医師向け|医学英語論文の書き方 超入門編 8つのステップで具体的に解説

私は以前「厳選7冊!英語論文の書き方と医学統計を学ぶ医師におすすめの本・参考書」という記事で、英語論文を書くのに役立つ本をまとめました。

しかし実はこれらの本は、年間何十本と査読を行うような論文の超エキスパートが執筆しているため、「完全な初心者にとっては使いにくい」という欠点があります

初めて英語論文を書こうとする人は、たいていもっと前の段階でつまづいているからです。

日常臨床の中で何について論文を書けば良いのか?

論文を書く時は何から手をつければ良いのか?

論文を書くには何を準備すれば良いのか?

英語が死ぬほど苦手な自分が英語論文をそもそも書けるのか?

といった疑問をお持ちの方も多いのではないかと思います。

 

この完全な入門編とも言うべきレベルで使える本は意外にありません。

今回は、一介の凡人勤務医が実際に病院で働きながら英語論文をどのように書くのか、その具体的な過程をまとめてみたいと思います。

英文が一文も書けないくらい英語が苦手、という方にも解決策を提案しますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

症例報告より原著論文を選ぶ

不思議なことに、「原著論文はハードルが高いのでまずは症例報告から」と言う人をよく見ます。

実は、初心者には原著論文の方がはるかにおすすめです

他人のテンプレートを真似ることができますし、書く内容や順番も決まりきっています。

データベースと統計ソフトがあれば、パソコン1台で全て完結します。

1本書けば自分の型が決まるので、次の論文へのハードルが一気に低くなります

 

一方、症例報告は、毎回症例によって書き方や見せ方が違います

CTやMRIなどの画像検査や病理検査、内視鏡検査などのFigureの添付が必要なので、これらを集めてくる労力が必要です。

他科の医師の協力も必要になります。

しかも、何とか1本仕上げても、症例が違えば書き方も変わるので、次の1本へ踏み出しにくくて量産もしにくいです。

実際、症例報告を1、2本書いてそこでストップしている人と、原著論文を量産している人に二極化するのはそれが理由です。

そして何より、症例報告は原著より評価が低く、受理してくれる英文journalが少ないため、投稿先を探すのが大変です。

 

もちろん症例報告も大切でありますが、書いたことがない原著論文を「難しそう」と考えるのは間違いです(大規模な臨床試験の論文化なら話は別ですが)。

そんなこと言われても原著をどうやって書けばいいのか分からない!

という方は、次に読み進めてください。

 

学会発表からテーマを決める

論文作成の前に、まず学会発表を計画するのが先決です。

学会発表の演題募集一覧を見れば、テーマを決めるヒントが得られるからです。

たとえば、自分の興味があるセッションが「大腸癌に対する術前化学療法の有効性と安全性」なら、病院で「術前化学療法を行った大腸癌症例を集積すれば良い」ということが分かります。

ここで、術前化学療法を行った大腸癌患者をリストアップすることになりますが、次のようなポイントに注意が必要です。

 

病院にデータベースがあるか確認

いきなり自力で症例を集めようとする人がいますが、その前に自分の科にデータベースがあるかを確認する必要があります。

実は、秘書さんが丁寧なデータベースを構築されているのに、誰も使い方が分かっていないので使われずに放置されている、ということは多々あります。

「大腸癌患者2000年〜2017年の全症例の患者背景と予後」のようなデータをファイルメーカーにまとめてくれているかもしれません。

 

次に、データベースがなければ、電子カルテからデータを出力できるかを確認します。

たいてい病院の「医療情報部」と呼ばれる、カルテデータを扱う部署がありますので、そこに問い合わせましょう。

すると、データベースはなくても、

「2000年〜2017年に大腸癌の病名で手術を行った患者」

という条件を満たす患者リストを、入院日や手術日などカルテベースで得られるデータをエクセル化して出力してもらえます。

そして「術前化学療法」をテーマにするなら、ここから術前化学療法を受けた症例に絞ることになります。

これが可能ならデータベース作成作業が半分くらいで済むことになります。

(もちろん通常業務の間を縫ってデータ出力をしてくれた医療情報部の方には深く御礼を言いましょう)

以上のことがいずれも不可能なら、その時点で初めて自作、つまり一人一人カルテを開いてデータベースを作成することを考えましょう。

 

なお、データベース作成の際は、どの項目を集めるか必ず計画してから症例集積しましょう

似たようなテーマの論文をいくつか参照し、どんな項目が必要か(年齢や性別は当然として、血液検査項目や画像所見なども)を確認しておくのが大切です。

目標は、「同じ人のカルテは二度開かない」ということです。

一度開いたら、必要な情報は全て集めてしまうことが大切です。

 

統計ソフトが使えるか確認

統計ソフトがないと原著論文はほぼ書けません

統計ソフトが自分のパソコンに入っている、という人は問題ありませんが、そうでない人は、科内で使用できる統計ソフトがあるかどうかを確認しましょう。

科としてライセンスを取得していて、病院のパソコンでしか使用できない、ということもあります。

 

