便秘で悩んでいる方はたくさんいます。
特に20〜40歳台の若い女性は、同じ年代の男性の3〜5倍以上便秘が多いことが分かっています。
(厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査の概況」より作成、数値は人口1000人対)
なぜこの年代の若い女性に便秘が多いのでしょうか?
理由は明確で、若い女性には以下のような便秘になりやすい共通点があるからです。
・自宅外では便意を催しても我慢していた時期がある
・ダイエットをした経験がある
・忙しくてあまり水分を摂らない
・朝は化粧など準備で忙しく排便時間がとれない
・朝食をあまり摂らない、クラッカーなどで済ませる
・仕事が忙しく運動や体操などを習慣にしにくい
これらは便秘を悪化させる大きな要因です(もちろん男性でもこれらの条件を満たす人は同じリスクです)。
今回はまず、
なぜこうした生活習慣・排便習慣が便秘を悪化させるのか?
という観点から便秘の原因を解説します。
次に、「慢性便秘症診療ガイドライン」をもとに医学的根拠のある対処法をいくつか提案します。
目次
便秘の原因とは?
便秘の原因は様々ですが、若い女性の場合は以下のことが原因になっているケースが多いと考えます。
便意を催しても排便しない
おそらく今なら自宅外であっても「便意を催すことは貴重!」と考えて、すぐにトイレに駆け込むでしょう。
しかしかつては、学校や職場で便意を催しても、自宅のトイレ以外ではしたくない、という思いから我慢していた時期があるのではないでしょうか?
「便意があるのに排便しない」というのは実はかなり危険です。
こういう習慣を繰り返すうち、便が直腸に降りてきても、その刺激で便意を感じにくくなります。
「直腸が鈍感になっていく」ということです。
便意がなければ、直腸に便が降りてきてもそのまま溜まっていきます。
徐々に便が硬くなり、さらに出にくくなってきます。
ときどきいきんで何とか排便しても、断片状(カケラ)の便しか出ません。
これが便秘の最大の原因になります。
ダイエットを含む食習慣の乱れ
大学生を対象にした大規模な調査で、
朝食や昼食を抜く人に便秘が多い
ダイエット経験がある人に便秘が多い
ということが証明されています。
若い女性は、朝は化粧など準備に時間がかかって忙しい、という人が多く、朝食を抜いたり、簡単なもので済ませてしまう人が多いでしょう。
また、若い女性は男性に比べダイエットをしたことがある人が多いはずです
ダイエットのために朝食や昼食を抜く、というのも便秘のリスクです。
不規則な食習慣は、不規則な排便習慣につながります。
結果として、便秘を悪化させてしまいます。
運動習慣がない
ジョギングなど活発な運動をすることで、消化管の動きがよくなり、便秘を減らすことができます。
しかし、仕事の忙しい人は運動を習慣化することが難しいはずです。
デスクワークが多い人は特に日中の活動も少なく、便秘のリスクになります。
あまり水分を摂らない
同じく大規模な調査の結果、1日あたり1.5リットル以上の水分を摂る人は快便が多いことが分かっています。
忙しくてあまり水分を摂らない、トイレに行きたくないので水分量を抑えている、などの習慣がある人は便秘のリスクです。
ではこれらの要因がある人が便秘をどのように解消すれば良いのでしょうか?
便秘の対処法
便秘を治す方法としてこれまで様々な報告がありました。
しかしようやく2017年10月に「慢性便秘症診療ガイドライン」が発刊され、便秘の分類や医学的根拠のある治療法がまとまりました。
このガイドラインで推奨・提案されている対処法は、主に以下の5つです。
生活習慣(食事・運動)の改善
体操(ストレッチ)やお腹のマッサージ
便秘薬(緩下剤)の使用
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌の摂取)
漢方薬の使用
(もちろん専門的にはもう少し詳細な情報が書かれています)
このうち、ガイドライン上で比較的医学的根拠のレベルが高いとされているのは、
プロバイオティクスと便秘薬(の一部)
です。
便秘薬(緩下剤)はもちろん便秘に最も有効です。
便秘薬には市販薬、処方薬含め、様々な種類のものがあります。
以下の記事にまとめていますので、参考にしてみてください。
もう一つの方法が「プロバイオティクス」、つまり乳酸菌やビフィズス菌の摂取です。
ここからはプロバイオティクスについてまとめます。
プロバイオティクスとは?
