病棟やICUに中心静脈カテーテルが挿入されている患者さんは多いと思いますが、その目的や種類について、きちんと理解できているでしょうか?
シングルルーメンやトリプルルーメンといったルーメン数の違い
鎖骨下、内頸、あるいは上腕といった挿入部位の違い
PICC、バスキュラーアクセスとの違い
について知識があいまい、という人は多いかもしれません。
本を買っても疑問が解決しない、ネットで調べてもよく分からない、という人もいるでしょう。
今回は中心静脈カテーテルについて、研修医や看護師向けに分かりやすく解説します。
なお、中心静脈カテーテルのことを未だにIVHと誤って呼ぶ人がいます。
「IVHカテーテル」や「IVHを行う」といった表現も全て誤りなので、自信がない方は必ず以下の記事を参照してください。
看護師/研修医のカルテ記録によく見る間違った言葉の使い方
目次
中心静脈カテーテルの目的
「中心静脈」とは、心臓に近い太い静脈、つまり上大静脈や下大静脈のことを指します。
これは、普段点滴の際にルートをとる「末梢静脈」の対義語に当たります。
輸液や抗菌薬などほとんどの薬剤は末梢静脈から投与可能なので、たいていの患者は末梢ルートだけで十分です。
中心静脈カテーテル(以下CVと略す)は、末梢ルートに比べると挿入に手間がかかる上に併発症リスクも高いため、できれば挿入したくはないデバイス(同意書の取得ももちろん必要)。
したがって、
「CVでないとダメ」
という時にしかCVは挿入しません。
当たり前のことですね。
ではどういう時にCVが必要なのでしょうか?
様々な目的がありますが、まずは以下の「主な2つの目的」を覚えておけば良いでしょう(大半のケースはこの2つ)。
主な2つの目的
末梢ルートから投与できない薬剤を投与すべきとき
上述したように、ほとんどの薬剤は末梢ルートから投与可能です。
しかし以下の薬剤は末梢ルートから投与することができません。
・中心静脈栄養製剤(エルネオパ、ハイカリック、フルカリックなど)
・昇圧剤(カテコラミン:ノルアドレナリンなど)
これらの薬剤を末梢ルートから投与すると、静脈炎を起こしてしまうからです。
よってこれらの薬剤投与が必要な患者にはCVが必要になります。
なお、中心静脈栄養(TPN)の適応は、経口摂取ができない、かつ経腸栄養もできないときです。
末梢ルートがとれないとき
末梢静脈が細くてルートが取れない、すぐに閉塞する、というケースで、かつまだ長期的に点滴が必要な場合です。
要するに、末梢でも投与できる薬剤しか使わないのにCVを使うしかない、というケースです。
他の目的での使用
毒性の強い薬剤投与
CVは薬剤が漏れるリスクがない、ということもメリットです。
抗がん剤を末梢ルートから投与して、万一皮下に漏れるとかなり重篤な皮膚障害を起こしてしまいます。
よって必須ではないものの、病院によっては「抗がん剤投与はCVから」としているところもあります。
中心静脈圧の測定
循環器や心臓外科患者で、中心静脈圧の測定が必要なケースでCVを挿入していることがあります(スワンガンツカテーテルを含む)。
心疾患あるいは一部の肺疾患に関わりのない病棟では、このケースに出会うことはありません。
挿入部位の違い
一般的にCVを挿入できるのは以下の3カ所です。
右鎖骨下静脈
右内頸静脈
右大腿静脈(鼠径部)
鎖骨下静脈と内頸静脈は上大静脈に、大腿静脈は下大静脈に先端が留置されていることになります。
いずれも右を使用するのは、もちろん大静脈が体の右にあって近い(経路が短い)からです。
それぞれに以下のようなメリット・デメリットがあります。
鎖骨下静脈
メリット
感染(カテーテル関連血流感染)や血栓が最も少なく安全です。
また患者の首の動きが制限されず、違和感が少ないという利点があります。
デメリット
挿入時の合併症として気胸、血胸のリスクがあります。
誤って動脈穿刺になった時の圧迫止血が難しいです。
手技が内頸よりやや難しいため、内頸静脈からの挿入に慣れた年配の医師は内頸を使用することも多いです。
内頸静脈
メリット
感染や血栓は(比較的)少ないとされます。
気胸のリスクは低く、挿入も容易なため使用されやすいです。
特に近年ではCV挿入にエコー(超音波)の使用が義務付けられた病院が多いため、エコー下で挿入しやすい内頸が選ばれやすいでしょう。
デメリット
首の動きが制限されるため、患者のQOLが落ちるリスクがあります。
首からカテーテルが出ているため、管理しにくいという欠点もあります。
大腿静脈
メリット
心肺停止患者の心肺蘇生中でも挿入できます。
手技が最も容易です。
デメリット
陰部に近く感染が多いという欠点があります。
また歩行が困難です(離床のさまたげになる)。
さらに血栓のリスクが高いとされます。
デメリットがかなり多いため、大腿静脈での留置は近年減っています。
ルーメン数の違い
CVはシングルルーメン、ダブルルーメン、トリプルルーメンから選びます。
上の写真は青と茶色のダブルルーメンのものですが、シングルのものや、緑や白が加わってトリプルのものもあります。
これらは、何種類の薬剤を投与したいかによって使い分けます。
たとえば、
中心静脈栄養もしたい
カテコラミンも投与したい
といったケースなら少なくともダブル以上は必要です。
一方、中心静脈栄養しか行わないのならシングルでも可、といった具合です。
複数の薬剤を同時に投与したい場合、側管を使えばルーメン数が多くなくても良いのでは?
