感染症診療に関する知識は、どの科の医師にも必須であるため、初期研修医の段階で広く学んでおく必要があります。
また、例えば病棟で患者さんが突然発熱した、といった際、最初に気づくのはたいてい看護師です。
経験豊富な看護師は若手医師より適切な対応方法をよく知っているものですが、そうした看護師でも感染症の知識はあいまい、ということはよく経験します。
そこで今回は、間違えやすい感染症関連のポイントを6つ挙げてみます。
下痢に対して便培養
「◯◯さん、下痢が続いていて熱も出ています。便培養とりましょうか?」
感染症診療において最も重要な検査の1つに「培養検査」があります。
疑わしいfocusがあれば、その領域の検体をとって培養、これがルーチンになっているはずです。
ところが「便培養」は例外です。
同じような思考回路で、入院患者の「発熱+下痢」に「血液培養+便培養」は、必ずしも正しい対応ではありません。
便培養を出す前に「3 days rule(3日ルール)」という有名なルールを思い出してください(Clin Infect Dis. 1996)。
「入院してから3日以上経過した後に発症した下痢に便培養を出してはいけない」という意味です。
その理由は、外来患者の下痢とは違い、Clostridioides difficile(以前は「クロストリジウム・ディフィシル」と呼ばれていました)以外に感染性下痢の可能性がきわめて低いことです。
(院内で感染性腸炎に感染するリスクが低い上に、薬剤性や経管栄養などの非感染性の原因がむしろ多い)
「念のため便培養」は無駄なだけでなく、感染とは関わりのない細菌が検出され、かえって治療方針が乱れる原因になります。
(そもそも便は細菌だらけなので、「念のため便培養」派の人は結果が返ってきても治療方針に反映していないことが多いのですが)
一方、入院後3日以内の下痢であれば、入院前に感染した可能性があります。
もちろん、免疫不全の患者であれば「3日ルール」が適用されないケースもありますので、状況に合わせて判断してください。
男性の膀胱炎
「◯◯さん、排尿時痛と残尿感があるようです。膀胱炎でしょうか?」
若い男性の排尿時痛や残尿感、血尿などの症状を見て、簡単に「膀胱炎」を鑑別にあげてしまう人がいます。
女性ならそれで良いのですが、50歳以下の男性の膀胱炎は「きわめてまれ」ということを知っておく必要があります。
もし本当に膀胱炎なら、何らかの解剖学的な異常や免疫学的な異常があることを示唆します。
つまり、前立腺炎や前立腺肥大、HIV感染等での免疫不全といった特殊な背景を考えるということです。
むしろ若い男性の生殖器の症状は、性感染症としての尿道炎の可能性が高く、それを想定した問診が必要になります(外来であれば)。
また、前立腺炎が疑わしければ直腸診も必要です。
いずれにしても、女性の膀胱炎に対する考え方とは全く異なるため、注意が必要なポイントです。
「発熱なし、白血球上昇なし」で大丈夫
医師「◯◯さんの状態は落ち着いてる?」
看護師「ずいぶん落ち着いてきました」
医師「熱は?」
看護師「出てません」
医師「白血球は?」
看護師「上がってませんでした」
こういう会話を時々聞くのですが、よく見てみると、
白血球3000、体温35℃台
と重症感染症を示唆する所見、ということがあります。
「感染症といえば熱が出て白血球とCRPが上がるもの」と感覚的に思い込んでいる人がいるかもしれません。
しかし、例えばSIRS(全身性炎症反応症候群)の診断(最近はあまり用いませんが)は以下のうち2項目を満たすことでなされます。
体温:38℃以上または36℃以下
脈拍:90回/分以上
呼吸数:20回/分以上、またはPaCO2 32Torr以下
白血球:12000/μl以上または4000/μl以下、あるいは未熟顆粒球が10%以上
これらは全て重症感染症を示唆する所見で、中でも低体温や白血球低値はきわめて要注意な所見です。
ちなみに上述の例文の医師は、
「自分の目で見ずに看護師に何でも聞いてしまう悪い例」
でもありますが、看護師も「上がっているか下がっているか」ではなく、具体的な数字を言う方が安全です。
(もちろん研修医も同じ)
また、白血球や発熱だけでなく、呼吸数や脈拍も非常に重要な指標であるため、この情報もきっちり伝えておくべきでしょう。
発熱があるときだけ血液培養
「血液検査や全身状態から感染症が疑われますが、熱はありません。熱が出た時に血液培養とりましょうか?」
全くもってナンセンスなセリフです。
前項で書いたことと重複しますが、発熱は感染症を疑う多くの他覚的所見のうちの一つにすぎません。
特に高齢者など、重度の感染症でも発熱しないことは非常によくあります。
血液培養は、「菌血症を疑う時」に採取するものです。
「熱が出るまで待つ」など、もちろん言語道断です。
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カテ刺入部の所見なし?
