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かぜ薬で風邪が治らない理由、市販の総合感冒薬の成分と副作用

「かぜひいたときにかぜ薬を飲んだらすっきり治った」という経験がある方は多いでしょう。

一方で、「かぜ薬を飲んだのに今回はなかなか治らない、治るのに時間がかかった」という経験も誰しもあると思います。

なぜ、こういう違いがあると思いますか?

症状が本格的に出る前のかぜのひきはじめにかぜ薬を飲めば、早く治せるのでしょうか?

自分に合うかぜ薬を飲めば早く治るのでしょうか?

 

実はいずれも間違いです。

 

今回は、かぜをひいたときにかぜ薬を飲む目的と、その種類や正しい使い方、選び方を説明します。

「ちゃんとかぜ薬を飲んだのに治らない!」といって病院に来る方は多いですが、その前にひとまずこのページを読んでかぜに関する知識を整理しておきましょう。

 

かぜがすぐ治るとき、治らないときの違い

冒頭の疑問に戻ります。

「かぜがすっきり治るときと治らないときがあるのはなぜか?」でしたね。

答えはこうです。

すっきり治ったのは軽いかぜだったからです。

なかなか治らないのは、その逆です(ウイルスの勢いが強いか自分の免疫力が低いかです)。

つまり、かぜ薬の効き目は関係ありません。

なぜなら、かぜ薬はかぜを治す薬ではないからです。

では、かぜ薬はどういう薬なのでしょうか?

 

かぜ薬の目的は?

かぜ(感冒)は大部分が上気道のウイルス感染です。

もし「かぜを治す薬」があるとすれば、それは「かぜの原因となるウイルスをやっつける薬」でなくてはなりません

しかし残念ながらそういう薬はありません。

かぜの特効薬はないのです。

かぜを治すのは薬ではありません、自分の免疫力です。

 

抗生物質があるじゃないか!」

という人がいるかもしれません。

残念ながら、抗菌薬(抗生剤・抗生物質)は細菌をやっつける薬です。

かぜはほとんどがウイルスによる病気です。

抗菌薬はウイルスには全く効果がないので、かぜは抗菌薬では治りません。

かぜで抗菌薬を飲めば、副作用のリスクだけを飲んでいることになります。

抗菌薬を飲んだら風邪が早く治った経験がある!

という方がいるかもしれません。

その理由は、やはり「その時は軽い風邪だったから」です。

抗菌薬を飲まなくても早く治ったでしょう。

 

では、かぜ薬の目的は何なのでしょうか?

それは、かぜによって起こるいろいろな症状を軽くすることです。

こういう治療のことを「対症療法」といいます。

 

かぜ薬の成分は、

解熱鎮痛薬を下げ、頭痛のどの痛みをおさえる)

咳止め

たん切り

アレルギー薬(くしゃみ・鼻水をおさえる)

などです。

つまり、かぜによって起こる、発熱頭痛のどの痛みたん鼻水といった症状を軽くする薬だということです。

市販の薬は、これらの分量の差などで、「咳に強い」「鼻水に効く」などと特徴をもたせています。

「かぜ薬が効く」というのは、こういう症状が「軽くなる」ということで、「かぜが治る」ではありません。

 

同じく、「かぜ薬を早めに飲んでおけば早くかぜが治る」と考えるのは適切ではありません。

「早いうちから症状を軽くする」だけだからです。

「かぜのひきはじめに飲んだから早く治った」と思うのは、何もしなくても治る期間が短いような「軽いかぜだった」とお考え下さい。

 

したがって、「病院に行けば早くかぜが治る」ということもありません。

かぜであれば、病院でも症状を軽くする薬を処方されるだけですが、それは薬局で市販されているかぜ薬と大差はありません

病院でしか処方できない特別なかぜ薬が処方されることはありませんし、市販薬より処方薬の方がよく効く、ということもありません

 

「点滴をしてもらえば早く治る」と思っている人がいるかもしれませんが、点滴はほぼただの食塩水です(水にナトリウムやカリウムなどのミネラルが入っています)。

点滴はかぜを治す薬ではありません

重度の脱水がある方や、自分で口から水分が取れない方などの水分補給が目的です。

 

かぜ薬は必須ではない

かぜ薬は、かぜの厄介な症状、つまり熱、咳、たん、鼻水といった症状を軽くするという意味では良い薬です。

かぜを治すことができなくても、こういう症状をおさえることで日常生活は楽になるからです。

ただ、病気の原因を取り除く薬ではありませんので、症状を軽くするだけで完全におさえることはできません。

状況によってはあまり効き目を感じないこともあるでしょう。

いずれにしても、特にかぜに不可欠な薬ではないと言えます(かぜは自然に治るからです)。

 

