外来には、検査を希望してやってくる患者さんがたくさんいます。
「症状があるから診てほしい」ではなく、「〇〇という検査をしてほしい」という動機です。
中には、私たち医師が診察して「特別な検査は必要ない」と判断しても納得されない方が多く、結局希望通り検査をすることもあります。
「検査が必要かどうか」「もし必要ならどんな検査を行うべきか」は、専門家でないと正しく判断できません。
検査にはリスクを伴うものも多いため、リスクより得られるメリットの方が大きい場合にしか、その検査を受ける意義はありません。
この点で、「検査を受けるべきかどうかは診察した医師に任せるべきだ」と言えるでしょう。
他にも、検査に関して患者さんが誤解しやすいポイントがいくつかありますので、紹介しましょう。
検査は診察に勝るという誤解
検査を希望して病院にやってきた方は、何も検査されることなく診療が終わると、「何もしてもらえなかった」と誤解する傾向があります。
医師の「身体診察」は行われたはずなのですが、
「検査した結果『異常なし』と言われないと安心できない」
という感覚を持っている人もいます。
しかし、「身体診察」は非常に重要な診療行為の一つです。
「どんな検査をしても目立った異常が出ないが身体診察によって初めて異常が分かる」というタイプの病気も多くあります。
特に、神経疾患や膠原病などに代表される内科系の病気は、身体診察こそ重要、という感覚を持っている医師は多いです。
検査に頼っても何も解決しない病気がたくさんあるということです。
この感覚は私たちにとっては当たり前ですが、検査への期待が妙に大きい患者さんにはなかなか理解されないことがあるのです。
検査すれば何でも分かるという誤解
患者さんの中には、検査は万能だと信じる方が多くいます。
例えば、血液検査の結果「異常なし」であれば、体は健康そのものであり、何の病気もない、と判断してしまう人もいます。
血液検査には、膨大な数の項目があります。
医師は患者さんを診察し、この多くの項目の中から必要なものを厳選して検査を行います。
膨大な数の項目から毎回一つ一つピックアップするのは手間がかかるため、たいてい「生化学1」とか、「緊急セット」などのようなパッケージが用意されています。
多くの患者さんに共通で必要となりやすい項目がまとめられているわけです(セットの数も多いので、医師は適切なセットを患者さんに合わせて選びます)。
医師は、このセットをまず選び、その上で患者さんに合わせて他に必要な項目をオプションで追加していく、という形をとります。
たとえは悪いですが、車を購入する時に、基本セットに加え、ニーズに合わせて座席を革張りにしたり、カーナビを付けたり、といったオプションを追加していくことに似ています。
したがって、例えば「重度の糖尿病かもしれない」と疑って医師が選んだ血液検査の結果で、がんかどうかが分かることはありません。
検査の目的によって必要な項目が違うからです。
血液検査は例として最も分かりやすいのですが、他の検査も理屈は同じです。
検査によって分かることは限定的です。
医師がきっちり目的をもって検査を行い、その結果を適切に解釈することが大切です。
これを読んで、
「じゃあ、あらゆる項目を全部入れて血液検査をやってほしい!」
と思った方がいるかもしれませんね。
そもそも項目がとてつもなく多いので、そういうことは現実的ではありませんが、もし病状から必要とは考えられない検査まで行うのであれば保険外診療になります。
人間ドックなどと同じ、任意の検診扱いです。
むろん私自身は、こうした検査をやみくもに受けることが医学的に妥当だとは思わず、必要な検査を必要なタイミングで受けることが大切だと考えています。
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偽陰性・偽陽性への理解不足
ここではみなさんがよく知っている、インフルエンザ迅速検査を例に挙げてみます。
インフルエンザ迅速検査とは、鼻の奥に細い綿棒をさし込む、あの検査です。
多くの人はこの検査を、
「インフルエンザか、インフルエンザでないか、を調べる検査」
だと思っています。
そして予想している答えは、
「あなたはインフルエンザです」
か、
「あなたはインフルエンザではありません」
のどちらかです。
もう少し正確に言い換えます。
「検査の結果が陽性ならインフルエンザ」
「検査の結果が陰性ならインフルエンザではない」
と思っているということです。
実はこれは大きな間違いです。
以下は、症状が出現してからの時間と、インフルエンザ迅速検査の感度を表したものです。
・12時間以内で感度 35%(特異度 100%)
・12-24時間で感度 66%(特異度 97%)
・24-48時間で感度 92%(特異度 96%)
・48時間以上で感度 59%(特異度 100%)
(※18歳以下の小児患者を対象とした研究による:Eur J Pediatr. 2011 Apr;170(4):511-7)
「感度」とは、
「もし実際にインフルエンザにかかった人を集めて検査したら、何%の人が陽性になるか」
を示す数字です。
(※特異度は「インフルエンザではない人の何%が陰性になるか」ですが、ここでは説明を割愛します)
つまり、症状が出てから12時間以内だと、たとえインフルエンザだったとしても35%の人しか陽性にならない(=65%は陰性になる)ということです。
実際はインフルエンザなのに検査は陰性になってしまう。
「偽の陰性」ということで、このことを「偽陰性(ぎいんせい)」と呼びます。
最も高い感度の24−48時間であっても、8%の人は偽陰性です。
インフルエンザにかかった人を100人集め、最もベストなタイミングで検査しても8人は陰性になる、というわけです。
こういうケースで、患者さんの周囲でインフルエンザが流行っていて、経過や症状、診察した所見からインフルエンザを強く疑うのであれば、検査は陰性でもインフルエンザだと私たちは考えます。
単一の検査の結果は、判断基準の一つにすぎない、ということです。
あくまで、病歴や身体診察から得られる情報と合わせて総合的に判断し、治療方針を決める必要があるのです。
(このケースでは「そもそもインフルエンザ迅速検査は必要ない」ということも重要なポイントです)
もちろん逆もあります。
実際にはインフルエンザではないのに陽性に出てしまう。
これは「偽陽性(ぎようせい)」です。
ここではインフルエンザ迅速検査を例に挙げましたが、他のどんな検査でも全く同じことが言えます。
むしろ感度が90%を超えるなど、かなり優秀な部類です。
私たちはこれを、検査が持つ当然の特性だと捉えています。
理想を言えば、「検査が陽性なら全員に病気があり、検査が陰性なら全員が病気でない」と言える検査が欲しいところです。
しかし人体と病気のメカニズムはあまりにも複雑で、たった一つでこういう判断が可能となる検査はほとんどないのです。
検査に対して患者さんが誤解しやすいポイントをまとめてみました。
これらのことを理解しておけば、医師との考え方の食い違いをある程度防ぐことができるでしょう。
(参考)
本記事のインフルエンザに関する記載は、ほむほむ先生(ped_allergy)のnote「インフルエンザ診療UPDATE【2018年版】」を参照しています。
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