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「名医」と「ヤブ医者」に出会ったら必ず考えるべき2つのこと

ある症状で通院している最中に、何らかの理由で医師を替えたり、病院を替えたりした経験のある方は多いと思います。

もし、あなたを診てくれる医師が替わった後に、症状が良くなったとしたらどう思いますか?

後から診た医師を「優れた医師」とみなし、もとの医師は「劣った医師」だとみなす人が多いのではないでしょうか?

 

患者さんが病院にかかる時は、

「自分の症状を引き起こしているような明らかな原因があり、これを名医は見抜いてくれるはずだ」

と考える傾向があります。

そして、診た医師によって結果が違った時は、

「一方の判断は正しく、もう一方の判断は間違いだった」

という発想を持ってしまうことがあります。

 

しかし実際には、どちらも適切な判断を下した上で、結果として処方する薬や提案する治療が違った、いうケースは、実は非常に多くあります

今回は、「医師によって下す判断が異なることがある」という点から、よくある二つのパターンを挙げてみます。

 

知り得た情報量に違いがあった

一つ目は、「知り得た情報量に違いがあった」というパターンです。

一例を挙げてみます。

 

「抗菌薬(抗生物質)」は、細菌による感染症を治療するための薬です。

一人の医師が、患者さんの病状から細菌感染症を疑って抗菌薬を処方したとします。

ところが、全く症状は良くならない。

患者さんも、同じ病院に行って相談すればよかったのですが、「不適切な薬を出されたのではないか」と不安になり、別の病院に行ってしまう。

すると別の医師が、他の病気を疑って別の薬を処方し、症状が良くなる。

 

さて、この状況で患者さんはどう思うでしょうか?

きっと、「後から見た人は名医で、最初に見た人はヤブ医者だ」と考えるでしょう。

 

ところが、よく考えてみてください。

後から見た医師は、「抗菌薬が効いていない」という事実を知ることができたために、「細菌感染症ではない可能性」を検討できたのかもしれません

後で見る医師は、最初に見た医師に比べると、大きなヒントをもらった状態で診断できるということです

 

このように、ある医師が何らかの判断を下して治療を一定期間行っていると、後から見た別の医師は、

「その治療が患者さんにどんな影響を及ぼしたか」

を知ったうえで別の判断を下すことができます。

「Aという治療が効かなかったということは、Bという治療が効くのではないか」

と考える場面は、実際よくあるのです。

 

この現象を私たちは、「後医は名医」と呼びます。

後から見て治療経過を知ることができた人は、より正確な診断がしやすいため、患者さんから見て「名医」になりやすい、という意味です。

正確な診断ができなかった前医を批判してはならない、という戒めに使うこともあります。

 

そもそも、短期間で簡単に症状の原因を見抜き、その原因をターゲットにしてベストな治療を提案できる機会は、それほど多くはありません

むしろ、何度か診察し、治療の反応を見ながら軌道修正していくことが大切です。

その間に徐々に情報が蓄積していき、より確度の高い判断に近づいていくのです。

 

もし、この途中で医師が替われば、あとから診た医師の方が得られる情報量は多くなります。

この場合、医師によって判断が異なっても全く不思議ではありません。

(※ここで例に挙げた抗菌薬治療は典型例ではありません。あくまで話を分かりやすくするために抗菌薬の話を具体例に選びました)

 

時間経過による病状の変化

2つ目は「時間経過による病状の変化」です。

医師と患者さんの病気に対する考え方が食い違う原因の一つに、

「病状の変化のスピードに対する感覚の違い」

があります。

言い換えれば、

「医師は患者より、はるかに激しい速度で病状は変化するものと考えている」

ということです。

こちらも、例を挙げてみます。

 

ある患者さんが咳と鼻水の症状で病院に行ったとします。

医師は、「風邪ですね。様子を見ましょう」と言って風邪薬を処方する。

ところが、薬を飲んでも症状は良くなりません。

「この風邪薬がダメなんじゃないか?本当にあの医者は大丈夫なのか?」

不審に思った患者さんは、数日後に別の病院に行きます。

すると医師はその患者さんを診察し、検査をした上で、

「肺炎です。すぐに入院して抗生物質で治療しましょう」

と言う。

 

さて、この患者さんはどう思うでしょうか?

「最初の医者は肺炎を見抜けなかったから風邪薬を出したのだ。最初から抗生物質を出してくれていたらこんなことにはならなかった」

と思い、最初の医師に不信感を抱くかもしれません。

 

一方、私たち医師はこういう状況では、

「受診したそれぞれのタイミングで適切な診療を行った」

と考える可能性が高く、たいてい違和感を持ちません。

数時間、数日といった短期間で状態が目まぐるしく変化する病気は非常に多いからです

 

つまり私たちは、「最初の医師が肺炎を見抜けなかった可能性」より先に、「その時はまだ肺炎ではなかった可能性」の方を、ごく自然に考えるのです

 

基本的にどんな病気でも、病状は時間とともに刻一刻と変化しています

入院しなくてはならないような病気の方であれば特に、急性期の病状は急速に変化します

「医師によって見解が異なる」と思った時は、単に「短時間で病状が変化しているだけ」という可能性があるわけです。

 

むろん、医師が行うべきなのは、患者さんに、

「病状が予想もしないスピードで今後変化する可能性がある」

という見通しをきちんと丁寧に伝えることです。

そして、上述のようなケースであれば、「様子を見ましょう」で診療を終わらせるのではなく、

「次にどんな状態になればもう一度受診してほしいか」

を、可能なかぎり具体的に伝えておくことが大切です。

 

医師ー患者間では、ふとしたボタンの掛け違いが、人間関係の破綻に発展することがあります

医師はきちんと説明義務を果たす必要がありますし、患者さんもまた、医師の考え方をしっかり理解できている方が、治療はうまくいく可能性は高いと思います。

 

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病気のリスクの捉え方|医師と患者の考えはなぜすれ違うのか?