「健診を受けたら胆石があると言われたけど治療すべき?」
「昔胆石があると言われたことがあるけど、治療せずに様子を見ていて大丈夫?」
「胆石があって手術を受けるかどうか迷っている、どうすればいい?」
こういう疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
胆石症は非常にありふれた病気で、症状がなくても知らないうちに胆石を持っている人は多くいます。
ここでいう胆石とは、正確には「胆のう結石症」、つまり胆のうの中に石ができる病気を指します。
胆のう結石症は、手術以外では治りません。
では、胆石がある人は全員が手術を受けないといけないのでしょうか?
実はそうでもありません。
今回は、胆石の手術を多く行ってきた消化器外科医の立場から、胆石の原因と治療についてわかりやすく説明します。
このページを読めば、胆石のことについてはすべてわかるようになっています。
難しい話はありませんので安心してください。
目次
胆石症ってどんな病気?
胆石は、胆のう内に石ができる「胆のう結石」、総胆管内に石ができる「総胆管結石」、肝臓の中に石ができる「肝内結石」の3種類があります。
ここでは、一般に「胆石」と呼ぶことが多い「胆のう結石症」について述べます。
胆のうは、胆汁を貯めておく「ため池」のような袋状の臓器です。
胆汁は肝臓で作られる消化液で、摂取した脂肪の分解を助ける働きがあります。
肝臓で作られた胆汁は、胆管という管を通って十二指腸に分泌されますが、その途中にあるため池が「胆のう」です。
胆のうで胆汁を一時的に貯めておき、必要な時に胆のうが収縮して胆汁が十二指腸に流れる、という仕組みです。
胆石とは、胆のうの中に石ができてしまう病気です。
胆石の原因は?
胆石は、コレステロール胆石と色素胆石に分けることができます。
最も多いのがコレステロール胆石で、70%を占めます。
コレステロールが主成分で、白っぽい色の石になるのが特徴です。
コレステロールの摂りすぎや、胆のうの収縮能が落ちることが原因とされています。
胃の手術をしたことがある方も、このタイプの胆石になりやすくなります。
一方、色素胆石には「ビリルビンカルシウム胆石」と「黒色石」があります。
黒っぽい色になるのが特徴です。
ビリルビンカルシウム胆石は細菌感染が原因とされていますが、黒色石の原因ははっきりわかっていません。
胆石の大きさは人によって様々です。
3cm〜4cmの大きなものがある人から、数ミリの砂利のようなものが多量にある人までいます。
胆石ができやすい人とは?
中年(50〜60歳)、肥満、脂質異常症(高コレステロール)、糖尿病の方などに、胆石ができやすいと言われています。
また急激なダイエットや妊娠、経口避妊薬の使用なども胆石のリスクです。
胃の手術を受けたことがある人は、胆のうの収縮能が落ちることで胆石になりやすくなります。
ちなみに、上述の理由がない方で日常生活のストレスだけが原因で胆石になることはありません。
どんな検査でわかる?
腹部超音波検査
胆石を最も診断しやすいのは、腹部超音波検査(腹部エコー)です。
お腹にエコーを当てるだけで、胆石を比較的簡単に診断することが可能です。
CT検査
CTでも胆石は写りますが、胆石の成分によっては大きなものでも全く写らないことがあります。
CT検査だけで胆石を診断することはできないため、必ず上述したエコー検査も合わせて行います。
ただし、後述する胆のう炎の疑いがある時は、CT検査を必ず行います。
胆のう周囲の炎症がどのくらい広がっているか、どのくらい重症かを見るのにはCTが最も有用だからです。
ちなみにレントゲン(単純X線)では胆石はほとんど写りません。
MRI検査
MRIも小さな胆石は写りにくく、胆石を診断するのには使いません。
ただし、胆石に対して手術が必要になった時、術前の精密検査として行うことが多いです(この方法をMRCPと呼びます)。
胆のう周囲の胆管の走行は人によって違うため、これを事前に把握することが目的です。
血液検査
血液検査だけで胆石を診断することはできません。
しかし胆石がある人は、ALP、LAP、γ-GPTといった胆道系の項目が上昇することがよくあります。
他の検査で胆石を疑われ、こうした数値も異常なら、より確実な診断につながります。
胆石が胆のうから落ちて総胆管につまる「総胆管結石」を起こしていると、ビリルビンやアミラーゼが上がることもあります。
また後述する胆のう炎に発展していると、白血球やCRPといった炎症反応、ASTやALTといった肝酵素が上昇します。
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胆石の症状とは?