と思った人がいるかもしれませんが、CVでは側管が使いづらいケースもあります。
たとえば、カテコラミンをポンプで投与中に、短時間で生食を補液したい、あるいは輸血したいという場合を考えてみましょう。
側管からの投与速度を速くすると、それに引き込まれるようにメインが落ち、薬剤の投与速度が狂ってしまいます。
CVから投与する薬剤は、中心静脈栄養にしてもカテコラミンにしても、投与速度の調整がシビアです。
少しでも投与量が狂うと危険で、「急速投与」は命に関わります。
よって2種類以上薬剤を投与したい、というケースでは基本はダブル以上が勧められます。
中心静脈にアプローチする他の方法
中心静脈にアプローチする方法はCVだけではありません。
以下のような方法もあります。
PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)
主に上腕から中心静脈に長いカテーテルを挿入する方法です。
こちらも広義の「中心静脈カテーテル」で、一般的なCVとは穿刺位置が違うだけです。
先端はCVと同じ上大静脈にあるため、使用できる薬剤も同じです。
メリット
感染率は非常に低いとされています。
穿刺血管は末梢静脈なので、気胸や太い動脈損傷のリスクもありません。
体表面の外見は末梢ルートと同じなので、患者の不安が少なく、QOL低下のリスクも少ないのが特徴です。
首や肩に挿入するCVと違って、挿入時に患者が感じる恐怖心が少ないのも利点です。
細い静脈穿刺のため、内頸や鎖骨下静脈穿刺時に起こりうる空気塞栓(大量の空気が血管内に入って塞栓症を起こす)のリスクも低いです。
欧米のガイドラインではすでに、中心静脈カテーテルが必要なケースでの第一選択はPICCです。
日本のガイドラインでも中心静脈栄養はPICCがほぼ第一選択と認識されています。
よってほとんどのケースで、CVではなくPICCを使用することが望ましいと考えます。
※この点については以前私も論文(Yamamoto et al. J Jpn Coll Surg. 43: 783-788, 2018)にしています。
デメリット
手技に慣れるまでは、挿入がやや難しく感じます(ただし慣れれば準備時間を入れても15〜30分と容易)。
上腕の静脈穿刺時はエコーが必須(肉眼では見えない上に内頸や鎖骨下と違って目印もない)で、内頸静脈や鎖骨下静脈より細いため、穿刺がやや難しいです。
(肘静脈や前腕にすれば穿刺は容易ですが、肘の屈曲時に閉塞するため上腕の留置が望ましい)
透視下に行うことも多いため、やや手技が煩雑です(実際にはベッドサイドで盲目的に挿入可能だが、安全性を考慮して透視下で行う施設が多い)。
血管炎を起こしやすい欠点もあります(細い血管にカテーテルを留置するため、血管壁に接していると静脈炎を起こすリスクがある)。
バスキュラーアクセスカテーテル
血液透析用の太い中心静脈カテーテルです。
目的は、シャントがない患者の緊急透析です。
血液透析は、普通は前腕にあるシャントから行います。
しかし、急性腎不全などで緊急透析が必要な場合、シャントのない患者に血液透析をしなければなりません。
もちろん末梢ルートから透析はできません。
太い血管を使用しなければ透析はできないので、専用の中心静脈カテーテル挿入が必要になります。
これがバスキュラーアクセスカテーテルです。
ちなみに、このカテーテルは施設によって呼び名が違い、
ブラッドアクセス
バスキャス
FDL
といった「あだ名」や商品名で呼ばれることも多いのですが、正式名称は「バスキュラーアクセスカテーテル」であることを覚えておきましょう。
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CVの注意点
大量輸液はできない
CVがあれば大量輸液、輸血ができる、と誤解している人がいます。
管から注入できる液体のスピードは、管が太ければ太いほど、短ければ短いほど速いです。
しかしCVは、たいてい管は細く、そして長いですね。
CVは、太いものをあえて選ばない限り、一般的にはおよそ18〜20G程度に相当する太さを選んでいることが多いはずです。
つまり末梢ルートと同じくらいです。
しかも末梢ルートより遥かに長いため、投与に時間がかかってしまいます。
脱水や出血でショック、というケースで輸液や輸血を大量に急速投与したいなら、末梢に太いルートを複数本取るべきです(16-18Gなど)。
逆にCVから急速投与したいなら、太いものを選んでおく必要があります。
(商品のラインナップとしては18Gの2倍くらいの太さに相当するものまであるが、在庫があるかどうかは病院による)
挿入後すぐに長さを確認
