恒例となったみなさんのご質問にお答えするコーナー。
今回は以下の質問にお答えします。
意識レベルというのは、どうなると危険な状態なのですか?
あと、SpO2についても教えて欲しいです!
by Mizuho☆さん
非常に大切な質問です。
コードブルーではよく、
「意識レベル3ケタです!」
「SpO2 (エスピーオーツー)80パーセントです!」
というようなセリフが出てきますね。
どういう意味なのでしょうか?
私たち医師が患者さんの全身状態を把握したいと思った時、必ず最初に知りたいと思う最も大事な項目が5つあります。
意識レベル、SpO2、血圧、脈拍、体温です。
これらの5つを総称して「バイタルサイン」と呼びます。
私たちは略してよく「バイタル」と言います。
意識レベルとSpO2は、このバイタルサインに含まれる非常に大事な情報です。
コードブルーの中でも数え切れないくらいこの「バイタル」という言葉が登場しますね。
たとえば第6話では、冷凍庫内で灰谷(成田凌)の足の止血処置によって救われた男性を運びながら藍沢(山下智久)が、
「バイタル頻回にチェックしろ。最後まで責任を持って診ろ、この患者は正真正銘お前が救った患者だ」
と言い、灰谷が嬉しくてはにかむシーンがありましたね。
また患者さんを診察する際に最初に医師が、
「バイタルは?」
と尋ねるシーンもよくあります。
なぜ医師はこんなにバイタルを気にするのでしょうか?
それは、バイタルサインの異常が生命の危険を意味することがあるからです。
バイタルサインはいずれも、簡単に何度でも測定できる項目です。
ですから、患者さんの病状とその変化を確認するためには必須の項目です。
今回は、その中でもMizuho☆さんが質問された意識レベルとSpO2についてわかりやすく解説しましょう。
意識レベル3ケタです!の意味
コードブルーではよく、意識レベルを伝える時に
「意識レベル3ケタ」
「意識レベル300」
などと言うことがありますね。
「意識」を省略して「レベル」とだけ言うこともありますが、単に「レベル」だけでも「意識レベル」のことです。
わかりやすいシーンで例をあげましょう。
第1話で山車に頭を挟まれた少年を、白石(新垣結衣)が診療するシーンがありました。
意識レベルが低下し、藍沢に助けを求めます。
駆けつけた藍沢は白石に、
「レベル下がったのは何分前だ?」
と尋ねると白石は、
「5分前に100から300に落ちた!」
と答えます。
これがどういう意味かを説明します。
特に難しいものではありません。
まず、意識レベル0(ゼロ)が正常です。
そして、1 → 2 → 3 → 10 → 20 → 30 → 100 → 200 → 300の順に悪くなっていきます。
数字が大きい方が重症です。
1、2、3、4、5、、、と単純でないのが厄介ですが、どの段階になるかは、以下のようなルールで決まります。
Ⅰ. 刺激しなくても覚醒している状態(=1ケタ)
0 意識清明(正常)
1 今ひとつはっきりしない
2 見当識障害(場所、時間、日付がわからない)
3 自分の名前、生年月日が言えない
Ⅱ. 刺激すると覚醒する状態(=2ケタ)
10 普通の呼びかけで目を開く
20 大きな声、または体を揺さぶると目を開く
30 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと目を開く
Ⅲ. 刺激しても覚醒しない状態(=3ケタ)
100 痛み刺激で払いのける動作がある
200 痛み刺激で手を少し動かす、顔をしかめる
300 痛み刺激に反応しない
複雑なように見えますが、実は簡単です。
まずおおまかにⅠ、Ⅱ、Ⅲの3つに分けて、これを1ケタ、2ケタ、3ケタと呼びます。
簡潔に伝えたい時は、「2ケタです」「3ケタです」と、このケタ数だけを言います。
これで意識状態の大体のイメージがわかるからです。
さらに詳しく意識レベルを表現したい時に、「意識レベル300」などと具体的な数字で表現します。
表の中に「痛み刺激」という言葉が出てきますね。
普通に名前を呼びかけたり、体を揺さぶっても反応がない時は、次に患者さんが痛がるようなことをしてみます。
それで反応があるかどうかを見て、意識の状態を判断します。
痛がるようなことと言っても、本人を殴ったりすることはできませんから、簡便で、かつ痕の残らない方法で痛みを与えます。
よく使う方法が2つあります。
患者さんの指の爪をギューっと押さえることと、胸骨(胸の真ん中)を握りこぶしで強くグリグリ押さえることです。
第6話では、倉庫内で突然意識を失った若い男性の頭を、現場で藍沢が手術(穿頭)するシーンがありましたね。
頭蓋内の出血を疑ったからなのですが、この処置の前に藍沢が患者さんの意識レベルを確認するシーンがあります。
握りこぶしで患者さんの胸をグリグリ押さえ、反応を見ています。
患者さんは全く反応がなく、「意識レベル300」であることがここでわかります。
藍沢の握りこぶしがアップになる2秒くらいの非常に短いシーンで、何をしているのか誰もわからなかったと思います。
意識レベルについてのセリフも一切ありません。
コードブルーにはこういう、非常に芸の細かいシーンが多いのが特徴です。
藍沢のこの場面の処置の説明はこちらを参照
さて、Mizuho☆さんのご質問の「どうなると危険な状態か」ですが、原則「0(ゼロ)」以外は全て異常です。
ですから、1や10なら軽いからOKということはありません。
どんな意識障害でも、0以外なら何らかの異常があるので、精密検査が必要です。
命に関わる危険な病気が隠れている可能性もあります。
ただし、重度の認知症のために普段から自分の名前が言えない人や、寝たきりで普段から意思疎通が難しい人もいます。
つまり全ての人が「普段の状態=0(ゼロ)」ではありません。
ですから、「いつもより意識レベルが低下しているか」が大切です。
私たちは、ご高齢、あるいは病気でコミュニケーションが取りづらい患者さんを診察するときは、必ず家族に直接見てもらい、
「いつもと同じですか?」
と尋ねます。
私たち医師は普段の状態を知らないので、「どこまでが普段通りなのか」がわからないからです。
意識レベルについてはこちらでもう少し詳しく解説しています。
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SpO2 ◯◯パーセントです!の意味
SpO2は、簡単にいえば、血液中に酸素がどのくらい十分満たされているか、を示す数字です。
これだけでは「???」ですね。
順を追ってわかりやすく説明します。
コードブルーでは、患者さんが鼻の下から両耳までつながる細いチューブをつけているか、透明のマスクをつけているかしているシーンが多く登場しますね。
イラストではこんな感じです。
何をしているか知っていますか?
