コードブルー3rd SEASONの中で、私の好きな人物が二人います。
名取と灰谷です。
え!?脇役なのに?と思った方がいるかもしれません。
もちろん、藍沢や白石、緋山、藤川、冴島などメインのキャラクターも個性的で好きなのですが、名取と灰谷も、今回の3rd SEASONのストーリーに確実に彩りを添えている必須のキャラクターです。
なぜそう思うのか?
彼らは実際にはありえない極端なキャラ設定ですが、製作者が「どういう医師を描きたかったのか」はよくわかるからです。
どういうことか、医師の立場から解説してみます。
名取と灰谷の対照的なキャラ設定
名取は、大病院の院長兼経営者の一人息子です。
おそらく、小さい頃から医者になるべくして育てられています。
自分がどんな仕事に向いているか、とか、将来の夢など、あまり考えたこともなかったでしょう。
医療に対する熱意に欠け、患者さんに対してもデリカシーのない発言をするなど、序盤は問題児として登場します。
第5話では、骨盤骨折の見逃しを指摘されると、反省するどころか「何が悪い」と言わんばかりにその場から立ち去ってしまい、治療に参加しませんでした。
能力は高いのに、プライドが邪魔をして虚勢を張ってしまう癖もあります。
一方の灰谷は、小さい頃から医者になって人の役に立ちたいという夢を追い、医療の現場に憧れ、こつこつ努力してきたタイプです。
第7話で灰谷は、小さい頃にドクターヘリに助けてもらった経験がきっかけで医者を目指したと話しました。
しかし気が弱く、とっさの行動を求められた時に動転して判断ミスを犯したり、患者さんを救えなかったトラウマでヘリに乗れなくなったりするなど、度胸や機転に欠けるところがあります。
きわめて対照的なこの二人ですが、確かに実際に存在しそうな医師像を極端にデフォルメしたキャラ設定だと感じます。
(もちろん現実には、名取のような境遇でも、熱意や向上心にあふれた優秀な医者はいくらでもいますが)
灰谷は、なかなか自分の良さを生かせずにいますが、名取は急成長を見せています。
第9話では、指導医である緋山から、
「あんたは自分が思ってるより医者に向いてる」
と言われていましたね。
私は第9話ではあのセリフが一番好きです。
「本人以上に自分のことを良くわかってくれる先輩に恵まれる」というのは幸せなことだと思うし、何より私も緋山の意見に賛成だからです。
なぜ名取が医者に向いていると思うのか?
得意の深読みで、真面目に分析してみます。
名取が医者に向いている理由
名取は、緋山など良い指導者に巡り会えたおかげで、プライドの高さが目立った序盤に比べ、自分の良さをフルに生かせていると感じます。
私が思う名取の長所は、
「他の医者を全く意識しないこと」
「患者さんに対してドライであること」
です。
どういう意味なのか、コードブルーのシーンを例に挙げてわかりやすく説明します。
他の医者を全く意識しない名取
今まで何度も引用してきた第8話のカットダウンのシーンを、今までと違う角度で説明してみます。
「名取のスキル、カットダウンはなぜ褒められたのか?」の記事をまだ読んでいない方は、そちらを先にお読みください。
灰谷が入院させていた胸部打撲の少年が、脾門部の仮性動脈瘤破裂で急変します。
その場にいたのは、灰谷、名取、横峯のフェロー3人だけ。
周囲が動転する中、名取だけは冷静に、輸液の指示を出したり、カットダウンという名案を思いついたりしましたね。
(ショックに対する名取の対応については「名取&灰谷に学ぶ「ショック状態」の意味と危険性」でも説明しています)
REBOAを入れるという段になった時、横峯は大腿動脈を穿刺しようと針を刺しましたが、なかなか動脈に当たりませんでした。
血圧が低すぎて、拍動が触れなかったから、でしたね。
それに対して名取は、
「俺にやらせてくれ、カットダウンしてみる」
とベストな選択肢を提示、これが明暗を分けました。
この場面は、上述した名取の強みがまさに表れたポイントだと思います。
どういうことなのかを説明します。
我々医師は、特に若い頃は、お互いがライバルです。
若い頃、というのは、藍沢くらいの年齢でもそうです。
他の医師より技術を高めたい、負けたくない、という思いでお互い切磋琢磨します。
お互いの能力を高められるという点で、良きライバルに巡り合えることは、医師として恵まれたことです。
しかしこの「ライバルに負けたくない、追い抜きたい」という思いは、時にお互いにとってマイナスに働くこともあります。
藍沢と新海がそれを実感しているはずです。
切磋琢磨して能力を高めあっている反面、お互いがお互いを意識しすぎるあまり、患者さんのことが時にないがしろになりうる危険性を二人は自覚しています。
第8話で新海は藍沢に、天野奏さんの手術を振り返ってバーでこう話します。
「あの時思ったんだ。いま奏ちゃんの腫瘍を切れば、お前を出し抜けるんじゃないかって」
「お前より上手くやれる自信もあった。実際うまくやった」
それに対して藍沢は、
「お前の行動は理解できる」
と同意しつつも、
「俺たちのレースに14歳の少女が巻き込まれた」
と、厳しくその時の過ちを振り返りました。
ところが、名取にはこういう発想はまずありません。
一見野心はあるように見えるのに、同期の灰谷や横峯をライバルとして見ている様子もないし、あんなに近くにスーパースター藍沢がいるのに、憧れる様子もありません。
幼い頃から、ライバルより良い成績をとって医学部に入りたい、というガツガツした熱意もなかったはずです。
第3話で、フェロー達の前で藍沢と新海が難しいオペをやって見せた時、
