毎週恒例のコードブルー感想&解説記事である。
前回の記事は大変好評で、SNSでも多数シェアしていただき、勇気付けられた。
ともすれば壁に向かって毎週しゃべっているようなものなので、こういう嬉しい反響があると、今週も頑張って書こうという気になる。
というわけで、今回も「ちょっとウザいけどたぶんためになる話」を書いてみたいと思う(以下ネタバレ)。
名取の不思議キャラ
今回は、これまで徹底的にダメキャラとして描かれてきた若手フェロー名取(有岡大貴)の名誉挽回から始まる。
バーベキュー中に起きた事故で鉄串が首に刺さった少年を、藍沢(山下智久)と共に現場で診察。
藍沢から初期対応を問われた名取は、その場で鉄串を抜かずに病院に戻ってCT検査を、と即答する。
また、少年の血管造影検査中でも、頸動脈の仮性動脈瘤を即座に指摘。
頸動脈の遮断が必要だが、この処置の可否が左右の脳をつなぐ交通動脈の太さによることを、ズバリと考察する。
3週間前は、救急搬送された患者さんを横目に初療室の隅でスマホをいじっていたとは思えぬ急成長である。
名取は、総合病院の院長である父の方針で、特に明確な意図もなく医者になった男だ。
白石(新垣結衣)から「この病院をなぜ選んだのか」と問われて「父親が行けと言ったから」と即答するほど、医療への情熱は全くない。
このタイプの医師が実は知識は豊富である、となると、あまりいそうでいないキャラ設定である。
あれだけの臨床知識を蓄え、かつ現場で生かすためには、医師向けの参考書や論文を読み込んだ上で場数を踏む必要があり、それなりのモチベーションが必要だからだ。
ただ、今回私が主にツッコミたいのはここではなく、この病院の緊急手術体制についてである。
普段から手術を行う外科医の視点から、今回ばかりはずいぶん違和感があった。
毎度の細かいツッコミで恐縮だが、「実際はどうなのか」を知っていただきたいので、恥を恐れず盛大にツッコんでみたいと思う。
あまりにオールマイティな救急医たち
世間一般に、救急医はどんな疾患も診療できるオールマイティなイメージがあるかもしれない。
だがそれは、半分は正しいが半分は誤りである。
あくまで救急医は、「プライマリーケアのプロフェッショナル」だからだ。
プライマリーケアとは「初期診療」のこと。
つまり救急医は、突然何らかの病気や怪我で外来に駆け込む患者さんに対して、ベストな初期対応を行うことに長けた医師たちだということだ。
それ以後の経過は、その患者さんの疾患に合った科の専門の医師らが引き継いで診療する。
心筋梗塞なら循環器内科医が、骨折なら整形外科医が、肝損傷なら消化器外科医が診る、といった具合である。
ここに救急医が関わることはほとんどない。
救急とは、患者さんにとっての長い長い治療のスタートラインに関わる仕事だということだ。
そのため、ほぼ全ての患者さんは「初めまして」であり、一期一会である。
ところがコードブルーの救急はそうではない。
患者さんの現場での初期対応から、血管造影、さらには頸部の動脈の手術まで、大勢の救急医が参加する。
さらに心疾患で移植を待つ入院患者の緊急手術にまで、救急医がほぼフルメンバーで参加。
ほかの脳外科医や心臓外科医は何をしているのか、という話である。
さらに驚くべきことに、これらの手術介助に、オペ室ナースではなく救急部ナースの冴島(比嘉愛未)と雪村(馬場ふみか)が参画する。
もはや見ているこちらはパニック状態である。
この有能な救急スタッフらを失った激務の救急外来は、この間一体どうなっているのだろうか。
また「ほかの脳外科医」とあえて書いたのは、あの難しい頚動脈のオペが、脳外科医としてのキャリアが10年にも満たない若手二人に完全に任されていたからである。
藍沢と新海(安藤政信)は、「この病院でもっとも腕の良い脳外科医」と家族に紹介されていた。
独り立ちまで時間のかかる脳外科領域において、彼らが最も腕が良いとなると、部長を始めベテランの面々は一体どういった腕の持ち主なのだろう。
またこの病院でフェローから生え抜きの藍沢は、その技術を一体誰から学んだのだろう。
外科領域は自力で技術を習得することは決して不可能で、技術の高い上級医に師事して食らいつくように技術を盗まなければ上達はありえないはずである。
・・・とまあ、大人げないツッコミはここまでにしておく。
脳外科の体制はともかく、ここで述べたいのは、救急部とそれ以外の部門で現実はもっと分業している、ということだ。
繰り返すが、入院後はその疾患の専門家に治療や手術を任せるのが普通である。
どれほど有能な救急医でも、そこまで関わっているとマンパワーが足りなくなってしまう。
もちろんコードブルーは救急医の活躍を描くドラマなので、それ以外の科の医師があまりに存在感がないのは仕方がない。
私もまた、今回テレビの前で寂しい思いをしていた「それ以外の科の医師」の一人である。
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医師が患者さんに提供できるもの
今回のサブタイトルは「笑顔の効能」で、ドラマ中に
「医者が患者に提供するのは医療だけじゃない」
というナレーションがあった。
私が常々、医師という職業に対して強く思っていることだ。
医師は知識と技術を蓄えるうちに次第に頭でっかちになり、本当に大切なことを忘れがちだ。
だが、医師が相手にしているのは病気ではない。
患者さん自身である。
患者さんの心の機微を理解し、痛みや辛さに寄り添う。
時には病気を治療しないことがベストな選択であることもある。
「医者が見せる不意の笑顔は案外、手術や薬よりも患者の心を癒すのかもしれない」
というナレーションもあったが、私はむしろ、医師はいつも笑顔でいるべきではないかと思う。
病院に来る人たちは皆、何らかの痛みや辛さを抱えている。
こうした方々に対して、普段からしかめ面で対応することに何のメリットがあるのだろう。
「しかめ面系」の医師には、今回の放送を是非見てもらいたい。
というわけで、今回も長々と書き連ねてきたが、興味を持って読んでくださる方が多くいらっしゃるようなので毎週続けていきたいと思う。
来週もお楽しみに!
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