大きな病院に行くと、様々な科の名前がずらっと並んでいます。
それぞれの科の専門領域がよくわからない、という人は多いのではないでしょうか?
医療の発展とともに、専門分野があまりに細かく分かれすぎたことの弊害です。
そうでなくとも、
形成外科と整形外科は何が違うの?
神経内科と精神科は何が違うの?
という単純な言葉の分かりにくさもあるでしょう(いずれも全く違う領域の専門家です)。
また、
「産婦人科、泌尿器科、耳鼻科などは外科系の科」
というのは私たちにとっては当たり前ですが、外科医と内科医の違いがよく分からない、という人も多いのではないでしょうか?
今回は、各科がどういう領域の専門なのか、また外科と内科の違いについて全体像をわかりやすく説明します。
だいたいのイメージをつかんでおけば、病院に行く時の不安がきっと軽くなるはずです。
内科と外科が分かれている領域
内科 | 外科 | |
---|---|---|
消化器 | 消化器内科 | 消化器外科 |
心・血管 | 循環器内科 | 心臓血管外科 |
脳神経 | (脳)神経内科 | 脳神経外科 |
呼吸器 | 呼吸器内科 | 呼吸器外科 |
腎臓 | 腎臓内科 | 泌尿器科 |
皮膚・体表 | 皮膚科 | 形成外科 |
小児 | 小児科 | 小児外科 |
ここに挙げた領域は、内科と外科が別々の科に分かれています。
重要なポイントは、横に並んでいる内科と外科は、同じ領域の病気を診ているということです。
消化器領域や呼吸器領域は名前がそのままで分かりやすいと思います。
一方、
心・血管系の循環器内科と心臓血管外科
脳神経系の神経内科と脳神経外科
腎臓の腎臓内科と泌尿器科
皮膚・体表の皮膚科と形成外科
という組み合わせが少し分かりにくいのではないでしょうか。
神経内科は、脳や脊髄、末梢神経の病気を手術以外の方法で治すのが専門です(手術で治すのは脳神経外科)。
これと間違いやすい精神科は、統合失調症やうつ病などの精神疾患が専門です。
精神科を「神経科」と呼ぶ病院もあり、余計に誤解を招きやすくなっています。
こうした背景から、昨年日本神経学会が「神経内科」の診療科名を「脳神経内科」に変更する、との通知を出しました。
ただ、今も従来の「神経内科」の呼称を使う病院は多くあるため、上の表では「(脳)神経内科」と書いています。
形成外科は、体表面の病気を外科的に治療する科です。
熱傷(やけど)や母斑(あざ)、ケロイド、陥入爪(巻き爪)など様々な疾患を診療します。
病院によっては、他の科の手術にサポートとして入り、血管吻合などのマイクロサージェリーを専門とする形成外科医もいます。
一方皮膚科は、皮膚の表面の病気を内科的に、つまり飲み薬や塗り薬で治療することが専門です(時に手術を行う皮膚科医もいますが)。
循環器内科と消化器内科は、これまでの歴史で徐々に心臓血管外科や消化器外科の仕事を減らしてきたという共通点があります。
たとえば、心筋梗塞はかつて心臓外科医がバイパス手術で治療していました。
しかし現在は多くを循環器内科がカテーテル治療します。
冠動脈の狭い部分がどこにあるかを確かめるカテーテル検査を、そのまま治療につなげたのです。
消化器内科も全く同じです。
胃がんや大腸がんはかつて、消化器外科医が全て手術で治療していました。
しかし、現在は早期のものは内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)で切除します。
がん以外にも、消化器疾患の中には外科医が手術しなくても良くなった(内科医が内視鏡で治してしまえる)病気は多くあります。
これも、内視鏡検査をそのまま治療につなげたのです。
ただし、外科医の仕事が極端に減ったわけではありません。
手術の技術も同じように進歩し、多くの患者さんに、安全かつ低侵襲(体に負担の少ない治療のこと)にできるようになったからです。
かつては手術できなかった高齢の方やリスクの高い方でも、手術を受けられるようになりました。
内科的治療で治せる人が増えたのと同じように、手術できる人も増えたということです。
内科と外科の協力体制
ここに挙げた内科と外科は同じ領域の病気を診るため、科として分かれていても、常に協力体制にあります。
これまで、
「外科と内科が対立するということはありますか?」
「外科医は何でも切りたがるという表現がありますが、これは本当ですか?」
という質問を何度も受けたことがあります。
治療方針に関して外科と内科の意見が食い違うことはありますが、原則お互い協力する立場です。