CVを挿入したら長さを確認しましょう。
挿入後数日して抜けてきたり、入り込んでしまったりすることがあるためです。
テープで固定した後は、カテに書かれた長さを示す目盛りが見えにくくなるため、医師は留置したらすぐ長さを看護師に報告しましょう。
また、看護師はすぐにメモしましょう。
なお挿入位置による長さの目安は以下の通りです。
内頸静脈:13-15cm(左なら+2cm)
鎖骨下静脈:13-15cm(左なら+2cm)
大腿静脈:40-50cm
PICC:35-50cm(左なら+5-10cm)
ただし、ここに書いた長さは目安に過ぎません。
当然、体型によって適切な長さはかなり異なるため、レントゲンで位置確認後に、ズレがあれば調整する必要があります。
一般的には、先端の位置は気管分岐部から、1椎体分下くらいまでを目安とします。
放射線技師にオーダーする際は「CVの位置確認」と一言申し添えなくてはなりません。
挿入位置に応じて、技師が適宜撮影範囲を調整してくれます。
CV抜去のタイミング
CVは、必要がなくなればもちろん抜去します(ベッドサイドで抜いたのち数分押さえておくだけ)。
そのタイミングは、上述した目的での使用が終わった時です(中心静脈栄養の終了、カテコラミン投与終了など)。
また、血流感染やカテーテル閉塞などのカテーテル関連合併症が起こった場合も抜去し、入れ替えが必要になります。
こうしたトラブルがなければ定期的なルート交換は不要です。
CVポート(リザーバー)との違い
最後に、間違いやすいCVカテーテルとCVポートの違いを説明しておきましょう。
CVポートは、CVやPICCの入り口に小さな器具をつけ、これを皮下に埋め込んだものです。
「皮下埋め込み型中心静脈アクセスポート」や「中心静脈注射用植え込み型カテーテル」などと呼ばれることもあります。
この器具を皮膚の上から専用の針で刺すことで、いつでも輸液や静注ができます。
表面から見てもカテーテルが体内にあることが分かりにくく、そのまま日常生活も可能である(退院できる)ことが利点です。
(首や腕からカテーテルが飛び出た状態で自宅に帰るわけにはいかない)
よって「CVカテーテルではなくCVポートが必要」なケースとは、主に、
「退院後もCVを使わなければならない」
というケースのことです。
主には、
在宅中心静脈栄養が必要なケース(または転院先がCVポートでの中心静脈栄養を希望したケース)
長期的な外来化学療法が必要なケース
が多いでしょう。
こういう目的でCVポートを留置して自宅生活している人が入院すれば、入院中もこのポートの使用が可能です。
普通の点滴や薬剤投与に使用しても問題ありません(医師の許可をルール付けしている病院は多いですが)。
またCVカテーテルもCVポートも採血に使用できますが、安全管理上の問題から禁止している病院もあるため、病院のルールに従う必要があります。
おすすめの本・参考書
もう少し詳しく勉強したい方は以下の本がおすすめです。
医学生向けの教科書ですが、看護師にもおすすめです(もちろんまだ持っていない研修医も)。
CVだけでなく、末梢ルート、胸腔ドレーン、皮下注、筋注の方法、心肺蘇生法など、ありとあらゆる手技をイラストと写真付きでわかりやすく解説しています。
これほど分かりやすくまとまった本は他になく、医学生向けだけにするにはもったいないほど汎用性の高い素晴らしいテキストです。
ルート確保も含め、全てDVD付きで分かりやすく解説されています。
具体的な挿入方法をしっかり学びたい方はこれがおすすめです。
PICCについて詳しく学んでおきたい方はこちらがおすすめです。
イラスト、写真とも豊富で非常に分かりやすい本です。
PICCについてはこれ1冊で十分でしょう。
本を買う場合は以下の記事もどうぞ!
非公開: 医学書を割引価格で安く買う方法!5つのパターンを徹底比較(参考文献)
The 2016 Infusion Therapy Standards of Practice. Home Healthc Now 35:10-18, 2017
ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: central venous catheters (access, care, diagnosis and therapy of complications). Clin Nutr 28:365-377, 2009
Guidelines for the prevention of intravascular catheter-related infections. Clin Infect Dis 52:e162-193, 2001