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便秘の正しい解消法、便秘薬の種類と副作用、処方薬と市販薬の違い

便秘で困っている人はたくさんいます。

私の外来でも非常に多くの方に便秘薬を処方します。

しかし便秘薬にはいろいろな種類のものがあり、どれが良いのかわからない」という方は多いのではないでしょうか?

また、便秘に困っているけれど、薬を飲みすぎると「癖になる」かもしれない、という心配もあるでしょう。

あるいは、薬局で市販薬を買うのと、病院に行って処方してもらうのとではどちらがいいの?と疑問に思う方もいるかもしれません。

 

心配はいりません。

今回このページで、その疑問を全て解消します。

 

インターネットでよく薬のランキングを見かけますが、便秘薬のランキングほど医学的に意味のない序列はないでしょう

便秘はその原因やタイプが人によって様々ですし、薬の相性や必要量にあまりにも個人差が大きいからです。

他人の好みの順番が自分に当てはまるわけがありません。

私は消化器を専門とする医師として、このことは身をもってわかります。

(便秘薬に限らず、そもそも薬のランキングや口コミでの人気薬を紹介すること自体、同じ理由で医学的に無意味ですので、利用しない方が無難です)

 

ちなみに、便秘薬は正しくは「緩下剤」といいますが、ここでは一般によく言われる「便秘薬」で統一します。

 

何日おきに排便すべきか?

便が出ないことを、過度に心配する方が非常に多くいらっしゃいます

私は、そう心配されるほとんどの方に「大丈夫です」と伝えます。

便がどのくらいのペースで出るのが正常か、という基準は存在しません

人によって食事の量や種類は違いますし、1回の便の量も違うからです。

 

一般的には、3日に1回以上の排便が目安と言われます。

しかし、もっと長いあいだ排便がなくても、便が溜まっている様子もなければお腹の症状がない人もいます

一方で、腹痛で受診された人のレントゲンを撮ると便がたくさん溜まっているのに、「毎日便が出ていた」と言われることもあります

これは1回の量が少ないケースです。

ですから、「便の回数」だけに注目して、過度に心配するのはあまり適切ではありません

 

便が溜まった時に、お腹が張る、痛くなる、吐き気がする、食欲がない、という症状が出ますので、そういう場合に便秘薬を使うことになります。

ちなみに、「慢性便秘症診療ガイドライン」では、便秘の定義を、

「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」

としています。

ここには、排便の頻度や回数に関する記載は一切ありません

 

便秘薬を分類する

一般的に使用される便秘薬は、大きく分けて以下の4つのタイプがあります。

①便をやわらかくする

②大腸を刺激してぜん動運動を活発にする

③直腸を刺激して排便を促す

④小腸で水分の分泌を促進する

①は機械性下剤、②は刺激性下剤と呼ばれることもあります。

①②④は飲み薬(内服薬)、③は座薬または浣腸です。

①〜③はいずれも市販されていますし、病院でも処方します。

一方④は病院でしか処方できない、最近発売された新しい薬です。

また、多くの患者さんは複数の種類の薬を併用しています。

 

まず、①〜④の便秘薬の特徴と、それぞれに当てはまる処方薬を紹介します。

そのあとで、代表的な市販薬をこの分類に当てはめていきます。

難しい話ではありませんので、ご安心ください。

 

①便をやわらかくする

便をやわらかくする、または水分を含ませて膨張させることで、便を出しやすくする薬です。

代表的な処方薬は、マグミット、カマグ、酸化マグネシウムなどです。

排便の状況に合わせて、1日2〜3回、食後に定期的に内服するのが特徴です。

市販薬にも含まれますが、病院の処方薬であれば、錠剤に量の違いがあったり、粉薬があったりするので、症状に合わせて量を調整しやすいのが利点です

量が多すぎると下痢をしてしまうため、排便状況に合わせて増減します。

私の外来では、ご本人で自由に分量を調節しても良い、と伝えています。

 

