アンナチュラル第3話 感想|なぜ法医学者は傷から凶器を割り出せるのか?

アンナチュラルを見ていると、毎度のように学生時代の法医学の講義を思い出す。

法医学の世界では、ただの切り傷でも、切創、割創、刺創、裂創、挫創、杙創というように細かすぎるほど細かくわけ、さらにその傷を作った凶器を分類していく。

目的はもちろん、

いつ誰が何を使ってどのようにその傷をつけたのか?

ということを徹底的に検証するためである。

第3話は医療ドラマの要素はほとんどなく、むしろ純粋な「ミステリーもの」

そこで今回の解説では、今回のテーマとなっていた凶器と傷に関する法医学の知識を紹介してみたいと思う。

 

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今回のあらすじ(ネタバレ)

主婦ブロガーが包丁によって殺害された。

被告人は夫。

妻からの精神的DVにより、カッとなって刺したという。

代理証人として出廷したUDIのミコト(石原さとみ)は、法廷で見せられた傷の通り道を示す3D映像を見て傷と凶器の矛盾に気づく

凶器とされた包丁は左利き用であったが、3D映像の傷は、右利きの包丁によるものだったからだ。

夫を有罪として裁判を予定通り進めたい検事の烏田(吹越満)は、ミコトが証言を翻したことに激怒

さらに「女性はすぐに感情的になる」と、ミコトの証言を無効にしようとする。

 

何としても真の凶器を見つけたいミコトは、臨床検査技師の東海林(市川実日子)、記録員の久部(窪田正孝)と協力し、UDIで保管されていた検体を再検証

ホルマリン内から、凶器とされるセラミックの包丁には含まれない多量のケイ素を検出する。

しかし、ミコトの証言ではおそらく検事の烏田は信用しない。

そこでミコトは、UDIで最も「感じの悪い」男、中堂(井浦新)に代理を依頼。

「毒を持って毒を制す」作戦が功を奏し、烏田に暴言を吐きながら中堂は凶器の矛盾を法廷で証明。

ケイ素は包丁の研ぎ石に含まれる元素であること、その研ぎ石は京都にしかない特殊なものであることを証言する。

この証言がきっかけで、京都で料理人をしている主婦ブロガーの弟が犯人であることが発覚したのだった。

 

法医学の世界で凶器を分類する

冒頭に書いたように、法医学の世界でしか使わない傷の名前や凶器の名前、というものが存在する。

まず傷を、鈍器(どんき)損傷鋭器(えいき)損傷銃器損傷に分ける。

「鈍器」とはあらゆる「鋭利でない物体」のことで、人の握りこぶしを含め、あらゆるものが凶器となりうる。

「鋭器」とは、読んで字のごとく「鋭利な物体」のこと。

つまり、刃や、鋭い縁、尖端があるような物の全てである。

「銃器損傷」はその名の通り、銃で撃たれた時につく銃創だ。

凶器の種類によって特徴的な傷がつくため、法医学の世界ではこれらをさらに細かく分類していく。

 

たとえば今回ミコトが法廷で言った「有尖片刃器(ゆうせんへんじんき)」

これは、ナイフや、包丁、刀などのことで、「先端が尖っていて片側にしか刃がない鋭器」のことだ。

刃がない方では切れないがゆえに、傷の形が特徴的になる

今回ミコトが3D画像で見抜いたのは、まさにこの傷の形からであった

鋭器損傷の中で圧倒的に多いのはこの有尖片刃器である。

まず、人を傷つけようとするときは、どの家にもある身近な凶器を使うためだ。

 

次に多いのは、「有尖無刃器(ゆうせんむじんき)」

読んで字のごとく、「先端が尖ってはいるが刃はない鋭器」のことだ。

つまり、針やアイスピック、ドライバー、釘などである。

これらは傷の形が全く異なるため、凶器を特定するためには傷の所見が非常に重要になる

 

他に「尖端刃器(せんたんじんき)」もある。

これは、「尖っていないが先端に刃がついている鋭器」のこと。

何のこと?