週に1回合同カンファレンスを開き、難しい症例で治療方針を確認し合う病院がほとんどだと思います。
一方「外科医は何でも切りたがる」は漫画やドラマの世界だけです(最近そういう医療ドラマも「ドクターX」くらいですが)。
外科医は「できれば手術せずに治せないか」を常に考えています。
手術は、あらゆる治療の中で最も患者さんに負担を与える最もリスクの高い治療です。
これをいかに避けるかを考えるのが外科医の仕事です。
手術は最終手段。
内科医が「これは私たちで治療できますよ!」と言ってくれた時、喜ばない外科医はいません。
患者さんもそうでしょう。
自分の体を切りたがる外科医には診てもらいたくはないはずです。
内科と外科で協力して患者さんのベストを目指すのが私たちの仕事です。
なお「消化器外科」は、単に「外科」と呼ばれたり、「腹部外科」「腹部・一般外科」などと呼ばれることもあります。
病院によって呼び名が違うのでややこしいですが、意味は全部同じです。
単に「外科」と呼ばれるのは、かつて消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺外科が全て一つの「外科」だった頃の名残です。
かつて全て同じ外科医が手術していた領域から、心臓外科が抜け、呼吸器外科が抜け、近年乳腺外科が抜けました(後述します)。
外科には「消化器外科だけが残った」ということです。
また「腹部外科」や「一般外科」と呼ばれるのは、消化器外科が手術するのは厳密には「消化器」だけではないからです。
例えば、鼠径ヘルニアや臍ヘルニアは腹壁の病気で、消化器疾患ではありません。
後腹膜肉腫や脂肪肉腫、リンパ腫など、腹腔内には消化器以外の腫瘍もあります。
脾臓も消化器外科医の領域ですが、消化器系の臓器ではありません(免疫に関与する臓器です)。
よって「腹部を中心として一般的な手術を行う科」というコンセプトの呼び名で呼ばれることもあるわけです。
内科と外科が分かれていない領域
以下に挙げた領域は、同じ科の医師が内科的治療も、手術も行います。
内科 | 外科 | |
---|---|---|
尿路生殖器 | 泌尿器科 | |
筋・骨格 | 整形外科 | |
乳腺 | 乳腺外科 | |
耳鼻咽喉頭 | 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 | |
目 | 眼科 | |
女性生殖器・周産期 | 産婦人科 |
手術を行う医師は「外科医」ですから、ここに挙げた人たちはみんな広い意味で「外科医」と呼ばれます。
これらの科は「診断から治療まで」と言われるように、患者さんを最初の検査から病気の診断、そして投薬治療、手術まで行います。
頻繁に手術室に出入りして手術も行う人たちです。
内科と外科に分かれていないのは、比較的専門領域が狭いため、と考えるのが良いと思います。
上述した内科、外科が分かれている領域は、領域別に分けているとはいえ、そのほとんどが「全身疾患」です。
外科医が内科治療まで手が回らない、ということですね。
(これは外科医の感覚で、内科医にしてみれば「外科医に片手間にやられると困る」です)
この中で分かりにくいのは泌尿器科や耳鼻咽喉科の外科治療でしょうか。
泌尿器科の手術は、腎臓や尿管、膀胱などの尿路(尿の通り道)に関わる疾患が対象です。
耳鼻科といえば開業医の先生のイメージが強いかもしれませんが、病院の耳鼻科の仕事は手術が中心です。
咽頭癌や喉頭癌、舌癌といった悪性腫瘍を含む、耳・鼻・のどの手術を専門に行います。
「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」という名称が付いているところもあります。
余談ですが、口腔外科は歯牙を含む口腔内の専門家で、医師ではなく歯科医師という別の資格を持つ人たちの領域です。
医学部を卒業しても歯科医師にはなれません(歯学部を卒業する必要があります)。
舌癌など耳鼻科と領域が重なる部分がありますが、どちらが手術をするかは病院によって様々です。
また、この中で比較的新しい存在が乳腺外科です。
以前は、乳癌などの乳腺疾患は消化器外科医が治療していました。
「以前までは」と書きましたが、まだ消化器外科医が乳腺も診ているところは多くあります。
ただ、乳癌は手術で治療する病気というより、化学療法(抗がん剤)やホルモン治療、放射線治療など様々な手段を組み合わせて治療すべき複雑な病気です。
乳癌のタイプに応じて治療をうまく組み合わせることのできる独立した専門家が必要になり、乳腺外科ができた歴史があります。