あれは全て「酸素を吸っている」のです。
酸素なしではSpO2が下がってしまう病状のとき、これを行います。
人間は酸素がないと生きていけません。
体のどの臓器も、働くためには酸素が必要だからです。
酸素は口から吸い込んで肺に取り込まれると、それが血管内に入って全身を巡ります。
この時、酸素を運ぶ輸送車の役割を果たすのが赤血球です。
赤血球が酸素を各臓器に送り届けています。
SpO2とは、ごく簡単に言うならば、この赤血球全体のうち酸素を運んでいるものがどのくらいの割合(%)あるか、を示す数字です。
正常は「ほぼ100%」です。
つまり、「ほぼ全ての赤血球が酸素を運搬中」というのが一番健康な状態ということです。
では、この酸素飽和度をどのようにして測定するのでしょうか?
正確に測るには、動脈に針を刺して動脈血を採取し、特殊な器械で計測する必要があります。
しかし、これだけ大事な数字を測るのに、わざわざ採血と計測機がいるのでは困ります。
そこで、簡易的に概算する便利な方法があります。
指先につけるとパーセントが表示される小型の器械(パルスオキシメーター)を使うのです。
指先の動脈の拍動を検知して、そこを流れる血液の酸素飽和度を瞬時に計測する、非常に便利な器械です。
この器械も、例をあげるのが難しいほどコードブルーでは頻繁に出てきます。
SpO2とは、正確には、拍動を利用してこの器械で簡易的に計測した「酸素飽和度の概算値」ということになります。
ここまで説明したところで、「SpO2」の文字をもう一度見てみてください。
O2は理科で習ったように「酸素」のことです。
SはSaturation(サチュレーション)で、「飽和」という意味です。
PはPulse(パルス)で「拍動」という意味です。
これで意味が分かりますね?
「酸素」の「飽和」の程度を「拍動」で見た数字ということです。
コードブルーのスタッフはこれを「エスピーオーツー」とそのまま読むか、「サチュレーション」と呼んでいます。
私たちも「サチュレーション」と呼ぶことが多いです。
さて、SpO2が下がると、臓器に酸素が足りなくなり、体に異常をきたします。
例であげた「SpO2が80%」は緊急事態です。
そこで上述したように、酸素を吸ってもらってこの数字を100%に近づけるようにします。
酸素の量が少なくて済むときは鼻の下のチューブ(鼻カニューレ)、多い量の酸素が必要な時は酸素マスクをつけます。
コードブルーでどのように使われていたかを振り返ってみましょう。
第1話で、山車に頭を挟まれた少年を治療中の白石(新垣結衣)に、駐車場で別の患者さんを診療中の灰谷から無線で連絡が入るシーンがあります。
「駐車場の灰谷です。急に呼吸状態が悪くなった人が!」
と焦って伝える灰谷に白石は、
「悪いってどれくらい?サチュレーションは?」
と問います。
それに対して灰谷は「90%切ってます!」。
「酸素投与して!」と白石が応じます。
もう意味は分かりますね?
呼吸状態が悪い、というだけの灰谷の説明では、どのくらい悪いのかわかりません。
呼吸状態がどのくらい悪いのかを、パーセンテージで伝えるわけです。
これは非常にリアリティのある、上級医とビギナーの会話です。
どんな時にSpO2が下がるのか、ですが、原因は様々です。
たとえば喘息発作などで気管支が狭くなると、酸素がうまく取り込めないのでSpO2が下がります。
肺炎など、肺の病気で肺が十分に機能していないと、酸素を取り込んでもうまく血中に取り込めないためにSpO2が下がります。
ちなみに上述の、第1話の灰谷が診ていた患者さんは「肺挫傷」による呼吸障害が原因でしたね。
そのほか、全身の様々な病気によって酸素がうまく利用できなくなり、SpO2が下がって酸素投与が必要になることもあります。
これからコードブルーを見る時は、SpO2という言葉がどんな場面で使われているか、指先につける小型の器械をどんな風に使用しているか、一度見てみてくださいね。
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