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コードブルー3 最終話のラストシーンを医師が徹底的に解説してみます

コードブルーの放送は終わりましたが、余韻の残るうちに、最終回のシーンをまだまだ深く解説していきましょう。

最終回の解説記事をまだ読まれていない方は先にどうぞ!

コードブルー3 最終回 解説|クラッシュシンドロームと横紋筋融解症はなぜ怖いのか?

まずは、以下のご質問にお答えして、ラストシーンの解説をしたいと思います。

ラストの方でフェローたちが奪い合うように治療しながら、医療用語合戦を繰り広げていた場面

ちっとも思い出せないくらいの難しいセリフが続きましたが笑

あのシーンも大体どういう内容を話していたのか?

かるーく教えていただけたら嬉しいです!

by Raoさん

フェロー3人だけで患者さんの病態把握と適切な治療プランの立案をすごいスピードで行う、というのを表すシーンでしたね。

成長したフェローたちを描くため、製作者としても視聴者には理解してもらうつもりはないシーンです。

こういうシーンでも、コードブルーには全くスキがありませんので、全てちゃんと解説できます。

 

ラストシーンではどういう病気にどんな治療が行われていたのでしょうか?

これを知ると、きっとフェロー達の成長が手に取るように分かるはずです。

まずセリフを書き出してみましょう。

名取 「エコーします!」

雪村 「小川咲恵さん、47歳。血圧80の50、心拍128重症膵炎セプティックショックです」

名取 「膵炎のグレードは?」

横峯 「予後因子5項目で該当する。造影CTのオーダーお願い」

雪村 「はい!」

灰谷 「抗菌薬タンパク分解酵素阻害薬局所動注療法が有効じゃないでしょうか?」

橘 「そうだな、やってみるか」

名取 「カテ入れます、前に緋山先生とやりました」

横峯 「ちょっと、前にやったことあるならやんなくていいでしょ!」

灰谷 「待って。壊死があるなら腹腔鏡での低侵襲ドレナージの方が有効かも」

橘 「造影CTを見てからの判断だな。」

このシーンをぜひ解説したい、と私が思ったのは、最後の最後でこれまでとは全く異質の患者さんが搬送されてきたからです。

なぜ異質だと思いますか?

珍しく純粋な内科疾患でのショックだったからです。

コードブルーではこれまで、外傷などの外科疾患のショックばかりでしたね。

 

では順にセリフを解説していきましょう。

実は難しいようで全然難しくありませんので安心してください。

 

「血圧80の50、心拍128。重症膵炎でセプティックショックです!」

以前書いた記事「名取&灰谷に学ぶ「ショック状態」の意味と危険性」でのショックの説明を覚えているでしょうか?

この記事で最後に私が解説したのが「血液分布異常性ショック」でした。

このタイプのショックの原因でよくあるのが、感染症による「敗血症性ショック」

英語で「Septic shock(セプティックショック)」です。

 

また、このセリフの中の、血圧と脈拍の数字を見てください。

記事を読んだ方ならすぐ分かりますね。

紛れもなく、典型的な「ショック状態」の数字です。

この場面でショックの原因となった感染症は、雪村によれば「重症膵炎」です。

急性膵炎の原因は、アルコール(最多)や胆石原因不明のものもあります。

たとえば芸人のチュートリアル福田さんや、中川家の中川剛さんなど、お酒好きの芸人さんが急性膵炎になったニュースがありましたね。

ただ、一口に膵炎と言っても、その重症度(どのくらい重症か)は様々です。

重症度によって治療を変える必要があるため、まず重症度判定を行います。

 

「膵炎のグレードは?」「予後因子5項目で該当する」

軽症のものは、多くは絶食と点滴だけで治ります。

しかし「重症急性膵炎」は、ショックになって10人に1人が死亡する、きわめて危険な病気です。

 

どうなれば「重症」と呼ぶのか、には細かい基準があります。

この項目には、年齢や呼吸状態、血液検査項目など、合わせて9項目あり、これを「予後因子」と呼びます。

この項目の中には、コードブルーでよく出てくる「BE(ベースエクセス)」も含まれます。

体の酸とアルカリのバランスを表す数字です。

予後因子が3つ以上該当すると「重症」と呼ぶことになっています

 

横峯が言った、

「予後因子5項目で該当する」

とは、3つ以上なので「重症」に該当する、という意味です。

そして、この重症度がどのくらいか?という意味で名取は、

「膵炎のグレードは?」

と尋ねたわけです(実際には「グレード」という言葉は、この後説明する造影CT所見の分類のことを指して言うのが一般的です)

 

「造影CTのオーダーお願い!」

膵炎がどのくらい広がっているかを見るために必須なのが、造影CTです。

造影剤を点滴で投与してCTを撮影します。

CT専用の造影剤を用いて撮影すると、腹腔内の臓器のコントラストがはっきりし、より診断力が上がります

膵炎の広がり診断では必須です。

そこで横峯が、造影CTのオーダーを依頼したわけです。

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「抗菌薬とタンパク分解酵素阻害薬の局所動注療法が有効じゃないでしょうか?」

重症膵炎の治療オプションとして灰谷は、抗菌薬タンパク分解酵素阻害薬を提案します。

抗菌薬(抗生物質)はそのままです。

膵臓の感染症が起きているので、抗菌薬を使って沈静化を図ります

 

急性膵炎が危険なのは、膵液の消化酵素がお腹の中に漏れ出すからです。

理科の授業で習った、膵液に含まれる酵素が何をするかを覚えていますか?

肉や魚などのタンパク質を分解する働きです。

これがお腹の中に漏れたらどうなるでしょうか?

