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看護師さんだけがよく使うちょっと不思議な業界用語一覧

これまで色々な間違い用語集を書いてきましたが、今回は「看護師はよく使うのに医師はあまり使わない不思議な業界用語」をあげてみたいと思います。

いずれも現場で共通理解はあると思いますので、矯正したいわけではありません。

ただ、「何が正しい表現か」は一応理解しておいた方がよいかと思います。

 

サーチ

不思議なことに、SpO2(動脈血酸素飽和度)のことを「サーチ」と言います。

「飽和」を意味するsaturation(サチュレーション)に「サーチ」と不思議な伸ばし棒がついています。

医師は「サチュレーション」「エスピーオーツー」と呼ぶことが多いように思います。

 

しかし「サーチ」と普段言う看護師でも、SpO2を測定するパルスオキシメーター(指先につける小型の器械)のことは、「サチュレーションモニター」「サチモニター」と呼びます。

「サーチモニター」と言う人はあまり見ません。

ちょっと不思議な習慣です。

 

デキスターチェック

血糖チェックのことをこう呼ぶ人が多い印象です。

デキスターは血糖測定器の一つの商品名で、由来はおそらくブドウ糖という意味の英語dextroseです。

いずれにしても「デキスター」という英語はありません。

また、たいていよく見ると使っている商品は「デキスター」ではなく、「メディセーフ」だったりします。

 

確かに「デキスターチェック」という言葉は、「(採血するのではなく)簡易血糖測定器を使って血糖を測定する」という意味を表すのに便利です。

しかし、「血糖チェックどうしますか?」と医師に質問して、「血糖3検(=1日3回血糖測定)」という指示があった時、まさか1日3回採血するという意味でないということは誰でもわかります。

よって「血糖測定」と普通に言ってもいいのではないか、と個人的には思います。

 

ゼプシス

医師でもこの言葉を使う人は時々います。

敗血症を意味する「sepsis」を、ドイツ語として「ゼ」と頭文字を濁音にするわけです。

さらに、これを動詞化して「ゼプる」ということもあります。

 

「ゼプる」の便利なのは、sepsisではなく、septic shock(セプティックショック)にまで至っている状態をほのめかすことができることです。

さらには、「尿路感染症による敗血症性ショック」「ウロゼプ」と言ったり、「急性閉塞性化膿性胆管炎による敗血症性ショック」を「アオスクでゼプる」と言ったりします。

ある意味、便利な言葉です。

(AOSCをアオスクと読むのも日本人だけではないかと思いますが…)

 

ちなみに似たような習慣として、くも膜下出血「SAH」をなぜか「ザー」と同じく濁音を使ってドイツ語風に言う人もいます。

これも不思議な言い方で、普通は「エスエーエイチ」でしょう。

さらに余談ですが、MEN(多発性内分泌腫瘍症)を「メン」と読む人もいます。

普通は「エムイーエヌ」ですね(そのままですが)。

 

プルス

「ヘルツ(心臓)」「アイテル(膿)」とドイツ語を多用するベテラン医師でも、「プルス」はあまり聞きません。

ところが、看護師は若い人でも心拍数を「プルス」とドイツ語で言うことが多い印象があります。

英語なら「pulse(パルス)」ですが、pulseは「心拍数」ではなく「脈拍」や「心拍」という意味の単語です。

「心拍数」なら正しくは「heart rate(HR:ハートレート)」です(これを略して「レート」ということもあります)。

普段「プルス120です!」と言う人でも、記載を見ると「HR 120」と書いています。

話し言葉ならプルスの方が言いやすいのかもしれません。

 

タヒる

私の経験上だけかもしれませんが、「タキる」という医師はいても「タヒる」という医師はあまり見たことがありません。

一方、看護師は若い人でも「タヒる」と言います

「頻脈になる」という意味ですね。

「頻脈」を意味する英語「tachycardia(タキカルディア)」のドイツ語「Tachykardie」に由来しているようです。

 

ちなみに「○○る」の業界用語は他にもあり、

ワゴる=迷走神経反射を起こす」(迷走神経反射=vagovagal reflexのドイツ語読みに由来)

アポる=脳卒中を起こす」(「脳卒中」の英語、apoplexyに由来)

ステる=亡くなる」(「死亡する」のドイツ語、sterbenに由来)

ネクる=壊死する」(英語、necrosisに由来)

そして前述した「ゼプる」など多数あります。

 

ちなみにドイツ語は看護師の間で根強く残っているようで、エッセン(食事)プンク(puncture:穿刺)などもよく使われています。

(「プンク」は腹水穿刺や胸水穿刺などを指して使う)

 

K

癌を全部「K(ケー)」と言う人がいます。

癌を意味するドイツ語のKrebs(クレブス)の頭文字ですね。

英語ではcancer(キャンサー)ですが、「C」と言う人はいません。

胃癌MK(Magenkrebs)、肺癌LK(Lungenkrebs)とするのは分かりますが、S状結腸癌をSKと言われると、一瞬何のことか分からなくなります。

さらに胆管癌を「胆管K」として日本語を混ぜることもあり、ここまで来るともう「胆管癌」と言ってしまっていいようにも思います。

しかし、Kを使う看護師でも、肝細胞癌「HCC(hepatocellular carcinoma)」と英語の略語で書いていることが多い印象です。

ドイツ語、英語、日本語の乱打戦です。

 

ちなみに、患者さんの前で「がん」という言葉を使わないよう、あえて「K」にする、という意見があるかもしれませんが、これにはあまり賛同しません

患者さんにとっては、

「自分の病気について会話されているのに、不思議な用語を使っているため何を言っているか分からない」

という状況の方が不安を誘います。

患者さんの不安に配慮することが目的なら、そもそも患者さんの聞こえるところでそういう話をすべきではありません

 

不思議な略語

看護記録の略語表記にも、不思議なドイツ語が出現します。

KT(体温)Hr(尿量)EKG(心電図)などです。

医師は英語か日本語のどちらかを用いることが多いのですが、看護師の間ではやはりドイツ語の略語が根強く残っています。

KTは体温を意味するドイツ語「Korpertemperatur」の略ですが、英語ならBT(body temperature)です。

Hrは尿を意味するドイツ語「Harn」の略で、英語ならurineですが、これは「尿量」と日本語で書くほうが多い印象です。

Hrは脈拍(HR)と紛らわしいので、あまり好ましくないでしょう。

EKGはドイツ語の「Elektrokardiogramm」の略で、英語ならECG(electrocardiogram)です。

12誘導心電図のことですね。

 

以上、8つに分けて不思議な表現を紹介しました。

医師もかつてはドイツ語を多用していたようで、今でもベテラン医師の多くがドイツ語の業界用語を使います。

しかし近年は、大半の医師が英語表記を使うようになっていると思います。

論文も国際学会発表も、医学(科学)の領域では英語が世界の共通語だからです。

 

一方、看護師の場合は、若い人にまでドイツ語が広く残っています。

看護記録の記載方法を直接先輩から教えてもらい、それを忠実に再現することで身につけていくからかもしれませんね。

 

以下の記事もご参照ください。

病棟看護師の看護記録によく見る6つの不思議な間違い表現