「私たちもあんな手術ができるようになるのかなぁ」
と、憧れるように言う横峯に、
「別にあそこまでならなくても良くない?医者が全員名医じゃなくてもいいだろ」
と言い切ってしまいます。
向上心がないと捉えるのは簡単ですが、実はこういう「自分は自分、他人は他人」という発想も大切です。
そもそも患者さんにとって、医者同士が切磋琢磨していることなど「知ったこっちゃないこと」です。
患者さんにとっては能力の高い医者にベストな医療を提供してもらえることが全て。
その過程で競い合っている、などと言われると、かえって不快に思う方もいるはずです。
カットダウンの場面を振り返ります。
横峯が穿刺を失敗した時、他の医者なら必ずこう思います。
「俺ならもっと上手く穿刺できる」
お前より上手くできるはずだ、ここで上手く穿刺を決めれば、周りの評価も上がるかもしれない、という思いが一瞬よぎります。
血管穿刺という技術は、それなりの練習や器用さが必要で、かつどの医者も若手時代にその技術を磨くことが多いからです。
したがって多くの医者は普通、
「穿刺を俺に代わってくれ」
となります。
しかし名取は、最初から「穿刺など無理」と割り切っていました。
「別にカットダウンすればいいじゃん」と冷静な頭で考えることができたわけです。
名取がカットダウンを提案した時、横峯と灰谷は「え!?」という表情をして、賛同した様子ではありませんでしたね。
そのくらい意外なプランが名取の口から飛び出したという意味です。
そもそもライバルに勝とうなどと思ってもいないし、周りの医者はどうでもいい、というマイペースなキャラの人は、こういう時に冷静さを保つことができます。
結果として、この冷静さが患者さんにとってプラスに働きます。
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患者さんにドライな名取
患者さんの痛みや苦しみを理解し、親身になって寄り添える、というのは医者にとって必須の能力です。
しかし、それに重きを置きすぎると視野が狭くなり、
「患者さんにとって一時的にマイナスでも総合的に見ればプラス」
という判断ができにくくなります。
藍沢らも2nd SEASONの頃から、救急部部長の橘から「患者さんに近づきすぎるな」という教育を受けていますね。
適度な距離感やドライさは、むしろ患者さんにとってプラスになることもあります。
名取はもともと患者さんに対してモラルに欠ける発言をするなど、不適切な態度が目立ちました。
しかし、緋山の姿を見て成長し、患者さんと適度な距離で接することができるようになっています。
こういうドライな医者は、目の前で担当患者さんが急変しても、全く動揺せず、冷静な対応ができます。
患者さんの検査結果が悪かったり、治療の難しい病気にかかっていることがわかったりしたとき、私たち医者は患者さんの前で動揺してしまってはいけません。
患者さん本人こそもっと動揺しているはずで、医者が動揺を見せると、患者さんを不安のどん底に突き落としてしまうからです。
名取とは対照的に灰谷は、人柄が良く患者思いで、一見名取より医者に向いているように見えるのですが、患者さんの前ではよく動揺して冷静さを失います。
第8話では、患者さんの前でCT写真を見ながら、
「おかしい!」
と本音を言ってしまい、患者さんを不安にさせていましたね。
第7話では、救うことのできない患者さんにこだわって半泣きになって蘇生処置をし、藍沢から止められたこともありました。
名取には、こういうことはあり得ないでしょう。
ただし、最初に述べたように、名取は良い指導者に巡り会えたからこそ、自分の良さを生かすことができるようになりました。
こういう、一見現場に向いていないように見える後輩の能力が開花するかどうかは、指導者によるところが大きいものです。
名取は緋山の姿を見て、人間的にも成長しています。
第9話では緋山も、優輔くんが移植を拒否して悩んでいた橘に、「子供のことは親が信じてあげなくてはいけない」と力説し、自分が患者さんとの関係で悩んだ時、
「橘先生は私以上に私を信じてくれた」
と、橘に理解してもらったことが自分にとって大きかったことを伝えました。
その経験が、
「あんた(名取)は自分が思ってるより医者に向いてる」
というセリフにつながったのではないかと思います。
生と死が隣り合わせの医療の現場において指導者の影響というのは、本当に大きなものです。
指導者の姿を見て成長した名取にはぜひ、名取総合病院に戻らず、救急の一線で今後も活躍してほしいものです。
ちなみに・・・
私は、灰谷は救急医ではなく、じっくり考えるタイプの内科医に向いていると思います。
第8話の慎一くんにしても、最終回の電撃傷の患者さんにしても、何かおかしいと思ったらとことん考え抜くタイプです。
藍沢のような、電光石火のひらめきや機転はありませんが、真面目に勉強してたっぷり知識を蓄えて、いつもじっくり考えて答えを出します。
最終回のラストシーンでも、重症膵炎の治療について、体が先に動く名取や横峯の隣で、実に様々な治療オプションを提案していましたね。
(ラストシーンの治療は「コードブルー3 最終話のラストシーンを医師が徹底的に解説してみます」を参照」
灰谷の強みは、まさにそういうところにあります。
精神科に通院するほどフライトドクターを続けることを悩んでいることですし、いっそ内科医への転向をおすすめします。
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