みなさんが本名だと思っている病気が、実は医学的には正しくない通称だということが結構あります。
今回は、そんな病気を一覧で挙げてみます。
え!これ正しい言葉じゃないの!?
そう驚く言葉があるかもしれません。
水虫
水虫は、正確には足白癬(はくせん)です。
皮膚糸状菌という真菌(カビの仲間)によって生じる皮膚の感染症です。
水虫というと、足の指の病気をイメージするのではないでしょうか?
実は白癬は足だけでなく全身に起こり、種類に応じて様々な名前がついています。
爪に起こるものは爪白癬で、手足の爪に起こります。
股間に起こるものを股部白癬、通称「いんきん」です。
頭に起こるものを頭部白癬、通称「しらくも」です。
体幹部に起こるものを体部白癬、通称「たむし」や「ぜにたむし」です。
これらは真菌による感染症ですので、家族間で感染します。
親の足白癬(水虫)のせいで、子供の体に体部白癬を起こすこともあります。
必ず皮膚科できっちり治療しましょう。
蓄膿症
「蓄膿(ちくのう)」と言えば、まず「鼻」が思い浮かぶのではないでしょうか?
これも不思議な名称です。
「蓄膿」は読んで字のごとく、「膿(うみ)がたまる(蓄積する)」という意味しかありません。
(「膿がたまること」を「蓄膿」と言うこともありません。私たちは「膿瘍(のうよう)」と言います)
部位を特定している言葉ではないのに、なぜか「副鼻腔炎」のことを限定的に指す通称になってしまいました。
副鼻腔炎は副鼻腔に膿がたまる病気で、鼻づまりや鼻水、鼻から膿が垂れる、顔面が痛い、というような症状が現れます。
耳鼻科で治療が必要です。
抗菌薬で治療するものもあれば、重度のものは手術が必要なこともあります。
風邪
風邪という病気はありません。
私たちも通称としてよく使う言葉ですが、医学的に正確な言葉ではありません。
風邪のほとんどは、喉や気管など上気道のウイルス感染で、正しくは「急性上気道炎」です。
ただ、熱が出てお腹が痛くて吐いたり下痢をしている「吐きくだし」の状況を、「お腹の風邪」と呼ぶことがあります。
これは「急性胃腸炎」です。
こちらもウイルス感染です。
ウイルス感染は、抗生剤(抗菌薬、抗生物質)では治りません。
抗生剤は細菌をやっつける薬で、ウイルスには全く効果はないからです。
風邪については以下の記事にまとめていますので、参考にしてください。
脱腸
正式名称は「鼠径ヘルニア」です。
腸が出てくるので昔から「脱腸(だっちょう)」と呼ばれています。
足の付け根の筋肉の隙間から、腸が出て来てポッコリ膨らみができます。
治療は手術以外にはありません。
ちなみに同じことはヘソでも起こり、これを「臍ヘルニア」と呼びます。
いわゆる「出べそ」のことです。
同じく手術以外では治療できません。
盲腸
盲腸は病名ではありません。
大腸の部位の名前です。
大腸は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸に分けることができます。
長い管である大腸に、住所をつけて分けているようなものです。
盲腸はその一つで、そこに虫垂と呼ばれるヒダのような臓器がくっついています。
この虫垂に細菌が感染して炎症が起こったものが「虫垂炎」ですが、なぜかこの虫垂炎が「盲腸」と呼ばれています。
不思議な習慣です。
虫垂炎については以下の記事をご参照ください。
痴呆症
痴呆症という病気はありません。
以前はこう呼ばれていたこともありますが、正確には「認知症」です。
「痴呆」というのが侮蔑にあたる言葉であるために、呼び方を変えようという話になったからです。
ちなみに「認知症=アルツハイマー」と誤解している人は多いのではないでしょうか?
認知症とは、認知機能の障害を有する病気の総称ですので、多くの病気を含む概念です。
その中で大部分を占めるのが、アルツハイマー病と脳血管性認知症です
アルツハイマー病は、軽い記憶障害から始まり、最終的には人格が崩壊し、寝たきり、植物状態にまで至ります。
若年性のものもありますが、多くは高齢者がかかる病気です。
一方、脳血管性認知症は、小さな脳梗塞が多発して起こる認知障害で、高齢者の認知症の30%程度を占めます。
アルツハイマー病とは異なり、うつや自発性の低下、歩行障害、尿失禁などが早期から現れ、症状が変動しやすいという特徴があります。
こういった症状が気になる方は、神経内科を受診しましょう。
精神病
「精神病」という病気は現在存在しません。
以前はこれを、漠然と幻覚や妄想などの症状をきたした状態を指して使うことがありましたが、現在ではもっと正確に分類されるようになりました。
一方、「精神疾患」と言えば、精神科で扱う病気全体を表す広い概念で、正しい医学用語です。
代表的な精神疾患として、統合失調症と気分障害があります。
統合失調症はかつて「精神分裂病」と呼ばれたこともあります。
幻覚(幻聴・幻視)などの症状から、重度の場合は人格崩壊にまで至る、若い人に多い病気です。
一方、気分障害はうつ病と双極性障害(躁うつ病)を含む概念です。
他にも精神疾患には、神経症、人格障害などもあります。
扁桃腺が腫れる
「扁桃腺(へんとうせん)」という医学用語はありません。
正しくは「扁桃」で、「口蓋扁桃」と「咽頭扁桃」の2種類があります。
「扁桃」とはアーモンドの日本語名で、アーモンドのような形をしているためこう呼ばれています。
喉の奥にあり、免疫をつかさどるリンパ組織のことです。
「腺」というのは何かを分泌する臓器につける言葉ですので、そうではない扁桃に「腺」をつけるのは誤りです
同じ意味で「リンパ腺(せん)」も誤りで、正確には「リンパ節(せつ)」です。
最後に、心臓麻痺と心臓発作について書いておきます。
これらは存在しない病気です。
それなのに、なぜか広く知られ、こういう病気が本当にあるかのように思われています。
なぜこう呼ばれているのか?以下の記事もご参照ください。
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