「ピロリ菌」は、近年ニュースなどでよく取り上げられるようになりました。
「ピロリ菌感染が胃がんのリスクになる」ということは、多くの方がご存じだと思います。
しかしながら、
自分の胃にはピロリ菌はいるのか?
どんなルートで感染するのか?
どうすれば除菌できるのか?
ピロリ菌がいなければ胃がんには絶対にならないのか?
除菌の副作用はないのか?
といった詳しいことは、まだ知らない方も多いのではないでしょうか?
私のように消化器が専門の医師は、患者さんから上記のような質問を受けることがよくあります。
そこで今回は、ピロリ菌の性質、検査と、その除菌方法や副作用、除菌中の注意点などについて詳しく説明します。
これを読めば、誰でもピロリ菌について理解ができるよう分かりやすく説明しますので、ご安心ください。
目次
ピロリ菌は胃がんのリスク
「ピロリ菌」とは、「ヘリコバクター・ピロリ」という名前の細菌の「あだ名」です。
胃にピロリ菌が感染すると、長年にわたって慢性的な炎症を起こします。
長い年月を経て「萎縮性胃炎」と呼ばれる胃粘膜の萎縮に発展し、胃がんが発生しやすい状態になると考えられています。
現在、国内の感染率は35%で減少傾向ですが、まだまだ多くの人がピロリ菌に感染しています。
我が国では、ピロリ菌に感染していない人の胃癌リスクは極めて低いとされており、感染者の胃癌リスクは非感染者の15-20倍以上とされています。
また、ピロリ菌がいない胃がんは、わずかに0.66%とされています。
ここまで読んだ方は誰しも、自分の胃にピロリ菌がいるのかどうか、気になるのではないでしょうか?
ピロリ菌の感染経路は?
ピロリ菌は、誰かから感染しない限り胃に現れることはありません。
食べ物やストレスなどが原因になることもありません。
主な感染時期は乳幼児期と言われており、現在ほとんどが家族内感染です。
つまり、家族にピロリ菌陽性者がいないと、感染を受ける可能性は低いことになります。
乳幼児期以降の年齢での感染は少なく、大人同士がキスなどにより唾液を介して感染することはないと考えられています。
ピロリ菌は胃の中にいるため、性行為でも感染しません。
また近年は、生活環境の改善、上下水道完備によって感染率が減少していると言われており、かつては井戸水などを介して感染していたと推測されています。
ピロリ菌の検査方法と診断
ピロリ菌に感染しているだけでは、自覚症状は全くありません。
ネット上では、口臭が起こる、げっぷやおならが多くなる、といった間違った情報を見ますが、感染しているだけでは無症状です。
したがって、感染しているかどうかは検査をしない限り分かりません。
ピロリ菌感染の有無を検査する方法は多くあります。
いずれも有効な検査ですが、病院によって行っている検査は異なるため、医師に確認しましょう。
ピロリ菌感染を確認する検査は、大きく二つに分けることができます。
一つは、内視鏡を使って採取した胃の組織を用いる方法。
もう一つは、内視鏡を使わずに行う方法です。
内視鏡を使わない方法には、以下の3種類があります。
尿素呼気試験
尿素を含む検査薬を内服したあと、口から吐く息を検査する方法です。
多くの医療機関ではその場ですぐに結果がわかり、簡易的で性能も良い検査です。
しかし以下のような欠点もあります。
抗菌薬や、胃酸をおさえる薬を内服している方は、菌の勢いが抑えられているせいで、正確な結果が得られないことがあります。
(菌がいるのに「いない」という結果が出る恐れがあります)
よって、こうした薬を内服中の方は、2週間以上中止してから検査を受けなければなりません。
またこの検査は、検査薬を飲む前に吐いた息を集め、検査薬を内服し、その20分後に再度吐いた息を集めて検査をする、という流れになります。
その間、患者さんは病院に拘束されます。
患者さんごとにまとまった時間が必要で、あらかじめ予約が必要です。
検査方法の説明の時間も含めると、それなりに手間の多い検査といえるでしょう。
抗ヘリコバクターピロリ抗体測定
血液検査または尿検査で抗体の存在を確認する検査です。
通常の血液検査や尿検査と同時に行えるので、時間的な拘束のない便利な検査です。
また、抗菌薬や、胃酸をおさえる薬を飲んでいる方でも、結果に大きな影響はありません。
ただし、その場で結果をすぐに知ることはできません。
通常は、血液あるいは尿を採取したあと、その次の外来を予約し、そこで結果の説明を受けることになります。
またこの検査は、ピロリ菌を除菌してもすぐには陰性になりません。
したがって、除菌後の判定には使いにくいという欠点があります(陰性まで1年かかると言われています)。
便中ヘリコバクターピロリ抗原測定
便を用いて、ピロリ菌の抗原がいるかどうかを調べる検査です。
こちらも非常に有効な検査ですが、便の場合は、血液や尿と違ってその場で検査をすることができません。
まずキットを持ち帰ってもらい、自宅で便を採取して再度来院して検査に出す、という流れになります。
