『すばらしい医学』シリーズ累計21万部

病院でよく出会う「患者が損する風邪受診」3つのパターン

注意
本記事は2018年10月に書かれた記事です。

毎年風邪が流行る季節になると、病院には風邪の患者さんが殺到します。

総合感冒薬を処方したり、症状に合わせて咳止めや痰切り、解熱剤などを処方するのですが、大部分のケースで私たちは、

「外来の待合で長時間待って受けるにしてはあまりに割りの合わない治療だ」

と感じています。

なぜなら、

・風邪の特効薬はない

・風邪薬は風邪の症状をある程度抑えるだけで、風邪を「治す」力はない

・症状を抑えたいなら市販薬で事足りる

・わざわざ病院に来ることで風邪を悪化させるリスクがある

といったことを知っているからです。

 

もちろん、「風邪っぽいけれど風邪ではない怖い病気」は確かにあります。

熱や咳が続く、という症状で肺炎だと分かる方もいますし、喉が痛い、という症状で扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎といった特別な治療が必要な病気が発覚する方もいます

しかし、大部分は「病院にわざわざ来る必要はない」と私たちが思う患者さんたちの受診です。

今回は私たちが外来でよく出会う、ご本人にとって「損だ」と思われる典型的な風邪受診のパターンを3つ紹介します。

 

風邪を早く治したい若い成人の受診

昨日から喉の調子が悪く、咳が出始め、微熱もある。

いつもの風邪症状だ。

早く治さないと仕事に支障を来すから、早めに病院に行って薬をもらおう。

仕事の忙しい会社員の方などによくあるパターンです。

「早めに治したい」という思いがある以上、来院時は必ず「風邪をひいたばかり」です。

特に持病などはなく、生来健康。

食事や水分はそれなりに摂れている。

こういう状況で、医療機関ができることはほぼ何もありません

 

症状に合わせて薬を出すことが多いのですが、市販薬とさして効き目に差はありませんし、そもそも風邪を治す薬はないので、必須の処方でもありません

「なるべく早く帰ってよく食べてゆっくり休養してください」

と、身も蓋もないお話をするしかありません。

 

風邪はほとんどがウイルス感染なので、細菌感染症に効く抗菌薬(抗生物質)では風邪は治りません

点滴を希望する方もいますが、点滴に風邪を治す成分は入っていませんし、口から水分が摂れるのにわざわざ痛い思いをして血管に水分を無理やり注入する意義がありません

 

「風邪っぽいけれど風邪ではない怖い病気」だったらどうするんだ!?」

と思った方がいるでしょうか?

このパターンの方は早めの受診で、症状が出てから間もないため、「風邪ではないかもしれない」という判断ができる時期にありません

よって、

「熱が下がらない、咳が続いて痰も多い、といった症状が数日間続くようなら、風邪ではないかもしれないのでもう一度来てください」

とお伝えすることになります。

受診した時点では何もできないのです。

 

これに加えて、

「もし喉の痛みが強い、などで水分すら摂れなくなったら点滴が必要なこともありますから、病院に来てください」

とたいてい伝えます。

これらの話を聞くためだけに、わざわざ病院の待ち合いで長時間待つことはあまりに割りが合いませんね。

 

もちろん、免疫不全となるような何らかの持病がある、高齢者である、といった、「医療の介入が必須となるような危険な病気」に発展するリスクがある人の場合は除きます

(風邪で病院に来る方の大半はこういうリスクのある人ではありません)

点滴の成分についてはこちらの連載記事で書いています。

風邪が点滴では絶対に治らない理由

 

病院の風邪薬をもらうために受診

風邪を早めに治そうと思って市販薬を飲み始めた。

しかしあまり効果が感じられないので、病院で風邪薬を処方してもらいに来た。

このパターンも非常に多いです。

私たちがお伝えすることは、2点あります。

風邪薬は風邪を治す薬ではなく、症状を抑える薬に過ぎないため服用は必須ではない

病院で処方する風邪薬と、市販の風邪薬の成分に大差はない

ということです。

 

風邪薬については以下の記事でも説明しています。

かぜ薬で風邪が治らない理由、市販の総合感冒薬の成分と副作用

 

覚えておくべきは、風邪薬(総合感冒薬)には風邪を「治す」効果はないことです。

成分を見れば明らかです。

熱を下げたり、鼻水や咳を軽くしたり、といった症状を抑える成分しか含まれていません

風邪に対する特効薬ではないのです。

 

もちろんこうした辛い症状が少しでも軽くなるなら、使用する意義はあります。

ただし、病院に行くべきかどうか、というと別問題です。

「市販薬より病院でもらう薬の方がよく効く」と思い込んでいる方がたくさんいます。

残念ながら、病院でも風邪に対して出す薬は、解熱剤、抗ヒスタミン薬(鼻水に対して)、咳止め、痰切り、などの類です。

市販薬と大きな違いはありません

 

むろん「病院では保険が効くから市販薬より安く済む」ということをメリットだと考える方がいるかもしれません。

しかし、薬局でも手に入る薬をもらうために長時間病院で待つことで、風邪を悪化させるリスクを考えるとあまりに割に合いません

風邪を早く治したい人は、むしろ多くお金を払ってでも意味のある手段を選びたいのではないでしょうか。

広告

 

前医の薬が効かないので別の病院を受診

風邪を早めに治そうと思って近所のクリニックに行って薬をもらった。

しかしあまり効果が感じられないので、大きな病院に来た。

「まだ風邪をひいて間もない時期に、大きなリスクのない方が、近所の開業医の先生に薬を処方してもらったが治らないので、その薬を持って翌日や翌々日といった短期間の間に大きな病院に来る」

というパターンが非常に多いです。

ほとんどのケースでは、開業医の先生が処方している薬を見ると、症状に対して十分すぎるくらいきっちり対応されています

まさに、大きな病院の救急外来で対応する私たち勤務医が「何もすることがない」と感じるケースです。

 

よってこういう方に毎回お伝えするのは、

「風邪はすぐには治りません。だいたい咳や喉の痛みはぐずぐず続くものです。」

ということです。

加えて、こうも言います。

「もし、1週間近く熱や咳が続くなど、長期間症状が持続する場合は、最初に見てくれた先生のところに行ってください。

最初の症状や診察所見と正確な比較ができるのはその先生です」

 

長期間症状が持続していたり、悪化していたりするケースで医師を変えることは得策ではありません

もし、その医師が経過を見て自院でできないような検査や治療が必要だと判断すれば、その時点で大きな病院に紹介してくれます。

人間的に相性が悪い、といった場合を除き、同じ先生に診てもらうことをおすすめします

 

以上、病院でよく出会う風邪の患者さんを3パターン挙げました。

風邪をひいた時は、特にリスクのないもともと健康な方であれば、わざわざ病院に行かずに自宅療養する方が有効です。

以下の記事もご参照ください。

風邪を早く治したい!医師が教える風邪の治し方、よく見る間違った対処法