胆石の典型的な症状は、みぞおちから右の脇腹の激痛です。
時に右肩まで痛みが広がることがあります。
特に食後に痛みが出ることが多く、脂っこいものを食べたあとや、多く食べ過ぎたあとに痛む、というのが典型的な初期症状です。
急に差し込むような痛みが起こることを「胆石発作」と呼びます。
また、痛みと同時に吐き気や嘔吐が起こることもあります。
胆石が胆のうから落ちて総胆管に詰まる「総胆管結石」を同時に起こしていると、黄疸が出ることもあります。
胆石発作自体は自然に治ることが多いですが、一度胆石発作を経験したことがある方の多くは何度も胆石発作を繰り返します。
怖いのは、放置していると「胆のう炎」に発展するリスクがある、ということです。
胆のう炎とは?
胆のう炎とは、胆のうに細菌感染を起こして激しい腹痛と高い熱が出る病気で、多くの場合は緊急手術が必要になります。
胆のう炎の原因の90%は胆石です。
胆石発作を繰り返しているのに胆石を放っておくのは、一種の「爆弾」を抱えているようなものです。
胆石の手術とは?
胆石を持っている人全員が手術を受けなくてはならない、というわけではありません。
手術が推奨されるのは、
「胆石の症状がある方」
かつ
「全身麻酔の手術を受けることができる健康な方」
です。
胆石だけを手術で取り出すことはできません。
したがって、手術では胆のう自体をとってしまいます。
手術の方法は大きく分けて二つあります。
腹腔鏡手術(内視鏡手術)と開腹手術です。
いずれも全身麻酔で行います。
上の図のように、腹腔鏡手術は5mmから1cmの穴を3〜4箇所あけるだけで行えますが、開腹手術は15cm程度の傷がお腹につきます(病院や病状によって異なります)。
安全性はどちらも変わらないこと、腹腔鏡の方が入院期間が短いこと(通常3〜5日程度)から、腹腔鏡手術が主流となっています。
現在、胆のうを摘出する全手術のうち83%が腹腔鏡で行われています(胆のう炎を起こしていない胆石に限定すればもっと多いと推測されます)。
ただし、胆のう炎をひとたび起こしてしまうと、胆のう周囲の強い炎症のため、
合併症のリスクが高くなる
手術時間が長くなる
など、炎症がないときに手術をするのに比べるとリスクが格段に高くなります。
また炎症が強いと、腹腔鏡で手術ができないこともあります。
(開腹手術を行う、あるいは腹腔鏡手術で始めても途中で開腹手術に切り替えます)
炎症のない胆石の腹腔鏡手術であれば、手術時間はおよそ1時間〜1時間半程度です。
よって胆石があり、強い症状を経験したことがある方は、胆のう炎を起こす前に手術を受けるのが望ましいでしょう。
手術後の入院期間は?
腹腔鏡手術なら術後2〜3日間、開腹手術なら術後4〜7日間の入院というのが一般的です(病院によって方針は様々です)。
食事は翌日から摂れますし、体の状態が良ければ手術翌日から歩けます。
ただし、次に書く合併症が起こった場合は入院期間が長くなります。
場合によっては1ヶ月以上に長引くこともあります。
胆のう炎を起こしていたケースでは、そのリスクがやや高くなる傾向があります。
手術の合併症
胆石の手術後に、確率は低いものの以下のような合併症が起こります。
出血
手術中に出血がないことを必ず確認して手術を終わりますが、病室に帰ってからお腹の中で出血が始まることがあります(ごくまれです)。
もう一度手術をして止血をしなくてはなりません。
胆汁漏
胆のうに向かう胆管(胆のう管)の切り口や、胆管自体の表面についた傷などから胆汁が漏れ出すことです。
お腹の中に胆汁が漏れると、腹膜炎を起こしてしまいます。
軽い場合はお腹に管を入れて胆汁を抜きます。
ひどい場合は再手術が必要です。
創部の感染
皮膚の表面の傷が膿むことです。
傷が真っ赤になって膿が出たり、傷んだりします。
膿を出すことで自然に治りますが、人によっては治るのに時間がかかる人もいます。
特に肥満の方や、糖尿病などで免疫力が低い方は感染のリスクが高い傾向にあります。
術後の傷についてはこちらも参照
退院後の生活
胆のうを取ってしまうことで後遺症を心配される方が多くいます。
胆のうはなくなっても全く問題ありません。
胆のうは胆汁をためておくため池で、胆汁を作っている臓器ではありません(胆汁は肝臓で作られます)。
胆のうがなくなっても、肝臓で作られた胆汁はこれまで通り十二指腸へ流れていくので、食べ物の消化吸収に大きな問題は起こりません。
一部の方に軟便や下痢が起こることがありますが、6%程度と起こる確率は低いとされています。
したがって特に食事制限はありません。
退院後は、激しい運動をしなければ仕事復帰や家事など日常生活への復帰はすぐにでも可能です。
もちろん病状にもよりますので、必ず主治医に確認しましょう。
お腹の手術後の生活については以下の記事をご参照ください
無症状なら手術をしなくてもいい?
