用語で「エクストラ」と呼ぶ。
緋山が相談をもちかけた心臓外科医がCTを見ながら、
「後腹膜に小さなエクストラが見られる、緊急手術だな」
と言った理由はもうわかるだろう。
大動脈は後腹膜というお腹の背中側の空間にあるため、漏れた血液はこの空間に溜まることになる。
さて、では今回白石は誤診したと言えるだろうか?
田所は「腹部X線写真とエコーはやっている」と白石をフォローする。
ドラマならこれで済ませて良いが、現実はこれでは終われない。
ポイントとしては、
この男性は大動脈瘤をこれまで指摘されたことがないかを問診したか?
エコーで巨大な大動脈瘤を見抜けなかった白石のエコー技術に問題はないのか?
ということをしっかりフィードバックした方が良いだろう。
大動脈瘤を指摘されていたが放置していた、というケースで白石がそれを知らなかったのなら、問診法に不足があったことになる(その可能性の方が高い)。
腹部X線で大動脈瘤の診断は全くできないが、エコーでは比較的容易にできる。
これが分からなかったとしたら白石のエコーの技術に不足があったことになる。
「念のためCTを取ればよかった」との白石の振り返りは十分ではない。
「念のため」と言って何でもかんでも精密検査をしていたら救急外来は成り立たない。
今回のケースは「念のため」ではなく、問診とエコーで腹痛の原因として腹部大動脈瘤を疑って、「確たる必要性のもとに」CTを行うべき症例だった、と振り返るべきであろう。
蘇生的開胸術のバリエーション
病室の窓から少年が転落したとの連絡が詰所に入り、慌てて現場に向かう白石。
落ちたのは、腹部大動脈瘤の手術を受けた男性の見舞いに来ていた少年だった。
すぐに初療室に搬送するも、右肺の損傷と胸腔内の出血(血胸)により目の前で心停止。
その場にいたのは白石、緋山の2人だけであり、シニアスタッフを呼ぼうとするも、オペで手が離せない状態だった。
二人だけで何とかするしかない。
決意した白石は、
「クラムシェルでいくわ」
と宣言。
緋山は、
「両側開胸!?」
と言い、二人ともやったことのない処置を行うことに不安を露わにする。
しかし少年は目の前で心停止したばかり。
今なら救命できるかもしれない。
白石と緋山はクラムシェル開胸を二人だけで行うことに決める。
開胸後に大動脈遮断、開胸心臓マッサージを行うとVf(心室細動)が出現。
すぐに除細動で心拍が再開し、さらに右肺の損傷部を修復して見事に少年を救命する。
のちほどやってきた橘は驚いて、
「クラムシェルか!よくやった!」
と二人を褒めたのであった。
蘇生的開胸術の目的については前回記事で書いた通り。
心臓は体のやや左側にあり、そこから出た大動脈も体の左側を通っている。
したがって、これらの臓器にアプローチしやすいのは左前側方開胸、つまり左側の前から側面にかけて開胸する方法だ。
コードブルーをこれまで見てきた方はよくわかるだろう。
これが蘇生的開胸術の基本になる。
ではもし、これに加えて右側の肺や肺血管の損傷があればどうすれば良いだろうか?
左側を大きく開胸しても、右側の胸腔まで処置することは難しい。
こういう時に行うのがクラムシェル開胸である。
具体的には、まずこれまで通りの左開胸で大動脈遮断と開胸心マッサージ(心停止があれば)を行う。
そしてその傷をそのまま右側まで広げ、右胸腔に到達する。
中央では胸骨を横切るのでこの骨を切ることになる。
この方法で左右の胸腔と、その中央部分(縦隔)にもアプローチできる。
この切り方をすると、ちょうど「二枚貝」が開くように傷が開くことから「クラムシェル」と呼ばれている。
クラムとは二枚貝のこと。
貝柱などの具材が入ったシチューのことをクラムチャウダーというが、その「クラム」と同じ意味である。
シェルは「貝殻」。
昭和シェル石油のロゴマークを思い出せば良い。
ただし、実際には今回のような鈍的外傷で心停止になったケースでこのような大開胸をしても救えないことが多い。
これについては前回記事で解説した通りである。
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田沢さんの細かすぎるリアリティ
2nd SEASONでは、冴島(比嘉愛未)の恋人である田沢の存在感がかなり大きい。
重度の神経疾患ALS(筋萎縮性軸索硬化症)を患っている田沢は、ある意味2nd SEASONのテーマである「救えない命」の代名詞的な存在となっている。
しかも田沢自身は元心臓外科医。
外科医として脂が乗り始めた、まさにその時期に道半ばにして志を閉ざされた田沢の語る言葉は、同じ外科医の藍沢(山下智久)にも大きな影響を与えている。
さて、実は田沢の周囲のセットは、病状に合わせてかなり細かいところまでしっかり作り込んであり、コードブルーらしいこだわりを感じさせてくれる。
一例を挙げると、田沢が出てくるたび、横に置かれた点滴のそばに、黄色い蓋のケースに入ったクリーム色の液体が必ず映る。
経腸栄養剤である。
田沢は首から下が全て動かなくなっており、嚥下機能も落ちているため口から食事が摂れない。
「嚥下」とはものを飲み込むこと。
嚥下にかかわる筋肉も麻痺しているため、誤って口から食事を摂ると、気管に入って命にかかわりかねないのだ。
そこで「胃ろう」を作り、直接胃に栄養剤を投与しているのである(もちろんそういう説明はないのであくまで予想だが、それ以外考えられない)。
冴島が田沢と話しながら、このケースから繋がった管を定期的に交換する様子もよく映る。
おそらく栄養剤を1日3回ほど交換しながら胃に投与しているに違いない。
毎度のことながらこういう何気ないリアリティに、コードブルー製作スタッフの「半端じゃないこだわり」を感じるのである。
第5話の解説はこちら
(参考文献)
外傷専門診療ガイドライン JETEC/へるす出版