私たちも動物ですから、お腹の中もタンパク質が豊富に含まれています。

膵液の消化酵素がこれを分解し始めます

これによってお腹の中に広く炎症が起こってしまうわけですね。

 

そこで膵炎の治療では、この酵素の働きを弱めることができる薬を使います。

これが灰谷の言った「タンパク分解酵素阻害薬」です。

読んで字のごとく、「タンパクを分解する酵素」を「阻害する」薬です

もう意味は分かりますね?

この薬を点滴で普通に投与しても良いのですが、カテーテルの先を動脈から膵臓の近くまで進め、そこで薬を注入する方法も有効です。

これが灰谷の提案した「局所動注療法」です。

「動注」とは「動脈注射」の略です。

そのため、これを受けて名取がすかさず「カテ(カテーテル)入れます!」と言ったわけです。

 

「壊死があるなら腹腔鏡での低侵襲ドレナージの方が有効かも」

はやる名取と横峯を抑えるように、灰谷は別の治療オプションも提案します。

重症膵炎を起こすと、「膵壊死」を起こすことがあります。

膵臓が壊死すると、壊死物質が細菌感染を起こし、より重症化して危険です。

この場合、壊死した物質を外科的に取り除く、という治療が有効になります。

こういう体内の物質を「取り除く」ことを「ドレナージ」と言います。

 

通常は開腹手術、つまりお腹を大きく切り開いて行いますが、腹腔鏡を使ってお腹に開けた小さな穴から行うこともできます。

傷が小さいため、患者さんへの負担が少なくなります。

こういう患者さんへの負担が少ない治療のことを「低侵襲」と専門用語で言います。

灰谷の言った「低侵襲ドレナージ」とはそういう意味です。

 

しかし、これをやるかどうかは、「どのくらい膵壊死が進行しているか」によります。

そこで橘が最後に、

「造影CTを見てからの判断だな」

と締めくくったわけですね。

 

ちなみにことあと雪村がフェロー達を見て、

「IVRを誰がやるかでもめてます」

と言います。

IVRについては第5話解説記事でも述べましたが、X線下にカテーテルを使って血管内治療を行うことです。

つまり、今回では膵炎に対するカテーテルを用いた局所動注療法のことですね。

 

さて、分かりましたでしょうか?

興味がない方にとっては退屈だったかもしれませんが、私の専門である消化器疾患が初めて出てきた場面なので、私はこっそり喜んでいました。

 

さあ、この解説を踏まえた上で、もう一度あのシーンを見直してみてください。

いかに彼らがフェローとして成長し、適切な動きをしているかがよく分かるはずです

 

それにしても、もめている彼らを見て呆れたように、しかし後輩愛に満ちた様子で若手たちの愚痴をこぼす藍沢らスタッフの姿は、印象的です。

1st、2ndでフェローとして修羅場をくぐってきた藍沢たちが、指導者としての余裕を見せる様子に、流れた月日の長さを思うと感慨深いものがありますね。

特に藍沢の、

「俺たちの一緒だな」

という謙虚なセリフは、2ndまでは自分のための医療を目指していた藍沢が、後輩や患者のために尽力する医師に変わったことを感じさせてくれます

 

<追記>

さらに読者の方から、彼らの隣で藍沢らがしていた処置はどういうものなのか?

という質問がありました。

ではまずセリフを振り返ってみましょう。

白石 「切迫心停止ね、大動脈遮断する?」

藍沢 「ああ、ショックの原因は骨盤だ」

緋山 「先にこっちで開胸する、骨盤どうする?」

藍沢 「藤川、骨盤の創外固定頼む」

藤川 「了解」

患者さんは骨盤骨折による出血性ショックで、心停止寸前の状態です。

(骨盤骨折については「医師が骨盤骨折を解説&医師の謝罪にツッコミ」を参照)

白石は止血目的に大動脈遮断を提案します。

それを受けて、緋山は開胸。心停止寸前、あるいは心停止したためか、開胸心臓マッサージを行なっています。

(開胸心マについては「灰谷が行なった開胸心臓マッサージとは?」を参照)

一方藤川は骨盤骨折の創外固定(骨折した骨を体外から固定)。

 

藍沢は頭部に回って得意の穿頭ドレナージ(頭蓋骨に穴を開けて血液の除去)を行なっています。

緊急の穿頭が必要なくらいですから、頭部外傷で頭蓋内の大量出血があるのでしょう。

そして白石は、冴島の介助で右足の付け根からカテーテルのようなものを挿入しています。

「REBOAでしょうか?」という質問をいただきましたが、もう開胸しているのでREBOAではありませんね。

(REBOAについては「名取のスキル、カットダウンはなぜ褒められたのか?」を参照)

おそらく、IVR(X線を用いたカテーテル治療)で骨盤骨折の止血をするため、右大腿動脈の穿刺と準備でしょう(カテ挿入の前にシースという短い針を刺しておきます)。

(IVRについても「医師が骨盤骨折を解説&医師の謝罪にツッコミ」参照)。

 

これまでの集大成のような多発外傷患者です。

骨盤骨折で多量出血して心停止している上、頭蓋内にも大量出血

雑談しながらの治療はちょっと違和感があるほどの、相当な重症(というか救命はほとんど不可能)です。

またフェローたちがメインで診ている患者さんも超重症なので、人員の配置というかパワーバランスが妙に悪いですね。

しかもIVRを連続で2回もやるとなると、放射線科医や放射線技師もうんざりしそうです。

「え!?もう1回!?」となるでしょうね。

バックにそういう曲が流れていましたが・・・

 

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