大腸がんの手術とは?開腹手術と腹腔鏡手術の違いと注意点

このページを見られた方は、

「大腸癌になったらどんな手術をしなければいけないの?」

「腹腔鏡手術ってどんな手術?」

「開腹手術とどっちがいいの?どう違うの?」

という疑問をお持ちかと思います。

ところが手術について調べても、言葉が専門的で難しいと感じる方も多いでしょう。

 

心配はいりません。

手術は外科医である私の専門分野ですので、私の意見も交えてわかりやすく解説します。

 

大腸がんの手術方法は大きくわけて二つあります。

腹腔鏡手術開腹手術です。

ちなみに、初期の癌に対して用いられる内視鏡治療は、いわゆる「大腸カメラ」によるものですから、腹腔鏡とは全く別物です。

腹腔鏡は手術の一つの術式で外科医が行う治療、内視鏡治療は内科医(消化器内科)が行う治療です。

腹腔鏡手術を「内視鏡手術」と呼ぶこともあり、患者さんに混乱を招く一因になっていますので、ここでは「腹腔鏡手術」で統一します

 

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腹腔鏡手術と開腹手術の違い

腹腔鏡手術はどのくらい行われているか

現在、日本で大腸がんに対して行う手術は、学会の全国的なアンケート調査で、腹腔鏡手術が70%を超える程度です。

残りの約30% が開腹手術ということになります。

この割合は病院によって差があり、90%以上を腹腔鏡で行っている、という所もあります。

「腹腔鏡手術は新しい先端治療」と考えている患者さんがおられるかもしれませんが、この割合を見れば、大腸がんに対してはすでにスタンダードな治療と言っても良いくらい、全国的に普及していると考えて良いでしょう。

逆に、「ではなぜ100%腹腔鏡じゃないの?」と考える方もおられるのではないでしょうか。

 

どのように使い分けているか

全ての大腸がん手術が腹腔鏡で行われていない理由は二つあります。

一つ目は、施設の人員と機器によるものです。

術式にもよりますが、開腹手術は最低2人の外科医がいればできるものが多いです(注1)。

一方、腹腔鏡手術は3人以上の人員が必要で、かつ腹腔鏡手術に長けた外科医が少なくとも一人は必要です。

さらに腹腔鏡には、特殊なカメラやモニター、手術機器が必要で、これらが施設内でどのくらいそろっているかで、どのくらい腹腔鏡手術を広く行えるかが決まります。

 

二つ目は、癌の状態や進行度、お腹の中の状態によるものです。

非常に大きな癌や、他の臓器に浸潤(しんじゅん)していて他の臓器も一緒に切除しなければならないような大きな手術は、開腹手術で行う病院がほとんどです。

また、お腹の手術をすでに何度か経験したことがある方の場合、お腹の中は広く癒着(ゆちゃく)を起こしています。

手術をする際は、まずこの癒着を剥がしてから目的の臓器に達しなければならず、この癒着を剥がすのに1時間以上かかることもあります。

この作業は、開腹手術の方が容易にできることが多いです。

 

もちろん、腹腔鏡手術の進歩によって、これらの手術も腹腔鏡で行う病院が増えていますが、まだそれほど多くはありません。

特に、癌の状態という点で言えば、これからも癌が大きく進行してから見つかる方は必ずいますので、腹腔鏡手術が100%になることは今後もないと考えられます。

 

手術時間はどのくらい?

開腹手術より腹腔鏡手術の方がやや時間がかかりますが、それほど大きな差はありません。

ただ、大腸は長い管状の臓器ですので、どの部分に癌ができているかで手術時間は大きくかわります

あくまで目安ですが、たとえば、盲腸S状結腸と呼ばれる部位にできた癌は、腹腔鏡手術で2時間〜3時間以内、回復なら1時間半〜2時間程度と短い時間で終わります。

一方、直腸の深い部分にできた癌などの場合、腹腔鏡でも開腹でも、5時間以上、長い場合で8時間、9時間とかかることもあります。

さらに体型や癌の進行度にもよって時間は変わりますから、一概に予測するのは難しいと言えます。

 

結局どっちがいいの?