よって昔の名残で「外科」と名前はついていますが、「手術」はその仕事のほんの一部、というのが乳腺外科の特徴です。
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内科しかない領域
内分泌内科 | 精神科 |
糖尿病内科 | 腫瘍内科 |
血液内科 | 総合診療科(総合内科) |
リウマチ・膠原病内科 | 感染症科 |
緩和ケア科 |
原則手術で治すタイプの病気がないのが特徴です(正確には「ほとんど」ない)。
内科的治療でしか治せない、ということですね。
少し専門領域がわかりにくい科がいくつかあるかもしれません。
例えば内分泌内科は、体の中でホルモンを分泌する臓器の異常を専門とする科です。
成長ホルモンの異常で体が大きくなりすぎる「先端巨大症(巨人症)」は、ジャイアント馬場氏がかかっていたことで有名です。
他にも、副腎皮質ホルモンの異常で起こるクッシング症候群や、甲状腺ホルモンの異常で起こるバセドウ病などが内分泌内科の領域です。
ちなみに糖尿病は血糖値を下げるホルモン(インスリン)の異常ですから、これも内分泌内科の領域です。
しかし、糖尿病患者は他のホルモン異常の病気と比べるとあまりに罹患数が多いため、糖尿病内科として独立している病院が多くあります。
病院によっては「糖尿病・内分泌内科」として、一つの科になっているところもあります。
また、この中で比較的新しいのは腫瘍内科です。
主に化学療法(抗がん剤治療)を専門的に行う科です。
ここ数年で化学療法は目覚ましく発展し、多くの新規抗がん剤が現れました。
それぞれ固有の効果や使い方、副作用があり、臓器を問わず「抗がん剤の専門家」が必要だという時代のニーズに併せて生まれた経緯があります。
現在ではまだ、化学療法を行う患者さんが多い一部の大規模病院にしかありませんが、今後増えていくでしょう。
腫瘍内科がない病院では、それぞれの専門科が化学療法も行う、ということになります。
例えば、胃がんや大腸がんの化学療法なら、消化器内科や消化器外科が行います。
総合診療科も、ある病院とない病院があります。
総合診療科は総合内科と呼ばれるところもありますが、「どの科に属するかわからない」状態の患者さんを総合的に診る科です。
患者さんの症状や検査所見からすぐに診断名が分かれば該当科の医師が診ますが、すぐに診断のつかない難しい病気も中にはあります。
そこで、どんな病気も広く診ることのできる内科医が必要になるのですね。
内科・外科に分類できない領域
麻酔科・集中治療部 | 放射線科 |
病理診断科 | 救急部・初期診療 |
最後は、内科にも外科にも分類できない科です。
麻酔科はご存知の通り、手術の際の麻酔の専門家ですが、ICU(集中治療室)を麻酔科医が担当する病院も多くあります。
麻酔科医の仕事は「麻酔をすること」というより「全身管理」です。
放射線科は、CTやMRIなど画像診断の専門科である放射線診断科と、放射線治療の専門科である放射線治療科に細かく分かれます。
病理診断科は、生検や手術によって得られた細胞や組織を顕微鏡で診て診断を下す科です。
ここに挙げた科に共通するのは、担当患者を持たないことです。
他の科の医師が担当する患者さんを、専門知識と技術を生かして診断・治療する、というのが仕事です。
救急部についてはこちらをご参照ください。
何科に行けばいいか分からない時は?
自分の症状や病気が、何科に行くべきなのかわからない、と不安になる方も多いでしょう。
心配はご無用です。
大きな病院であれば初診受付で問診票を書かされ、その問診票の内容に応じて該当科を提案してくれます。
ただし、問診票のレベルで完全に適切な科に患者さんを導くことは不可能です。
ある科に行って診察を受けたら、別の科に行くべき状態だった、ということはよくあります。
この場合は、その場で別の科に行ってもらうか、別の日に予約を取ることになります。
また、開業医の先生にまず診てもらうという方法もあります。
かかりつけのクリニックがあるなら、その先生に診てもらい該当科に紹介状を書いてもらうと良いでしょう。
問診票を見て該当科を決めるより、本人を診察、検査して該当科を決める方が確実です。
今回は、各科の違いや専門領域についてまとめました。
詳しく書くとキリがありませんので、あくまでイメージをつかんでいただければ十分です。
そもそも各科の専門領域や違いをわかりやすく説明している本やページはあまりありません。
このページが参考になれば幸いです。