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病棟看護師の看護記録によく見る6つの不思議な間違い表現

看護記録に間違った医学用語が使われているのをよく目にします。

今回は、看護記録によく見る誤りを書いてみたいと思います。

むろん医師の記録にも間違いが多く、私もあまり偉そうなことは言えませんが、いわゆる「あるある」として参考にしてみてください。

 

ぜい鳴(ぜいめい?)

おそらく、ヒューヒューという「喘鳴(ぜんめい)」のことを読み違えているものと思われます。

「ぜいめい」と入力しても漢字変換されませんから、やむを得ず「ぜい」と打ったあとに「鳴く」と打って「く」を消しているのかもしれません。

「喘」は喘息(ぜんそく)の「喘」で、「ぜん」としか読めません。

訓読みは「喘ぐ(あえぐ)」です。

 

余談ですが、気管支喘息などで聴取される連続性ラ音の“wheezes”は複数形です。

話し言葉で「ウィーズ」と言うためか、誤って単数形で書かれることも多いように思います。

 

嗚咽(おえつ)

「嗚咽」とは「声を詰まらせて泣くこと」「むせび泣くこと」です。

医学用語ではありませんし、カルテに「嗚咽」という文学的な表現が出てくること自体、少し奇妙でもあります。

どうやら、嘔吐する際の「オエッ」という仕草を誤ってこう表現していることが多いように思います。

 

確かに「オエッ」となる状態は「えずく」としか表現しようがなく、このニュアンスを伝えるベストな医学表現はありません。

強いて言うなら「過剰な嘔吐反射を生じる」ということになるかと思います。

余談ですが、「噯気(あいき)」=「げっぷ」は看護記録でよく見る正しい表現ですが、不思議と医師の記録にはあまり見ないように思います。

 

PEG(ペグ)

PEGとは、「Percutaneous Endoscopic Gastrostomy=経皮的内視鏡的胃ろう造設術」のことです。

かつて胃ろうは、外科医が開腹手術で造設するのが一般的でした

しかし近年、内視鏡(胃カメラ)の技術が発達し、全身麻酔下の手術を行わず、内科医が胃ろうを造設できるようになりました

この手法を、従来の開腹下の胃ろう造設術と対比させて、「PEG」、すなわち「内視鏡的な」胃ろう造設術と呼んでいます。

(今でも手術適応となる症例は一部にあります)

 

ところが、近年ではほとんどの胃ろうが内視鏡的に造設されているせいで、胃ろうそのものを「ペグ」と便宜上呼ぶことが多いように思います。

そうした影響か、時々「手術でPEG造設予定」というとんでもない誤りを見ることもあります。

PEGは、手術ではなく「内視鏡を使った胃ろう造設」だとわざわざ表現している言葉ですから、「手術でPEG」は完全に矛盾した表現です。

 

また「PEG造設」というのも少し妙な表現です。

PEGは「胃ろう造設術」という手法名ですから、「PEG造設」だと「造設術」を「造設」することになってしまいます。

正確には「手術で胃ろう造設予定」とすべきでしょう。

 

同じように「上腹部にPEGあり」「PEGより経腸栄養剤注入」もよく見ますが、厳密にはこれも正しくないと思います。

繰り返しますが、PEG=胃ろう造設術だからです。

「胃ろう」自体は、どんな作り方をしたとしても「胃ろう」としか表現しようがないわけですね。

 

意識がドロー

これは完全に「謎の表現」です。

意識レベルが低下した状態の患者さんに対して使っているようですが、「ドロー=draw」という英語にそういう意味はありません。

drawは「描く」や「引く」といった動詞や、「引き分け」という名詞しかありません。

 

なぜ「ドロー」と言うのか色々考えてみましたが、可能性としては、

「ぼんやりした状態」を意味する「drowsy」を間違って覚えている

意識レベルが低下した状態を指して言う「ドロドロ」に由来している

意識レベルが「低い」=「low(ロー)」と「drowsy」が混ざって「ドロー」

のいずれかではないかと思います(勝手な想像ですが)。

いずれにしても正しい言葉ではないので、少なくとも記録として記載するのは避けるべきです。

(注:ただしdrowsyの正しい読み方は「ドラウズィ」)

 

パワー40?

輸液速度を言う時に「1時間あたり」をなぜか「パワー」と言う人がいます。

「点滴はパワー40でいいですか?」

といった具合です。

これは「単位時間あたり」を意味する「per hour(パーアワー)」を縮めた表現のようにも思いますが、そうであるなら、

「40パワー(40 ml/hr)」

となるはずです。

むろん「パワー」は「power(力)」にしか聞こえないので、誤解を招く表現ではあります。

また「どのくらいの速さで落としますか?」という意味で「パワーはどうしますか?」と言われることもありますが、こうなるともはや意味が分からなくなります。

 

不思議な音の表現

看護記録にはよく見るが医師は決して使わない、というタイプの不思議な「音の表現」が多くあります。

たとえば「グル音」「グー音」「ヒュー音」などです。

「グル音」はおそらく「腸蠕動音」でしょう。

「グー音」「ヒュー音」は呼吸音の表現でよく見ます。

「看護師の間で理解できれば良い」と言えばそれまでですが、呼吸音には多彩な医学用語がありますから、公式の記録にこのような表現を書くのはあまり好ましくはないでしょう。

正しくは、断続性ラ音連続性ラ音に分け、それぞれに、水泡音捻髪音笛様音(wheezes)いびき様音(rhonchus)があります。

おそらく「グー音」はrhoncus、「ヒュー音」はwheezesだろうと思います。

 

もちろん、看護師同士の会話で音を表現する際に、rhoncusやwheezesという用語を使うとかえってわかりにくい、という場合もあるでしょう。

すでにその部署内で共通の認識があって便利に使われている「通称」にまで正確さを要求することは、私も歓迎しません。

 

たとえば、緊急透析時などに用いる中心静脈カテーテルは、病院によっては「ブラッドアクセス」という商品名で呼ばれたり、「バスキャス」という「あだ名」で呼ばれることがあります。

正確には「バスキュラーアクセスカテーテル」です。

しかし医療者同士の日常会話にまで「バスキュラーアクセスカテーテル」という正式名称の使用を強要するのは無茶な話です。

 

よって私がこの記事を書いた意図は、

「正しい用語が何かを知っておくこと」

「公式な文書であるカルテ記録ではなるべく正しい医学用語で書くこと」

を重視してほしい、ということです。

ぜひ、こうした視点でカルテ記録を書いていただければ幸いです。

 

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