一手間多くなるのが欠点です。
いずれの検査も、長所、短所があります。
病院によって方針は様々ですから、医師に確認し、指示に従いましょう。
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ピロリ菌検査と治療にかかる費用
胃もたれや胃の痛みなどの症状があり、その検査を目的として内視鏡を行った場合は、そのままピロリ菌検査を行うことができます。
この時、慢性胃炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの胃の病気があれば、検査も除菌治療も保険が効く(自己負担は1〜3割)ことになります。
3割負担で、内視鏡検査が5000円前後、除菌治療の薬は2000円〜3000円程度です。
一方、特に症状がなく検診としてピロリ菌検査をする場合は、前述の内視鏡を使わない検査を行います。
この場合は、病気ではないため検査や除菌治療は自費(全額自己負担)です。
検査に5000〜6000円、除菌治療の薬に5000円〜6000円程度かかります。
ここに診察料などが加わることになります。
ただし、生検などの処置が加わったり、初診料の差などで大きく料金が変わることもあるためご注意ください。
ピロリ菌の除菌方法
ピロリ菌感染が判明したら、除菌を行う(薬でピロリ菌を殺す)ことになります。
ピロリ菌は、3種類の薬を1日2回、1週間という短い期間飲むことで除菌することができます。
この3種類とは、胃酸をおさえる薬(プロトンポンプ阻害剤:PPI )と、2種類の抗菌薬(抗生物質)です。
「3種類も飲むのは大変!」と思う方、心配はいりません。
3種類の薬が1パックになった製剤がありますので、内服は簡単です。
ただ、飲み忘れは除菌失敗の原因になりますので、必ずきっちり飲みましょう。
薬を飲み終わったあと4週間以上たってから、除菌判定を行います。
除菌判定は、尿素呼気試験か便中抗原測定を使って行います。
一回の除菌治療で成功する人は70〜90%です。
つまり、きっちり薬を内服しても、除菌に失敗する人が一部にいるわけですね。
その理由は、抗菌薬に耐性をもったピロリ菌の存在です(もちろん飲み忘れが原因のこともあります)。
除菌に失敗した場合は、二回目の除菌治療(二次治療)を行います。
その場合は抗菌薬を別の種類に変えますが、こちらもパック製剤がありますので安心してください。
二回目でも失敗したら?
その場合は専門的な三次治療の選択肢があります。
医師の指示に従いましょう。
除菌治療の副作用は?
副作用として下痢や味覚異常、口内炎、舌炎などがあります。
副作用の出現率は4.4%で、下痢と味覚障害が主とされています。
下痢は抗菌薬の副作用としてよく起こるもので、ピロリ菌の除菌療法に限ったものではありません。
抗菌薬でひどい下痢を起こした経験がある方は、その旨を事前に医師に伝えましょう。
整腸剤を併用することで下痢を軽減することができます。
除菌治療中に注意すべきことは?
除菌治療をしている最中は、食事など日常生活はいつも通りでいいのでしょうか?
実は、いくつか注意点があります。
まず、喫煙(タバコ)は除菌率を低下させるため必ず禁煙しなくてはなりません。
また二次治療になった場合、飲酒は控えましょう。
二次治療に用いる抗菌薬が、アルコールとの反応によって副作用を起こすためです。
除菌することの問題点は?
ピロリ菌を除菌すると、逆流性食道炎(胃食道逆流症)の頻度が増える、との報告がありますが、コンセンサスは得られていません。
逆に、除菌によって逆流性食道炎が改善したという報告もあります。
いずれにしても、死のリスクがある胃がんを予防できるという効果と、薬で治る病気である逆流性食道炎のリスクを天秤にかければ、除菌治療をためらう必要はない、と考えられています。
逆流性食道炎については以下の記事をご覧ください。
市販薬では治らない!逆流性食道炎の原因と症状、何科を受診すべきか?
除菌すれば胃がんにならない?
一度感染したことがある人は、除菌成功後に胃癌のリスクは低下しますが、それでも「一度も感染したことがない人」よりはリスクが高くなります。
ピロリ菌感染によって胃に炎症が起き、すでに胃がんになりすい状態になっているからです。
除菌しても、定期的な胃がんの検診は必要です。
ちなみに、除菌した後に再びピロリ菌が陽性になる確率は年0〜2%と非常にまれだとされています。
では、最初からピロリ菌が陰性だった人はどうすれば良いでしょうか?
ピロリ菌がいないなら「胃がんになる確率は低い」「検診は受けなくて良い」として良いでしょうか?
実はそうではありません。
これについては、以下の胃がん検診の記事をご覧ください。
胃がん検診で早期発見!胃カメラかバリウムどっちを選ぶべき?(参考文献)
消化性潰瘍診療ガイドライン2015/日本消化器病学会
H.pyroli感染の診断と治療のガイドライン 2016/先端医学社
専門医のための消化器病学 第2版/医学書院