医療ドラマでは、手術シーンがよく出てきますね。
このブログでも、リアルなポイントと「あり得ない」ポイントを紹介しながら、手術シーンのことについて記事を多く書いてきました。
今回は、外科医が身に付ける「使い捨ての物品」について紹介してみたいと思います。
医療ドラマでよく見るように、外科医が身に付けるものは4種類あります。
ガウン、帽子、マスク、手袋です。
基本は全て使い捨てです。
このうち、帽子、マスク、手袋にはそれぞれ2タイプあるため、その違いについてこれまで何度か質問をいただきました。
帽子には、以下の2種類がありますね。
左は通称「シャワーキャップ」タイプ、右は後ろに結び目がある四角い「コックさん」タイプです(写真サイトで購入したロイヤリティーフリー画像)。
マスクも上の写真の左右の2種類があります。
左は紐を頭の後ろで上下2箇所結ぶタイプ、右はゴムを耳に引っ掛けるタイプ(多くの人が使う普通のマスク)です。
左のマスクは、後ろから見るとこんな感じです。
そして最後に手袋は、左のようにピタッと手に張り付くタイプと、右のようにゆるいシワのできるタイプです(これは私の手、手袋は使用期限切れの廃棄品)。
これらはいずれも医療ドラマでよく出てきます。
一体どのように使い分けているのでしょうか?
今後みなさんが医療ドラマを見る時の参考になるよう、分かりやすく解説してみます。
帽子の違い
「シャワーキャップ」のタイプと、後ろに結び目がある四角いタイプは、医師、看護師など職種を問わず好みに応じて使い分けています。
シャワーキャップタイプは、ゴムで頭に固定される仕組みです。
ナースキャップと言われることもありますが、医師でこちらを好む人もたくさんいます。
紐を結ぶ手間がないので、簡便でかぶりやすいのが利点です。
また髪が長い女性にとっては、帽子の中に髪の毛を収納できる利点もあり、女性看護師や女性医師がこちらを選ぶことが多い印象です。
手術や処置の際は、清潔性を維持するため、髪の毛はしっかり帽子の中に収めておくことが必須です(男女問わず)。
たとえば下の写真の左側の女性のように、束ねた髪を収納しようと思うと、シャワーキャップのタイプの方がゆったりしていて簡単ですね。
ただし、このタイプは長時間かぶっているとおでこにゴムの跡が残ります。
また、汗を全く吸わない素材なので、汗かきの人は手術中に汗が垂れる恐れがあります。
一方、四角いタイプは、おでこに密着する部分が汗を吸収する素材になっているものがあります。
よって、汗かきの人でも汗が垂れてくることはあまりありません。
汗を吸収する素材でないものもありますが、その場合でもおでこの前に汗を吸収するパッドを挿入し、万全に対策するのが一般的です。
外科医は一度手術に入ると、清潔な手袋をつけているため、手術が終わるまで自分の帽子を触ることができません。
したがって何時間もの間快適に過ごせる方を選ぶ必要があるわけです。
ちなみに私は汗かきではありませんが、四角い帽子を選んでいます。
手術後に患者さんのご家族に説明する際、シャワーキャップの形に合わせてキノコ状態になった髪型を直すのが少し面倒だからです。
ちなみに、手術ではなく短い時間で終わるような処置の時は、普通はシャワーキャップの方を選びます。
長時間でなければ快適さを考える必要はなく、素早く装着しやすい方を選ぶ方が楽だからです。
四角いタイプは、使い捨てではない布のものがあったり、整形外科で使用する顔全体をおおうタイプがあったりと、実は他にも種類はたくさんあります。
医療ドラマではあまり出てきませんが・・・。
マスクの違い
2種類のマスクの使い分けについては、「医療ドラマでよく見る、実際にはありえないシーン」でも解説しましたね。
紐タイプは、頭の後ろで上下2回結ぶ手間があるので面倒です。
しかも、慣れないうちは目で見えないところで紐を結ぶのに苦労します。
一方、ゴムタイプは耳にかけるだけなので着用が簡単です。
「じゃあなぜ便利じゃない方をわざわざ選ぶ人がいるの?」
と思いますよね。
ゴムタイプの最大の欠点は、ゴムの長さがワンサイズで、しばる強さを調整できないことです。
顔が小さい人だと、手術中にずれてきます。
前述の通り、一度手術に入ると顔は触れませんので、手術中にマスクがずれて鼻が見えるようなことがあると、看護師に直してもらわなくてはなりません。
手術中に何度もこれを繰り返すのは大変です。
紐タイプであれば、結ぶ長さによって強さが調節できるので、顔のサイズに合わせてマスクがフィットします。
またゴムタイプは、長時間着用すると耳の後ろが痛くなるという欠点もあります。
よって、長い間マスクを外せない外科医は紐のタイプを好み、途中で休憩して人員交代ができる看護師はゴムタイプを好みます。
私は紐タイプの方がフィット感が強く快適なので、紐タイプを選んでいます。
慣れない研修医が自分の顔が小さいのにゴムタイプを選んでしまい、手術中にマスクがずれ、タコのように口を尖らせて上下させることで手を使わずマスクを元の位置に戻す、という妙技を見せることがあります。
これは実際にやってみると分かりますが、まさに「のれんに腕押し」状態になり、かなり難易度の高い技です。
普通は決してできませんので、手術前に確実に顔に合う方を選んでおかなくてはなりません。
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手袋の違い
ドラマ「コード・ブルー」では、災害現場への医師の出動シーンがよくあります。
その際、最初は透明のゆるい手袋を付けていますが、いざ手術や処置、というシーンになると、ピタッとした手袋に付け替えます。
これは何が違うのでしょうか?
この違いは、滅菌処理されているか、されていないかです。
ピタッとした手袋は滅菌処理されているため、体の中に触れるような処置や手術の際に使います。
高度な清潔さが要求されるためです。
よってこちらの方が高価です。
また、このようにピタッと手に張り付くように装着できないと、細かい操作ができません。
指の感覚が手袋をしていない状態に近くなるこちらのタイプでないと手術はできません。
一方、患者さんに点滴や注射をしたり、傷の処置をしたり、といった場面では、これほどの清潔さは必要とされません。
そこで、滅菌されていないゆるい手袋を使います。
こちらは簡単に脱いだり付けたりができ、患者さんごとに付け替えるのも簡単です。
また、どちらかというと医療者側が感染から身を守る意味合いの方が強いと言えます。
手を細菌やウイルスから守れれば良いので、滅菌されている必要はありません。
手術室では、手術に入って患者さんに触れている外科医や看護師は滅菌手袋をして、外にいる看護師や医師は滅菌されていないゆるい手袋をしている、というのが正確な描写です。
今後は、こんなことを少し意識して医療ドラマの手術シーンを見てみてください。
医師の服装については以下の記事でも解説しています。 医療ドラマの医師の服装はリアルか?スクラブスーツと白衣の使い分け