病院で勤務していると、驚くほどコンサルトが上手な医師や看護師に出会うことがあります。
情報量は必要十分で、その情報は適切な順序で伝達され、よどみなく話し、そのコンサルトの目的も明確に伝わります。
一方、コンサルトが苦手な人が相手だと、何を言いたいのかがよく分からず、何度も聞き直すうちにどちらがコールしたのか分からないような質疑応答になってしまうこともあります。
コンサルトが上手な人と苦手な人は、一体何が違うのでしょうか?
コンサルトの理想的な方法として重要なポイントは二つあります。
一つ目は、コンサルトの目的を最初に明確にすること。
二つ目は、情報をピラミッド型の階層で整理すること。
今回は、自分がコンサルトする際にも意識している、理想的なコンサルト方法を紹介します。
研修医の先生が専門科医師にコンサルトする際をイメージして書きますが、看護師が当直医にコールする際にも使える方法です。
具体例を挙げながら、分かりやすく説明しましょう。
(コンサルトの方法には受け手の好みもありますので、あくまで一人の意見としてご参考ください)
目的を最初に明確にする
例えば、私のような消化器外科医に虫垂炎疑い患者のコンサルトをするとします。
よくあるのは、以下のようなコンサルトです。
45歳男性の方で、昨日からの右下腹部痛で外来に来られました。
既往にCOPDがあり、吸入薬を使用されています。
昨日まで食事は普通にとれていたようですが、今朝からは腹痛が強くなり食事がとれていません。
来院時のバイタルは血圧が120/70、脈拍100。
体温は37.6℃と微熱を認めています。
身体所見としては、右下腹部に圧痛を認め、腹膜刺激兆候を認めています。
血液検査では・・・があります。
造影CTを撮影したところ虫垂の腫大と周囲に径3センチの膿瘍を疑う低吸収域を認めます。
一度診察をお願いできますでしょうか?
それなりに上手だとは思いますが、このタイプを「症例報告型コンサルト」と私は勝手に呼んでいます。
電話の相手はこの長いコンサルトを聞いている間、
「自分は今、一体何を目的にコールを受けているのだろうか?」
という疑問を抱き続けることになります。
結論が最後まで現れないので、
どんな病気を疑っているのか?
虫垂炎?腸閉塞?穿孔?
手術依頼?
手術適応かどうかを検討してほしい?
軽症なので抗菌薬で帰宅可能かどうかを判断してほしい?
もう帰そうと思っていて最後の確認?
とぐるぐる頭を巡らせながら聞いています。
これらの情報が明らかになるのは最後の最後なので、それまで相手にかなりもどかしい思いをさせることになります。
こういうコンサルトになってしまうのは、一次情報に触れた人にとっては情報を「仕入れた順番」に並べるのが伝えやすいからです。
しかし、その情報を伝達される側として理想的なのはもちろん「相手にとって必要度が高い順番」に並べることです。
では、上の文章を理想的なコンサルトに書き換えてみます。
45歳男性の方で、造影CTで穿孔性虫垂炎が疑われるので、手術適応についてご相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?
昨日18時頃からの右下腹部痛で、腹膜刺激兆候を認めており、血液検査で・・・を認めています。
既往としてCOPDがあって当院かかりつけの方ですが、それ以外にはリスクのない方です。
造影CTでは、虫垂の腫大と周囲に膿瘍を認めており、穿孔が疑われます。
診察をお願いできますでしょうか?
今回は、確定診断に最も有用な造影CTが既に行われているので、1文目で勝負を決めにいきます。
この1文だけで相手はコンサルトの目的を知るので、せっかちな人であればここで「あ、今から行くわ」で電話が終わるでしょう。
まず、コンサルトの目的から話を始めるのがポイントで、その後、自覚症状→他覚所見と進み、最後にもう一度最終目的を登場させます。
一方、確定診断に必要な検査が行われていない場合でも考え方は同じです。
まず冒頭は、
45歳男性で、経過と身体所見から虫垂炎を疑う方なのですが、造影CTの適応についてご相談させていただいてよろしいですか?