「◯◯さん、38℃の発熱があります。でもカテの刺入部には全く所見がありません」
発熱時の熱源精査の際、体内にあるデバイスは見逃されがちです。
特に、CV(中心静脈カテーテル)が挿入されている患者さんの発熱では、常にカテーテル関連血流感染(カテ感染、CRBSI)を疑わなければなりません。
しかし、これを分かっていても、
「刺入部には発赤などの炎症所見はないので、カテ感染は否定的です」
と言い切ってしまう人を時々見ます。
カテ感染で、刺入部の炎症所見が見られるのはたった3%以下とされています(特異度は高いが感度は非常に低い)(※)。
よってカテ感染を疑った場合には、刺入部の所見に関わらず、必ず血液培養(2セット)を採取する必要があります。
基本的に、CVが挿入されている患者さんはいつカテ感染してもおかしくない、と思って目を光らせておいた方が良いと思います。
そして、その患者さんを回診するたび「このカテを早く抜きたい」と念仏のように唱えるほど、常に抜去のタイミングを意識しておくくらいがよいでしょう。
CVは、医療スタッフとっても患者さんにとっても非常に便利なデバイスですから、必須でないのに漫然と入れ続けてしまうことはよくあります。
しかし、必要がなくなったら即座に末梢ルートに変更、あるいはカテ自体抜去、というのが、感染リスクを最小限にするためには必須です。
カテ感染は命に関わるからです。
(※)Crit Care Med, 2002 30:2632-35.
クラビット®️の使い方
レボフロキサシン(LVFX、クラビット)については、以下の誤った処方に注意が必要です。
・クラビット+マグミット
・クラビット+ビオフェルミンR
マグミットや酸化マグネシウムなどのマグネシウム製剤とレボフロキサシンを同時併用すると、レボフロキサシンの吸収が低下して効果が減弱します。
2時間以上内服の時間をあければ良い、とされていますが、むしろ、
「レボフロキサシン以外の抗菌薬はダメなのか?」
「マグミット以外の緩下剤はダメなのか?」
を考える方が良いでしょう。
また、抗菌薬とビオフェルミンやラックビー、ミヤBMなど腸内細菌が含まれた整腸剤の併用は、腸内細菌が抗菌薬によって死滅するため効果を示しません。
併用するなら、抗菌薬に耐性を持つビオフェルミンRやラックビーRなどが必要です。
しかし、R製剤でもニューキノロンには耐性がないため、例えばレボフロキサシンと併用する場合、ビオフェルミンRを選んでも意味はありません。
この場合も、
「そもそもその抗菌薬は必要なのか?」
という考察に立ち戻った方が良いでしょう。
抗菌薬の代表的な副作用は下痢です。
抗菌薬の使用がかえって症状を悪化させている可能性もあるからです。
以下の記事もご覧ください。
看護師さんだけがよく使うちょっと不思議な業界用語一覧