尿道カテーテルとは、尿道から膀胱へ管を入れて袋をつなぎ、尿をためるための道具です。
医療現場では様々な目的で使われます。
通称「おしっこの管」や「バルーンカテーテル」などとも呼ばれます。
私は医師として患者さんに尿道カテーテルを入れますし、全身麻酔手術を受けた際に自分自身も尿道カテーテルを経験しました。
尿道カテーテルはどういう目的で、どんな時に使うのでしょうか?
尿道カテーテルを入れると痛いのでしょうか?
私自身の体験も踏まえ、医師と患者の両方の立場から、尿道カテーテルについてわかりやすく解説します。
尿道カテーテルのしくみ
尿道カテーテルとは、尿道に入れるための柔らかい管(チューブ)のことです。
尿道から入れ、先端は膀胱内においておきます。
尿は膀胱にたまることなく、全て管を通って体の外の袋(ウロバッグ)にたまっていくことになります。
ときどき「尿管のカテーテル」と間違って言う方がいますが、「尿管」は腎臓から膀胱への尿の通り道です。
「尿道」は膀胱から体外への尿の通り道のことで、まったく違う部分のことを指しますので注意しましょう。
なお、カテーテルの先が膀胱内に入っているだけでは、軽く引っ張るだけで簡単に抜けてしまいます。
そこで、先端にバルーン(風船)がついていて、膀胱内にカテーテルを入れた状態で風船を膨らませ、簡単に引き抜けないようにしておきます。
風船は、蒸留水を注射器で注入して簡単に膨らませられる構造になっています。
抜く時は、この風船から蒸留水を抜いたあとカテーテルを引っ張るだけで簡単に抜けます。
ちなみに、尿道カテーテルは数日間膀胱に入れておくための道具です。
一方、導尿のためのカテーテルは先端にバルーンがついていない、ただの細い管です。
「導尿」とは、膀胱内に溜まった尿を一時的に排出することですので、その都度尿道から入れて、終われば管は抜く、という方法をとります。
したがって導尿用カテーテルに留置のためのバルーンは必要ありません。
尿道カテーテルの目的
尿道カテーテルは様々な目的で留置します。
尿量を正確に測る
尿がどのくらい出ているのかを正確に測定しなくてはならない病状の時に使います。
たとえば大きな手術の後や、全身状態が悪い時、心臓、腎臓の病気などで入院している時です。
尿の量が体の状態を反映するからです。
また、尿の量に応じて正確に点滴の量を決めなくてはならないケースもあります。
自分で尿をカップにとって毎回量を測定することも可能ですが、この方法では、排尿のタイミングでしか尿量を知ることができません。
たとえば、「直近1時間で尿量が減っている」というようなリアルタイムの変動は観察できません。
厳密に尿量を知りたい場合は、常に尿がバッグに流出するようにしておく必要があるわけです。
トイレまでいけない
自分でトイレまで行けない場合です。
たとえば全身麻酔で手術を行う際は、手術中はもちろん、術後もしばらくはベッド上で安静にしていなくてはならないため尿道カテーテルが必要になります。
手術中や術後に尿道カテーテルを使うのは、尿量を正確に測る目的もあります。
また、寝たきりの方も自力で排尿できないため、必要に応じて尿道カテーテルを使用します。
在宅医療でも使用でき、排尿時のオムツ交換が不要になるなど、介護する人が管理しやすく、負担が軽くなるというメリットもあります。
排尿障害がある
前立腺肥大など尿の通り道に障害があって尿が出せない場合や、自律神経の障害などで尿を出せない場合に使用します。
糖尿病や、脊髄の外傷や病気、直腸がんの手術後などは、自律神経の障害が起こることがあります。
尿道カテーテルは痛いのか
尿道カテーテルの痛みや不快感には、かなり個人差があります。
多くの方は、カテーテルを入れたままでも不快感の訴えなく普通に過ごされますが、特に男性で、ときに不快感や尿意のような違和感を強く訴える方もいます。
尿意があっても尿は自然にカテーテルを通って出て行くだけですので、漏れる心配はありません。
不快感が強い時は、病状が許せば早めに抜いたり、細い管にかえる、痛み止めを使う、といった対応をします。
私自身は、入れている最中は全く違和感すらありませんでした。
カテーテルを抜くときは、特に男性は女性より陰茎(ペニス)の分だけ尿道が長いため、強い違和感と軽い痛みがあります。
その瞬間だけですが、これまであまり経験のない不快な感覚を尿道に感じます。
また、抜いた後は、特に男性はしばらく排尿時の痛みが残ります。
私は抜いた日とその翌日は、尿をする際に尿道にピリピリとした痛みがありました。
多くの男性が1〜2日はこういう痛みを訴えられます。
とはいえそれほど強い痛みではなく、時間とともに自然に治まりますので、心配する必要はありません。
広告
尿道カテーテルの注意点と欠点
上述したように、尿道カテーテルは医療現場では必須の便利な道具です。
しかし次のような注意点もあります。
尿路感染のリスク
尿道カテーテルは、長期間入れていると尿路感染を起こすリスクが高くなります。
尿路感染とは、尿道から膀胱、尿管、腎臓といった尿の通り道に細菌感染を起こすことです。
カテーテルがなくても、膀胱炎や腎盂腎炎といった尿路感染はもちろん起こりますが、カテーテル留置によってそのリスクは高くなります。
よって、必要がなくなったらすぐに抜去する、というのが原則です。
離床の妨げになる
尿道カテーテルが入っていると、どうしても歩きにくく、ベットで横になっている時間が長くなります。
体を動かさない時間が増え、体力が落ちたり、回復が遅れたりします。
尿道カテーテルが入っていても、病棟内を歩くなど体を動かすリハビリが大切です(もちろん病状によりますので、医療スタッフからの指示があれば、ですが)。
尿道カテーテルについてまとめました。
全身麻酔手術を受ける前にこの記事を読んだ、という人は、以下の手術に関する記事もぜひご参照ください。