今回の第7話では子宮腺筋症という病気が登場しました。
子宮腺筋症や、そのもととなる子宮内膜症は、医学を学ぶものとしては非常に興味深い(というと不謹慎かもしれませんが)不思議な病気です。
婦人科は専門外ですが、実は消化器外科医の私も子宮内膜症を手術したことが何度かあります。
なぜでしょうか?
これが実は子宮内膜症が不思議な病気である理由でもあります。
わかりやすく解説してみましょう。
今回のあらすじ(ネタバレ)
助産師の小松(吉田羊)は1年前に子宮筋腫を指摘され、ひどい腹痛があるにもかかわらず治療をしていませんでした。
鴻鳥(綾野剛)と四宮(星野源)の強いすすめでMRIを撮影したところ、病気は子宮筋腫ではなく子宮腺筋症であることがわかります。
また子宮内膜症が卵巣に生じて起こる「チョコレート嚢胞」も合併していました。
病気は子宮全体に広く広がっており、治療には子宮の全摘が必要な状態。
またチョコレート嚢胞は、無治療だと卵巣癌のリスクがあります。
子宮全摘と卵巣の摘出が望ましいことを鴻鳥に説明された小松は悩みます。
自分には両親や兄弟がおらず、子宮をとってしまえば子供を作ることができなくなり、将来一人で生活していくことになる・・・。
落ち込み、悩みを一人で抱え込む小松を支える鴻鳥や四宮、ソーシャルワーカーの向井(江口のりこ)。
結果的に小松は手術を受けることを決意しました。
今回は、子宮内膜症や子宮腺筋症、チョコレート嚢胞など、病気に関する詳しい説明はなかったため、「どんな病気?」と疑問に思った方は多いのではないでしょうか?
疾患人口の多い病気なので、女性の中にはよく知っている方が多いかもしれませんね。
小松さんがどうして子宮を全摘し、卵巣を摘出する必要があったか?
放置すると何がダメだったか?
なぜ子宮内膜症は不思議なのか?
少しだけ解説してみたいと思います。
子宮内膜症という不思議な病気
子宮内膜とは、子宮の内側を覆う膜のことです。
ホルモンの働きによって、1ヶ月のサイクルで非常にダイナミックな変化を起こすのが特徴です。
毎月、子宮が妊娠に備えるからです。
子宮内膜が受精卵の着床に備えて分厚くなり、着床がなければ子宮内膜がはがれ落ちて出血する。
妊娠しない限り、これを約1ヶ月に1回、毎月繰り返します。
これが月経です。
ところが不思議なことに子宮内膜は、その一部が剥がれて子宮の表面以外に飛んで行くことがあります。
子宮以外のところで子宮内膜が増殖してしまう病気が子宮内膜症です。
様々な説がありますが、理由ははっきり分かっていません。
厄介なのは、骨盤内や子宮の周りなど、本来とは異なる場所で増殖した子宮内膜組織も、子宮内膜と全く同じようにふるまうことです。
つまり、毎月周期的に出血、剥離を繰り返します。
徐々に周囲の臓器と癒着を起こし、強い月経痛や貧血、不妊の原因になります。
年齢や妊娠を希望するかなどを総合的に判断し、薬物療法あるいは手術が検討されます。
子宮内膜は、子宮周囲以外にも、全身の様々な場所に飛んでいきます。
卵巣や大腸、膀胱、ヘソ、皮膚、肺にまで子宮内膜が現れることがあります。
(組織が内膜に変化する、という説もあるため「飛んでいく」という表現は本当は正確ではありません)
特に、子宮と卵巣以外で増殖するものを異所性子宮内膜症と呼びます。
上述したように、子宮内膜は全身のどこにあっても子宮内膜と同じふるまいを見せます。
つまり、上述の通り1ヶ月のサイクルで膨れ上がって剥がれ落ち、出血することを繰り返すわけです。
卵巣に子宮内膜症が起こると、卵巣の中で何度もこうした出血が起きるため、チョコレートのような色の古い血液がたまって腫れてきます。
これが「チョコレート嚢胞」です。
大腸にあれば、月に1回の原因不明の血便が起き、膀胱にあれば血尿が、肺にあれば毎月のように気胸などの呼吸器トラブルを起こします。
これは子宮内膜が、血液中を流れるホルモンによってコントロールされている証拠です。
子宮以外の内膜組織も、全身をめぐるホルモンでコントロールされるからです。
冒頭に書いた、私が子宮内膜症を手術したことがある、というのはこれが原因です。
大腸の腫瘍として摘出したものや、大腸癌のリンパ節転移と疑って摘出したものが子宮内膜だった例を経験しています。
子宮内膜症は色々な臓器で起こりうるため、婦人科以外の外科医も手術をすることのある病気なのです。
では子宮腺筋症とはどういう病気なのでしょうか?