となります。
専門科によって事情は様々ですが、「相手がどの情報から順に知りたいか」を常に意識することで、スムーズなコンサルトができるようになります。
ピラミッド型の階層を使って情報整理
コンサルトする前に、相手に「どのくらい詳しく情報を説明すべきか」を考える必要があります。
この時重要なのが、情報の整理の仕方です。
患者さんの情報は、全てを同列に考えるのではなく、以下の図のようにピラミッド型の「階層」をイメージすると良いと思います。
(図は一例です。ケースによって伝える事項は変わるでしょう)
そしてコンサルト時に「どの階層の情報から伝えるべきか」を考えます。
これを決めるのが、
「患者さんの病態」と「相手がどこまでの情報をすでに持っているか」
の2点です。
患者さんの病態
例えば「肝硬変、食道静脈瘤破裂の既往がある患者の、吐血・ショック」であれば、最上段の情報をいくつかかいつまんで話せば医師は動きます。
その下の階層の情報の優先度は下がりますし、話している余裕もありません。
一方、術後合併症で長期入院、誤嚥性肺炎を繰り返していて、DNRの同意が得られている、超高齢患者の発熱であれば、かなり下層の情報から説明が必要です。
上段の「高齢者+発熱」だけでは、医師は適切な動きが全くイメージできません。
患者さんの病態に応じて、どのくらい深い階層から情報を提供すべきかが変わってくるということです。
相手がどこまでの情報をすでに持っているか
極端な話をすれば、上述の複雑な経過の高齢者でも、その患者さんの主治医が相手なら「患者名+発熱」で十分な可能性があります。
主治医であれば、患者さんの詳細な背景を肌に触れて知っているからです。
では、その日だけ病院に来たバイトの当直医だったらどうでしょうか?
相手がどの階層までの情報を知っているかも、コンサルトの際に考えておくべきポイントなのです。
大まかなグループ分けとして、
主治医(外来担当医)
同じ科だが担当ではない医師
他科の医師
他病院のバイト医師
などを段階的にイメージします。
これは、「伝えるべき情報量が少なく済む人」の順番に並んでいます。
その患者さんを担当している主治医であれば、当然余計な情報は不要です。
一方、他科の医師やバイト医であれば、病状によっては、その方のADLや家庭環境、既往・内服、これまでの経過などを詳しく説明しなければなりません。
患者さんのことを全く知らない医師にいきなり上層の情報から入ると、土台がないので患者さんをうまくイメージすることができません。
逆にすでに下層の情報を知っている医師に、下層から説明すると冗長になります。
電話をかけてから考えてはスムーズなコンサルトができないため、このようにピラミッド型の階層をイメージして情報を整理しておくと良いでしょう。
コンサルトが苦手、という新人看護師や研修医の先生は、このイメージで簡単にメモを作っても良いかもしれません。
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手術適応に関するコンサルトは?
相手が外科医の場合は、手術適応についてコンサルトする場面があると思います。
こうした場面で必ず伝えるべきなのが、手術リスクです。
例えば、虫垂炎のコンサルトで悪い例を考えてみます。
45歳男性の方で、造影CTの結果穿孔性虫垂炎が疑われるので手術適応についてご相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?
昨日18時頃からの右下腹部痛で、腹膜刺激兆候を認めており、血液検査で・・・を認めています。
既往としてCOPDと胃癌術後で当院かかりつけの方です。
造影CTでは、虫垂の腫大と周囲に膿瘍を認めていまして、穿孔が疑われます。
診察をお願いできますでしょうか?
このコンサルトを受けた外科医が手術の同意書を作成し、オペ室看護師と麻酔科医に一報入れて患者さんの元に診察に行きます。
ところが、患者さんを見て驚きます。
重度のCOPDで在宅酸素中、しかも胃癌の術後再発で腹膜播種があり、化学療法中でした。
こうなると、虫垂炎自体は手術適応でも、全身状態を考えると保存的加療を検討すべき、ということになります。
手術する気でしっかり準備していた外科医は、拍子抜けしてしまいました。
確かに外科医の方も、COPD、胃癌術後、という情報から、これらが手術適応に与える影響を考慮して詳細を聞き出すべきだったのは間違いありません。
しかしコンサルトする側としても、手術適応に影響を与える可能性のある背景因子はきっちり把握し、コンサルト時に強調すべきだったと言えます。
他にも、
呼吸器疾患の既往があるなら、直近の呼吸機能検査のデータはあるか?
心疾患の既往があれば、直近の心エコーで心機能は精査されているか?
手術歴があるなら、いつどんな手術を受けたのか?
悪性疾患の既往があれば、現在治療中なのか、ステージはどのくらいか、治療後どのくらいの期間がたっているか?
といった部分をチェックして、必要な事項はコンサルトの際に早めに伝えなくてはなりません。
逆にこうしたリスクがないのなら、
「◯◯の既往はありますが、それ以外に目立った手術リスクはありません」
と伝えることで、「手術適応は今の病状のみに焦点を絞って考えて下さい」と誘導することができます。
手術適応を大きく左右するような患者背景が患者さんに直接会ってから初めて分かる、という事態はなるべく避けるのが、スムーズなコンサルトのコツと言えるでしょう。
以上のことは、私が研修医の勉強会で1年生を相手に講義したことのある内容です。
ぜひ、参考にしてみてください。
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