胆石があっても無症状、という人は多くいます。
こういう方に治療をせずに様子を見て、胆のう炎のような重篤な症状を起こす可能性は年に0.2%とされており、90%以上の人は無症状のままです。
したがって、原則的に無症状の胆石には手術が推奨されていません。
胆のう癌に胆石の合併が高率にあることから、胆石と胆のう癌は関連があるのではないかとも言われていますが、その因果関係は完全に明らかになっていません。
したがって、胆のう癌の予防を理由に手術をすすめることはありません。
ただしリスクを考慮して、1年に1回の腹部超音波検査での経過観察が推奨されています。
ちなみにこういうリスクを説明すると、「症状はないけど手術で胆のうを取ってほしい」と言う方がおられます。
病院の方針にもよりますが、希望が強い場合には、手術のリスクに同意いただけるなら手術を受けていただくケースが多いと思います。
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手術以外の治療法・予防法は?
誰しも、胆石を手術以外の方法で治せるなら治したいと思うはずです。
「食事に気をつけたり、薬を飲んだりして胆石をなくしてしまうことはできないのか?」
ということです。
結論から言うと、確実性のある治療は手術以外にありません。
「脂っこいものを控える」「ビタミンCの多い食事を摂取する」というような食事メニューが推奨されることがありますが、「胆石を溶かす」という目的では全く効果はありません
(胆石発作の予防にはなりえますが胆石症の治療にはなりません)
手術をしなくても良い無症状の胆石では良いですが、治療が必要な胆石では、こうした食事療法をおすすめすることはありません。
当然、市販の薬やサプリで予防できる、治療できるといったこともありえません。
しかし、手術が必要な胆石でも、どうしても手術以外の治療を選ばなくてはならないケースがあります。
患者さんが「どうしても手術を受けたくない」と言われる場合や、「全身麻酔に耐えられないような持病がある、高齢である」という場合です。
この場合には、以下の治療を行うことがあります。
胆石溶解療法
ウルソデオキシコール酸という飲み薬を飲むことで、胆石を溶かせることがあります。
しかし、胆石の成分によっては溶かすことができないことも多く、また胆のうの機能が落ちている場合も効果は乏しいです。
15mm未満の胆石で、完全に溶ける確率は約30%と低く、しかも溶けても約60%に再発します。
体外衝撃波破砕療法(ESWL)
その名の通り、体外から衝撃波を与えて胆石を砕く治療です。
こちらも胆石の成分によっては無効で、胆のう機能が落ちている場合も使えない治療です(胆石が粉々になっても胆のうが収縮しない限り胆のうの中に細かい石が残ったままです)。
こちらは治療がうまくいったとしても、10年以内に約60%が再発し、結果的に36%が手術を受けることになります。
ここから言えるのは、胆石だけをなくしたとしても、胆石を作る工場である胆のうが残っている限り、また石ができてしまう可能性が高いということです。
手術以外の治療についてはよく知っている患者さんは非常に多いです。
様々な書籍やインターネットで勉強されているのだと思いますが、効果が非常に限定的だということまでは知らない方が多いようです。
確実性のあまりの低さを考えると、「治療が必要な」胆石に対しては手術以外の治療はおすすめできません。
健康診断などで、胆石が偶然見つかる方も多いかと思います。
放置せず、まずは病院に行って医師の診察を受けるようにしましょう。
(参考文献)
胆石症診療ガイドライン2016/日本消化器病学会