子宮腺筋症とは、子宮内膜が子宮の筋層に入り込んで増殖する病気です。
ですからこれも子宮内膜症の一つの形です。
内膜組織が子宮筋層に染み込むように広がり、子宮が巨大に腫れてきます。
そして、月経周期に応じて激しい痛みと出血が起きます。
子宮筋層内に広がった子宮内膜が、ホルモンに反応して増殖、出血を繰り返すからですね。
しかも月経を繰り返すたびにどんどん悪化していきます。
特に子宮全体に広がってしまうタイプの子宮腺筋症は、子宮筋腫のような腫瘍と違って病変の境界がわかりにくく、「その部分だけ切り取る」ということが難しくなります。
小松さんのケースはおそらく、子宮全体に病気が広がり、子宮全摘以外では貧血や激しい痛みのコントロールはできないと判断されたのでしょう。
また卵巣チョコレート嚢胞は、特に大きなものや40歳以上の場合に卵巣癌のリスクがあるとされ、こちらも手術がすすめられます。
結果的に小松さんは、子宮全摘と卵巣摘出手術を受けることになりました。
ちなみにくだらないツッコミですが・・・
小松さんの全身麻酔導入の際、麻酔薬であるプロポフォール(注射器に入った白い液体)を注入されたのちマスクを載せられていましたね。
これはかなり危険な誤りです。
実際には、麻酔薬の投与前に5分から10分くらいマスクを載せられ、100%の酸素を吸います。
このとき麻酔科医から、しっかり深呼吸するよう指示されます。
麻酔薬が注入されれば、完全に眠ると同時に呼吸が止まります。
その前に十分に血中の酸素濃度を高めておき、その後の気管挿管の作業中の完全な呼吸停止に備える必要があるからです。
これは全身麻酔の準備において最も重要なポイントの一つですので、あえて突っ込んでおきました。
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「瞬間湯沸かし器」的若手医師、白川
最後に少しだけ、次回の大きなテーマになりそうな部分に軽く触れておきましょう。
NICUの若手医師白川(坂口健太郎)は、学会発表が高評価だったことをきっかけに自信をつけましたね。
NICUでは、アラームに気づかず対応が遅れたナースを上から目線で叱るなど、やや空回った姿を見せます。
先輩医師の今橋(大森南朋)にそれを指摘されると、ムッとしたように反論する始末。
これは、卒後3〜5年目くらいの、ある程度仕事ができるようになってきた頃の若手医師「あるある」です。
今回の白川などまだ言い方も優しく、全くもってマシな方です。
特に学会発表などは、まだ経験が浅いはずの若手が変に自信をもってしまう、よくある一つのきっかけです。
打ち上げの席で仕事について熱く語り、その後から妙に自信たっぷりに働くようになります。
こういう医師を私は「瞬間湯沸かし器的医師」と呼び、その出現に目を光らせています。
職種を問わず、自分の仕事に対する本当の自信など短期間でつくものではありませんよね。
何度も成功と失敗を繰り返し、何年も時間をかけて同じ仕事を続けて、徐々に身につけて行くものでしょう。
というわけで来週、大怪我の予感がする白川先生。
同じ医師として他人事とは思えませんが、楽しみに来週を待ちたいと思います。