適正な量を摂取したときに、私たちにとって有用な効果をもたらす生きた微生物、またはそれを含む食品のことを「プロバイオティクス」と呼びます。
代表的なのが乳酸菌とビフィズス菌です。
病原性のある腸内細菌は「悪玉菌」、プロバイオティクスは「善玉菌」というあだ名で呼ばれることもありますね。
(私はこういう誤解を招くあいまいな表現は好きではありませんが)
プロバイオティクスは腸内細菌のバランスを改善し、便通を良くすることが分かっています。
これまで様々な臨床試験が国内外で行われ、慢性的な便秘の人に対し、腹痛などの症状を起こさず排便回数を増加させることが証明されています。
それだけでなく、多くの試験で、
便の形状の改善(やわらかくなる、細切れにならない)
便の排出しやすさ
残便感
排便時の痛み
といった自覚症状の改善も示されています。
プロバイオティクスのもたらす効果についてはまだ研究途上ではありますが、便通の改善に有利、という点は間違いないと考えて良いでしょう。
プロバイオティクスは便秘だけでなく、過敏性腸症候群(IBS)の治療としても確立しています。
なぜプロバイオティクスが有効なのか?
現在考えられているのは、以下のような理由です。
・腸管の表面に接着し、病原性のある菌が付着するのを防ぐ
・腸管の表面のバリア機能を強化する
・発酵することで腸管内の環境を改善する(酸性化)
・腸管の壁の中で、免疫の機能を調整する
(「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014」より引用、一部改変)
なお、乳酸菌やビフィズス菌とセットでよく出てくる言葉に「オリゴ糖」がありますね。
これらの細菌の栄養源となって、その働きを助ける物質です。
こちらは「プレバイオティクス」と呼びます。
腸内環境を改善するためにはこちらも効果がありそうですが、まだ医学的根拠が不十分です。
重要なのは「プロバイオティクス」です。
名前が似ていますが、間違えないよう注意しましょう。
プロバイオティクスのメリット
プロバイオティクスは、ヨーグルトなどの乳製品から簡単に摂ることができます。
プロバイオティクスのメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
運動や体操より毎日の習慣にしやすい
乳酸菌やビフィズス菌を多く含む乳製品を、毎朝あるいは毎晩食事の時に習慣的に食べることは難しいことではないでしょう。
時間をとりませんし、忙しい時でもサッと食べられます。
便秘薬と違って副作用がほとんどない
便秘薬は、高マグネシウム血症などの副作用がありますが、プロバイオティクスはそもそも医薬品ではなく食品です。
目立った副作用はありません。
便秘薬と違って、副作用の心配をせず長期的に摂取することが可能です。
便秘薬と違って習慣性がない
便秘薬には習慣性がある、つまり「癖」になります。
「便秘薬がなければ排便できない」という状況に陥るということです。
「便秘は若い女性に多い」という前提でこの記事を書いていますが、全体としては若者より高齢者に多いのが便秘です。
冒頭に出したグラフを高年齢層まで伸ばしてみます。
(厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査の概況」より作成、数値は人口1000人対)
便秘の人は、年齢とともに増えていきます。
若い頃から便秘薬を飲むと、やめるタイミングを失う可能性があります。
若い方は、できれば便秘薬は飲むとしても短期間、できれば便秘薬以外の方法が望ましいと考えます。
プロバイオティクスはあくまで食品ですから、こうした習慣性はありません。
プロバイオティクスのデメリット
プロバイオティクスのデメリットとしては、
・即効性がない
・便秘薬より高くつく
といったことが挙げられるでしょう。
これまでプロバイオティクスを試したことのある方で、すぐに効果が出ないからあきらめた、という方がいるかもしれません。
プロバイオティクスは、その摂取を毎日の習慣にすることによって、徐々に腸内環境が整い、便通が改善していきます。
当然医薬品ではなく食品ですので、飲んだらその日から「スッキリ」というわけにはいきません。
即効性を求めるなら、やはり直接作用する便秘薬を使用する必要があります。
また、便秘薬よりは値段的に高くつきます。
たとえばドラッグストアなどで売られる市販薬として有名なコーラックは、1ヶ月分で約1000円、1日30円強です。
プロバイオティクスを多く含む乳製品を、この値段で摂取することは不可能です。
たとえばヨーグルトなら1個150〜200円程度はします。
ややランニングコストは高いと言えるでしょう。
ちなみに、
ビフィズス菌と乳酸菌どちらが便秘の改善に良いのか?
一回にどのくらいの量を飲むべきか?
どのくらいの期間継続すべきか?
行きたまま腸に届いた方が良いのか?死菌でも良いのか?
については、まだはっきりとした医学的根拠のあるデータは得られていません。
もし確定的なことが書かれた宣伝があれば、信用しない方が無難です。
今回は、プロバイオティクスを中心に便秘についてまとめました。
この記事でみなさんの疑問が少しでも解決すれば幸いです。
こちらもご参照ください。
(参考文献)
慢性便秘症診療ガイドライン2017/南光堂