おすすめのかぜ薬はありますか?」ときかれることがありますが、答えることができません。

私は、解熱剤はよく飲みますが、かぜ薬は飲まないからです。

理由は二つあります。

一つ目は、症状によっては必要のない成分が含まれていることです。

たとえば熱と鼻水という症状だけがあって、たんも咳もないときに、たん切りと咳止めの成分は必要ありません。

逆に、鼻水がないのに、必要のないアレルギー薬(抗ヒスタミン薬)のせいで眠くなるのも困ります。

複数の症状に効く成分が含まれていることは利点でもありますが、必要のない成分を取り除くことができないことは欠点とも言えます。

 

二つ目は、かぜ薬はその効果の割に値段が高いことです。

かぜを短期間で治す薬なら高いお金を払う価値がありますが、せいぜい症状を軽くできるだけならコストパフォーマンスは悪いと感じます。

 

かぜ薬を飲む時の注意点

解熱鎮痛薬に注意

かぜ薬には、解熱剤(解熱鎮痛薬)がほぼ必ず含まれています。

注意すべきなのは、副作用のリスクです。

市販の総合感冒薬に含まれる解熱剤は、

・ロキソニンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)

アセトアミノフェン

の2種類があります。

 

たとえば代表的なかぜ薬、PL顆粒には、非ステロイド性抗炎症薬であるサリチルアミドと、アセトアミノフェンの両方が含まれています。

一方、ルルにはアセトアミノフェンが含まれています。

パブロンはどうでしょうか?

種類が様々にありますが、「パブロンエースAX」にはイブプロフェン(非ステロイド性抗炎症薬)が含まれています。

一方で「パブロンSゴールドW」にはアセトアミノフェンが含まれています。

エスタックは名前で示されていて親切です。

「エスタック総合感冒薬」はアセトアミノフェン、「エスタックイブ」はその名の通りイブプロフェン(非ステロイド性抗炎症薬)を含みます。

このように、かぜ薬には解熱鎮痛剤の成分がほぼ必ず含まれています。

 

アセトアミノフェンは肝臓で代謝されるため、肝臓に病気がある人は、肝機能の悪化などの副作用が出ることがあります。

一方、非ステロイド性抗炎症薬は、腎障害、喘息、胃潰瘍・十二指腸潰瘍といった副作用に注意が必要です。

解熱剤の副作用については、こちらで詳しく解説しています。

飲み過ぎ危険?痛み止めと解熱剤の種類と4つの副作用

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お酒に注意

かぜ薬を飲んだあとにお酒を飲むのは控えましょう。

かぜ薬には、眠気を起こす抗ヒスタミン剤が含まれているものが多くあります。

お酒の作用と合まって強い眠気を起こしたり、ふらついて怪我をするリスクがあります。

またかぜ薬に含まれる解熱鎮痛薬のうちアセトアミノフェンは肝臓で代謝されます

お酒を飲みすぎると、肝臓に過度な負担がかかることになります。

かぜ薬を飲んだときは、アルコールは控えましょう。

 

妊娠中・授乳中は注意

風邪薬に含まれる解熱鎮痛剤の成分や、咳止めの成分の中に、胎児に悪影響を及ぼすリスクのあるものがあります。

また、母乳を通して赤ちゃんに悪影響を及ぼすものもあります。

もちろん成分を選べば問題なく飲めますが、前述の通り、風邪薬は風邪に必須の薬ではありません。

あまり効果が高くないのに、慎重に選ぼうとして神経質になる方が精神的な負担は大きいと思います。

妊娠中、授乳中の方は、わざわざ風邪薬を飲む必要はないというのが私の意見です。

 

かぜをひいたときに注意したいこと

「かぜは自然に治るもの」

「かぜ薬はかぜを治せない、かぜの症状をおさえるだけ」

ということを書いてきました。

しかし、かぜを軽視してはいけないときもあります。

かぜをきっかけに肺炎を起こしたり、他の重篤な病気を起こす人がいるからです。

 

たとえば抗がん剤治療中の方、ステロイド治療を行っている方、高齢の方、心臓や腎臓などの臓器に重い持病を持っている方などです。

こういった方が熱を出したときは、「単なるかぜだろう」と思って軽視してはならないときです。

かならず医療機関を受診していただきたいと思います。

今回の記事は、大人のかぜについて書いています。

子供の場合は全く異なる注意が必要です

たとえば、子供がインフルエンザで高熱を出した時に、「解熱剤を飲ませたい」と思う方がいるかもしれませんが、小児が非ステロイド性抗炎症薬を含む薬を飲んではいけません。

小児についてはこちらの記事をご覧ください。

(参考文献)
日本呼吸器学会HP「かぜ症候群」
感染症専門医テキスト 第1部解説編/南江堂