第3話はコードブルー得意の外傷オンパレードである。
薬物使用後にマンションから転落した大学生、胸部刺創のストーカー、そして道端で転んだ泥酔患者。
今回のメインとなった最後の泥酔患者は、救急外来では本当によくある要注意ケースである。
例によってあまり真面目にツッコミ過ぎるとみなさんに嫌われそうだが、
「こんな病院大丈夫か!?」
と思う方がいそうなので、まず「本来はどうすべきか」というツッコミから始め、次に泥酔の患者さんが要注意ケースである理由、最後に医療シーンの細かい解説という流れで書きたいと思う。
長くなるので、2つの記事に分けて説明したい。
危なすぎる緊急手術体制
学会などの諸事情を契機に、フェローだけの当直を提案する部長の田所(児玉清)。
「彼らだけでは対応は不可能」と一度は反対した黒田(柳葉敏郎)も、「試験的に1晩だけでも」と言う田所に押し切られてしまう。
「何かあったら呼んでもらう」ことを条件に、フェローだけの当直が実現することになる。
その日当直となったのは藤川(浅利陽介)と白石(新垣結衣)だったが、書類仕事を口実にチャンスを求めて深夜まで残る藍沢(山下智久)と緋山(戸田恵梨香)。
彼らのもとに運ばれてきたのは泥酔して転倒した肥満男性で、救急外来やCT室で大暴れする。
ただの泥酔患者の転倒とフェロー達は油断するが、しばらくすると患者は突然急変し、ショック状態になってしまう。
実は転倒ではなく階段からの転落外傷、つまり高エネルギー外傷が原因であり、ショックの原因が腹腔内出血であることが判明。
黒田を呼び出すも、到着まで50分かかる状況に、藍沢はリスクを負ってでもフェローたちだけで開腹することを決意する。
開腹手術の結果、外腸骨静脈(足につながる最も太い静脈)からの出血であることが分かり、無事止血に成功。
ようやく到着した黒田は、彼らの拙い手術に苦言を呈しつつも、
「患者の命を救った」
と褒め、ようやくフェロー達は自らに自信を持ち始める。
それにしても、3次救急病院にしては不思議なほど危険な体制だ。
誰もが気づくことだとは思うが、まずこの体制にツッコミを入れておこう。
3次救急病院のオンコール体制
まず驚くのは、ショックで一刻を争う患者が頻繁に搬送されうる3次救急病院で、緊急手術体制が整っていないことだ。
この日の当直医がフェローだけだったことが問題なのではない。
きっちりバックアップ体制が整っているなら、当直は基本的にフェローで全く問題ない。
当直中の若手医師に求められるのは、
「上を呼ぶべきか、呼ばなくてもいいか」
を判断することで、彼らはそれだけの知識は備えているはずだからだ。
つまり必要なのは、
困った時にすぐに上級医がかけつけられるところにいるか、あるいは院内の当直室で寝ているか
という「環境」である。
私が驚いたのは「何かあったら呼んでもらう」ことになっているはずの医師が、まさかの病院から50分も離れたところにいたことだ。
何かあった時のために自宅待機することを「オンコール」と呼ぶが、
オンコール医師は、3次救急病院なら常に病院から最低30分以内(理想は15-20分)の場所にいるのが原則だ。
自宅がそれ以上離れているなら、オンコールの日は病院に泊まるべきである(実際毎度そうしている医師は多くいる)。
また、救急医だけで対応が不可能なケースなど、このくらいの規模の救命センターなら普段からいくらでもありそうである。
そういう場合に、外科当直医を呼ぶ体制も普段から確立しておくのが普通だ。
でなければ、複数の救急患者が運ばれ、同時に開腹手術が必要になった時など、日中でさえマンパワーが足りなくなる。
また、仮にそういう体制がなかったとしても、腹腔内出血でショック状態、患者の命が危うい、となった場合、本来悩むべきは、
「自分たちだけで手術できるかどうか」
ではない。
普通若手がまず考えるのは、
「今日当直の医者は誰か?」
である。
今日は何科の誰が寝ているか?
手術に入れそうな人はいないか?
たとえば腹部外科系の医師、つまり消化器外科医、心臓外科医、産婦人科医、泌尿器科医などだ。
とにかくそういう人たちがいれば電話をかけて叩き起こし、事情を説明する。
この状況で、
「指示通り黒田先生を待ちなさい」
という外科系医師などいるはずがない。
「え!?お前らしかいないのか!黒田何やってんだよ!」
と言って飛んでくるはずである。
でなければ患者さんは死んでしまうのだ。
冴島(比嘉愛未)から、
「血圧70まで下がってきてます!」
と言われてもなお机の上で腕を組んで悩んでいる藍沢を見ると、こちらが焦りで冷や汗が出てくる。
ちなみに今回の出血源である外腸骨静脈は、むしろ産婦人科医や泌尿器科医が扱い慣れた領域だ(子宮癌や卵巣癌、膀胱癌などの手術で扱う)。
彼らであれば、おそらく容易に止血できる。
また、心臓外科医であれば腹部の大血管は得意中の得意だし(心臓外科は正確には「心臓血管外科」と呼ぶ)、消化器外科医は当然「腹の外科は全部俺らに任せろ」という自負がある。
私は以前勤めていた3次救急病院で、夜中に緊急手術をしたあとオペ室の廊下を歩いていたら、当時卒後4年目の産婦人科フェローからものすごい剣幕で助けを求められたことがある。
担当の妊婦が切迫早産でかなり危険な状態で、すぐに帝王切開が必要なのだが、オンコールの上級医がすぐに来られないと言っている、と訴えたのだ。
(外科系医師は当直医に加え、オペの際にペアになるオンコールの医師も毎日決まっている)
その日、外は台風で大荒れの天候で、病院に向かう途中に通るべき橋が封鎖されていたのが原因だった。
私は帝王切開の経験はなかったが、開腹手術の経験があれば助手はできる、いやできなくても入るしかない、と慌てて手洗いをし、無事帝王切開を済ませたのである。
胎児が無事生まれたくらいで、オンコールの産婦人科医が申し訳なさそうな顔でオペ室に登場し、
「20秒で説明しろぉ」
とは言わなかったが、フェローに詳しい病状の説明を求めていた。
他の記事でも何度か書いたことがあるが、とにかく「困ったら他の医者を呼べ」が鉄則である。
患者さんを守るために必要なのは、「勇気を振り絞ること」ではない。
むしろ「臆病でいること」「自分の限界を常に意識し、迷わず他人を頼ること」だ。
3rd SEASONで藍沢が言っていた、その通りの言葉をこの時に藍沢に言いたいくらいである。
もちろん、ここでよくわからない私のような消化器外科のオッサンが現れて、
「あとは俺が藍沢とやっとくわ」
などと言い出したらドラマにならないので仕方がない。
特にここは、藍沢、緋山のギラギラした貪欲さ、白石の冷静にCTを読影する聡明さ、そして藤川の、
「俺は反対したからなっ」
と言いつつ手伝うお茶目さなど、彼らのキャラの魅力がようやく現れてきて、私としてはむしろ「好きなシーン」ではある。
一応、ツッコむのが仕事なので、あえて苦言を呈した次第である。
では、今回のこの男性患者への手術はどういう流れで行われたのか、専門用語の解説も含め、次回の記事でわかりやすく解説していきたいと思う。