癌の進行度にもよりますが、一般的には「どちらの方が良い」ということはありません。

我が国での大規模臨床試験で、大腸がんの腹腔鏡手術と開腹手術の予後(「術後どのくらい生きられるか」と「どのくらい再発を免れるか」)は変わらないことが示されています(注2)。

施設の慣れたやり方で行うのが一番良いかと思います。

 

ただ、もし「両方全く同じだ」と外科医全員が思っていたとしたら、腹腔鏡手術はここまで普及しなかったはずです。

私は個人的には、上述したように設備や進行度の観点で「腹腔鏡でも開腹でも受けていただける患者さん」という条件のもとであれば、腹腔鏡手術をおすすめします

同じ意見の外科医は多くいます。そうでなければ腹腔鏡手術はここまで普及しなかったでしょう。

 

では開腹手術に勝る腹腔鏡手術のメリットとは何でしょうか。

あるいは腹腔鏡にデメリットはあるでしょうか。

これを次に説明したいと思います。

 

腹腔鏡手術のメリット

傷が小さい

以下の図をご覧ください。

癌の部位にもよりますが、腹腔鏡手術は開腹手術に比べ、傷がかなり小さくてすみます

腹腔鏡手術は、へそとその左右に約5カ所(病院の方針によります)の小さな穴をあけて行います。

穴の大きさは5ミリから1センチ程度と非常に小さく、一番大きいへその傷が3から4センチといったところです。

開腹手術の場合は、体型にもよりますが、傷の大きさは15センチから20センチ、場合によってはもう少し大きくなる場合もあります。

 

傷が小さい手術には、術後の回復が早いことと、見た目に傷跡が残りにくいこと、という二つの利点があります。

 

腹腔鏡手術を受けられた方は、傷の痛みが少ないため手術翌日から病棟を歩いておられるケースが多く、術後の回復は早い印象があります。

ただ開腹手術も、術後2、3日ほど経てば同じようにスムーズに歩いていますし、1週間ほど経てば、お腹を見ない限りどちらの手術を受けたか見分けはつかなくなります

 

将来的に残る傷跡は、腹腔鏡手術の場合は小さくあまり目立ちませんが、開腹手術では通常お腹の真ん中に大きな傷跡が残ります。

ただ私の経験上、癌の手術を受けられる方は高齢者の方も多く、「水着なんて着ないから傷は気にしませんよ」という方がほとんどです。

以上のことから私は個人的には、傷の小ささは腹腔鏡手術のメリットとしてそれほど大きなものではないと感じています。

 

では腹腔鏡手術の最大のメリットとは何でしょうか。

それは「人間の目を超える精彩な映像で手術ができること」です。

 

腹腔鏡の精彩な映像

大腸癌の腹腔鏡手術では、これが最大のメリットと私は考えます。

近年の腹腔鏡は非常に精彩な画像でお腹の中を映し出すことができます。

また、操作している部分にカメラがかなり近接できますので、細かい組織でも大きく映し出すことができます。

そのため、肉眼では見えにくい血管を見分けたり、膜を剥がしたり、という細かい操作が可能になります。

開腹手術では、臓器に顔を近づけるわけにはいきませんので、ルーペをつけて手術を行うことがあります。

腹腔鏡ではこの「拡大視」が簡単に行えるのが大きな利点です。

さらに骨盤の中の深いところまでカメラが入っていくことができるので、角度的に見づらい位置も比較的容易に映し出せる、というメリットもあります。

 

腹腔鏡手術のデメリット

「デメリット」というより注意点と言った方が良いかもしれません。

 

開腹手術への移行の可能性

上述のように、大腸癌に対して開腹手術の方が望ましいと思われる場合があります。

癌が非常に大きく進行した場合や、お腹の中に癒着を広く起こしている場合です。

手術前にそれがわかっている場合は初めから開腹手術を選びますが、術前検査でそれを確実に予想することはできません。

手術中にお腹の中を見て初めて「予想以上に癌が進行している」とか「予想以上に癒着がひどい」とわかることがあるわけです。

そういう場合は、腹腔鏡で手術を始めても、途中で開腹手術に変更する場合があります。

 

また、血管が弱い方や出血しやすい方で、手術中に腹腔鏡では止血が難しい出血が起こることがあります。

多くは腹腔鏡で止血ができますが、場合によっては開腹手術に切り替えて止血をすることもあります。

これらの自由度の点で、腹腔鏡手術は開腹手術にやや劣ると言えるでしょう。

 

開腹手術も腹腔鏡手術も概ね成績が変わらないことと、「安全第一」が最重要な命題だということを考えると、安全性を損ねてまで腹腔鏡にこだわる意味はありません

 

また腹腔鏡手術のメリットを生かすことができるのは、前回述べたように、腹腔鏡に長けたスタッフがいる、機器が充実した施設です。

これらの点をしっかり理解しておきましょう。

注1) 大腸の開腹手術の中でも骨盤内臓全摘術などかなり広範囲な切除が必要なものは、2人どころか4人以上必要になるものもありますので、術式によります。

注2) 臨床試験では横行結腸癌と直腸癌は対象から除外されていますので、厳密にはこれらに関しては根拠のはっきりしたデータがありません。

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