②大腸を刺激してぜん動運動を活発にする

大腸のぜん動運動を活発にすることで、便を肛門まで運んでもらう薬です。

処方薬では、センノシド、プルゼニド、センナ、ラキソベロンなどがこれに含まれます。

このタイプの薬は、毎晩寝る前(眠前)に飲むのが一般的です。

夜間に大腸を働かせて、朝方の排便を促します。

また、頓服(とんぷく)として使うこともでき、「便秘で困った時にだけ飲む」といった使い方が可能です。

①のタイプは、頓服として使用することはありません(定期的に飲まないと効果はあまりないでしょう)。

 

③直腸を刺激して排便を促す

肛門から薬を入れることで、直腸を刺激して排便を促す薬です。

処方薬として、新レシカルボン坐剤(炭酸水素ナトリウム/無水リン酸二水素ナトリウム)、グリセリン浣腸があります。

浣腸は自分ではできませんので、病院で行います。

受診された際に、外来でも行うことが可能です。

一方、座薬(坐剤)は自分で挿入することができます

それなりに即効性があるため、すぐに便意を催し、排便することができます。

 

ただし当たり前のことですが、直腸まで便が降りてきていることが前提です。

直腸まで降りてこずに、その上流で溜まっているような場合には効果はありません。

便秘でこの薬を使って排便がなければ、①や②のタイプの方が望ましいということになります。

これは重要なポイントですので覚えておきましょう。

 

④腸の分泌を促進する

小腸にある塩素イオンのチャネルに作用し、腸管内に水分の分泌を促進する機能を持つ新しい薬です(クロライドチャネルアクチベーターと呼びます)。

市販はされておらず、病院でしか処方できません。

現在我が国で使用されているのはアミティーザという薬です。

非常に効果が高く、ガイドライン上も推奨されている薬です。

ただし、値段が高い吐き気や嘔吐といった副作用がある妊婦には使えない、などのデメリットもあります。

気軽に使える薬ではないため、医師の指示のもと使用します。

 

市販薬を分類する

一例として、市販薬の代表であるコーラックを上記の方法で分類してみましょう。

他の市販薬も成分を見ればほぼ同じことができますから、参考にしてみてください。

 

コーラックファイバー・コーラックハーブ(=②)

センノシドが含まれています。

②に分類できます

その他、ビタミンや漢方薬の成分も入っています。

1日1回、いつでも飲めます。

 

コーラック(=②)

②に分類されるピサコジルを含みます

1日1回、いつでも飲めます。

 

コーラックⅡ・コーラックファースト(=①+②)

成分は、①に含まれるジオクチルソジウムスルホサクシネートと、②に含まれるピサコジルの両方です。

飲み方は同じく1日1回。

前述したように①は1日数回内服したいところですが、「必要な成分を必要なだけ」という調整ができないのが市販薬の欠点です。

コーラックファーストの方は、1錠の分量を少なくして、分量を調節しやすくしている点が特徴です。

 

コーラック座薬(=③)

成分は炭酸水素ナトリウム/無水リン酸二水素ナトリウムで、上述したレシカルボン坐剤と同じです。

③に含まれます

 

他の市販薬もコーラックと同じように、名前で成分を推測できません

ある市販薬で効果がなかったので別の市販薬を試す、という場合、全く同じ成分のものを使ってしまうと意味がありません

必ず成分を確認するようにしましょう。

また、漫然と市販薬を続けるのは良くありません

あまり効果が感じられない、腹痛など症状が目立つ、といった場合は必ず病院に行きましょう。

 

便秘薬の副作用

①の薬はマグネシウムが含まれているため、長期の内服で血液中のマグネシウム濃度が高くなることがあります。

高マグネシウム血症は、嘔吐や不整脈、意識障害などを引き起こします。

特に腎臓の機能が悪い方はマグネシウムが貯留しやすいため、使用に注意が必要です。

一方、②と③の薬は大腸を刺激して運動を促進するため、腹痛が出ることがあります。

 

