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ラジエーションハウス第5話 感想&解説|肝破裂とオートプシーイメージング

ラジエーションハウス第5話は、オートプシーイメージング(死亡時画像診断)がテーマでした。

全体に分かりやすい筋書きで、ミステリー要素の強いストーリーだったと思います。

今回問題となったのは、臨床現場でも度々遭遇する重要な外傷

いつものように、ドラマを振り返りながら簡単に解説してみたいと思います。

 

肝外傷は致命的なことも

今回の患者は、一人でボール遊びをしている最中に心肺停止に陥り、そのまま死亡してしまった少年。

当初は死因が分からず、ボールが胸に当たったことによる心臓震盪(しんとう)が疑われます。

しかし、オートプシーイメージング(死亡時画像診断)が行われた結果、肝破裂が見つかりました。

死因は肝破裂による出血性ショック

友人によって腹部を殴打されたことが原因でした。

 

オートプシーイメージング(Ai)については、ドラマ中で分かりやすい説明があった通り、患者さんの死後に行われる画像検査のことです。

近年では、複数の大学病院がAiセンターを設けるなど、積極的に取り組んでいる施設もあります。

Aiといえば、チーム・バチスタシリーズやブラックペアンの作者、海堂尊先生が、その広報に取り組まれていることでも有名ですね。

以前インタビューでも、小説家になったのはAiを日本に広めるため、と話されていました。

 

さて、今回の肝破裂(外傷性肝損傷)は、確かに命に関わる重要な外傷です。

私たちも、高所からの転落や交通事故などで、肝損傷を診療することは非常によくあります

肝臓は「血管の塊」と言ってもいいほど、内部に血管が張り巡らされています

よって、外傷によって肝臓が損傷されると、大量に出血するリスクがあるのです。

これは「肝臓を切る手術の難しさ」にも影響します。

 

私たちが手術で肝臓の切除を行う際は、数え切れないほど多くの血管を横断することになります。

まさに「数秒ごとに次々と新しい血管に出会う」という感覚です。

たった1センチ切り進めるだけでも、一つ一つ血管を焼いて凝固したり、クリップを使って止血したりしする必要があるため、まさに「牛歩」のごとく手術が進みます

 

かつてこうした技術が未発達だった時代は、術中出血によって患者さんが亡くなる例がそれなりにありました。

25年前の全国調査では、原発性肝癌(肝臓からできるがん)の手術死亡率は、実に27.5%でした。

しかし2004~2005年では、手術死亡率は0.7%

これはもちろん「技術」だけでなく、術前の計画や術後管理の質の向上のおかげでもあります

(※我が国の肝がん患者は肝硬変など肝障害があることが多いため「出血しやすい患者が多い」という背景もあります)

 

さて、今回の肝外傷は暴行が原因でしたね。

放射線技師の五十嵐(窪田正孝)は、損傷している肝臓が右側(右葉)であることから、左利きの人物が犯人であると推測。

その結果、空手に長けた友人を疑うことになります。

では、Aiを使わなければ、こうした外傷は見つけられなかったのでしょうか?

 

肝外傷と画像検査

肝臓は、右の「あばら」の裏側にある臓器です。

今回は肝臓の右葉、つまり右側に損傷があったことから、左から殴打されたことが推測されましたが、実は右葉だけでなく、肝臓の大部分が体の右側にあります

正中線を超えて左にあるのは「外側区域」と呼ばれる部分だけです。


(体を前から見た図。肝臓の大部分は右側にある)

 

今回Aiで初めて肝損傷が判明したように、腹腔内の臓器損傷を画像検査なしで体表面から診断することは極めて困難です。

今回のドラマでも、表面に肝臓の損傷を強く疑うような打撲痕はありませんでしたね。

実際の臨床現場でも、

「出血性ショック(大量に出血し、血圧が保てない状態)で搬送された患者さんの出血源を探るため腹部CT検査を行う」

といった場面はよくあります。

そして、CT検査をして初めて「どの臓器から出血しているか」が分かる、という流れは現実的です。

 

ちなみに、肝損傷はその「緊急性」という性格から、頻繁に医療ドラマで扱われます。

ドラマでは特に重症の肝損傷が出てくることが多く、中には「緊急手術で何とか止血をして一命を取り留める」といったシーンは定番です。

命に関わる外傷は、ドラマになりやすいからですね。

 

しかし現実的には、手術が必要になるほど、あるいは命に関わるほどの重症例は、肝損傷の中ではむしろ少ない方です。

一方、「手術までは必要ないが入院が必要」と判断される方はよくいます

軽症なら、入院後時間をおいてCTを再検し、出血が増えないことを確認できれば退院、という形をとることもあります。

 

特に活動性の高い若い方(部活動や現場での労働など)にもよく起こる肝損傷ですが、いつも「命に関わる」というわけではないということですね。

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総合的な判断力の重要性

今回はこれまでとは違い、五十嵐の画像診断力というより、推理力や状況の判断力の面にスポットが当たりました

実際の臨床現場で外傷を診療する際も、単一の検査結果だけではなく、患者さんがどんな風に受傷したのか(受傷機転)や、もともと持っていた病気などを加味した洞察力も必要です。

検査結果という一点で状況を捉えるのではなく、周辺の所見を鑑みた上で総合的に判断する力が臨床医には必要なのですね。

今回はその点で、五十嵐の有能さが示されたということです。

 

なお、最後に余談ですが、患者さんが亡くなった際、その患者さんの病状や死因をご家族に説明するというセンシティブな仕事には、それなりの時間を要します

実際には、各種検査がフル稼働している中、放射線技師が多忙な日常業務を離れてこうした面談に参加する時間はとれないでしょう。

もちろん多くの方はこれをフィクションだと思って見ているとは思いますが、念のため最後に付記しておきましょう。

(参考文献)
*1 肝癌診療ガイドライン 2005, 2013, 2017
*2 J Trauma Acute Care Surg. 2013;75:590–595

 

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