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病気のリスクの捉え方|医師と患者の考えはなぜすれ違うのか?

がんだと診断された時、多くの患者さんは、

「あの時のあれが原因ではないか」

「こうしておけばがんにならなかったんじゃないか」

と、過去を暗澹たる思いで振り返ります。

中には、自分自身やご家族を責めてしまう人もいます。

 

ご家族や知人ががんになった話を聞けば、同じようにその方の過去を振り返り、

「自分はあんな風にならないように気をつけよう」

と考え、そのがんの原因をインターネットで検索したり、書店に行って本を探したりするかもしれません。

 

しかし、こうした作業中に「原因らしきもの」が見つかった時が大きな落とし穴です

なぜでしょうか?

患者さんの中には「病気のリスク」という考え方に関して知識が十分ではない方が多いからです

 

病気のリスクの考え方

私は日頃から、病気のリスクに関して、医師・患者間にコミュニケーションエラーが生じやすいと感じています。

下図は私が持つイメージで、左が医師、右が患者さんの捉え方です。

医師が病気のリスクを考える時の重要なポイントとして、

・病気には数え切れないほどのリスク因子がある

・リスクには、リスクの度合いが高いものと低いもの、というように「リスクの程度」に差がある

・現在まだ分かっていない「未知のリスク」が多くある

・現在リスクだと思われているものが、実は「リスクではない」と将来的に判明する可能性がある

という4点が挙げられます。

 

具体例を書いてみます。

肉類の摂取が大腸がんの発症リスクになる、という報告があります(Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20(4):603-12.)

もし肉が好きな患者さんが大腸がんと診断され、この結論だけを知ったらどう思うでしょうか?

きっと、

「自分は肉が好きで、人一倍肉を食べていたからだ」

と落ち込むことでしょう。

ご家族は「自分が料理に肉ばかり使っていたかもしれない」と一緒に落ち込むかもしれないし、「外食で肉ばっかり食べているからだ!」と患者さん本人を責めるかもしれません。

一般的に患者さんは、病気の発症過程をシンプルに見て、病気のリスクを単一の原因と捉える傾向があるからです。

 

一方、医師はこういう考え方をしません。

がんにはおびただしい数のリスクがあります

肉類がリスクであったとしても、それは数え切れないリスクの中の一つ、と考えます

むしろ、まだ分かっていない未知のリスクの方が多いと考えているし、それこそが医学の奥深さだ、とすら捉えています。

よって、その患者さんの大腸がん発症に対して「肉類の摂取がどれほどの影響を及ぼしたのか」に関しては、あまりにも未知数だという感覚です。

将来的に見つかるかも知れない、肉類よりももっとリスクの度合いが大きい未知の因子が悪さをしていたかもしれない。

さらに、肉類はリスクの一つだという現時点での知見も、もしかすると違った解釈ができるようになるかもしれません。

 

逆に、肉をほとんど食べない人が大腸がんになることもありますが、これに対しても不思議に思うことはありません

現時点では、肉類の摂取は数ある大腸がん発症リスクのうちの一つに過ぎないからです。

 

患者さんがすべきこととは?

別の例を挙げてみます。

ご存知の通り、喫煙はよく知られたがんのリスクです。

肺、口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱、子宮など、喫煙は非常に多くのがんの発症リスクになるとされています(厚生労働省「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」参照)

しかし、タバコを全く吸っておらず、かつ受動喫煙の経験もなかった方がこういったがんにかかることもあります。

逆に、ヘビースモーカーでありながら、がんにかからない人もいます。

なぜでしょうか?

前述した理由で、喫煙はあくまで、おびただしい数あるリスクのうちの一つだからです。

 

病気の発症リスクの中には、自ら意識して防げるリスクとそうでないリスクがあります。

そしてどんな病気も、その発症プロセスはシンプルなものではありません

同じ名前の病気でも、違ったリスクに起因した、違った顔つきのケースが存在します。

 

未知のリスクを含め、様々な因子が複雑に絡み合って病気が現れるということ、そしてそのプロセスは未だ明らかになっていない部分が多い、ということを知っておく必要があります

病気にかかった時に、自分やご家族の過去に責任を求めることや、病気の方に対して安易に「あれが良くなかったのではないか?」と指摘するのは医学的に適切ではありません。

 

しかし一方で、「病気の発症過程はたいてい分からないのだから対策する意味はない」とするのもまた好ましくはありません。

例えば喫煙をやめることで、多くのがんの発症リスクが下がることは明らかになっています。

病気の中には、自力でリスクを下げられるものとそうでないものがあるからこそ、

「自分でリスクを下げられるものは下げ、それが難しいものに対してはリスクを理解した上で早期に対策を打つ」

というのが理想的な姿勢だと私は考えます。

 

医療には、あらゆる領域において「白か黒か」というシンプルな答えはありません。

グレーな事実をグレーのまま受け入れ、「その中で健康のために自分のできることを着実にやる」という姿勢が望ましいのではないでしょうか。

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2 Comments

賢二

 けいゆう先生、更新お疲れさまです。病気のリスクは、さまざまで原因がわかっていないものが以外にもたくさんあるんですね。分からないのは難しい病気だけだと思っていました。私の周りには、そのような考え方の人が多くいました。一つのリスクがそのまま病気に直結するという考え方です。(関係ないですけど、健康番組が、だからはやるんですね!○○だけで予防って良くありますよね・・・。)
 就職の面接で、ときたま医者でも答えられない質問をされたりしました。会社側でもよくわからない病気で、何を配慮したらいいか分からないのは困るし、具体的に知りたいのは分かります。そして、明確な原因がわかっていないんだったら、何もできないし厄介だ、って思われることが多かったです。また、自分自身で下げられないリスクもあるのに、家族や同僚からいろいろ言われることもありました。周りから言われるたびに、主治医にそれについて聞かなくてはならないこともありました。なぜか医療従事者の方でも言ってくる人がいました。(あり得ないことに、ステロイドを必要以上に嫌う人もいました。)
 正直止めて欲しいです・・・。健康番組が好きで自称詳しい、っていう人が正直苦手です。

 

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山本健人 (Takehito Yamamoto)

一つのリスクが病気に直結すると考えてしまうのは、テレビ番組や雑誌等の影響もあると思います。
おっしゃる通り、難しい病気だけでないどころか、糖尿病のようなありふれた病気ですらそうです。
これをシンプルに説明しようとすることで患者さんと周囲の方との間に軋轢が生まれることはよくありますし、職場内でのトラブルにも発展することがあるので、この記事に書いたような考え方が広く広まってほしいと思いますね…

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