と思った方は以下の写真を見てほしい。

そう、「ノミ」である。

我が国では、これ以外には先端尖器と呼べる凶器はないだろう。

 

そして最後は「有尖両刃器」

「先端が尖っていて両側に刃がついている鋭器」だ。

いわゆるサバイバルナイフのような鋭器がこれに含まれる。

 

とにかく、法医学で鋭器について学ぶと、いかに身の回りに凶器が多いかということに気づく。

そしてこれを細かく分類していく作業というのは、意外に面白い。

これだけ凶器を網羅すれば、どんなものでもこれらに分類できてしまう。

分類できないものといえばライトセーバーくらいしか思いつかない

 

傷の種類を分類する

そしてさらにこれらによって付けられた傷を分類していく。

鈍器損傷:裂創、挫創、杙創

鋭器損傷:切創、割創、刺創

鈍器損傷の傷

鋭くないものがぶつかって皮膚が裂けるのが裂創挫創(この区別は専門的なので割愛)。

杙創(よくそう)は、「先端が尖っていないが細長い鈍器」が刺さる傷。

たとえば、

工事現場で、立てた状態で固定してある鉄の棒の上に落下した

爆発によって鉄の棒が飛んできて刺さった

といったケースだ。

鉄の棒は、人の力でどれだけ強く体に押し当てても貫通しないので「鈍器」には違いないが、激しい力が加われば貫通してしまう

 

鋭器損傷の傷

切創とは、ナイフや包丁のような刃でまっすぐに切れた傷。

割創とは、オノやナタのように重量のある、ナイフほど鋭利ではないものが半ば打撲のような形で差し込まれる傷

刺創は、アイスピックや釘のように先端の尖った鋭器が差し込まれた傷である。

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親族間の殺人

最後にもう一つ豆知識的な法医学の知識を解説する。

今回は、犯人は被害者の実の弟だった。

途中でミコトが解説したように、殺人事件のうち犯人と被害者の関係が親族間である割合は、実に半数以上を占めている

しかも、殺人事件自体は年々減っているのに、親子や兄弟、夫婦間での殺人は年々増えている

家族は他人よりも圧倒的に近い距離にいる。

そして容易には離れられない。

親族にはもとより依存心があるため、それが満たされない時に「わかってくれない」という不満を抱きやすいのである。

もはや家族間で解決することは不可能で、社会全体でこれを解決する方法を考える必要があるだろう

 

アンナチュラルはほとんどミステリードラマなので、「解説するネタがあまりない回」というのがこれからも出てきそうである。

そんな中で、今回のように何とかネタを見つけて医学的な解説を続けていきたいと思う。

どうぞ引き続きお楽しみに!

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医師。専門は消化器外科。二児の父。
ブログ開設4ヶ月後に月間67万PV達成
時事通信社医療情報サイト「時事メディカル」
「教えて!けいゆう先生」のコーナーで定期連載中。
エムスリーでも連載中&「LIFESTYLE」企画・監修。
「劇場版コード・ブルー」公開前イベントに出演。
プロフィール詳細はこちら

アンナチュラル第3話 感想|なぜ法医学者は傷から凶器を割り出せるのか?」への4件のフィードバック

  1. きんもくせい

    ドラマを見てからkeiyou先生の解説を読んだのですが、傷にそこまで種類があるとは思いませんでした。

    小学生の長男が昨年指を怪我したのですが、その診断書を見返してみたら「挫傷」「左環指末節骨骨折」とありました。
    これも傷の診断名のひとつということなんでしょうね。
    あと、お医者さんはドイツ語や英語でカルテを記入するから大変だなと思っていたのですが、日常生活ではあまり目にしない漢字の専門用語もたくさんあるんですね・・・
    無知なコメント、失礼しました。
    これからも解説を楽しみにしています。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      きんもくせいさん
      息子さん、大変だったんですね。
      「挫傷」は、皮膚の表面には症状がなく、皮膚の深いところに症状がある(組織が損傷して内出血を起こしていたりなど)傷のことを言います。
      今回挙げたのは、皮膚の表面が切れている、割れている傷だけですので、実際には他にも擦過傷や挫滅創などもあって、さらに分類は多彩なんです。
      ただ、今回の記事のように細かく分けるのは法医学の世界だけで、日常的な臨床ではこんなに細かく分けることはないですね。

      返信
  2. きんもくせい

    Keiyou先生

    コメントありがとうございました。
    長男の怪我は、骨折もあったのですが、深い傷もあり5針縫いました。
    私はその縫った傷のことを「挫傷」というのかと思っていました。(「傷」という漢字があるので)
    辞書をひくなり調べないといけないなと反省しました。
    勉強になりました、ありがとうございました。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      きんもくせいさん
      医療記録には難しい言葉が多いので、調べてもわからないこともありますしね。
      医学的な知識のことなら気軽にご質問ください。

      返信

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