いずれの便秘薬も(特に②の刺激性下剤)、長期間使用することで習慣性が現れます

つまり、便秘薬に対して依存症のようになり、薬がないと排便できなります

便秘薬はなるべく長期間使用せず、生活習慣や食習慣(食べ物)の改善も同時に行い、徐々に薬を減らすことを目指しましょう

 

薬を使わない便秘解消法

便秘薬に頼らず、生活習慣の改善も同時に行うようにしましょう。

効果があると医学的に証明されている対策を以下に挙げます。

適度な運動

食物繊維の摂取

乳酸菌やビフィズス菌など(乳製品)の摂取

十分な水分の摂取

朝食・昼食をきちんと摂取する

便意を感じたら我慢せずに排便する

体を動かさないことで大腸のぜん動運動が落ちます。

したがって適度な運動が便秘の解消につながります。

また、便意を感じた時はなるべく我慢せず排便するようにしましょう。

 

また乳酸菌やビフィズス菌(プロバイオティクス)の摂取が便通の改善に有効であることが証明されています

これらを含む乳製品の摂取を習慣にしましょう。

そして、朝食・昼食をきっちり食べること、食物繊維をしっかりとること、水分をしっかりとることが大切です。

特に仕事が忙しい方の中には、食事習慣が乱れている方や、野菜不足の方が多いはずです。

そしてこういう方に限って、便意を催しても忙しくて排便しない、運動もあまりしない、といった特徴があります

便秘になりやすい方は、便秘の原因を全て兼ね備えている人が多いのです。

生活習慣の改善はすぐには難しいとは思いますが、少しずつ心がけてほしいと思います。

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便秘では何科に行くべき?

市販薬を使っても便秘が治らない。

お腹の痛みや吐き気などの症状が強い。

といった場合は、必ず病院を受診してください。

便秘で受診すべきは消化器内科です。

以下に挙げる、「便秘薬では治らない便秘」や「便秘薬ではかえって悪化する便秘」の可能性があるからです。

 

便秘薬では治らない便秘に注意

便秘薬を使っても治らない便秘や、便秘薬によって悪化してしまう便秘には注意が必要です。

便秘が良くならないのに漫然と市販薬を続けることは避けてください

以下に例を挙げます。

 

薬の副作用が原因のケース

以下の薬を飲んでいる方は、薬の副作用で便秘になっていることがあります。

麻薬性の鎮痛薬(がんの痛みや、腰痛や関節痛など)

精神科の薬(うつ病や統合失調症、神経症など)

がんの化学療法(抗がん剤治療)

高血圧や不整脈の薬

利尿剤(心不全や肝硬変など)

鉄剤(貧血)

一部の胃薬(スクラルファートなど)

パーキンソン病の薬

こうした薬を飲みながら便秘を治すには、医師の指導が必要です。

これらの薬を処方してもらっている担当医師に相談しましょう。

 

他の病気が原因のケース

以下の病気の人は、その病気が便秘を引き起こしていることがあります。

糖尿病

甲状腺機能低下症

慢性腎不全

脳血管疾患

うつ病

大腸癌などの腫瘍

炎症性腸疾患

過敏性腸症候群

ここに挙げた病気をお持ちの方は、やはり自力で便秘薬でコントロールすることはできません。

また大腸癌などの腫瘍が原因の便秘は、当然便秘薬では治りませんし、治療を急ぐ必要があります

以下の記事を参考にして、該当するものがあればすぐに受診するようにしてください。

また、過敏性腸症候群はストレスなどが原因で起こる腸の機能異常です。

便秘と下痢を繰り返すことが多く、コロコロしたウサギのような便が出るなどの特徴があります。

消化器内科での専門的な治療が必要で、便秘薬だけで治療する病気ではありません

いずれにしても、担当の医師に相談するようにしましょう。

(参考文献)
慢性便秘症診療ガイドライン2017/日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会