腹部(お腹)の手術を受けるなら、術後いつ日常生活に復帰できるのかと心配になる方は多いのではないでしょうか?
手術のあとは、
「お風呂にいつ入れる?」
「仕事はいつまで休まないといけない?」
「運転で子供の送り迎えは大丈夫?」
「自転車で買い物は?」
「お酒や性生活は?」
と様々な疑問があるでしょう。
突然の入院で日常生活から離れてしまうのですから、いつ戻れるのか心配になるのは当たり前です。
また、傷に対しては
「消毒した方がいいの?」
「水がかかっても大丈夫?」
といった疑問もあるかもしれません。
今回は、私が外科医として普段患者さんに説明している内容をそのままお伝えすることで、全ての疑問にお答えします。
なお、お腹の手術は多種多様です。
胃がんや大腸がんなどの消化器がん、子宮がん、卵巣がんなどの婦人科がん、膀胱がんや前立腺がんなど泌尿器がんなどの悪性疾患もあれば、虫垂炎(盲腸)や子宮筋腫のような良性疾患もあります。
開腹手術もあれば腹腔鏡手術もあります。
ここに書くのは、これらに共通する一般論ですので、個別の状況に合わせた細かな対処法は、必ず主治医にご相談ください。
お風呂にいつ入れる?
シャワー浴のみであれば、術後、入院中でも可能です。
傷の状態が良ければ、手術から72時間後、すなわち3〜4日後を目安にシャワーを浴びていただくことが可能です。
この際、入院中は傷を保護してシャワーを行う病院もあるかと思いますが、医学的には、直接お湯がかかっても何ら問題はありません。
むしろお湯で清潔に洗い流した方が良い場合もあり、医師からそのように指示することもあります。
従って、退院後も傷を保護せずにシャワーをそのまま浴びても全く問題ありませんので、安心してください。
(洗浄を指示された場合は、ボディソープの泡を使った優しい洗い方を心がけてください)
ただ、湯船の中に浸かって入浴するのは、もう少し経ってからが望ましいとされています。
湯船の中の水はシャワーの水に比べるとかなり不潔ですので、退院後すぐに長時間傷を浸けておくのはあまり良くないでしょう。
通常、手術が終わって無事に回復して退院すれば、外来の予約を退院の1〜2週間後にとります。
そこで傷を診察して入浴の許可を出すことが多いです。
傷の状態によりますが、通常きれいに治っていれば手術1ヶ月後までには湯船に入るのを許可しています。
銭湯や温泉に行きたい、という場合もこのくらいの期間を目安にしてください。
傷の消毒はした方がいいの?
傷の消毒は、一切不要です。
昔は手術の後は毎日外科医が傷を消毒していた時期がありますが、現在は消毒薬が傷の治りを悪くすることが証明されています。
そのため、特別な理由がない限り消毒は入院中も退院後も行いません(消毒してはいけません)。
退院後も自己判断で消毒するのは避けましょう。
むしろ、シャワーでしっかり洗って清潔にしているのが一番良いとされています。
傷の抜糸はいつ?
お腹の手術の場合、通常は術後1週間がおおよその抜糸の時期です。
子供の場合はもう少し早いタイミングで抜糸することもあります。
ただ、最近では溶ける糸(吸収糸)を用いて皮膚の内側で縫い合わせる「埋没縫合」が主流になりつつあります。
縫合した糸が埋まってしまい、糸は表面からは見えず、抜糸の必要がありません。
埋没縫合は抜糸が必要ないだけでなく、傷の感染が少ないとされ、傷の見た目もきれいに治るというメリットもあります。
仕事復帰はいつから?
入院によって仕事が中断し、「早く復帰しなければ」と焦る方も多いかと思います。
仕事の内容にもよるのですが、会社員の方などデスクワークがメインであれば、退院後すぐにでも復帰は可能です。
逆に言えば、その程度の生活も難しいようなら退院は許可されません。
退院できたということは、そういう軽い動作は許されていると判断して構いません。
ただ、医学的に仕事復帰が可能でも、体が思うように動かなかったり、まだ体のだるさが残ったりすることは多々あり、退院後1週間程度自宅療養される方が多いです。
慌てて出勤して体調を崩しては元も子もありませんから、焦らずしっかり体調を整えてから復帰することをおすすめします。
一方、肉体労働の方の場合は「運動」に近いですから、次の項目で合わせて説明します。
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運動はしていいの?
運動の可否は、それがどのくらい激しい運動かによります。
腹筋にかなり力の入るような激しい運動は、傷が開いたり傷の治りが悪くなったりする一因になる可能性があります。
少なくとも1ヶ月は避けてください。
1ヶ月以上経過した時点で傷の治りに問題がなければ、そうした運動も許可されます。
肉体労働をされる方で、重い荷物を運んだり、高い所を登り下りしなければいけないような方は、仕事が激しい運動に相当するとお考えください。
ランニングやサッカーなどのボール競技も、激しい運動に相当すると考えて良いでしょう(私の患者さんの中にも、術後1週間でサッカーをしていて走っている最中に傷が開いた方がいました)。
ただ、軽くウォーキングをしたり自転車に乗ったり、ということは退院後すぐにでも可能です。
日頃の買い物などにも支障をきたしませんので安心してください。
むしろある程度の軽い運動がリハビリになり、良い効果をもたらすこともあります。
自宅安静が必要だと思い込んで自宅でじっとしている方が体の回復にはよくありません。
適度に体を動かす方が良いでしょう。
「自転車には乗らないでください」と指示されることがあるかもしれませんが、私は許可しています。
自転車は、ゆっくりであれば腹筋にそれほど力の入らない楽な動作だと考えるからです。
また自転車の消費カロリーは速めのウォーキングと同じくらいです。
水泳やジョギングに比べると消費カロリーは圧倒的に少ないとされています。
もちろん、ロードバイクのような本格的な競技用自転車に乗ることは激しい運動に相当しますから、避けましょう。
車の運転や家事、性生活は?
車の運転や家事なども軽い動作に含まれますから、退院後すぐにしていただいて構いません。
ただし、子供を頻繁に抱っこしたり、重い荷物を運んだりするのは避けましょう。
性行為に関しては、消化器の手術(胃や大腸、胆嚢、小腸、肝臓、膵臓など)では退院後は全く問題ありませんが、生殖器が手術対象になりうる泌尿器科や婦人科の手術の場合は手術の内容によります。
必ず主治医に確認しましょう。
当然ですが、性行為も「激しい運動」に相当するようなものは除きますので注意してください。
お酒は飲んでいいの?
特別に飲酒を禁止されている方(肝炎や肝硬変など肝臓の病気、膵炎など膵臓の病気)を除けば、手術を理由に禁酒を指示することはありません。
退院後は、適度であればアルコール飲料を飲んでいただいても構いません。
もちろん深酒は避けましょう。
食事に関する一般的なことは、どんな手術を受けたかで注意点が全く異なりますので、主治医に確認しましょう。
なお、ここに書いてきたことは「腹部(お腹)の手術」に限った話です。
整形外科や脳外科、心臓外科の手術では全く違った注意点があり、すべての手術が同じというわけではありません。
また、術後の体の回復スピードは人によってかなり個人差があります。
上記の内容はあくまで目安と考え、主治医の指示に従うようにしましょう。