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ラジエーションハウス第10話 感想&解説|放射線科 鏑木部長は名医なのか?MPRの真実

医療ドラマでは、「誰もが想像もしなかったアイデアを誰かが思いつき、患者を救う」という「ファインプレー」が定番です。

こういうシーンを見て、

「自分が通う病院にこういう優秀な人がいなかったら困る!」

と思う方が、少なからずいるでしょう。

 

しかし実際には、ドラマで出てくる「ファインプレー」は、たいていエンタメのために製作者が用意してくれたフィクションです。

エンタメには、窮地を救うヒーローの「ファインプレー」が必須ですが、現実の臨床現場でそんなに「窮地」を作る人がいては困ります

技術は均てん化されている方が安全なのです。

 

さて、今回「窮地」を救ったのは、放射線科部長の鏑木(浅野和之)でした。

これまで技師を見下したり、患者の利益より自らの保身を優先するなど、悪役の印象が強かった鏑木。

しかし今回、医師―技師間の助け合いが必要であることを悟った彼は、画像診断力において見事なファインプレーを見せました

これは、実際にはどのくらいリアルなのでしょうか?

今回もドラマを振り返りつつ解説していきましょう。

 

ビタミンD欠乏症とは?

整形外科医、辻村(鈴木伸之)の外来にやってきた1歳の赤ちゃん。

3ヶ月前に上腕骨の骨折で治療歴がありますが、今回もまた鎖骨骨折を起こしています。

骨のやわらかい赤ちゃんの骨折は珍しいはず。

当初は虐待も疑われますが、レントゲン写真を見た五十嵐(窪田正孝)は、別の可能性を考えます。

それが「ビタミンD欠乏症」でした。

 

ビタミンは、体が正常に機能する上で、微量であるものの必須の化合物の一群です。

中でもビタミンDは骨の形成(石灰化)に必須で、これが欠乏すると全身に骨の障害が起こります

特に、骨の成長時期に起こったものを「くる病」と呼びます。

全身の骨に様々な変化が現れることが知られていますが、今回五十嵐が注目した「O脚」もその一つです。

 

ビタミンD欠乏の原因は様々ですが、日光浴不足はその原因の一つです。

皮膚でビタミンDが合成されるには日光が必要なためです。

また、アレルギー等による食事制限(卵や魚など)も要因の一つですね。

まさに今回ドラマで五十嵐が説明した通りです。

今回の赤ちゃんは、こうした要因が重なった結果として骨が弱くなり、骨折を起こしやすくなっていたのですね。

近年は、行き過ぎた紫外線対策が問題視され、テレビ番組等で扱われることもあります。

 

余談ですが、ビタミンはいずれも欠乏すると体に問題を引き起こすため、くる病以外にも、名前がついている病気がいくつかあります。

ビタミンAが欠乏すると「夜盲症」、ビタミンB1が欠乏すると「かっけ(脚気)」「ウェルニッケ脳症」、ビタミンCが欠乏すると「壊血病」です。

※くる病・骨軟化症にはもっと様々な分類がありますが、ここでは割愛します。

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神経芽腫の手術適応を決めたMPR

ビタミンD欠乏症が判明した赤ちゃんには、もう一つの問題がありました。

脊髄付近にできた腫瘍、神経芽腫です。

当初、脊髄に腫瘍が進展しているとされ、整形外科医らは「手術不能」と判断します。

手術をすれば重篤な麻痺が残るリスクがあり、デメリットの方が大きいと考えられたためです。

 

ところが、ここで鏑木が反論。

MPR、すなわち他の断面で腫瘍を観察すればもう少し正確な診断ができるのではないかと助け舟を出すのです。

その結果、腫瘍が脊髄からある程度距離があること、そして手術が可能であることが分かったのでした。

 

MPRとは、Multi Planar Reconstruction、すなわち「多断面再構成像」のことです。

そもそもCTは、多方向からX線を当てて体を輪切りにした映像を描出する装置です。

この輪切りの断面のことを、水平断や軸位断(axial)などと呼びます。

しかし、細かな輪切りのスライスを集めてコンピューターで解析すれば、「他の断面で切った時にどう見えるか?」を知ることができます。

こうして画像を再構成して得られた他方向の断面画像がMPRです。

特に脊髄や脊椎(背ぼね)のように縦に長い臓器は、今回のように縦の断面(矢状断や冠状断と呼ぶ)で見ることが診断に有用なケースがあります。

 

これらは、実際には病状に合わせて放射線技師が日常的に作ってくれる画像です。

私たち医師からお願いすることもありますが、技師が医師のオーダーや患者の病態から必要性を判断して作ってくれるのが通例です。

これは医師と技師の間の「日常的なやりとり」に過ぎず、「誰かがひらめく名案」というのは少し誇張なのですね。

ドラマを楽しんだ方にとっては興ざめで申し訳ないですが、皆さんにとっては「一人のファインプレーに診断が左右される事態」がリアルである方がむしろ困るでしょう

 

 

今回も、この点について放射線技師のゆーすけさん(@yuuu_radio)にご意見を伺ってみました。

ゆーすけさん

MPR画像を作成する時は、特に腫瘍の位置が重要ですね。浸潤していそうな方向で作成するのが大切で、そうすることで医師にも情報が伝わりやすいと思っています。ちなみに脊椎を見る際に、spine MPRという特殊なMPRを作成したりすることもありますよ!

日頃から、放射線技師の方々がオーダーに合わせてあの手この手で診断をサポートしてくれている、というわけですね。

 

とういうわけで、いよいよ次回が最終回。

楽しみですね!

 

最終回の解説はこちら!

ラジエーションハウス最終回 感想&解説|放射線技師の現実とドラマの脚色