自分で所有していない、病院にもない、という場合は、次に大学医局員に統計ソフトのライセンスが配布される仕組みがないかを確認しましょう。

いくつかの大学が、大学医局に所属する医師にライセンスを配布してくれています(大学病院勤務かどうかにかかわらず)。

大学医局に問い合わせましょう。

 

以上の全てに該当しない、という場合は、統計ソフトの購入が必要です。

ただし自分で購入する前に、科のトップに「原著論文を書きたいので統計ソフトを購入していただけませんか?」と相談してみましょう。

統計ソフトを科内の医師が全く使えない環境に対し、学術的な改善を希望して叱られることはないはずです。

貴重な臨床データを学会や論文として世に公表することは、医師の重要な仕事だからです。

科の予算を使って購入することを検討していただきましょう。

それが無理なら、最終的には自費で購入です(高価ですが)。

 

統計ソフトはJMP、SPSSなど広く使用されている信頼性の高いものを選びましょう。

論文では、statistical analysisの部分に使用した統計ソフトを記載しなくてはなりません

ネット上のフリーソフトを使用すると、reviewerから信頼性を指摘されるなど、無用な隙を作るリスクになります。

 

学会用の抄録を作成する

ここまでできれば、学会の演題提出を計画し、学会の抄録を作成します

ここで同時に抄録を英訳し、これを論文のabstractの原型にします

また、抄録作成時はある程度詳細な解析を行うので、ここで「抄録のための解析」で終わらせず、そのままTableとFigureを作成してしまいます

もしここで抄録だけを完成させて眠らせてしまうと、再開するときには内容を忘れていてかえって時間がかかります。

必ず抄録作成時にもう一手間かけておくのがポイントです。

 

TableやFigureは、論文を見越して英語で作成します

学会発表のスライドは、この英語のTableやFigureをそのまま使っても構いません。

わざわざ日本語に変更する必要はありません。

(スライドの本文は日本語、FIgureやTableは英語、という人は多くいますし、和文雑誌にはそういう投稿規定のものもあります)

 

学会発表までに論文投稿を目指す

抄録提出は学会発表の半年以上前であることが一般的なので、学会発表時までに論文投稿を目指します。

目標となる日程が明確になっている方が、より計画的に論文作成をすることができます

また、論文作成を発表前に終えておくことで、発表時の質疑応答に強くなります

discussionを書く際に様々な文献を参照し、発表テーマにかなり詳しくなっているからです。

発表時に「何を聞かれても怖くない」という安心感を持って壇上に立つことができます

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英語が苦手な人はどうする?

そうはいっても、とにかく英語が苦手で上手に書けそうにないという方も多いでしょう。

しかし論文投稿前には必ず英文校正に出すことになります(著者がネイティブと同等の英語力である場合を除いて)。

よって、下手な英語でも良いので、最低限「何が言いたいか」をネイティブが見て分かる書き方を目指しましょう

ひねった英語を使って言いたいことが伝わらず、英文校正で「意図がわからないので校正できない」というコメントをつけられる人がよくいます。

とにかく言いたい内容が伝われば、英文校正者が適切な英語に修正してくれます。

(もちろんこれを繰り返すうちに、英文校正に出しても修正箇所がわずか、というレベルまで上達していきます)

 

「英語が一文も書けないくらい苦手」という人は、日本語で書き、翻訳サービスを使うという手もあります

私はやったことがありませんが、知人でこの手法を使っている人は何人もいます。

翻訳サービスを行う会社は100を超えるので語数、専門領域や納期などを指定して一括見積もりし、値段を比較するのが良いようです。

以下のように、国内最大級の数の会社から絞り込んで、比較を無料で行うことができるサイトもあります。

 

どのjournalに出すかを決める

投稿先にどこを選ぶかについては、先輩医師に相談するのが良いでしょう。

どの程度のImpact Factor(IF)を狙えるのかは、その分野で論文を書いたことがある人に聞かないと分かりません。

ちなみに、「最初はやや背伸びをした高めのIFのjournalに出し、徐々に下げていく」というのが原則ですが、初めて英語論文を書く方にまでこの方法はおすすめできません

ビギナーの頃は、rejectで返って来たときに半端なくメンタルを削られるためです。

rejectを数え切れないほど食らっているうちに「reject慣れ」するのですが、ビギナーは最初にこれでモチベーションを完全に失うリスクがあります。

まず1本目はとにかくacceptを目指し、その達成感を次の1本につなげることを私はおすすめします

よって、比較的通りやすい、背伸びしすぎないIFのjournalを投稿先に選ぶのが良いでしょう。

 

自力でjournalを選ぶときは、Scimago Journal and Country Rankというサイトが便利です。

“All subject Categories”のところで、”Gastroenterology”や”Surgery”など領域を選んでフィルタリングすれば、IFの高い順番にjournalがリストアップされます。

journalの序列がある程度わかるので、「AがダメならB、その次はC」といった計画が立てやすくなります。


今回は、一介の勤務医である私が、現場に即して論文の書き方を解説してみました。

英語論文に慣れたエキスパートの方にとっては色々反論があるかと思いますが、初めて書く方はこの8つのステップで一度チャレンジしてみてほしいと思います。

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